2024年07月21日

まるでドン・ジュアンそのもの 花組 「ドン・ジュアン」


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              ©宝塚歌劇団


宝塚歌劇花組 永久輝せあさん・星空美咲さんのトッププレお披露目は2004年にカナダにて初演されたフレンチミュージカル。
2016年 望海風斗さん主演の雪組で日本初演され、当時雪組だった永久輝さんご自身もラファエル役で出演されていた作品です。


宝塚歌劇 花組公演
ミュージカル 「ドン・ジュアン」
≪DON JUAN≫ un Spectacle Musical de FELIX GRAY
Licensed by NDP PROJECT
脚本・作詞・作曲:Félix Gray
潤色・演出:生田大和  
音楽監督・編曲:太田 健   
振付:桜木涼介  大石裕香  佐藤浩希  
擬闘:栗原直樹   装置:國包洋子   衣裳:有村淳 
出演: 永久輝せあ  星空美咲  紫門ゆりや  紅羽真希  綺城ひか理  
凛乃しづか  咲乃深音  希波らいと  天城れいん  美羽 愛  美空真瑠
/英真なおき  美穂圭子

2024年7月17日(水)3:30pm 御園座 1階9列センター
(上演時間: 3時間/休憩 30分)



物語の舞台はスペイン アンダルシア地方の街セビリア。
女と酒、そして快楽を追い求め、悪徳と放蕩の限りを尽くし数多の女達を魅了するプレイ・ボーイ ドン・ジュアン(永久輝せあ)。
ある夜、いつもの如く女との愛を愉しんでいたドン・ジュアンは、彼女の父である騎士団長(綺城ひか理)の怒りに触れ、決闘を申し込まれます。ドン・ジュアンは決闘に勝利しますが、騎士団長の亡霊が現れ「いずれ『愛』によって死ぬ。『愛』が呪いとなるのだ」と呪詛の言葉を遺します。騎士団長の言葉が呪いのように亡霊の姿で付きまとうようになる中、ドン・ジュアンは運命に導かれるように騎士団長の石像を作る彫刻家の娘 マリア(星空美咲)と出会いますが、マリアには結婚を誓い合って戦場へ赴いた恋人 ラファエル(天城れいん)がいました・・・。


観応え、聴き応えありました。
永久輝さん、星空さんはじめキャストの皆さんが表現力豊かに歌いこなす重厚でドラマチックな楽曲の数々。
フラメンコを基調にした華やかなダンス、騎士たちの足を踏み鳴らすタップのような躍動感あふれるダンスもカッコいい!

初演(2016年雪組)とも外部版(2019・2021年)とも脚本 演出 装置 衣装も変えて、しっかり花組御園座バージョンになっているあたり 生田大和先生やってくれます。


初演と外部版の違いで大きかったのは母親のエピソードがカットされたことでしたが、今回もそれは含まれていませんでした。
ここは私はあった方がドン・ジュアンの孤独がより伝わったのではないか派です。
放蕩に溺れるドン・ジュアンが求めていたのは「母の愛」だったのではなかったか。
ドン・ジュアンが歌う「悪の華」の歌詞に「神が捨てた俺を 女と酒が救う」とありますが、自分から母親を奪った神をずっと憎んでいて、それが彼を”神をも恐れぬ男”にしたのではなかったか。そんな彼が求めてやまなかった「母の愛」が唯一見えたのがマリアだったのではなかったか、と思うからです。

一幕の終わり方の違いも鮮明でした。
初演では、マリアに会いたい一心で騎士団長彫像完成除幕式に姿を見せるドン・ジュアンが、取り囲む人々に騎士団長殺しと蔑まれ、マリアに会わせず連れ出そうと揉み合う中、「彼は私に会いに来ただけよ」 「こんな像があるからいけないのね」とマリアが完成したばかりの石像にハンマーを振りかざして大きく崩れ落ちる騎士団長の石像、その前で手を取り合う2人・・・という幕切れでしたが、今回はセビリアの街の人々が総出でフラメンコを踊る中、ドン・ジュアンとマリアが登場してフラメンコを爆踊りするエンディングに。

そもそもマリアがつくる騎士団長の彫像はほとんど形になっていませんし、周りの人たちがドン・ジュアンを「騎士団長殺し」とまるで罪人のように言うのも薄められた印象でした。


まるでドン・ジュアンそのものの永久輝せあさん。
どうしようもない男なのだけど女がほっておけない色気があり、狂気もチラつく悪の華でありながら、心の底にピュアな部分も持っている・・・闇落ちしたような暗い瞳で、でもどこか醒めてもいる表情に、ひとこちゃんの三白眼が映える映える。

初演の時、「プロローグの兵士たちの中に、超イケメンがいる!とよく見たら永久輝せあさんでした」と感想を書いたくらいイケメンのひとこちゃんは正統派プリンス的なお役も多いですが、実はこんな心に闇を持った役が本当によくお似合い。
酒場の女の鎖骨にワインを流し込んで顔を突っ込んで飲んだり、アンダルシアの美女を目だけでクイッと呼ぶ仕草のセクシーなこと💕
ラファエルとの決闘の最後で、マリアの心に永遠に刻まれるために自ら死を選び、剣を放して両手を広げて笑みを浮かべてラファエルに迫っていく表情の凄み。
歌唱力も増し増しで、どのナンバーも聴き応えたっぷりでした。


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              ©宝塚歌劇団
プログラム表紙
ひとこちゃんの三白眼 際立っています


自分をしっかり持ったより強い女性として、凛と立つ印象の星空美咲さんマリア。
口跡よく台詞が聞き取りやすい声。伸びやかな歌声も力強いフラメンコのステップも素敵でした。
長身小顔で華やかな舞台姿もトップ娘役として十分な存在感です。
メイクや髪型はさらにブラッシュアップがんばっていただきたいところ。

これまでは思い込みが激しいちょっとイタイ女性と思っていたエルヴィラに初めて心を寄せられたと思える美羽愛さんがすばらしかったです。
可愛く清楚なビジュアルも、強い意志を持った瞳も印象的。
歌もこれまでの美羽さん史上ベストパフォーマンスなのではないかしら。

アンダルシアの美女に紫門ゆりやさんと聞いた時はとても驚きましたが、大胆な脱ぎっぷり(脱いでない)で妖艶なダンス。
最初はドン・ジュアンの方から積極的に仕掛けていって、一夜をともにした後は彼女の方がドン・ジュアンに夢中で彼はもう冷めている、というあたりを台詞なくダンスと表情だけで見せるところ、さすがでした。

ドン・ジュアンの親友で狂言回し的な役柄も兼ねるドン・カルロは希波らいとさん。
彼の歌からこの物語は幕を開けますが、らいとくんも歌唱力に磨きがかかって心情が切々と伝わってくる場面も。
突き放されも疎まれても、ドン・ジュアンを見捨てず忠告し続ける真摯さ、エルヴィラにひそかに心を寄せながら何もできないもどかしさ。
元より長身脚長でビジュアル抜群ですが、初演が彩風咲奈さんだったことを思うと、ドン・カルロは長身脚長ポジションなのか?

マリアの婚約者ラファエルは天城れいんさん。
「鴛鴦歌合戦」「アルカンシェル」と2作連続で新人公演主演も記憶に新しいれいんくん。期待の新人らしい溌剌とした演技と歌声。
「女は仕事なんかせず家に」という保守的な考えを持っていて、それがマリアを束縛していることに気づきもしない若さの傲慢で、ある意味ドン・ジュアンと同類かもしれないラファエル。大詰めでドン・ジュアンとの大立ち回りも大健闘でした。

初演でそのビジュアルに戦慄した騎士団長/亡霊は綺城ひか理さん。
今回も凝ったメイクでしたが隠しきれない美しさがこぼれ出てますますミステリアスに。
亡霊はやはり「エリザベート」のトートのように、ドン・ジュアンの心を投影した存在なのかなと初演と同じ印象を持ちましたが、綺城さんが演じることでそれがより強い印象となりました。
操っているようでいて、それは結局ドン・ジュアンが自ら選び取った運命であると。
声よし姿よしの綺城さんの迫力ありつつ細やかな演技がこの物語をしっかり支えていました。

それにつけても、毎日酒と女に溺れて剣の稽古や鍛錬なんて全くしていないドン・ジュアンに、騎士団長はもちろん、戦場からただ一人生き残って帰ってきた現役兵士のラファエルも全く歯が立たないって、ドン・ジュアン どれほど剣の天才なんだっていう・・・(というか、他の2人が情けないのか?)

初演と同じ役でご出演の専科のお2人-ドン・ジュアンの父親ドン・ルイの英真なおきさんとイザベルの美穂圭子さんも変わらぬすばらしい歌唱と存在感。
特に英真さんドン・ルイの由緒ある貴族の家の長としての威厳を保ちつつ息子のことを思いやる演技と歌に心打たれました。


数列前で柚香光さん&星風まどかさんが観劇されていてざわめく客席。
フィナーレではみんな嬉しそうにニコニコアピールしていましたが、永久輝さんがご挨拶で「今日は初めての2回公演でした」からの「客席の皆様の…皆様のっ!」と一歩前に踏み出してお2人に向かっておっしゃったのが本日のハイライト。



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御園座で宝塚歌劇の公演やるようになって毎回来ています。
薔薇に彩られたポスターが御園座レッドに映える~🌹




すばらしい舞台で、マチソワできなかったのが返す返すも残念 のごくらく地獄度 (total 2275 vs 2279 )


posted by スキップ at 17:30| Comment(0) | TrackBack(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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