2024年03月19日

僕たちの心は月だけが知っている 「ベートーヴェン」


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昨年1月に韓国で世界初演された、ミヒャエル・クンツェとシルヴェスター・リーヴァイによる新作ミュージカルの日本初演。
クラッシック音楽の世界で最も偉大な音楽家の一人であり「楽聖」とも称されるルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが、聴力を失いながらも音楽への希求を続けた苦難の人生を、〝不滅の恋人〟と言われたアントニー・ブレンターノとの愛とともに描いた作品です。


ミュージカル 「ベートーヴェン」
脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
演出:ギル・メーメルト
翻訳:増渕裕子   訳詞:竜 真知子
音楽監督:甲斐正人
セット・映像デザインディレクター:オ・ピリョン
振付:ムン・ソンウ   照明:日下靖順   衣裳:生澤美子
出演:井上芳雄  花總まり  小野田龍之介  木下晴香
渡辺大輔  実咲凛音  吉野圭吾  佐藤隆紀 ほか

2024年1月20日(土) 5:00pm 兵庫県立芸術文化センター
KOBELCO大ホール 1階12列上手
(上演時間: 2時間50分/休憩 25分)



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物語はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(井上芳雄)の葬儀から始まり、後半生を遡る形で展開します。
19世紀オーストリア・ウィーン。
当代最高のピアニストであり作曲家として名声を博していたベートーヴェン(井上芳雄)ですが、幼少時に父から受けた虐待や弟カスパール(小野田龍之介)との確執、さらに聴覚障害・・・と苦難の中で愛や人を信じられないまま孤独に生きていました。ある日、ベートーヴェンは自分に無礼を働いた貴族たちに謝罪させようとパトロンであるキンスキー侯爵(吉野圭吾)を訪ねた際、窮地を救ってくれたアントニー・ブレンターノ(花總まり)に出会います。愛を信じないベートーヴェンと、夫があり裕福な家庭でありながら愛を感じたことがないトニは互いに心を寄せ合うようになります。しかし、彼らの道ならぬ恋は世間に暴かれることとなり、トニはわが子を守るため夫フランツ(佐藤隆紀)の要求を聞き入れ、ベートーヴェンとの関係を断ちます。愛するトニを失い、聴力も完全に失くしたベートーヴェンは・・・。


まず、最も印象的だったのが音楽。
リーヴァイさんのオリジナル曲はもちろん、場面場面を彩るベートーヴェンの楽曲のアレンジとクンツェさんの歌詞がすばらしい。
「悲愴」 「月光」 「英雄」 「運命」 「田園」 「皇帝」 「エリーゼのために」 そして「第九」。
クラシックにそれほど明るい方ではない私でも耳慣れた旋律がたくさん流れて、やはりベートーヴェンは偉大だなと改めて感じるとともに、これら名曲の数々が、ロック調やポップス調のアレンジで歌になりダンスになり、この曲をここで?の意外性もあって新鮮。楽曲だけでも本当に聴きごたえたっぷり。
もちろんそれらを歌いこなす実力派揃いのキャストの歌唱、コーラスにも拍手👏

「第九」の第三楽章が大好きなのですが、いくつかの場面に出てくるたびに編曲も歌詞も違っていて新鮮。
あの美しくも切ないメロディで、トニとの別れを前に、♪僕たちの心は月だけが知っている と歌うルートヴィヒに涙ぼとぼとこぼれました

舞台三方を壁で囲うというシンプルながら特徴的な装置。
場面によって移動する壁に映し出される映像も凝っていました。


物語は史実に基づいているものの、ベートーヴェンの、天才でありながら ”生み出すもの” としての苦悩や聴力を失ったことの絶望より、トニとの愛に重き置いた展開。
ベートーヴェンは狂気と紙一重のところで作曲に没頭するイメージを持っていますので、そのあたりは少し肩透かしな印象もあります。
周りの人物造形についても、トニの夫フランツ(佐藤隆紀)のあまりにもステレオタイプの暴君ぶりや、ベートーヴェンがヨハンナ(実咲凜音)を毛嫌いして弟カスパール(小野田龍之介)の結婚にひたすら反対するあたりなど、もう少し掘り下げて描いてほしいという思いも。
ベートーヴェンの音楽を体現する6人のゴーストは「エリザベート」のトートダンサーのようにも見えたり。


一幕とニ幕ラストの井上芳雄さんルートヴィヒの鬼気迫る渾身の熱唱に震えました。
同じクンツェ&リーヴァイ作品である「モーツァルト!」の初代主演の一人でもありますが、自由奔放な悪ガキで〝陽〟のヴォルフガングに対して、苦悩を抱え屈折した〝陰〟のイメージのルードヴィヒへとガラリ変幻自在。
内部に秘めたパワーを一気に噴出するような圧倒的な歌唱に聴き惚れるばかりです。
あと、いつも思いますが、立ち姿や一つひとつの所作が指先まで本当に綺麗。

実在のトニは、ベートーヴェンの「不滅の恋人」の最有力候補とされているそうですが、まさに一筋の光のような存在で、演じる花總まりさんの気品と存在感がピタリとハマっていました。
子どもたちのことを誰よりも大切に思う母でありながら、”初めての恋”に一喜一憂する少女のような面も違和感ないのは花總さんならではです。
歌唱もまたうまくなったのでは?と感じました。トニが歌う「千のナイフ」がこの作品中唯一のオリジナル曲ということですが、リーヴァイメロディと花總さんの声の親和性の高さよ。

これから再演を重ねる作品になると思いますが、“井上芳雄&花總まりの初演を観た” ことを誇りにしたいと思います。


この日は佐藤隆紀さんと子役の西田理人くん、若杉葉奈ちゃんが千穐楽でカーテンコールでは井上芳雄さん、花總まりさんをまじえて面白トークを展開。

佐藤さんは花總さんとご夫婦役をやるのは三度目だそうで、「『フランツ』は(「エリザベート」の時と同じで)ややこしいから変えてって言ったんだけど史実だから変えられないって・・・」と花總さん。
佐藤さん: 僕、シュガーと呼ばれていていつもは和三盆のように穏やかで甘い人間ですが、今回は黒糖目指しました。
井上さん: 黒糖も結構甘いけどね。
終わるの寂しくて泣いちゃった葉奈ちゃんには、「僕たちもみんな明日(大千穐楽)終わるからね。1日だけのガマンだよ」と。
ほんと、いつもながら全方位にソツなくやさしく対応する芳雄氏でした。



とてもよかったのだけど感想書くの遅すぎて記憶も薄れがち のごくらく地獄度 (total 2253 vs 2258 )



posted by スキップ at 15:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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