2024年02月22日

最後のワードは relax 「オデッサ」


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三谷幸喜さん 2020年の「大地」以来、3年半ぶりの新作書き下ろしの舞台。
アメリカ・テキサス州オデッサを舞台に、英語ができない日本人旅行客と日本語が理解できない警察官、語学留学中の日本人青年通訳の3人による会話劇です。


「オデッサ」
作・演出:三谷幸喜 
美術:松井るみ   照明:服部基   衣裳:前田文子
英語監修:宮澤エマ   鹿児島弁指導:迫田孝也
出演:柿澤勇人  宮澤エマ  迫田孝也
音楽・演奏:荻野清子
ナレーション:横田栄司

2024年2月7日(水)1:00pm 森ノ宮ピロティホール C列センター
(上演時間: 1時間45分)



1999年秋 アメリカ テキサス州の平凡な地方都市オデッサが舞台。
ある日本人旅行者(迫田孝也)が3日前にこの町で起きた殺人事件の重要参考人として事情聴取を受けますが、彼・児島勘太郎は英語が全く話せず、捜査にあたるオデッサ警察のカチンスキー警部(宮澤エマ)は日本語を理解できません。そのため、地元ホテルのジムでトレーナーとして働く日本人留学生のスティーブ日高(柿澤勇人)が通訳として駆り出され、彼の通訳で取り調べが始まります・・・。


”登場人物は三人。 言語は二つ。 真実は一つ。密室で繰り広げられる男と女と通訳の会話バトル。 ”
というフライヤーに書かれたコピーだけちらりと見ていて、あとは全く白紙の状態で観ましたが、いや~ おもしろかったです。
書き手としての三谷幸喜さんの力量を改めて思い知らされました。


「言語は二つ」とはいえ、最初に舞台に登場するのはカチンスキー警部とスティーブ日高の2人で、彼らはもちろん英語を話しているのですが、舞台上では日本語で演じられています。
カチンスキー警部が席を外した間に児島勘太郎が現れて、スティーブ日高と2人の会話になりますが、ここは2人とも日本語(というか鹿児島弁)。
そこへカチンスキー警部が戻って来て、「この場合、言葉はどうなるのかな」と思っていたらいきなり英語でペラペラ話し始めて、この切り替えが実に鮮やか。

これ以降は実際そうであるように、カチンスキー警部は英語で話し、児島勘太郎は日本語を話し、その双方をスティーブ日高が通訳する形。
英語の時は背景に字幕が出ますが、カチンスキー警部とスティーブ2人だけの会話の時にはまた日本語に戻ります・・・と書くとややこしそうですが、そんなことはまったくなくて、観客は違和感なく状況を受け入れることができたと思います。セットのカウンターが前に出てきたり後ろに下がったりするのが合図だった模様。

スティーブと児島の話が長くて(主にスティーブだけど)、「何を話してるのっ!」とカチンスキー警部が疑ったり、日本語がわからなくても「そんなこと言ってない」と感じるあたり、本当に自然で納得性アリアリでした。

字幕の出し方や字体までも遊び心たっぷりで演出の一部になっていて、感心することしきりでした。
幸いなことに字幕を見なくても話の内容がわかるくらいには英語が理解できるのですが、それでも字幕見るの楽しかったな。

細かい笑いを散りばめつつ(「ゴースト」のパロディで爆笑したのですが、隣席の若いお嬢さんはあまり笑っていませんでした・・・ジェネレーションギャップ(^▽^;)、カチンスキー警部やスティーブがアメリカ社会で抱える葛藤など”苦み”が織り込まれているのもよき。

そしてミステリとしては何と言ってもラストのどんでん返しです。
「りんごは砂糖水につけた方いいですよ」と児島勘太郎が言った時に「あれ?実は英語わかってたというオチだったの!?」と思いましたが、さすがコロンボ好きの三谷さん、そんな生易しいものではありませんでした。
このりんごについても、最初に示された別の連続殺人事件にしても、ここまで来て「あれ伏線だったのか!」という鮮やかさ、その回収の見事さ。

最後に残ったスティーブがカチンスキー警部が子どもさんとやっていた「7つ目がxで終わるしりとり」をつぶやくようにひとりでやりますが、一つずつの言葉がこの物語に出てきたキーワードになっていて、最後が " relax" なのもステキでした。


スティーブ日高の柿澤勇人さん。
英語と日本語(と鹿児島弁)の行き来が鮮やか。
飄々としているようだけど、正義感があって、無実と信じたもののために懸命になる姿はいかにも薩摩男児という趣き。
ラストの砂糖水からのひらめきが市井の人にしてはスーパー過ぎかなぁという気がしないでもありませんが。

カチンスキー警部の宮澤エマさん。
帰国子女で日本語も英語も母国語という宮澤さんにあて書きされたという役。
ヒーロー然と颯爽とした警察官ではなくて、少し疲れた日常をまとっているシングルマザーの風情がいかにも”生活している”人といった趣きでとてもよかったです。演技はもちろん、英語の発音はさすがの美しさ。

児島勘太郎の迫田孝也さん。
お国訛りバリバリの、いかにも朴訥とした人物で、スティーブに振り回されている感からの身バレしてからの豹変ぶりが凄まじかったです。
三谷さんが迫田さんを信頼してこの役をあてたのがわかりみしかない演技。お見事でした。


冒頭と終わりに入る「1999年秋 テキサス州オデッサ・・」という声が横田さんに似てるなぁと思っていたら、
ラストに「ナレーション:横田栄司」とクレジット出て、思わず拍手しそうになりました。



三谷幸喜 やはりおそるべし! のごくらく度 (total 2244 vs 2248 )


posted by スキップ at 22:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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