2018年09月02日

松竹座 七月大歌舞伎 夜の部


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松竹座七月大歌舞伎 昼の部の「勧進帳」にすっかりヤラレてしまった不肖スキップですが、
夜の部も期待に違わず、すばらしい舞台でした。


松本幸四郎改め 二代目 松本白鸚
市川染五郎改め 十代目 松本幸四郎  襲名披露
七月大歌舞伎 夜の部
2018年7月7日(土) 4:15pm 松竹座 3階3列センター/
7月18日(水) 1階10列下手/7月27日(金) 1階1列センター



一、元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿
作: 真山青果
演出: 真山美保
出演: 片岡仁左衛門  市川中車  中村壱太郎  
片岡松之助  上村吉弥  中村扇雀  中村歌六 ほか
(上演時間: 1時間35分)


苦手感漂う真山青果作の新歌舞伎の中では比較的好きな演目。
初めて観た綱豊卿が仁左衛門さんで、その後も仁左衛門さんで拝見することが多く、私にとっては綱豊卿=仁左衛門さんで、他の人の綱豊卿が全くイメージできないくらい。(それを言ってしまえば、「女殺油地獄」の与兵衛も、「盟三五大切」の源五兵衛も、最初に観たのはみんな仁左衛門さんなのだけれども)。
そしてこれまた初めて観た時からずっと、富森助右衛門=染五郎(現 幸四郎)さん という役に中車さんが挑んでいます。2013年 中車さん襲名披露興行の顔見世の演目でしたが仁左衛門さん休演のため、今回、満を持しての共演です。

仁左衛門さんの綱豊卿 鉄板。
いかにもすべてを呑み込んだ肚の大きさ、殿様然とした品と風格、助右衛門を問い詰める余裕たっぷりな様子、助右衛門の思わぬ切り返しに一瞬見せる激昂、目の動きや声の変化で綱豊卿という人物を細やかに見せてくれます。
最後の場面。
「望月」の後ジテの装束で助右衛門の繰り出す槍を受け止めてキッと見やるところへ散り落ちる桜の花びら。
助右衛門に仇討ちの道理を説いて叱責する強い口調。
くるりと向きを変え、「わしの出じゃ」で晴れやかに上を見上げ、能舞台への向かって行く透明で高潔な空気。
これを絶品と言わずして何と言いいましょう。


対する中車さんの助右衛門は汗だくの熱演。
最初、少し笑いに寄りすぎかなとも思いましたが、綱豊卿に追い詰められながら本心を悟られまいと必死にかわそうとする助右衛門が、仁左衛門さんの芸に挑もうとする中車さんの姿とも重なって、観ていて胸が熱くなりました。
浅野家再興の話を匂わせて綱豊卿が去ろうとすると、それまで何度すすめられても固辞していた敷居を助右衛門がついに敷居を越える・・・泣き顔になって、それでも実は、と真実は打ち明けられない、という切羽詰まった場面、とてもよかったです。
2人の名優を得て、互いの真意を探り合う駆け引き、心理戦とも言うべき丁々発止の台詞劇がより緊迫感のあるものとなりました。

いかにも才女といった風情の扇雀さんの江島、可憐で初々しい壱太郎くんのお喜世、落ち着きと威厳のある歌六さんの新井勘解由、と周りも揺るぎなし。



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ニ、口上
歌六・扇雀・猿之助・秀太郎・鴈治郎・藤十郎・白鸚・幸四郎・仁左衛門・
中車・高麗蔵・彌十郎・又五郎 という並び(上手から)


ハコの大きさからか人数少なめでアットホームな温かい雰囲気の口上でした。

鴈治郎さん: 幸四郎さんは大阪が大好きで、かなり前になりますがある雑誌で『関西人化計画』とかやっていました(←「ぴあ関西版」ね。なつかし~)が、僕に言わせれば巨人ファンをやめて阪神ファンになれば話ははやい。
そういう私は中日ファンです。
千穐楽には、「幸四郎さんが大阪ロスにならないか心配。そうならないよう早くまた大阪に戻って来ていただきましょう」とおっしゃっていました。

彌十郎さん: 松竹座では歌舞伎NEXT「阿弖流為」でもご一緒させていただきました。歌舞伎のみならずわたくしにもNEXTがありますように。

猿之助さんは終始真面目で正統派の口上。
あの大けがから回復されて、こうして口上に列座して手をついて平伏される姿を見られるだけで胸いっぱい。

孝太郎さん: 「女殺油地獄」は平成13年博多座で相手役のお吉を初役で勤めさせていただき、その後 歌舞伎座で再演して以来、私には(幸四郎さんから)お呼びがかかりません。この上は染五郎さんが与兵衛をされる時にと、先ほどつかまえてお願いした次第でございます。
(↑ 千穐楽のこの日、確かに染五郎くん来てたw)

仁左衛門さん: 白鸚さん、幸四郎さん、染五郎さんの三代襲名が途切れることなく続くのは歌舞伎界初で大変すばらしいこと。この上はまだお生まれになっていない染五郎さんの御子息が襲名されるときにも列座させていただきたい。

仁左衛門さんは、前楽の口上では、「勧進帳を新幸四郎さんと演じていて楽しい。幸四郎さんの弁慶は日々進化していて毎日楽しく務めています。私は明日で富樫を演じ納めるつもりですが、幸四郎さんはこれからも弁慶を多く演じられ、当たり役とされるでしょう」というご発言があって、幸四郎さんの弁慶をほめていただくのはうれしいやら、仁左衛門さん富樫を演じ納めって!!やら、となりました。


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襲名祝幕は御園座、博多座とずっと同じものでした。
その土地土地で協賛する企業が変わるのね。



三、女殺油地獄
作: 近松門左衛門
監修: 片岡仁左衛門
出演: 松本幸四郎  市川猿之助  市川中車  市川高麗蔵  中村歌昇  
中村壱太郎  坂東竹三郎  中村鴈治郎  中村又五郎  中村歌六 ほか
(上演時間: 1時間45分)



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まだ公式に演目発表される前、「七月松竹座は『油』。しかもお吉は猿之助さんらしい」という情報が飛び込んで来た時、思わず腰が浮きかけました。
幸四郎さんの「女殺油地獄」を観るのは三度目ですが、最初に観た2011年 「ル・テアトル銀座」での与兵衛と、その時のお吉さん(当時 亀治郎さん)がとても印象深く、ぜひこのお二人で再演を、と願っていたから。

「大阪でこの演目をやるのが最終目標」とおっしゃっていた幸四郎さん 入魂の河内屋与兵衛。
仁左衛門さんが一世一代で封印してしまったこの役を、受け継ごうという強い意志が感じられるようでした。

河内屋与兵衛はろくでなし。
甘やかされて育って、わがままで自分勝手で乱暴者で自制できない弱さ、幼さ。
それでも周りの人たち・・親や兄や妹や、お吉がほっておけず面倒をみてしまう可愛げがどこかにある。
こんなことになってしまって、一番驚いているのは与兵衛自身なのではないか、という切なさに満ちている。

お吉に金を貸してくれと頼んだ時、親に迷惑をかけたくないという思いがちゃんと伝わっていたら。そこに脇差しがなかったら・・・。
お吉に拒絶され、時を告げる鐘の音が鳴り響いて絶望の淵に立たされた与兵衛が手元の刀にふと目をやった瞬間の、今までのすべてがリセットされたような、まるで色のない表情。もう自分でも止めることができないスイッチが入ってしまった瞬間を目の当たりにして、恐ろしさとともに哀しみが襲ってきて、涙がこみあげてきました。あぁ、与兵衛。
そこに重なるお吉の「死にとうない」という叫びの凄絶。
そして繰り広げられる殺し場は、悲しくて切なくて、それなのに美しくて。
仁左衛門さんの与兵衛は、手負いのお吉をいたぶるような狂気を見せていましたが、幸四郎さんはそれとはまた違う、自分でもどうしようもない衝動に突き動かされているような。そして終始とても哀しい。

猿之助さんお吉は、少し年上で色気もあって、面倒見の良い堅気の女房ぶり。子供たちへの母性も感じられて、それだけに一層、あの子たちのために「死にとうない」という叫びに胸がしめつけられる思いでした。
猿之助さん、襲名以来こんな役をされる機会が少なくなりましたが、猿之助さんの女形大好きなので、これからも時々見せていただきたいです。

誠実で、継子の与兵衛に厳しく接することのできない優しさと切なさに満ちた歌六さんの徳兵衛。
気丈に勘当を言い渡しながらも与兵衛を見捨てきれない母ごころが悲しく切ない竹三郎さんのおさわ。
勘当されて家を出て行く時、ふてくされながらも寂しげで切ない表情を見せた与兵衛。それを見送る徳兵衛とおさわの立ち姿にまで哀感が滲み出ていました。
豊嶋屋七左衛門の鴈治郎さん、おかちの壱太郎くんと上方歌舞伎の色濃い安定ぶり。
襲名披露興行にふさわしい充実の舞台で、大満足の「女殺油地獄」でした。



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7月18日は花横でしたので、ラスト 与兵衛が油まみれになりながら花道を逃げ去って行く時、
油がぴっとほっぺに飛んできました。
これは私の座席横あたりに残っていた与兵衛さんの足あと。



昼夜を通して歌舞伎十八番の荒事と上方の和事という全くタイプの異なる二つの大役をどちらもすばらしいクオリティで見せてくれた幸四郎さん。
これからますますのご活躍をお祈りするとともに、とても楽しみにしています。


今年の七月松竹座を忘れない のごくらく度 (total 1958 vs 1958 )



posted by スキップ at 23:31
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