2023年11月25日
死にたくなかったら道をあけやがれっ! 劇団☆新感線 「天號星」
一幕ラスト。
早乙女太一(銀次・中身は半兵衛)と早乙女友貴(朝吉)-二人の刀がガシッとぶつかり合ったまさにその刹那、逆光のシルエットとなって浮かび上がる二人の後方にバァーンと現れる「天號星」のタイトルバック。
震えるほどカッコよくて「え!何今の?!もう1回見たい!」と客電ついても興奮覚めやらず。タイトルバックが出るの、新感線史上稀にみる遅さでしたが、そのカッコよさも突き抜けていました。
劇団☆新感線43周年興行・秋公演
いのうえ歌舞伎「天號星」
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
美術:池田ともゆき 照明:原田保 衣裳:竹田団吾
音楽:岡崎司 作詞:森雪之丞 振付:川崎悦子
殺陣指導:田尻茂一 川原正嗣 アクション監督:川原正嗣
出演:古田新太 早乙女太一 早乙女友貴
久保史緒里 高田聖子 粟根まこと 山本千尋 池田成志
右近健一 河野まさと 逆木圭一郎 村木よし子 インディ高橋
山本カナコ 礒野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ 保坂エマ
村木仁 川原正嗣 武田浩二 ほか
2023年11月8日(水) 12:30pm COOL JAPAN PARK OSAKA
WWホール K列センター/
11月20日(月) 12:30pm D列下手
(上演時間: 3時間/休憩 25分)
物語の舞台は元禄時代の江戸の街。
口入屋・藤壺屋の主人 半兵衛(古田新太)の裏の顔は、悪党を始末する「引導屋」の元締め・・・ですが、実はコワモテを買われて婿に入った気弱で人の好い元大工の棟梁で、真の元締めは女房のお伊勢(村木よし子)でした。ある日藤壺屋の娘いぶき(山本千尋)が引導屋の仕事中、金と「人を斬ることそのものが好き」なはぐれ殺し屋・宵闇銀次(早乙女太一)が現れ仲間二人は殺されてしまいます。銀次への仇討ちを誓ったいぶきでしたが、偶然お堂の中で一緒に雷に打たれた半兵衛と銀次は中身が入れ替わってしまい・・・。
半兵衛と銀次を中心に、半兵衛の元妻で渡り占いの弁天(高田聖子)、その娘で半兵衛が自分の娘と思っている神降ろしの巫女みさき(久保史緒里)、長屋一帯の利権を目論む材木奉行の明神甲斐守忠則(粟根まこと)と明神に取り入る引導屋と同業者の白浜屋真砂郎(池田成志)、そしてかつて斬り合った決着をつけるべく銀次をつけ狙う人斬り朝吉(早乙女友貴)などが入り乱れて物語は繰り広げられます。
入れ替わりモノということだけ知っていて、他は配役含めて全く白紙で臨んだのですがとてもおもしろかったです。
キレッキレの殺陣たっぷり、悪代官が暗躍するお約束の時代劇風味に、引導屋や長屋の人たちの人情世話物感、親子の情愛も、因縁の対決も、とモリモリの内容ながらすっきり整理されてダレることなく、そして切なさもあって(←ここ大事!)。
半兵衛と銀次が入れ替わるのは、雷と天號の星と巫女(みさき)の不思議な力と身代り札と・・という様々な要素がそれこそ”奇跡的に”一時に重なった結果ですが、その入れ替わった時、そこに居たのが弁天と弟子のこくり(中谷さとみ)というのがまずよく出来ていて、天號の星のチカラをよく知っている弁天だからこそこの事態をすぐに飲み込めるし、半兵衛(外見は銀次)にも説明することができたのだと思います。
最初の登場から、出て来ればキレッキレな刀さばきで血も涙もなく人を斬るサイコパスな殺し屋・銀次こと早乙女太一くんを、ここで中身を半兵衛にしてヨワヨワにしておいて、困惑の中で葛藤し、愛する者たちを守るために自分が強くならねばと心身ともに強くなっていく姿を見せる(中身は実はオッサンであっても)胸熱なドラマに仕立てられていて、その過程で今まで観たことがないような早乙女太一くんに出会えるという、中島かずきさんの筆致が冴えわたっていました。
私はどちらかといえば、冒頭のサイコパス太一くんが好みなのですが、中身が入れ替わってからの半兵衛の”写し”っぷりすごかったです。
少し猫背でちょこちょことした歩き方は、古田新太本人ではく”半兵衛の古田新太”でしたし、「どうなってるの~?」とうろたえる話し方や声はもちろん、所作も、そして殺陣・・・宝塚歌劇星組「1789」の礼真琴さんロナンとフェルゼン伯爵との場面でも感じたのですが、本当に身体能力高くて殺陣が上手い人は、下手にやることもまたとても上手い(言い方ややこしい ^▽^;)のだと改めて感じ入りました。
そして、最終的に強くなった半兵衛が見せる殺陣は、姿カタチは同じでも、最初の銀次のそれとは違う強さだということがありありと見て取れて、「太一くんすごい!!」」と泣きそうになりました。
一方の古田新太さんも、奥様の言うことにいちいち「はい!」と大きな声で返事するよいおじさんから、中身が銀次になったことで、悪役フェチの不肖スキップが大好きな冷酷無比のふるちんに変身してくれて、ドスの効いたええ声も聴かせてくれて、動きは多少鈍ったものの相変わらう重量感のある殺陣も見せてくれて、客席のワタクシ、大喝采でした。
さらには朝吉。
昔の斬り合いで自分の顔に傷を負わせた銀次をずっとつけ狙っていて、中身が銀次の半兵衛は体がうまく動かず殺陣が今イチ、ならば今の銀次(中身は半兵衛だけど)を自分と斬り合えるようになるまで鍛える、という発想もなかなかですが、二幕で一瞬二人がまた入れ替わって元に戻る場面、朝吉が「おう、元に戻ったのか」と喜びながらも「お前なんか感じ変わったな」と言ったのが印象的でした。
半兵衛になった銀次は自分のチカラに加えて権力欲や金銭欲を身にまとい、もはや純粋に”人を斬るのが好き”なだけの殺し屋ではなくなってしまったこと、朝吉にはわかったのね。
大詰めでまず半兵衛 vs 銀次で半兵衛(外見は銀次)が勝ち、最後に半兵衛 vs 朝吉となって、ここで初めて早乙女兄弟本気の殺陣対決を見せるの、ほんと中島かずきさんもいのうえさんも心得ていらっしゃるという他ありません(まだ弱っちい半兵衛が朝吉の刃から逃げ回る対決もとても見応えありましたが)。
めちゃめちゃスピーディで動体視力が追いつきませんが、こうして二人きりの直接対決を観ると二人の殺陣の違いもよくわかって、永遠に観る続けていたいくらいでした。
たくさんの人が死に、愛する者たちを守るためにその罪のすべてを”宵闇銀次”として一身に背負って、捕り手たちの中に身を投じていく半兵衛。
11月20日に観た時、客席通路を駆け出して行く半兵衛が立ち止まる真横の席だったのですが、頭からバケツで水をかぶったように顔から全身から滴り落ちる汗が、振り返って舞台の弁天やみさきやいぶきを見る目にあふれる涙のようにも見えて、それからキッと踵を返して覚悟を決めてまっすぐ前を見据えて走り出す姿に涙ナミダ。
捕り手に追われて舞台センターに戻って来た半兵衛が、名乗りをあげて啖呵切って最後のキメ台詞「死にたくなかったら道をあけやがれっ!」とそのポーズのキマリっぷりに大拍手👏👏
このラスト、半兵衛が捕まることなく死ぬことなく、歌舞伎の「ますこんにちはこれぎり~」的な終わり方で、「もしかしたら生き延びるのかも?」とも思えたり「いやそれでもずっと銀次として追われる人生か」と切なくもなったり。いずれにしても観るたびに泣いてしまうのですが。
これも新感線には珍しい余韻を残す終わり方でした。
客席通路といえば、11月8日に観た時は横も通路、前も通路で、役者さんたち前や横をバンバン走って行くし、太一くんの着物がふわりと私の膝に触れて駆け抜けて行く(いい匂いがした)という楽しい席だったのですが、早乙女兄弟だけ足音しない?不思議だなーと思っていたら、同じことつぶやいていらっしゃる方を何人かお見かけしたのでやっぱりそうだったのかな。ご兄弟はきっと魔法の靴を履いているのね←
WWホールお約束の大パネル 撮りますよね~。
大千穐楽カーテンコール&その他のキャスト(と早乙女太一)編につつく →
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