
「あやつられ文楽鑑賞」
作: 三浦しをん
単行本: ポプラ社 2007年5月
文庫本: 双葉文庫 2011年9月
「この本は、文楽観劇のド素人であった私が、いかにしてこのとんでもない芸能にはまっていったかの記録である」で始まるまえがき。
順番としては、こちらが先で「仏果を得ず」に続くようですが、後から読んでも十分おもしろかったです。
あ、ここでこういうふうに知ったことが「仏果を得ず」のあの描写につながったのか、とか、まんまあの場面、というところもあったり。
ド素人とは言うものの、取材と称して劇場の楽屋を訪ねて大夫さんや三味線さん、人形遣いさんに会ってインタビューしたり、なんていうところはさすが直木賞作家は「ただの素人」とは違います。
それでも、文楽のあれこれを知るたびに好奇心とミーハー心たっぷりにそのおもしろさ、すばらしさを伝えるしをんさんの文章はとても好感が持てますし、作中に出て来る「仮名手本忠臣蔵」「桂川連理柵」「女殺油地獄」といった作品の考察は、さすがの筆致で、作品そのまま観ているように読み応えがあります。
三味線の鶴澤燕二郎さん(現・燕三さん)へのインタビューの項。
燕二郎さんの師匠である五世鶴澤燕三さんが、「ひらかな盛衰記」の「逆櫓の段」を弾いている舞台上で倒れた。大夫は竹本住大夫さん。燕三さんを心配しつつも三味線なしで語り続ける。その時、燕二郎さんが浴衣姿のまま床に出て三味線を弾いた。
・・・以前に聞いたことがあることも、こうして当事者の話としてリアルに感じられて、改めて文楽、そしてナマの舞台の凄まじさを見る思いでした。
先日文楽列車で吉野へ行った時、終演後、金峯山寺蔵王堂の人影まばらな本堂で、権現様の前で静かに手を合わせていらっしゃった現・燕三さんの姿が目に浮かびました。
この2冊読了して「仮名手本忠臣蔵」通しへなだれ込み のごくらく度


