2021年07月07日

忘れないためのレクイエム 「未練の幽霊と怪物」


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昨年全公演上演中止となって、そのクリエイションの一部を演奏付きのリーディング形式でオンライン配信されました。
その時のアフタートークで「この公演は延期しても必ず実現します」とおっしゃっていたとおり、今年上演されることになりました。

舞台中央に平面の白い舞台が切ってかり、そこから下手に向かって同じく白い橋掛かりができていて、「あぁ、そうだ。能の上演形式にのっとった舞台だった」と思い出しました。
昨年のクリエイションは、どちらも能で言う後ジテが登場する前の部分までの上映でしたが、今回はフル上演。
その後ジテがとんでもなくすばらしかったです。


未練の幽霊と怪物 -『挫波(ザハ)』『敦賀(つるが)』-
作・演出: 岡田利規
音楽監督・演奏: 内橋和久
舞台美術: 中山英之
出演: 森山未來  片桐はいり  栗原類  石橋静河  太田信吾/
七尾旅人(謡手)
演奏: 内橋和久  筒井響子  吉本裕美子

2021年7月4日(日) 2:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 
1階F列(4列目)下手 (上演時間: 2時間5分/休憩 15分)



昨年のクリエイション配信の感想はこちら


「ついえた『夢』を幻視する、レクイエムとしての音楽劇」とフライヤーに書いてあるのを、今初めて気づきました。
音楽劇だったのか・・・。

この独特なタイトルの由来は、「社会とその歴史は、その犠牲者としての未練の幽霊と怪物を、ひっきりなしに生み出しています」(岡田利規さん)というところからかな。
それらを見ないことや忘れてしまうことはできるけれど、「直視しないこと忘却することに、抗うために、能という演劇形式が持つ構造を借りて上演します」ということです。


挫波:
東京五輪招致のため、2012年新国立競技場の国際コンペで選ばれたイラク出身の天才建築家 ザハ・ハディド。その圧倒的なデザインで脚光を浴びながら、後にその採用を白紙撤回され、それからほどなく没した彼女をシテとして描きます。
ワキ(観光客):太田信吾/シテ(日本の建築家):森山未來/アイ(近所の人):片桐はいり

敦賀: 
夢のエネルギー計画の期待を担い、1985年の着工以来一兆円を超す巨額の資金が投じられたものの、一度も正式稼動することなく、廃炉の道をたどる高速増殖炉もんじゅ。もんじゅを臨む敦賀の浜を訪れた旅行者が出会うのは・・・。
ワキ(旅行者):栗原類/シテ(波打ち際の女):石橋静河/アイ(近所の人):片桐はいり


「挫波」が先と思い込んでいて(昨年のクリエイション配信が「挫波」→「敦賀」の順だったので)、最初に登場した観光客が「栗原類くんそっくり。似た人を2人選んだのかな」と思っていたらホンモノの栗原類くんでした(笑)。

どちらも諸国遍歴する観光客や旅行者(ワキ)、亡霊(シテ)、里人(アイ=狂言方)という構成。
舞台奥に3人のミュージシャン(囃子方)が並び、上手に謡手の七尾旅人さん。
3人の真ん中が内橋和久さんなのかな。
様々な楽器を駆使して、聴いたことのないような哀愁を帯びた音色を響かせ、場面ごとに世界観の広がりを見せてくれました。
七尾旅人さんのヴォーカルは語りふうでもありラップになったり、即興的な雰囲気でした。


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2021年06月20日

25/37 彩の国シェイクスピア・シリーズ


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近ごろは宝塚歌劇以外は観劇パンフレットはよほどのことがない限り買わないようにしているのですが、「終わりよければすべてよし」はシェイクスピア・シリーズラストなのでまとめがあるかも、と思って購入したところ、予想通り、全37作品の上演記録、ポスターと舞台写真が掲載されていて、懐かしく振り返ることができました。



このシリーズで私が最初に観た作品は第8弾「マクベス」(2001年)。今はなき近鉄劇場でした。
唐沢寿明さんのマクベス、マクベス夫人は大竹しのぶさんでした。
マクダフは勝村政信さんだったのですが、大阪公演は体調不良で休演された記憶(代役調べたら田村真さん)。
まだ「シェイクスピア・シリーズ」のことも、さいたま芸術劇場のことも知らないまま観ていました。

それからしばらく飛んで、次に観たのは第12弾「ペリクリーズ」(2003年)。
内野聖陽さんのペリクリーズ、素敵だったな。この作品はロンドン ナショナルシアターでも公演されたこともあって、以降、よく登場することになる和の演出がとても印象的でした。
この年に「リチャード三世」も観ています。1999年に上演された第3弾の再演。リチャードの市村正親さん以外のキャストを一新して上演されました。私の「リチャード三世」のイメージをつくった作品。夏木マリさんのエリザベスも凄かったな。

第13弾「タイタス・アンドロニカス」以降の作品は、大阪公演がなかった第30弾「リチャード二世」(2015年)以外はすべて観ています。
昨年、「ヘンリー八世」が大阪公演中止となって観られず、「ジョン王」は全公演中止に・・・と2020年はやはり演劇界(だけではないけれど)受難の年だったなぁ。

蜷川さん演出で、藤原竜也くん&鈴木杏ちゃんの「ロミオとジュリエット」(2005年)も観たのですが、あの作品は「シェクスピア・シリーズ」ではなかったのだと今さらながら気づくなど。


シリーズ37作品中リアルで25作品観ました(プラス番外編1本)。
どの作品にも思い入れがありますが、なんとか振り絞ってトップファイブ

・リチャード三世 (2003年)
間違いの喜劇(2006年)
オセロー(2007年)
リア王(2008年)
ヘンリー四世(2013年)


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2021年06月19日

駆け抜けた23年 「終わりよければすべてよし」


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1998年に始まった、シェイクスピア全戯曲 37作品を上演するという彩の国シェイクスピア・シリーズ最終作。
フライヤーには「23年の時を駆け抜け、走破する瞬間をお見逃しなく」とありました。

舞台上には一面に真っ赤な花。
よく見るとそれは彼岸花で、「洋物のお芝居に彼岸花って珍しくない?」と思っていたのですが、カーテンコールで役者さんたちの頭上に蜷川幸雄さんの大きな写真パネルが現れて、そうか、と。
彼岸花は、このシェイクスピア・シリーズの完遂を目指して叶わなかった蜷川さんへのオマージュだったのでしょう。
聞けば、この舞台の初日は蜷川さんのご命日だったとか。
きっと蜷川さんも一緒に、37作目の上演をお祝していらっしゃったに違いありません。


彩の国シェイクスピア・シリーズ第37弾
「終わりよければすべてよし」
作: W.シェイクスピア 
翻訳: 松岡和子
演出: 吉田鋼太郎
美術: 秋山光洋   照明: 原田保   衣裳: 西原梨恵 
出演: 藤原竜也  石原さとみ  溝端淳平  正名僕蔵  山谷花純  
河内大和  宮本裕子  横田栄司  橋本好弘  吉田鋼太郎 ほか

2021年6月10日(木) 5:30pm シアター・ドラマシティ 6列上手
(上演時間: 2時間45分/休憩 20分)



物語の舞台は南フランス ルシヨン。
若き伯爵バートラム(藤原竜也)と家臣のパローレス(横田栄司)は病床にあるフランス国王(吉田鋼太郎)に仕えるためパリに向かいます。貧乏医者の娘で孤児のヘレン(石原さとみ)はバートラムの母 ルシヨン伯爵夫人(宮本裕子)の侍女としてこの屋敷で暮らしていますが、バートラムに身分違いの恋心を抱き、彼を追ってパリへ行きます。
父から受け継いだ秘伝の処方箋で瀕死の国王を治療し、褒美として夫を選ぶ権利を与えられたヘレンはバートラムを指名します。バートラムは貧乏医者の娘とは結婚しないと断固拒否したものの、国王に𠮟責され、しぶしぶ承諾して結婚。初夜を迎えることなく、「私の身につけている指輪を手に入れ、私の子を宿す時が来たら妻と認めてやってもいい。でもその日は来ない」という手紙でを残してイタリア・フィレンツェの戦役へと赴きます。巡礼の旅という口実のもと、彼を追ってフィレンツェへ向かったヘレンは、バートラムがこの地で戦功をあげ、貴族の娘ダイアナ(山谷花純)に求愛していることを知り、ダイアナとその母に協力してもらい一計を案じて・・・。


上演回数の少ない“問題作”ということですが、さもありなんな展開。
バートラムのヘレンとの結婚の拒み方が尋常ではなくて、熱演型の藤原竜也くんの本領発揮なのですが、口角泡飛ばし、鼻水たらし、涙まで浮かべんばかりに激しく拒絶するバートラムに、「バートラム、何があったん?」と思いました。
にもかかわらず、策略が奏功して、「バートラムの指輪を手にして子を宿した」ヘレンにあっさり改心して、「いつまでも彼女を愛します」と言うに至っては「バートラム、ええのん?」と。

あんなにかわいくて聡明でいじらしいヘレンとの結婚を拒否する理由が“身分違い”だけというのも何だかなぁですし、ヘレンがバートラムを子を宿した一夜にしたって、バートラムは相手をダイアナと思っていたわけだし・・・あのリベラルで慈悲深いお母様からどうしてこんな子が育ったのだろうと思います。


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2021年06月12日

25年目の初参戦 TEAM NACS 「マスターピース〜傑作を君に〜」


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「日本一チケットの取れない演劇ユニット」と言われているTEAM NACS
以前から観てみたいと思いながらチケットが取れず・・・といっても熱心にウォッチしている訳でもFCに入っている訳でもありませんので、「あ、公演あるんだ」と気づいた時に申し込むくらいではチケットが取れるなんてことはありません・・・が今回たまたま見かけた先行で申し込んだらサクッと取れまして、結成25周年にしてTEAM NACS 初参戦です。


TEAM NACS 第17回公演
「マスターピース〜傑作を君に〜」
脚本: 喜安浩平
演出: マギー
美術: 松井るみ  照明: 塚本悟  音楽:NAOTO
出演: 森崎博之  安田顕  戸次重幸  大泉洋  音尾琢真

2021年4月7日(水) 7:00pm 
COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール J列センター
(上演時間: 2時間)



物語の舞台は熱海のひなびた温泉宿の一室。時代は昭和27年。
新作映画の脚本執筆のため、泊まり込みで原稿と向き合っている3人のシナリオライター(森崎博之・安田顕・大泉洋)と制作サイドの男性(戸次重幸)、そして旅館の番頭(音尾琢真)が繰り広げる物語・・・と思いきや、ここに5人の仲居さんたち(5人二役)も加わって、登場人物は10人(笑)

「書けない」ことへの葛藤や互いへの思いなどが交錯する中、何とか前を向いて進んで行こうとするまでを、笑いもドタバタもしっとりしみじみも盛り合わせで展開します。


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2021年05月04日

東北へのオマージュを込めて 「日本人のへそ」


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「井上ひさしの劇作の原点がここに」とフライヤーに記されていました。
この前に観た「藪原検校」も初期の作品ですが、この作品が井上さんの劇作家としてのデビュー作(1969年)。

「東北へのオマージュを込めて 10年ぶりの上演」と続いていて、東日本大震災から10年という歳月に・・・私がこの作品を観たのは2011年4月でしたが・・・言葉では言い表せないような思いがこみ上げました。


こまつ座第135回公演 「日本人のへそ」
作: 井上ひさし
演出: 栗山民也
音楽: 宇野誠一郎   振付: 新海絵理子
美術: 妹尾河童   衣装: 前田文子
出演: 井上芳雄  小池栄子  朝海ひかる  久保酎吉  
土屋佑壱  前田一世  藤谷理子  木戸大聖  安福毅  
岩男海史  山﨑薫  大内唯  山西惇
ピアノ: 朴勝哲

2021年4月4日(日) 1:00pm 新歌舞伎座 1階4列センター
(上演時間: 3時間/休憩 15分)



二幕構成で、第一幕は吃音症の患者たちが、教授(山西惇)の指導のもと、治療法として音楽劇を上演するという設定。岩手の田舎で育った少女が集団就職で上京し、クリーニング店をはじめ職を転々とした後、浅草でストリッパー・ヘレン天津(小池栄子)となり、紆余曲折を経て代議士の愛人になるまでを描きます。
第二幕はこの劇を上演していた代議士の邸宅で殺人事件が起こり、その謎解きのミステリー仕立てからオドロキのどんでん返しが・・・。


10年前に観た舞台(こちら)でヘレン天津を演じた笹本玲奈ちゃんの全裸シーンは鮮烈に覚えているのに、最後のどんでん返しに次ぐどんでん返しを完璧に忘れていて、「どうなってるの?私の海馬?!」というのがまずは第一の感想(それか(^^ゞ)

とはいうものの、
むかしある所にカタナ国がありました そこの王様アイウエ王は王子を残して亡くなりました
そこで腹黒カキクケ公は王位に就こうと企みました ところが名僧サシスセ僧が・・・
という冒頭の役者さんたちの合唱(吃音者のための発声練習になっている)や、ヘレン天津が列車に乗って上京する場面で、教授の山西惇さんが遠野から上野まで、東北本線の駅名を順々に唱えていく長台詞は「あー、これこれ」と思いましたので、やはり“耳”に残る記憶は特別なものがあるのねと思いました。


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2021年04月25日

”今”に息づく 「藪原検校」


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1973年に初演された井上ひさしさんの初期の代表作のひとつ。
2007年 古田新太さん(蜷川幸雄さん演出)、2012年 野村萬斎さん(栗山民也さん演出)と観てきて、今回が3度目の観劇です。

「藪原検校を市川猿之助主演で」と聞いた時、あ~、もうぴったりなんじゃない?と思いました。
演出は今や猿之助さんの盟友のひとり 杉原邦生さん。


劇場20周年記念プレ公演 京都芸術劇場 春秋座 芸術監督プログラム
PARCO PRODUCE 2021 「藪原検校」
作: 井上ひさし
演出: 杉原邦生
音楽・演奏: 益田トッシュ
美術: 田中敏恵   照明: 原田保   衣装: 西原梨恵
振付・ステージング: 尾上菊之丞
出演: 市川猿之助  三宅 健  松雪泰子  髙橋 洋  佐藤 誓  
宮地雅子  松永玲子  立花香織  みのすけ   川平慈英

2021年3月21日(日) 1:00pm 春秋座 1階9列上手
(上演時間:3時間15分/休憩 20分)



江戸時代、東北の貧しい生まれの座頭・杉の市が悪事を重ね、金を積んで成り上がりながら、盲人の最高位である検校の地位につく直前にすべてが露見して破滅するというピカレスク譚。

PARCO劇場のある渋谷の路地裏を思わせるような、一面にスプレーで描いた落書きがある壁で囲まれた空間。
張り巡らされた黄色に黒文字で”KEEP OUT”と書かれたポリスラインテープ。
ギター片手に登場したミュージシャン(益田トッシュ)が奏でる音楽はエレクトリックポップ。

・・・何度も上演されてきた作品を新しい演出家がやる時、 “今”を採り入れるってわりとよくある手法だよなぁと思って観ていたのですが、ああ、この黄色いテープは、これまで観た2作にも出てきた、井上ひさしさんの戯曲に記述されているという、盲目の世界を囲むロープなのね!と思い至りました。
そういえば、「薄汚れた戸板に囲まれた空間」もそうだったなぁ、と。

物語の途中はそれらに気をとめることもなかったのですが、あの三段斬りのラストとともに聞こえてきた都会の雑踏の音にまたふと渋谷の路地裏が蘇り、演出の杉原邦生さんの確信犯ぶりにヤラレタ思いでした。
井上ひさしさんが40歳の時に書いたエネルギー溢れる問いかけを、38歳の杉原邦生きんが切れ味鋭く“今”に受け継いだ演出。

杉原さんの手腕の鮮やかさとともに、改めて感じ入ったのは井上戯曲の普遍性。
差別を糧として社会の底辺からのし上がった者が最後には民衆の見世物として処罰される残酷さ。
差別する側、される側、その構造も複雑になり形を変えてはいても、時代を超えてなお、差別がなくなることはないし、差別される側の情念や怒りの炎もくすぶり続けていると言われているようでした。


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