2023年01月09日

「ツダマンの世界」 は松尾スズキの世界


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2023年エンタメはじめが宝塚なら、2022年の締めくくりはこちらの舞台。
シアターコクーン芸術監督・松尾スズキさん 2年ぶりの新作です。
作・演出ばかりでなく全編の作曲、さらにはポスターイラストも自ら手掛けられたのだとか。


COCOON PRODUCTION 2022「ツダマンの世界」
作・演出:松尾スズキ
音楽:松尾スズキ  城家菜々 
美術:石原敬   照明:大島祐夫   衣裳:安野ともこ   映像:上田大樹 
所作指導:藤間貴雅  振付:振付稼業air:man
宣伝イラスト:松尾スズキ  宣伝美術:榎本太郎
出演:阿部サダヲ  間宮祥太朗  江口のりこ  村杉蝉之介  笠松はる  見上愛
町田水城  井上尚  青山祥子  中井千聖  八木光太郎  橋本隆佑  河井克夫
皆川猿時  吉田羊

2022年12月29日(木) 1:00pm ロームシアター京都 メインホール 1階4列センター
(上演時間: 3時間25分/休憩 20分)



昭和初期から戦中、戦後にかけての物語。
生まれてすぐ母と離れ離れになり、義母(吉田羊)に育てられた津田万治(阿部サダヲ)は、母から厳しくしつけられ何かと反省文を書かされたことが文章力につながり小説家となります。
中年にさしかかり、ようやく文壇最高峰の月田川賞の候補作となったことを機に、賞の選考委員でもある万治の幼なじみ 大名狂児(皆川猿時)が薦める戦争未亡人の数(吉田羊)と結婚しますが、万治には劇団の女優にしてカフェで歌も歌う神林房枝(笠松はる)という愛人がいました。さらには、弟子になりたいとやってきた佐賀の豪商の三男坊・長谷川葉蔵(間宮祥太朗)と彼の世話係で番頭の強張一三(村杉蝉之介)などがが取り巻く中、戦況が激しさを増し、月田川賞選考会は中止、大名も万治も招集され戦地へと向かいます・・・。


津田家の女中 オシダホキ(江口のりこ)が語り部となってと3人(大名・神林・強張)の幽霊(?)とともに回想する形で物語は進みます。
ツダマンの半生を辿りつつ、彼を取り巻く市井の人々の生き様や戦争を巡る国内外の状況、そして戦後の日本などを描いて一大叙事詩の様相。
もちろんツダマンが主人公の物語ではあるのですが、強烈な個性を放つ大名や狂気すら感じさせる長谷川などを含めた群像劇のようにも見えました。

そして、戦争。
日本が太平洋戦争の真っ只中に突入して、国内はもちろん、満州やかの地にいた人々がどのように生きたのか、笑いに包まれ、デフォルメされてはいましたが、ツダマンの戦地での体験、大名狂児の変遷などはまさにあの時代を象徴するものではなかったかと思います。
ツダマンを通して松尾さんが描きたかったのは、戦争が大きな影を落とした昭和という時代・・・愚かしくも悲惨な戦争の狂気と、終戦を境にそれまでの価値観までも変えることを余儀なくされた日本人の心のありようだったのかなと感じました。

もう一つ感じたのは女性の強さ。
飄々としたオシダホキと、常に従順で自分を押し殺しているような数。
ツダマンとその周りの人々を黙々と観察し続けているホキは逞しくしたたか(ツダマンとも関係があった様子)。
夫が戦地から弟子の長谷川に長い手紙を送ってくるのを「私のことは・・」という気持ちを押し込めてじっと耐える数。
その数が最後に感情を爆発させて切る啖呵の胸のすくカッコよさ。
「あー、これ、女性の物語だったんだ」と思った瞬間でした。

数さんがでんぐりがえしをする場面は森光子さんの「放浪記」のオマージュかと思いますが、他にも文学作品や舞台、映画の名場面が散りばめられていて、「あ、あれ!」と思うことしばしば。
エロもグロも、鈍い痛みもあるけれど、こんなエンターテインメント性を忘れないところが松尾さんの世界観。


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2022年12月17日

祝66公演完走! 「薔薇とサムライ2薔薇とサムライ2ー海賊女王の帰還ー」


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「66公演 誰ひとり欠けることなく完走しました!」というカーテンコールの古田新太さんの言葉に胸がいっぱいになりました。
全公演完走 本当におめでとう


2022年 劇団☆新感線 42周年興行・秋公演
SHINKANSEN☆RX 「薔薇とサムライ2ー海賊女王の帰還ー」
作:中島かずき
作詞:森雪之丞   音楽:岡崎 司
振付・ステージング:川崎悦子
演出:いのうえひでのり
出演:古田新太   天海祐希  石田ニコル   神尾楓珠  高田聖子 
粟根まこと  森奈みはる   早乙女友貴   西垣 匠  生瀬勝久 ほか

2022年12月6日(火) 12:00pm 新橋演舞場 1階4列下手
(上演時間: 3時間45分 <カーテンコール含む>/休憩 20分)



大阪公演の感想はこちら
大阪公演千穐楽レポはこちら


作品全体の感想は省略(笑)
初見の時とそれほど印象は変わらず。
”もちろん楽しいけれどそこまで好きという訳ではない”という感じです←
ただ、今回のお席がこれまでで一番前方でしたので、細かいところまでよく見えて、物語がより深く感じられてよかったです。
(作品への入り込み方が座席の良し悪しに左右されるじぶん、どーなん?)


新橋演舞場で新感線の公演を観るのは「朧の森に棲む鬼」(2007年)以来でした。何と15年ぶり
新感線としては「乱鶯」(2016年)も演舞場公演があったのですが、チケット取っていたものの諸般の事情で観に行くことができませんでしたので💦


新橋演舞場といえば何と言っても花道です。
今回、花横かつスッポン真横という幸せな席で、花道の威力を存分に堪能しました。
役者さんたちが花道を駆け抜けるたびに風がふわりと頬を撫でて、時にはよい香りも漂って、新感線の舞台には花道が本当によく似合います。

新感線が初めて演舞場で公演したのは「阿修羅城の瞳」初演(2000年)だったかと思いますが、みんなあまりに花道を走る演出に「花道は別に走るとこじゃないから」と言われたいのうえさんが「だって、あんな真っ直ぐな長い通路見たら走りたくなるじゃない?」とおっしゃったエピソード大好き。

ラスト近く
横のスッポンが開いてるなぁと思っていたら、そこからモクモクと煙が立ち昇ってきて「あれ?五右衛門出てくるのか?」と思ったら案の定、五右衛門がせり上がって来たのもテンション上がりました。
フェスティバルホールではどこから出て来てたっけ?!と思うくらい登場の仕方ハマっていました。
真横で観る古田五右衛門はデカかった 顔もカラダも(^^ゞ
歌舞伎ではスッポンは”人に非ざるもの”の出入りするところですが、ま、五右衛門もある意味”人外のもの”ですからね。

それから
真横に立つ天海祐希さんアンヌ女王は至近距離で見つめると目が痛いくらい眩しく美しかったです✨
そういえば、二幕冒頭で怪盗紳士な天海さんが去り際にマリア・グランデに放つウィンクを角度の関係でまともに被弾しまして、ほぇ~となりました。


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2022年10月29日

歌え~ 愛がすべて アンヌ陛下万歳 「薔薇とサムライ2」大阪千穐楽


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10月20日は「薔薇とサムライ2ー海賊女王の帰還ー」大阪公演千穐楽。
10月5日から20日まで、16日間という(新感線にしては)短い公演期間でしたが、全員で完走おめでとうございます


本編の感想はこちら


そして、SHINKANSEN RX の千穐楽といえばカーテンコール。
ライブのノリでとても楽しく打ち上がりました。


まずは3回目のカーテンコールでエアお煎餅まき。
古田さんから「お煎餅用意してます!帰りに受け取ってください」とアナウンス。
「2階、3階の人、落ちないように。落ちたら自分だけじゃなく下の人も死ぬから」とお約束の注意に加えて、「皆さんは声は出さずに、手拍子と拍手で応援お願いします」ということで、冠徹弥さんと教祖イコマノリユキさんのヴォーカルに乗ってお煎餅まきが始まりました。

天海祐希さんが高田聖子さん・森奈みはるさん・西垣匠くんを引き連れて、下手のミニ花道になっているところまで来てくれてお煎餅をまいてくださいました。下手7列目だった不肖スキップ、間近でお煎餅しかとキャッチしました(エアだけど)。
一旦舞台中央に帰った後、しばらくして今度は、神尾楓珠くん、早乙女友貴くん、西垣匠くんの若手イケメンズを連れて来てくれました。
友貴くんは舞台中央にいる時から手裏剣みたいにシュシュシュシュッと高速でお煎餅投げていたのですが、花道では神尾くんとダブルで片膝ついてやっていました。
舞台に戻ってからも3人で何やら話しては笑い合ったりして、ほんと、仲良さそうで微笑ましかったな。

エアお煎餅まきも楽しいしありがたいですが
「お煎餅飛んでくるかしら」とドキドキしたり
「ふるちんが投げてくれたお煎餅ダイレクトキャーッチ!」とはしゃいでたあの頃が懐かしい。


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2022年10月28日

五右衛門というオールマイティ 「薔薇とサムライ2」


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2022年の劇団☆新感線  秋興行「薔薇とサムライ2ー海賊女王の帰還ー」。
2012年に上演された、天海祐希さん扮する女海賊アンヌ・ザ・トルネードがコルドニア王国の亡き国王の娘だということがわかり、女王に就くまでを描いた「薔薇とサムライ~GoemonRock OverDrive~」の続編です。

いやもうあれから12年かとため息が出る思いですが、天海祐希さんはまるで時を超越したように、アンヌとしてそこに凛と立っていました。


2022年 劇団☆新感線 42周年興行・秋公演
SHINKANSEN☆RX 「薔薇とサムライ2ー海賊女王の帰還ー」
作:中島かずき
作詞:森雪之丞   音楽:岡崎 司
振付・ステージング:川崎悦子
演出:いのうえひでのり
美術:金井勇一郎   照明:原田 保   衣装:前田文子  映像:上田大樹
出演:古田新太   天海祐希  石田ニコル   神尾楓珠  高田聖子  
粟根まこと  森奈みはる   早乙女友貴   西垣 匠  生瀬勝久
右近健一   河野まさと   逆木圭一郎   村木よし子   インディ高橋
山本カナコ  磯野慎吾   吉田メタル   中谷さとみ   保坂エマ
村木 仁   川原正嗣   武田浩二   冠 徹弥   教祖イコマノリユキ ほか

2022年10月13日(木)1:00pm フェスティバルホール 1階14列センター/
10月20日(木) 1階7列下手
(上演時間: 3時間20分/休憩 20分)



「薔薇とサムライ~GoemonRock OverDrive」(2010年)の感想はこちら


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17世紀のヨーロッパ。女海賊アンヌ(天海祐希)が天下の大泥棒石川五右衛門(古田新太)の協力を得てコルドニア王国の混乱を収め国王となって10数年が過ぎた頃の物語。
ソルバニアノッソ王国の女王マリア・グランデ(高田聖子)が隣国ボスコーニュ公国を併合。国王シャルル一世(浦井健司/映像出演)は生死不明となっており、弟のラウル(神尾楓珠)にはなす術もありませんでした。マリア女王はコルドニアの宰相ボルマン・ロードス(生瀬勝久)とも手を結び、その侵略の手はイクシタニア王国、そしてコルドニア王国へと延びていきます。
一方、南の島デルソル島で科学者ケッペル・レンテス(粟根まこと)をはじめ島民たちが兵に襲撃され奴隷として捕まえようとしていたところに五右衛門が現れ、その兵がコルドニア王国の兵士だと気づいて、アンヌの真意を確かめるためコルドニアに向かいます・・・。


最初から敵味方がはっきりしていて、こうなるだろうなと思う通りに展開する勧善懲悪ストーリー。
「海賊女王の帰還」とサブタイトルがついているので、「アンヌがまた海賊に戻るというお話なのね」と観る前から予想していたまんまだし(まぁ、想定していたよりは遅かったけれど)、最初はマリア女王側だったラウルがやがてアンヌ側に付くだろうというのもお約束どおり。
ヨワヨワのマクシミリアン(早乙女友貴)本人とは別次元のキレッキレの殺陣を見せるムッシュ・ド・ニンジャは「どーせ五右衛門の変装でしょうよ」と思っていたらその通りだったし。
しいて言えば粟根まことさん扮するケッペルが最後までいい人だったことぐらいが意外なところかな(笑)。


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2022年10月16日

合言葉は小劇場のごとく 「阿修羅のごとく」


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原作は向田邦子さんの”小説”ではなく、1979年にNHKで放送された”テレビドラマ”。
2003年には森田芳光監督で映画化され、何度か舞台化もされているそうですが、私はタイトルは知っていたもののドラマも観たことがなく、今回初見でした。


モチロンプロデュース 「阿修羅のごとく」
作: 向田邦子
脚色:倉持裕
演出 :木野花
美術:杉山至   照明:佐藤啓   衣装:戸田京子
出演:小泉今日子  小林聡美  安藤玉恵  夏帆  岩井秀人  山崎一

2022年10月10日(月) 12:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
舞台上特設席 中央3列
(上演時間: 2時間)



それぞれ独立して実家を離れて暮らす竹沢家の四姉妹。
ある日、三女・滝子(安藤玉恵)から話したいことがあると電話で招集され、実家に四人が集まります。
滝子は70歳になる父親に愛人らしき女性がいることを人物といるところを目撃し、興信所の探偵・勝又(岩井秀人)に父の身辺調査を依頼したのでした。母親に知られることなく父に浮気を解消させようと策を練る姉妹ですが、それぞれに悩みや問題も抱えていて、

長女 綱子(小泉今日子):夫亡き後、息子も独立し一人暮らし
             華道の師範として毎週花を生けに行っている料亭の主人と不倫関係にある
次女 巻子(小林聡美): 中高生の2人の子を持つ専業主婦 サラリーマンの夫の浮気を疑っている
三女 滝子(安藤玉恵): 図書館の司書。独身で恋人はおらず一人暮らし
四女 咲子(夏帆):   喫茶店でウェイトレスとして働き、家族には内緒で無名のボクサーと同棲している

          

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舞台上にも客席が組まれ、四方を囲む形のセンターステージ。
私は中央ブロック(画像の上方の緑部分)だったのですが、普段の客席(下のピンク部分)と正対する形で、「あぁ、舞台上の役者さんたちからは客席はこんなふうに見えているのか」と新鮮でした。


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2022年08月14日

ねぇ 上を見て 「ザ・ウェルキン」


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意を決したように強い目でエマを見てこくんとうなづくリジー
それですべてを察して座ったまま目を閉じ耳をふさぐエマ
泣き叫ぶサリーを後ろから包み込むように抱きかかえて空を指差し
「ねぇ、上を見て」と言うリジー

タイトルの「The Welkin」 は「天空」を意味する古語、雅語なのだとか。
その意味がそれと知れるラストシーンに、一気にあふれる涙。

「『チャイメリカ』観た時と全く同じじゃん!」と、ルーシー・カークウッドさんの作劇にまたまんまとハマリました。


シス・カンパニー公演
「ザ・ウェルキン」
作:ルーシー・カークウッド   翻訳:徐賀世子
演出:加藤拓也
美術:伊藤雅子   照明:勝柴次朗   衣装:前田文子 
ステージング:小野寺修二   舞台監督:芳谷研
出演:吉田 羊  大原櫻子  長谷川稀世  梅沢昌代  那須佐代子  
峯村リエ  明星真由美  那須 凜  西尾まり  豊田エリー  
土井ケイト  富山えり子  恒松祐里  神津優花  田村健太郎  土屋佑壱  
声の出演:段田安則

2022年8月4日(木) 1:30pm 森ノ宮ピロティホール F列下手
(上演時間: 2時間30分・休憩 15分)



物語の舞台は1759年 イギリス東部の田舎町。
「75年に一度天空に舞い戻ってくる」と言われる大彗星を人々が待ちわびる中、サリー(大原櫻子)が土地の有力者の娘アリス・ワックス(神津優花)殺害の罪で絞首刑を宣告されます。共犯の男はすでに処刑されていましたが、サリーは妊娠を主張。この町には妊娠している罪人は死刑を免れるという法律があり、彼女の妊娠の真偽を判定するため、助産婦のリジーことエリザベス(吉田羊)をはじめ妊娠経験のある12人の女たちが陪審員として集めらます。リジーがサリーになんとか正当な扱いを受けさせようと心を砕く一方、法廷の外では、血に飢えた暴徒が処刑を求める雄叫びを上げ続けていました・・・。


冒頭、女性たちが思い思いに家事をするマイムの場面から始まります。
薄いベージュやグレーといった、色味のない衣装で統一されて、舞台がまるで一枚の絵のようでした。
綺麗だったなと思って後で調べたら、小野寺修二さんのステージングで、「!」となった次第。

この場面に代表されるように、女性が「家事をするマシン」「子どもを産む道具」だった時代。
当時の社会制度や人権、ジェンダー、フェミニズムといった様々な問題を孕んで物語は展開します。

集められた陪審員が一人ずつ、聖書に口づけをして宣誓するシーンで名前を名乗り、簡単な自己紹介をすることで彼女たちの輪郭がわかるという脚本にまずは感心。


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posted by スキップ at 15:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする