2019年03月03日

写真の向こうの真実 「チャイメリカ」


chimerica.jpg

物語の始まりと同じように、スクリーンに大きく映し出された4台の戦車とその前にぽつんと立つ一人の男性。
白いシャツを着た写真の「戦車男」に、実在の戦車男の後ろ姿が重なっていき、その姿を包み込むように静かに流れるベートーヴェンの第九 第三楽章。
その真実の厳しさと旋律のやさしさ、そして戦車男の切なさに涙がぶわっとあふれました。


世田谷パブリックシアター×パソナグループ
「CHIMERICA 」 (チャイメリカ)
作: ルーシー・カークウッド
演出: 栗山民也
翻訳: 小田島則子
美術: 二村周作 
照明: 服部 基 
音響: 井上正弘 
映像: 上田大樹
出演: 田中圭  満島真之介  倉科カナ  眞島秀和  
瀬戸さおり  池岡亮介  増子倭文江  大鷹明良 ほか

2019年3月2日(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階G列センター
(上演時間: 3時間10分/休憩 15分)



客電が落ち暗転の中、カシャッとシャッター音が響いて舞台の大スクリーンに映し出される1枚の写真。
隊列して進む4台の戦車。その前にぽつりと立つ、白いシャツを着て買物袋を持った一人の男性。
天安門事件を象徴する、「無名の反逆者」として有名になった写真です。
「え?天安門事件の話なの?」とその時気づく(←)・・・いつものことながら予習しないにもほどがある)。

ちなみに「チャイメリカ」は CHINA + AMERICA
「中国化した米国」を意味する造語だということはいくら何でも知っていましたよ(と言い訳しておきます)。


1989年6月4日。
19歳のアメリカ人カメラマン ジョー・スコフィールド(田中圭)はホテルの窓から「戦車男」の写真を撮影して一躍名をあげます。
それから23年後。2012年。
アメリカはオバマ大統領が再選を目指す大統領選挙の年。
北京を訪れたジョーは旧友のヂァン・リン(満島真之介)と再会し、「戦車男は生きていてニューヨークにいる」と聞き、同僚の記者 メル(石橋徹郎)とともにその行方を捜し始めます。一方、北京では大気汚染が深刻さを増し、それを告発しようとするヂァン・リンは次第に追い詰められていき・・・。


1989年と2012年
中国とアメリカ
北京とニューヨーク
時空を行き来しながらシームレスに展開する物語。


1989年には「十代の夫婦」で身重の妻とともに天安門広場のハンストに参加したヂァン・リン。
2012年の今、彼は天安門の記憶に苛まれ、そこから動けなくなったようにひきこもり、隣人の咳に心を痛めています。

一方、天安門事件以降、世界各地で紛争やその犠牲となって苦しむ人々、子どもたちの写真を撮り続けながらも無力感にとらわれ、その心の隙間を埋めるようにあらゆる手をつくして「戦車男」を探すジョー。
一枚の写真にヒロイズムを求めながら、一人の友人を救うどころか彼からのSOSに気づくことすらできなかったジョー。
あの写真を撮った時、目の前でそれを見ていたにもかかわらず、その真実は何も見えていなかったジョー。

その真実が突きつけられるラスト。
戦車男が誰なのか、そして彼が持っていた買物袋の中身は。
彼はどんな思いで戦車の前に立っていたのか。
真実の重さと厳しさに涙があふれるのをとめることができませんでした。


ニューヨークのジョーと北京のヂァン・リンが対比する形で描かれますが、その象徴的なシーンがあって、
ジョーが自分の部屋でテスといい感じになって2人でキャッキャと服を脱いでベッド(ではなくて床だったけど)にもぐり込む・・・と盆が回って、捕えられ、激しい拷問を受けてボロボロになったまま椅子に縛りつけられているヂァン・リンがゆっくりと私たちの目の前を通り過ぎていく・・・
どちらが正しいとか間違っているとかではなく、その対比の厳しさ、残酷さに言葉を失くす思いでした。


ジョーは自己中心的で即物的な人物。
中国の状況はわかっているはずなのに、自分の探しているものに夢中でヂァン・リンに「戦車男」というタイトルのメールを送ってしまう、それがどれほどヂァン・リンの立場を危うくするか思いもせずに。逆にヂァン・リンから着信があっても目の前に恋人がいると切ってしまうし、忘れてしまって折り返しかけることもしない・・・多分彼がどんな状況でどんな思いで電話をかけてきたのか想像ができない、イマジネーションの乏しい、直情的な人間なのだと思います。
どちらかといえばクズ男に入る部類ですが、それでもまっすぐでどこかに「いいヤツ」感が残るのは田中圭くんの魅力によるところでしょうか。
あと、飛行機の中で怖がるテスの手を握る仕草やその時の表情の色っぽいこと。
いや~、あんな顔であんな風に手を握られたら、テスでなくても惚れてまうやろ~というカンジでした。

ヂァン・リンと対照的にどこか割り切ってうまく生きている・・・けど結局巻き込まれて職も失ってしまう兄のヂァン・ウェイと、ジョーが「戦車男の兄」と問い詰めたことで警察に囚われることになってしまった不法滞在の中国人花屋という、巻き込まれて人生狂わされる二役を陰影に満ちて演じた眞島秀和さん。
勝気で自立したキャリアウーマンながら中国市場攻略というビジネスミッションにジレンマも抱えるテスの倉科カナさん。
ジョーを守ったり情報提供したりする部分と保身第一のいやらしさのバランスが絶妙な編集長とほか何役か(笑)の大鷹明良さん。
アメリカの有力女性上院議員にいかにもいそうなリアリティでマリアを演じた増子倭文江さん
・・・などナド、役者さんは皆よかったですが、特筆すべきは満島真之介くん。

田中圭くんと満島くんの共演といえば、「夜への長い旅路」が思い出されますが、今回、田中圭くんの陽に対して満島くんの陰というか、纏った空気感がとても対照的で、すごくよかったです。
彼のまわりの空気が重く、悲劇と背中合わせな感じがヒシヒシと伝わってきますし、暗く閉ざされた中国という国の重さや不気味さ、血の匂いまでも纏っている雰囲気が凄かったです。


2階建と回り舞台を使って行き来する別の世界を表現したセット。
カメラのシャッターを切るように変わる場面。
そこに挟み込まれる報道写真。
時折流れる第九の第四楽章が印象的で、そういえば天安門事件の時、広場では学生たちのスピーカーから「歓喜の歌」が大音量で流れているという報道があったなぁと思い出しました。
それが、ラストではあの第三楽章ですから、ヤラレました。



あんまりよかったので普段は買わないパンフレットまで買っちゃいました のごくらく度 (total 2022 vs 2025 )


posted by スキップ at 22:35
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