
村上春樹さんの小説はずいぶん前に読んだことがあって、2つの世界がパラレルに進行するあの物語がどんな風に舞台化されるのかとても楽しみでした。
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」
原作:村上春樹
演出・振付:フィリップ・ドゥクフレ
脚本:高橋亜子
音楽 :阿部海太郎 美術:石原敬 照明:吉本有輝子
映像:上田大樹 衣裳:前田文子
出演:藤原竜也 森田望智 宮尾俊太郎 富田望生
駒木根葵汰/島村龍乃介(Wキャスト) 池田成志 ほか
ミュージシャン:権頭真由
2026年2月19日(木) 1:30pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階E列センター
(上演時間: 2時間45分/休憩 15分)

ピアノの生演奏で始まって、役者さんの身体能力で表現するしなやかな一角獣が闊歩する、お芝居とコンテンポラリーダンスが一体化したような幻想的で美しい世界。
マジックアワーの空
夜空に輝く無数の星
降りしきる雪
As Time Goes Byの調べ
切なくなるくらい美しい舞台でした。
美しいばかりでなく、プロジェクションマッピングや効果音のナマ音、人の手で動かすセット、光と影・・・これらがつくり出す世界観が二つの物語世界をゆったりすんなり描出して、観ている私たちも迷子になることなく二つの世界を行き来できました。
世界の終わりの”僕”の仕事は夢読みでもあり、一角獣の頭蓋骨を叩いて”古い夢を読む”という場面が二つの世界で共通して出てきますが、この場面の効果音(舞台上手でアップライトピアノを弾いている方が効果音も担当)が何だかとても耳に心地よくて好きでした。
人の記憶って、視覚はもちろんですが、”音”や”匂い”で呼び覚まされることが多くて、たとえばある曲が流れた時、その曲を聴いた時の情景がありありと心に蘇るということ、私にもよくあります。
”私”が失ってしまった記憶を取り戻すきっかけが「音」だということにとても共感しました。
「世界の終わり」の僕を駒木根葵汰さんと島村龍乃介さんのWキャスト(私が観た日は駒木根さん)
「ハードボイルド・ワンダーウーマン」の私を藤原竜也さんが演じています。
駒木根葵汰さんは今回が初舞台ということですが、繊細な”僕”にぴったりでした。
この世界の入口で影と引き離されて、夢読みの仕事を与えられて、それまでずっと受動的だった僕が初めて自分の意志を表した言葉が「僕はここに残る」(「ここから出よう」と促す影に対して)だったことが印象的でした。
「ハードボイルド・ワンダーランド」の司書と「世界の終り」の彼女は森田望智さん。
森田さんといえば何といっても朝ドラ「虎に翼」の花江ちゃんですが、舞台は昨年の「氷艶」が初めてということですので、ほぼ初舞台になるのかな。
二つの役で声を使い分けていて、それもよく通るかわいい声でよきでした。
「ハードボイルド・ワンダーランド」のピンクの女 富田望生さん。
望生ちゃんはこれまで何度が舞台で拝見していますが、明るくて闊達でイキイキとした17歳の太った女の子、そしてずっと”私”を励まし続ける・・・ぴったりでした。
ちなみに、「ハードボイルド・ワンダーランド」に登場する他の人物は皆「世界の終わり」にも役を変えて出てきますが、このピンクの女すなわち富田望生さんだけは「ハードボイルド・ワンダーランド」のみ。
「世界の終わり」が「ハードボイルド・ワンダーランド」の私がつくり出した意識世界だとするならば、ピンクの女は彼の意識を超越した存在だったのかな、と思うなどしました。
「ハードボイルド・ワンダーランド」の博士と「世界の終り」の大佐は池田成志さん。
マッドサイエンティスト風味のある博士、まるで感情を封印したような大佐、そのどちらにも、もしかしたら”私”を”僕”を思いやっているのかもしれないと感じさせるところが成志さんだなぁと思いました。
影の宮尾俊太郎さん。
キャストをよく把握していなくて、顔も真っ黒に塗っていて誰かわからず「何あの人、ダンサー?めちゃ身体能力高いやん」と思いながら観ていたのですが、幕間に宮尾さんだと知り「そりゃそーだわ」となりました。
概念的な存在でありつつ”私”と”僕”の深層心理を体現するという難役。
カーテンコールで竜也くんに促されてクルンと鮮やかなターン披露してくださるところまですべて素敵でした。
そして、藤原竜也さん。
”私”は35歳独身、仕事はエリートの計算士、面倒だから決まった相手とは関係を持たない、あまり物は持たない主義で、ビデオデッキとテレビ、ウイスキーのコレクションと新しくつくったスリーピースのスーツと革ジャンを大切にしている・・・といかにも村上春樹さんの小説に出てくる主人公(実際そうなのだけど(≧▽≦)が吐くような台詞を竜也くんのあの口跡と声で発せられると途端にリアリティ生まれるのほんとすごい。
”私”が自分自身を守るためにつくった「世界の終わり」。
そこから脱するのではなく、「自分がつくった世界を放っておけない」その世界(つまり意識の中?)とどまることを決めた”私”。
つまりそれは現実世界(ハードボイルド・ワンダーランド)の”私”の消滅を意味することになるのでしょう。
ラスト ニつの世界が一つに融合して残り少ない時間の中、光に手をかざし涙を流しながら「この世界から消えたくない」というモノローグ、圧巻でした。
今とても原作小説読み返したいけれど長さにビビる の地獄度
