
2006年に抜粋上演、2013年には通し上演を行っているそうですが、どちらも観ていません。
今回「木ノ下“大”歌舞伎」として再演が発表され、しかも、長らく木ノ下裕一さんとタッグを組んできた杉原邦生さんが木ノ下歌舞伎を離れることとなってこれが最後の演出作品・・・ということで、是非とも観なくては、と思っていました。
木ノ下歌舞伎
「東海道四谷怪談 -通し上演-」
一幕: 浅草境内の場/地獄宿の場/浅草裏田圃の場
二幕: 伊右衛門浪宅の場/伊藤家屋敷の場/元の伊右衛門浪宅の場/十万坪隠亡堀の場
三幕: 深川三角屋敷の場/小塩田隠れ家の場/元の三角屋敷の場/夢の場/蛇山庵室の場
作:鶴屋南北
監修・補綴: 木ノ下裕一
演出: 杉原邦生
出演: 亀島一徳 黒岩三佳 箱田暁史 土居志央梨 田中佑弥
中川晴樹 小沢道成 緑川史絵 松田弘子 森田真和 ほか
2017年5月21日(日) 11:00am 京都芸術劇場春秋座 1階5列(3列目)センター
(上演時間 6時間15分)

ロビーには2006年からの木ノ下歌舞伎の10年を全作品のチラシでたどる展示も。
「崖っぷちギリギリのところにいる人々の"生"が、とにかく悲しく見える『四谷怪談』にしたい」と木ノ下さん。
「様々なカタチの愛情が交錯する、"愛の物語としての『四谷怪談』"にしたい」と杉原さん。
お二人の意図がそのまま映し出されていて、「怪談」というより生身の人間の物語という香りの「四谷怪談」。
お岩さんの悲劇や怨みだけがクローズアップされる訳ではなく、出演者で特に知っている役者さんがいないせいもあってか、「群像劇」の色濃い印象でした。
つまり、お岩と伊右衛門の物語であり、お袖と直助と与茂七の物語であり、小仏小平の物語であり、塩冶浪人や高家の人々の物語であり、それを取り巻く人々の生き様の物語。
これまで観た木ノ下歌舞伎の中で(といってもまだ4作目ですが)、最も原典の歌舞伎テイストを残した作品という印象を受けました。
もちろん、ジェット機の轟音が鳴り響いたりラップ調のBGMだったりということはありつつ。
台詞は正調歌舞伎調と「マジやっべー」みたいな現代若者言葉とその中間とか混在。
これは、その人物の出自や心象によって使い分けられているように見受けました。お袖さんなんかはずっと口調が変わらなかったな。
お岩さんの髪梳きからお歯黒の場面は、歌舞伎だと客席も息をこらして見つめる、みたいになりますが、この作品ではその間、舞台上手下手に控える役者さんたちがラップ・・・しかもやさしいバラード調で、怨みより哀しみが前面に出ている感じで、こんな見せ方もあるのねーと思いました。
「夢の場」は ♪笹の葉さ~らさら~ という歌も流れて、みんな白い衣装を纏ってかなりファンタジー寄りでやさしい印象。
演出で印象的だったのは、三幕で「深川三角屋敷の場」と「小塩田隠れ家の場」。
これを同時上演というか、それぞれの場を少しずつ交互上演。
役者さんたちは全員舞台上の後ろや脇に控えて待機、その芝居をじっと観ていて出番になれば出て行く、という構成でした。
お袖と直助の非業の死と小塩田又之丞の足が立つ、というそれぞれの場のクライマックスが重なって、その両方に塩冶の因縁が透けて見えるあたり、ほほぅ~と感心することしきり。
ホリゾントから手前に八百屋になっているだけのシンプルな舞台。
床が白黒グレーの三色で定式幕を模しているようでした。
「ほんと、こいつクズだな」と思わせる伊右衛門の亀島一徳さん(ほめています)はじめ役者さんは健闘。
お岩の黒岩三佳さん、お袖の土居志央梨さん、お梅とお花(小仏小平女房)の緑川史絵さん、お熊の松田弘子さんと女優陣のふんばりが光りました。
佐藤与茂七役の田中佑弥さん、カッコよかったです。
それと、小仏小平とその子 次郎吉と鷹(!)を演じた森田真和さんが際立って印象に残りました。
今回、宅悦役の役者さんがリハーサル中の怪我で降板して急遽代役(夏目慎也さん)。
ほぼ出来上がった作品に後から一人入る苦労はさぞかし・・・と思いますが、台本を手に読みながらの演技。
それを思うと、「おのれナポレオン」で代役を見事に果たした宮沢りえさんはスーパーだったなぁと今さらながら思い出したのでした。


観る前は「6時間の通し上演ってどーよ?」と思っていたのですが、思いのほか集中力途切れることなく楽しく観ることができました。
これまでに歌舞伎その他で何度も観ている演目で、ストーリーを知っていることと、「比較する」おもしろさがあったのも要因の一つでしょうか。
一番体力(睡魔)的にキツかったのは意外にも観る機会の多い二幕でした のごくらく地獄度



