
私はナマの舞台を観るのが大好きですが、その根底にあるのは「一期一会」。
つまり、「”次”はない」といつも思っていて、「観たいものはできる限りその時に観る」がモットーです。
不定期に開催される「俳優祭」はその最たるもので、「次」がいつあるかもわからないし、前回観た役者さんが次の回にはもういない、という経験もしています。自分自身のことを顧みても、仕事や健康や家族のことなど、様々な事情でいつ行けなくなるとも限りませんので、行ける時には万難を排して行くと決めています。
7年ぶり(前回が2017年3月なので厳密には6年半ぶり)となる「俳優祭」。
今回が39回目となる俳優祭ですが、私は34回(2007年)から参加していて今回で6回目。観始めて16年です。
初代国立劇場さよなら記念
第39回「俳優祭」 昼の部
開幕ご挨拶 中村梅玉
一、菅原伝授手習鑑 加茂堤の場 吉田社頭車引の場
二、お楽しみ模擬店
三、映像でふりかえる初代国立劇場の思い出
四、戯場八景名残隼
ご挨拶 片岡仁左衛門
2023年9月28日(木火) 12:00pm 国立劇場 大劇場 1階6列上手
(上演時間:4時間)
伝統歌舞伎保存会研修発表演目
「菅原伝授手習鑑」
企画・構成:尾上松緑
(上演時間:1時間)
「加茂堤の場」
出演:市川團子 片岡千之助 中村玉太郎
中村吉之丞 中村莟玉 ほか
一幕目は若手 Z世代(by 梅玉さん)による古典の上演。
團子くんの舎人桜丸、千之助くんの女房八重、玉太郎くんの齊世親王、莟玉くんの苅屋姫という、本興行ではまだなかなかお目にかかれないフレッシュな配役ですが、多分役柄の実年齢に近いキャスティングなのではないかしら。
「加茂堤の場」自体を観るのが久しぶりでしたのでおもしろく拝見しました。
團子くんは先日南座で「新・水滸伝」を観た時は、発声が少し苦しそうと感じたのですが、この日は全く問題ないご様子でした。
きっちり楷書の演技で、桜丸の懸命さが伝わってきて、懸命な桜丸に、これが悲劇の発端だなぁと切なくなりました。
千之助くんも声はよく出てがんばっていました。が、千之助くんはどんな役をやっても同じに見えてしまうところが課題でしょうか。八重が「俊寛」の千鳥に見えたりも。
齊世親王、苅屋姫はあまり為所のない役ですが、莟玉くんのまんまるお顔の苅屋姫、かわいかったです。
「吉田社頭車引の場」
出演:中村鷹之資 市川染五郎 尾上左近
市川福太郎 市川福之助 尾上松緑 ほか
先日歌舞伎座の秀山祭で歌昇さんのとても力が入った梅王丸を観たばかりですが、鷹之資くんも力漲る梅王丸でした。元より太くよく通るよいお声ですが、劇場を揺るがすばかりに響いていました。もちろん一つひとつの型や見得もピタリと決まって、このまますぐ歌舞伎座の舞台に立てそうです。
桜丸の尾上左近くんはまず、「え?左近くんってもうこんなに大きくなったの?!」とオドロキ。そりゃおばちゃん歳とるはずですわ~💦
あまり左近くんの舞台を拝見する機会がなく、お芝居も口跡もしっかりしていることにおばちゃん二度びっくり。
染五郎くんは桜丸とばかり思っていましたので松王の方なのかーと意外な気がしましたが、しっかり勤めていたと思います(謎の上から目線)。
線の細さとか声とか、まだまだ課題はたくさんあるのでしょうが、見目麗しく、全身を使って大きさを表現する松王。よかったです。
最後に松王、梅王、桜丸の三人で決まる姿の絵になること。
福太郎くんの杉王丸、福之助くんの金棒引藤内 ともにしっかり。
そしてラスボス感たっぷりに登場する松緑さん時平、さすがにこの座組では別格感漂います。

映像で振り返る「初代国立劇場の思い出」
企画・構成:尾上菊之助
(上映時間:25分)
国立劇場で上演された歌舞伎公演を、昭和41年11月のこけら落とし公演から周年ごとの主な公演を映像尾で振り返るというもの。
ナレーションは菊之助さん。
古い年代の公演はもちろん、国立劇場で歌舞伎公演を観る機会がそれほど多くなかった私にとって、初めて観るものも多くく、とてもおもしろかったです・
第1回公演「菅原伝授手習鑑」の菅公役 片岡孝夫(現 仁左衛門)さんが映し出されると客席どよめきました。
他にも、「仮名手本忠臣蔵」で尾上辰之助さん斧九郎さんの「五十両~」(色っぽかった~)や、三代目猿之助(猿翁)さん、吉右衛門さんのなど、名優が登場するごとにどよめく客席。
もしテレビで放映されたら自宅ライブラリに永久保存したいくらい貴重映像で、本当に楽しませていただきました。
「戯場八景名残隼」(ゆめのくにへようこそありがとうこくりつ)
企画・構成:松本幸四郎
脚本:「戯場八景名残隼」製作委員会 補綴:鈴木英一
振付:尾上菊之丞
美術:尾上右近 中村種之助 補助:中村壱太郎
出演:市川笑三郎 市川笑也 市川猿弥 市川青虎 市川團十郎白猿 市川中車
市川門之助 澤村宗之助 中村歌之助 中村壱太郎 中村勘九郎 中村鴈治郎
中村錦之助 中村児太郎 中村芝翫 中村七之助 中村獅童 中村扇雀
中村鶴松 中村虎之介 中村橋之助 中村福之助 中村萬太郎 中村米吉
坂東新悟 坂東巳之助 坂東彌十郎 松本幸四郎 水谷八重子 (五十音順) ほか
(上演時間:1時間10分)
歌舞伎の「三世相錦繍文章」や落語の「地獄八景亡者の戯れ」をベースにした地獄めぐりモチーフの物語。
軽業 曲屁高麗吉(幸四郎)、山伏 法螺尾福童(獅童)、歯技師 辺田奈四海(巳之助)、医者 山井直仙(新悟)の4人があの世に迷い込み、冥途で三途の川の婆(勘九郎)やメイドたちに会い、閻魔大王夫妻(團十郎白猿・児太郎)から極楽へ行けるか地獄行きかの裁定を受けることになり・・・。
楽しかったです。
同じく「地獄八景亡者の戯れ」をベースにした宝塚歌劇星組の「Another World」(2018年)味もあって、ちょっぴり懐かしく楽しく拝見。
全編笑いの部分が多くて、声出してよく笑いましたが、その中にしっかり歌舞伎のいろいろな要素、演目も織り込まれていて、幸四郎さんの歌舞伎愛を感じる作品。
若手を中心に出演者全員に活躍の場があるのもいかにも幸四郎さんで胸熱でした。
冒頭、4人があれこれ話していると花道に北条時政(彌十郎)と滝の白糸(水谷八重子)登場。
彌十郎さんの花道の出が同じ時政でも「盛綱陣屋」の時政の演奏で、「俺こんなんじゃないんだよなぁ。もっとこう、オンベレブンビンバ~って感じて」とおっしゃっていました。さらには幸四郎さんに向かって、「小四郎!じゃなかった幸四郎!」ですって。
三途の川の婆の場面:
勘九郎さんの婆がまずおかしい。
姫路城平成中村座の「天守物語」で演じた舌長姥を思わせる風貌。そしてやり手ババアの雰囲気。
高麗吉たちが舟で三途の川を渡って行った後は花道で「おーい!おーい!」と波にのまれながら手を振る「俊寛」見せてくれました。
いつか勘九郎さんの「俊寛」、本興行で観られますように。
ここで働くメイドたちが中村米吉くん筆頭に、澤村宗之助さん、中村鶴松くん、上村吉太朗くん、河合雪之丞さんというキレイどころのアイドルふう。
米吉っくんのメイド ヨミなんて完璧にあざとかわいくて押しも押されもしないセンター。
メイドたちが踊る場面で、見とれいた客席に「手拍子しなさいよ」と米吉ヨミから一括入り、即座に素直に手拍子始める客席の私たち(笑)。
閻魔大王の前では4人の前に裁定される人々が次々登場。
トップバッターは萬太郎くんの弁天小僧で、「弁天小僧菊之助たぁ俺がことだ~」という名乗りを何回もやらされて、ご本人ももう勘弁してくれ感が漂ったところで客席から「がんばれ!」と声が飛びました。
橋之助くんの碇知盛は大きな碇を持って登場。
そして、花道から「新・水滸伝」チームです。
本公演とはキャストをシャッフルしていて、大まかに立役⇔女形入れ替えだったのですが、先頭に立つ林冲は猿弥さん。
丸顔に白塗りメイクで最初誰だかわかりませんでした(^^)
「お前林冲じゃない!」と言われて「京都でおいしいもの食べ過ぎて太ったんだよ。やせたら『大富豪同心』もやれるよ」と言い返す強気の林冲。
2か月間同じ座組でやってきたチームワークは抜群で「お年寄りもいらっしゃるみたいだし」と閻魔大王の奥様(児太郎)さんがおっしゃった寿猿さん(お夜叉)がカンペ見ながら台詞を言った後、周りを囲んで踊りながら中車さん(姫虎)がサラッと回収していらっしゃいました。
梁山泊の歌は猿弥さん林冲のソロ。よいお声でめちゃめちゃ上手かったです。
このパート、本当に盛り上がって客席からもヒューヒューと歓声が。
直前まで京都で公演していた(ので多分俳優祭のお稽古参加が難しかった)このチームをそのまま登場させる・・・ただし役柄はシャッフルして・・・というところに幸四郎さんの愛を感じます。
そして七之助さんお七。
登場した瞬間から華やかなオーラ半端なかったです。
閻魔大王の妾で、法螺尾福童(獅童)の元カノという設定。
ここで獅童さんが「七子が・・」と言って閻魔様はじめ全員に「今、七子って言った」とツッコまれ、出からやり直し。
その後も「七子」と連発してそのたびに「あたしゃお七だよ」と七之助さんさんはじめ周りから総ツッコミ。
最後には「自分で自分が情けない」と泣き言おっしゃっていました(笑)。
ちなみに、夜の部では七之助さんの役名は七子に変更されたのに、ラスト花道で盛大に「お七~」と叫ばれたそうです。
<2023.10.6 追記>
中村屋さんの錦秋公演トークで七之助さんの役名は元々「七子」だったことが判明。
最初に團十郎閻魔様が間違えて「お七」になってしまったのだとか。
ずーと「七子」で覚えていた獅童さん、そりゃ間違いますよね。真面目な分、ちょっとかわいそうでした。
曲屁高麗吉(幸四郎)、辺田奈四海(巳之助)、山井直仙(新悟)と水滸伝チームで一人残された王英(壱太郎)の4人で和ドラムセッション。
これはかなり練習されたのでしょうか。リズムも息もぴったりですばらしかったです。
中村福之助さん・中村虎之介さん・中村歌之助さんの力強い三鬼とか、花四天は中村鴈治郎さん・中村扇雀さん・中村芝翫さん・中村錦之助さんのベテランチームで「まだまだ若い者には負けないぞ」と(動きはゆったりだったしトンボもなかったけれども)。
最後の裁定では閻魔様が間違ったらしく「閻魔様、もう一度閻魔帳をご覧になった方が・・」と幸四郎さんに言われていました。
最初に「台詞もみんなこの閻魔帳に書かれている」と言ってたのに。
ここに限らずいろんな皆さんがフリーダムで、間違えたり勝手なことをするたびいに幸四郎さんと巳之助さんが「え!?」と言う顔したりマジ笑いしているのもおもしろかったです。
最後は現世に戻った曲屁高麗吉(幸四郎)たちが「この世こそ夢の世界」という綺麗な幕切れ。
グダグダなところもありつつ、役者さんが全力でお客様を楽しませようとしてくださっているとともに、皆さま楽しそうで、普段の演目では見られない素の部分も垣間見られて本当に楽しかったです。
終演後は仁左衛門さんからのご挨拶とご発声で、舞台に勢揃いした役者さんたち、客席一緒に手締め。
皆さま笑顔で多幸感あふれていました。
模擬店編につづく →