2023年12月12日

マクベスの呪縛 「レイディマクベス」


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2021年にPARCO劇場オープニングシリーズとして上演が発表されていた作品(その時は「レディ・マクベス」というタイトルでした)。
最初にタイトルを聞いた時、「マクベス」をマクベス夫人の視点から描いた作品なのかなと思っていましたが、そうではなく、シェイクスピアが「マクベス」の中で描いたマクベス夫人を大胆に解釈した完全新作ということです。
マクベス役にアダム・クーパーがキャスティングされたのも話題になりました。


「レイディマクベス」
作:ジュード・クリスチャン
演出:ウィル・タケット
音楽:岩代太郎
翻訳:土器屋利行   美術・衣裳:スートラ・ギルモア  照明:佐藤 啓   
出演:天海祐希  アダム・クーパー  鈴木保奈美  
要 潤  吉川 愛  宮下今日子  栗原英雄

2023年11月23日(木) 5:00pm 京都劇場 1階C列センター
(上演時間: 2時間20分/休憩 20分)



物語の舞台は戦争が続いている架空の国。
かつては兵士として国を守るために戦場で闘っていたレイディマクベス(天海祐希)は戦地で出会ったマクベス(アダム・クーパー)との間に娘(吉川愛)を授かりますが、出産が原因で戦場に赴くことができなくなり家庭を守ることに専念しつつもそんな現状に満足できないまま人生を歩んでいます。夫マクベスは戦場で次々と勝利を収め、国を導く存在となっていますが、終わりなく続く戦いに心身ともに疲弊しています。
子どもがいないダンカン王(栗原英雄)が後継を指名せず、皆が疑心暗鬼となる中、「夫と共に国を治める」という夢を持つレイディマクベスは王を殺害しようと考えます・・・。


舞台上にはいくつかのベンチが置かれただけのシンプルなセット。
円柱型のフレームが大小セットで吊るされていて(上段のものはシルクハットみたいな形)、それが時折降りてくると鳥籠のようにも感じられたり。床は回り舞台になっていて、時々ゆっくり動いたり。

完全新作とはいうものの、登場人物の名前や人間関係、設定などはほぼ「マクベス」を踏襲していて(「娘」だけが例外かな)、3人の魔女が出てきたり、バーナムとは明言しないながらも森や木が重要なモチーフになっていたり、そこここに「マクベス」の香り。
ただ、レイディもマクベスも、バンクォーもマクダフもレノックスもダンカン王も、互いの名前を呼ぶことは一切なかったのが何だか不思議な感じでした。

「核兵器」とか「(戦争が終わらないのは)私たちが反撃を続けているから」といった言葉は、今世界で起こっていること-ウクライナはもとより、イスラエル・パレスチナの現状ともシンクロして苦しくもやり切れない気持ちにもなります。
しかしながら、そういった面を強く打ち出した脚本や演出という印象は受けなくて、この物語で作者が描きたかったテーマが見え難かったかなというのが正直なところ。

と同時にシェイクスピアの偉大さを改めて知る思いでした。
シェイクスピアの、「マクベス」の呪縛とでも言えるでしょうか。
「天海さんの長台詞圧巻!」という感想をよく見かけましたが、もちろんそれは素晴らしいものの、モノローグやダイアログの応酬ということならこれまでシェイクスピア劇で散々観てきたことでもあり。


ダンカン王殺害後のマクベス夫妻の愛の場面はとても素敵でした。
コンテンポラリーダンスっぽくて、アダム・クーパーさんの逞しい腕と胸板に天海祐希さんのほっそりした長い腕が映えて、切なくて美しいシーンとなっていました。

アダム・クーパーさん演じるマクベスは、果てしなく続く戦いに疲弊してPTSDの傾向もある様子で口数が少ないという設定で、ひと言ふた言しか言葉を発しないのですが、それがいかにもカタコトの日本語なのに対して、一場面だけ長台詞を英語で話すシーンがあって、そこだけがとても感情がこもった台詞になっていたのがとても印象的でした。
マクベス話した内容を娘の吉川愛さんが通訳のように後で日本語で繰り返すのですが、それを聞くまでもなく、どんなことを言っているのか感じ取れましたし、言葉が全部聞き取れなくても心にダイレクトに響くことがとても新鮮な体験でした。


レイディが手をくだす前に病で死ぬダンカン王。
王が最期に口にした「後継をマクベスにという話は白紙だ」という言葉をただ一人聞いたレイディはそれを自分だけの胸にしまい込み、ついに王となったマクベスですが、戦いに疲れ果て、戦闘の命令を出すこともできず過呼吸の発作を起こしてしまい、見かねたレイディは彼を撃って自分が王となります。が、娘はそれに耐えきれず、父を殺した母を撃ち殺すのでした。
そして、何度も拒みながらも自らの頭上に置かれた王冠を受け入れる娘。

ラスト。
それまで舞台の上方にあったシルクハット🎩みたいな形のフレームの装置が降りてくるのは、娘の王冠のようでもあり、彼女を王座に縛りつける牢獄のようにも見えました。


ほぼ出ずっぱり台詞語りっぱなしの天海祐希さん。
美しさもさることながら客席の耳目を集めてやまない全身からあふれ出るオーラと存在感。
きちんと台詞が届く口跡のよさもさすがですが、少しワントーンというか緩急に乏しく聞こえたのは、そういう演出だったのかな。
スラリとした長身に映える細身のシックな衣裳もよくお似合いでした。

カーテンコールのたびに手をぎゅっと繋いで出てくる天海さんとアダム
かわいかったです~




観終わった後、”普通の”の「マクベス」が無性に観たくなりました の地獄度 (total 2434 vs 2433 )


posted by スキップ at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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