2019年05月17日

与志古こそわが志 星組 「鎌足」


kamatari.jpgこの公演の情報が公開された時、「トップコンビが全ツではなく別箱ということは・・・」とかなりザワつきましたが、予想通り後日、紅ゆずるさん、綺咲愛里さんの退団が発表され、プレお披露目ならぬプレ退団公演となりました。
日舞の藤間流ご宗家 藤間勘十郎さんが初めて宝塚の振付に入られたことでも歌舞伎ファンの間で話題となった公演です。


宝塚歌劇 星組公演
楽劇(ミュージカル)
「鎌足 −夢のまほろば、大和し美し−」
作・演出: 生田大和
出演: 紅ゆずる  綺咲愛里  瀬央ゆりあ  美稀千種  
如月蓮  天寿光希  輝咲玲央  麻央侑希  ひろ香祐  
有沙瞳  星蘭ひとみ/一樹千尋  華形ひかる ほか

2019年5月9日(木) 4:30pm シアター・ドラマシティ 16列上手
(上演時間: 2時間45分/休憩 30分)



「大化の改新」の立役者として歴史上有名な中臣鎌足。
鎌足と蘇我鞍作(のちの入鹿)との友情と葛藤、そして後に妻となる幼なじみの車持与志古娘との愛を軸に、史実とフィクションを織り交ぜて描く物語。

僧・旻法師(一樹千尋)の学塾で、神祇官である中臣の子であるため学友たちから蔑まれていた鎌足(紅ゆずる)を鞍作(華形ひかる)がかばったことから、2人は互いの才を認め合う親友となり、よりよい大和の国づくりを夢見て語り合います。時の天皇 舒明帝が亡くなり、妻の皇極帝(有沙瞳)が皇位を継承、鞍作は父 蘇我蝦夷(輝咲玲央)から大臣(おおみかみ)の位を継いで名を入鹿と改めます。自分は傀儡(くぐつ)だと苦悩する皇極帝に心を寄せた入鹿は、皇極帝を守るためにかつての理想を忘れたかのような粛清に走ります。これを憂い、入鹿に絶望した鎌足は、皇極帝の子 中大兄皇子(瀬央ゆりあ)とともに入鹿暗殺を謀ります・・・。


一幕と二幕で趣きの異なった芝居になりましたが、大化の改新までを描く一幕がよかったです。
ともに学び、同じ志を持って夢を語り合った若者たちが大人になり、それぞれの事情から立場を異にして道を分かつ、というのはよくある話ですが、それが蘇我入鹿と中臣鎌足という、歴史上有名な二人の対立の背景に・・・というところが上手いなぁと思いました。
キラキラ輝く瞳でこの腐敗した大和をともに変えようと語り合い、与志古娘(綺咲愛里)も交えて肩を組んで、♪こころざし~ こころざし~と歌った3人が・・・。


鞍作こと蘇我入鹿を演じた華形ひかるさんがとてもよくて、一幕は入鹿が主人公のよう。
いかにも理知的で、大臣家の子息らしい品と華やかさを兼ね備えた入鹿像。
蘇我入鹿といえば文楽や歌舞伎の「妹背山婦女庭訓」でも権謀術数に長けた暴君というイメージですが、そうなっていった要因が描かれていて(フィクションだけど)、ちょっと私の入鹿を見る目も変わったな。


真っすぐな志と、権力と欲にまみれた現実、そして皇極帝への想いのはざまで苦悩する入鹿。
皇極帝の政敵となる人々を幼い子どもまで容赦なく斬る入鹿。
死体の山の中で我に返り、自分の罪に畏れおののき、慟哭する入鹿。
「鞍作・・」と声をかける鎌足に「鞍作の名前で呼ぶな。俺とはもう関わるな」と返す入鹿。
鎌足が去った後、「鎌足行かないでくれ。俺を一人にしないでくれ」と這いつくばる入鹿。

皇極帝の目の前で、入鹿を討った鎌足の矢。
それは少年の頃、入鹿が鎌足に手ほどきした弓だということがとても切ない。


二幕は、中大兄皇子が母皇極帝の助言により、鎌足の反逆を封じるため、鎌足の妻 与志古娘を「私に差し出せ」というところから。鎌足はもちろん承服できませんが、断ると鎌足が殺されると察した与志古娘は自らすすんで中大兄皇子のもとへあがります。中大兄皇子が天智帝となった宴の席で「何か欲しいものは?」と問われ、「与志古を返して欲しい」という鎌足。血に汚れた人生の、与志古はたった一つ遺された志なのだと天智帝に斬りかかる鎌足・・・「あかねさす紫の花」を思わせる展開です。
望み通り与志古娘は鎌足のもとへ返されますが、天智帝の子を身ごもっており、鎌足と安見児(星蘭ひとみ
)の子として育てられたその子が藤原不比等という結末。

一幕のドラマチックさに比べて二幕はいささか失速感ありましたが、最後までおもしろく拝見しました。
船史恵尺(天寿光希)が綴る歴史書に入鹿の名前がないことに気づいた鎌足が問いただすと、「消しました。敗者は歴史に必要ない」というあたり、「贋作・桜の森の満開の下」の「日本書記」のくだりにも出てきましたが、歴史は勝者のものであって、史実は本当にありのままの真実が伝わっている訳ではないのだなぁと改めて思ったりも。


入鹿の華形みつるさんがとてもよかったことは先述しましたが、他の役者さんも皆よかったです。
純粋な志を持つ少年時代から、政治に深くかかわるようになり苦悩しながらも突き進む青年期、病を得ながらも与志古との穏やかな日々を取り戻した時まで、振り幅の広い演技。
無邪気な可愛らしさと凛とした強さを兼ね備えた与志古娘の綺咲愛里さんと、本当にお似合いのトップコンビです。

中大兄皇子の瀬央ゆりあさんは装束がよく映えて押し出しも立派。
少し気弱で寂しげに見えるところも今回の中大兄皇子として正解だったと思います。
不比等と会った時、自分の子どもだと悟りながら感情を押さえてその場を去るところもよかったな。
同じ95期のひろ香祐さんが入鹿に滅ぼされる山背大兄皇子をやっていて、元よりお芝居には定評のある人ですが、こんな重厚なバイプレイヤーもできるようになったんだと、ホント95期って人材豊富。

威厳もありつつ女の弱さも見せる皇極帝を見事に演じた有沙瞳さん。
入鹿との愛のシーンはとても官能的でした(後で調べたらココ、藤間勘十郎さんの振付だった)。
討たれる入鹿を目の前にしてくるりと背をむけた皇極帝。「入鹿は私を冷たい女だと思っただろうか」というつぶやきが哀しい。

与志古の代わりに鎌足に妻として与えられた采女 安見児の星蘭ひとみさん。
采女として生きてきて人間の持つ当たり前の感情もわからないという安見児が、お人形のように可愛くてお人形のように話すこの人の芸風によく合っていてだな・・(ほめているのか?)
星蘭ひとみさん 一幕では武官や三韓の使者で出ていて、あまりの美男子ぶりに私のオペラが吸い寄せられました。


かつて入鹿と夢を語り合った猿岩の前に立つ鎌足と与志古。
そこへやって来て「僕は父上から志を教えてもらった。父上のようになりたい」と言う不比等。
鎌足の、そして鎌足とともにいた入鹿の、志は受け継がれていくという、希望を感じるエンディングでした。

ずっと鎌足の精神的支柱として与志古の存在の大きさといい女っぷりが印象的でした。
鎌足にとって与志古は本当に志だったのだろうな。
それを演じる紅さん、綺咲さんの笑顔と涙もとても心に残りました。




そしてこのトップコンビもあと1作で観納め のごくらく地獄度 (total 2051 vs 2051 )



posted by スキップ at 22:55
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