2024年06月16日
きっとずっと語り継ぐ 星組 「BIG FISH」
©宝塚歌劇団
正直なところ、この作品の上演が発表された時、「どうしてこの作品?」と思いましたし、映画観ても(こちら)それほど刺さらず(ラスト泣いたけど(^_^;)、さらに追い打ちをかけるように、版権の関係で舞台中継含めて映像化されないことが発表されて、「なおさらそんな無理してこれやる価値ある?」と思ったものです・・・そんなあの頃の自分を叱りたい。
今の星組で、礼真琴さんのエドワード・ブルームで、この「BIG FISH」を上演することを決めてくださった方に心から感謝。
本当に残念なことに映像や音源には残りませんが、心揺さぶられ涙流したこと、胸の奥深く刻まれた宝物のようなこの公演の記憶は決して消えることなく、きっと私の中で末代まで語り継ぐことになると思います。
宝塚歌劇 星組公演
ミュージカル 「BIG FISH(ビッグ・フィッシュ)」
脚本:JOHN AUGUST
音楽・作詞:ANDREW LIPPA
原作:DANIEL WALLACE
潤色・演出:稲葉太地
訳詞:高橋亜子
音楽監督・編曲:太田 健 音楽指揮:御﨑 恵
振付:御織ゆみ乃 若央りさ 三井 聡
殺陣:清家一斗 装置:國包洋子
衣裳:河底美由紀 映像:石田 肇
出演:礼 真琴 白妙なつ ひろ香 祐 小桜ほのか 蒼舞咲歩
希沙 薫 極美 慎 碧海さりお 夕陽真輝 都 優奈 星咲 希
鳳花るりな 詩ちづる 大希 颯 茉莉那ふみ ほか
2024年6月2日(日) 11:00am 東急シアターオーブ 1階20列センター/
3:30pm 1階4列センター/
6月13日(木) 11:00am 1階2列下手/3:30pm 2階3列上手
(上演時間: 3時間/休憩 30分)
©宝塚歌劇団
物語:まるでお伽噺のように自らの人生を語り、周囲を魅了するエドワード・ブルーム(礼真琴)。
未来を見通す魔女(都優奈)や共に旅に出た巨人(大希颯)の話、サーカスでの最愛の妻サンドラ(小桜ほのか/詩ちづる)との出会いなど、彼の奇想天外な話は幼い息子ウィル(茉莉那ふみ)を虜にしていました。しかし、大人になるにつれ全ては作り話に過ぎないと考えるようになったウィル(極美慎)は父エドワードと距離を置くようになります。そんなある日、母サンドラからエドワードが病気のため死期が迫っていると連絡を受けたウィルは、身重の妻ジョセフィーン(星咲希)とともに実家に帰ります。父の人生が本当はどういうものだったのかを知りたいと考えたウィルがその足跡を辿り始めると、次第にエドワードの真実の姿が明らかになっていき・・・。
ダニエル・ウォレスの小説をもとに、2003年にジョン・オーガスト脚本、ティム・バートン監督により映画化され、2013年にブロードウェイでミュージカル化された作品。日本では白井晃さん演出、川平慈英さんのエドワードで2017年と2019年に舞台化されています。
父と息子の物語であり
夫と妻の物語であり
愛に満ちた家族と彼らを取り巻く人々の物語
ファンタジーの要素たっぷりで、もともと妖精さんで何にでも憑依できるタカラジェンヌ、そして宝塚歌劇と相性がよい世界なのはもちろん前提として、その”つくり話”なファンタジーと父と息子の葛藤というリアルな人間ドラマのバランスが絶妙で、だから、夢物語のようなお話なのに心揺さぶられてとめどなく涙を流すことになったのでした。
映画→舞台はその後のアシュトンの町のくだりなど少しストーリーも違っていて、原作未読で、ブロードウェイ版はもちろん白井晃演出版の舞台も観ていないのでどれくらい潤色されているかわからないのですが、版権厳しいということですので、おそらくブロードウェイ版そのままなのかな。
「この町にはデイリークイーンが2軒あるから(魔女は)いない」なんていかにもアメリカ的な台詞です。
すばらしい楽曲の雰囲気もいかにもブロードウェイミュージカルで、星組といえば、な耳慣れたフレンチロックとは一線を画した美しくのびやかな旋律の数々。
台詞からシームレスに歌につながるあたりもいかにもブロードウェイミュージカルだなぁと思いました。
物語のはじめと終わりに出てくる「7回跳ねるとラッキー」な石投げ。
最後の川の場面は、エドワードが亡くなった後の川岸。
サンドラとウィル夫妻と息子くんがピクニックに来ていて、後ろに立っているエドワードにサンドラが石を投げて(多分サンドラだけには一緒に来ているエドワードが見えたのね)、ウィルはジョセフィーンから石を受け取って、2人がそれぞれ投げた石がピョンピョンと跳ねていく軌跡がライトになって客席の上を跳んでいくの、天才の演出では?
星組は3チームに分かれての公演ですが、礼さんエドワードをはじめ登場人物は皆ピタリハマって活き活きと物語の世界に息づいています。
歌うまさんばかりで耳に心地いいことこの上ありません。
いつも思いますが、チーム分けとキャスティングする人(組P?)の仕事できっぷりに拍手。
父と息子の物語ということに絡めていうと、これは継承の物語でもあるなと。
父親エドワードと息子ウィルの姿が、礼真琴さんが極美慎くんへ男役としての姿を示し、バトンを渡そうとしている姿とも重なって見えて、ストーリーとはまた別ですがここも盛大に泣きポイントでした。
極美くんにとって、後々「あの時のあの役が」と語られるターニングポイントの役になったのではないでしょうか。
そして礼真琴さんのエドワード・ブルーム。
ほぼ舞台に出ずっぱり、しゃべりっぱなし、歌いまくり。
好奇心旺盛なティーンエイジャー
働き者の溌剌ヤングパパ
グレイヘアがお似合いの人生の夕暮れ時
・・・瞬時に時空を行き来する礼さんエドワード。
礼さんは、お芝居でもショーでも歌唱を役によって、場面によって声を変えてきますが、今回三世代を1人で演じたことで、台詞の声のふり幅広い表現力にもホレボレ。
声や話し方はもとより、姿勢、歩き方、所作や手の表情まで繊細につくり込んで変幻自在。
口跡よく台詞も歌詞もきちんと客席の私たちに届くのもいつもの通り。
「ミュージカルは突然歌い出す」というタモリさんの有名な言葉がありますが、礼さんは台詞と歌が本当にシームレスで台詞から流れるように歌になって、それがまたいい声で、聴き惚れている間に終わってしまいます←
「歌、ダンス、芝居ともに高いレベルで三拍子そろうトップスター」というのは礼さんを形容する時によく言われる言葉ですが、本当にその才能とこれまでの舞台で培ってきたもの、努力、そんなすべてを如何なく発揮している印象です。
研16となって、様々な役を演じ、実生活でもいろんな経験を積んで、演じようとチカラを入れ過ぎなくてもパパ役、おじさん役が違和感なく自然体でできるようになった今の礼真琴さんが巡り合うべくして巡り合った役。
初日のご挨拶で白妙なつさんがおっしゃっていたように、革命に身を投じる訳でも使命を帯びた訳でもなく、アメリカの片田舎の平凡なファミリーの、父と母と息子の物語を圧倒的な歌唱力と表現力、そしてとびきりチャーミングな笑顔で私たちに見せてくれた礼さん。感謝しかありません。
ヒカリエ11階でエレベーター降りてこれが目に入るだけでテンション爆上がりでした。
映像、音源が残らないこともあって、以下は私が特に印象に残った楽曲、場面をいくつか。
(全部挙げるとキリがないのでこれでも一応厳選)
Be the Hero
エドワードが幼いウィルに「物語のヒーローに 戦ってチャンピオンになれ 自分の物語 その手で描け」と鼓舞する、この作品を代表する曲。
オープニングでは、自分の体験を歌うエドワードの「魔女」「巨人」「人魚」という歌詞に合わせてご本人様が登場してさながらイントロダクション顔見世のような曲で出演者全員の合唱となります。
フィナーレでリプライズされますが、♪世界は お前 の も の だ~ で客席のあちこちを指差しする礼さんの指がこちらに向けられてとなった回も。
I Know What You Want
魔女がエドワードの”死に方”を予言する時の曲。
礼さんが「ブラジルまで届きそう」とおっしゃっていた都優奈さん魔女の迫力の歌唱 すばらしい。
Wicked みたいな魔女の衣裳もステキでした。
Daffodills
エドワードが黄色い水仙の花束を持ってサンドラに ♪どうか 結婚を ああ 僕と とプロポーズする曲。
一幕終わりのこの場面、あまりの多幸感で毎回涙あふれました。
夕陽真輝さんがタカラヅカニュースのお稽古場情報で「礼さんにあの曲であんなふうにプロポーズされたい」とおっしゃっていましたが、ほんとそれ!と思いました。
この場面、舞台写真にもなって、写真はもちろん四つ切も買ってフレームに入れて、ただ今私の部屋におります。
Fight The Dragons
ヤングウィルの寝室で仕事でしばらく家を空けなければならなくなったエドワードがウィルとともに歌う曲。
♪倒せドラゴン 城を攻めて 積み上げろ勝利を
旅が終われば すべての物語 お前の元へ
つかめ 真の勝利を 俺が年老いたら物語をお前が話せ
明るい曲ですが、少年ウィルに寄せるエドワードパパの思いが心に刺さって毎回ウルウル。
歌い終わった後に、おやすみパパというウィルを抱き寄せたエドワードが少し眉間に皺寄せて「愛しくてたまらない」といったふうに浮かべる切ない表情、たまりませんでした。パッと離してウィルに向き合った時にはもう笑顔なのにも( ;∀;)
茉莉那ふみちゃんのヤングウィル 超キュートで歌唱しっかり。
I Don't Need A Roof
「この屋根はしっかりしてる、あと10年は大丈夫だ。だからサンドラ、君も大丈夫だ」という、自分の死期を自覚しているエドワードの言葉に黙ってじっとエドワードを見つめるサンドラ。「あぁ、また何か妙なことでも言ったか?」というエドワードに歌い始めるサンドラ。
♪たとえこの家に 屋根がなくても 古ぼけた壁紙 剥がれ落ちても
そばにあなたがいれば そこが私の家
初めて聴いた時、小桜ほのかさんサンドラの包み込むような歌唱のすばらしさとエドワードを見つめる温かい眼差しに震えて、そんなサンドラに包まれてほっとしたように膝枕で眠るエドワードに大泣き。
以来、この曲が始まると条件反射のように涙を流していました。
このサンドラがいたから、エドワードもずっと幸せに生きてきたんだなと心から感じられる曲。
How It Ends
そして泣くといえばこの曲。
♪ 俺の人生は完璧じゃない
ちっぽけなこと分かっていた
だから少しでも大きく俺を
語り継いでくれたらうれしい
息子がいる 妻がいる
そしてもうすぐ道は途切れる
人生の終幕を迎えたエドワードが、妻と息子と仲間たちを思い、感謝して心を込めて歌い上げる曲。
そばで聴いている極美ウィルは毎回涙流していて、周りの人たちもみんなウルウル。もちろん客席もそこここですすり泣き(私はすすり泣きどころではなく号泣)。
共演者も客席も心一つにしてしまう礼真琴さんの歌の凄み。
1回目観た時だーだー泣いて、もう歌詞もわかったし大丈夫でしょうと臨んだ2回目は危うく声が出そうになるくらい泣くという。
また、これを歌う礼さんが本当にすばらしくて。
6/13マチネの礼さん、私が観た中では一番たくさん涙を流していらして、綺麗な瞳から溢れ出る涙が頬を伝っても歌は微塵もブレず、「ことちゃんの声帯ってばほんとどうなってるの?!」と思ったのはもちろん後のことで、聴いている間はその歌声に聴き惚れ、歌詞の一言ひと言が心に染み入って、滂沱のナミダ。
これを書いている今、「BIG FISH」千穐楽会場からとんでもない朗報が
音源 配信 決定ですって!!!
あまりの喜び過ぎて エドワードを取り巻く人々編につづく
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