2023年09月18日

これが完成形 星組 「1789 -バスティーユの恋人たち-」


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              ©宝塚歌劇団    


2012年にパリで初演された大ヒットフレンチロックミュージカル。
2015年 宝塚歌劇月組にて日本初演。2016年には東宝ミュージカル版も上演されました。

今の宝塚で上演するなら星組以上にハマる組はないと思っていたとおり、星組の上演が決定した時は歓喜。
とても楽しみに待っていました。

初日を前に瀬央ゆりあさんの専科への異動発表。
さらには、礼真琴さんがこの公演後の別箱公演には出演せず休養することが発表され、何だか不穏な空気が・・・。

6月2日 台風襲来の中、宝塚大劇場初日が当初の予定より2時間30分遅れて開幕。
が、翌日から25公演中止(全45公演の半分以上)
6月19日ソワレより公演再開。7月2日 宝塚大劇場千穐楽。

7月22日 東京宝塚劇場公演開幕。
が、8月15日 11:00公演の2幕より突然の中止。その日のソワレより休演。
翌日から3日間の休演後、8月19日より公演再開するも、主演の礼真琴さん休演。
代役(ロナン:暁千星 デムーラン:天華えま ダントン:碧海さりお ラマール:鳳真斗愛)にて8公演上演。
8月24日 礼真琴さん復帰。
そして8月28日 大千穐楽。

と、波乱に満ちた公演となりました。
舞台はもちろんとてもすばらしいものでしたが、これから星組の「1789」を思い出すたびに胸がキュッとなりそうです。


宝塚歌劇 星組公演
三井住友VISAカード シアター
スペクタクル・ミュージカル
「1789 -バスティーユの恋人たち-」
Le Spectacle Musical ≪1789 - Les Amants de la Bastille≫
Produced by NTCA PRODUCTIONS, Dove Attia and Albert Cohen

脚本: Dove Attia and François Chouquet
潤色・演出:小池修一郎
音楽監督・編曲:太田 健   編曲:青木朝子
音楽指揮:佐々田愛一郎  西野淳(東京)
振付:御織ゆみ乃  若央りさ  桜木涼介  KAORIalive  鈴懸三由岐
疑闘:栗原直樹   装置監修:大橋泰弘   装置:國包洋子
衣裳:有村 淳   照明:笠原俊幸
出演:礼 真琴  舞空 瞳  瀬央ゆりあ  暁 千星  極美 慎  有沙 瞳
美稀千種  白妙なつ  大輝真琴  輝咲玲央  ひろ香祐  朝水りょう
天華えま  夕渚りょう  天希ほまれ  小桜ほのか  蒼舞咲歩
碧海さりお  天飛華音  瑠璃花夏  詩ちづる  稀惺かずと  大希 颯/
輝月ゆうま ほか

2023年6月2日(金) 3:30pm 宝塚大劇場 1階29列下手/
6月24日(土) 11:00am 2階3列下手/
6月28日(水) 11:00am 2階14列センター/3:30pm 1階13列下手/
7月2日(日) 1:00pm 1階26列下手/
7月29日(土) 11:00am 東京宝塚劇場 1階6列上手/
8月9日(水) 1:30pm 2階6列センター/8月27日(日) 1:30pm 1階10列センター
(上演時間:3時間5分/休憩 35分)



8月27日 東京千穐楽のレポはこちら



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こちらは7月29日に東京宝塚劇場で観た時の座席から撮ったもの。
階段にまっすぐ続く通路横で、蒼舞咲歩さんイヴが真横に立つ、というお席でした。


物語は1788年のフランスの農村ボースから始まります。
貴族将校ペイロール伯爵(輝月ゆうま)率いる官憲に、税金不払いと不法行為の罪を突然言い渡され、土地も没収されて銃殺された農夫の息子ロナン・マズリエ(礼真琴)は、いつか父の仇を討ち、奪われた土地を取り戻すことを誓って妹のソレーヌ(小桜ほのか)を残してパリに向かいます。
パリでも市民たちは重税と飢えに苦しんでおり、革命家のカミーユ・デムーラン(暁千星)、マクシミリアン・ロペスピエール(極美慎)がこの窮状を打破する為に平民ばかりでなく貴族や僧侶からも等しく税金を徴収すべきだと街頭演説で訴えるところに出くわしたロナンは、彼らの思想に触れ、希望を見出して、デムーランの紹介で印刷所で働き、2人や同じ革命家のジョルジュ・ジャック・ダントン(天華えま)らとも親交を深めていきます。
一方ヴェルサイユ宮殿では、温厚ながら凡庸な国王ルイ十六世(ひろ香祐)の政権下、王妃マリー・アントワネット(有沙瞳)をはじめ貴族たちが栄耀栄華を欲しいままにする中、国王の弟シャルル・ド・アルトワ伯爵(瀬央ゆりあ)は王位略奪を狙い、アントワネットのスキャンダルを探っていました。
ある夜アントワネットは、道ならぬ恋の相手 スウェーデンの将校ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン伯爵(天飛華音)との密会のため、王太子ルイ・ジョセフの養育係オランプ・デュ・ピュジ(舞空瞳)の案内でパレ・ロワイヤルを密かに訪れます。ここで野宿をしていたロナンとフェルゼンが争いとなり、アルトワ伯爵配下の秘密警察のラマール(碧海さりお)たちが駆けつける騒ぎとなり、オランプはアントワネットを守るため咄嗟にロナンを暴漢に仕立て上げたため、ロナンは捕えられバスティーユ監獄へ送られてしまいます。ロナンはそこでペイロード伯爵と再会し激しい拷問を受けますが、責任を感じたオランプとその父のデュ・ピュジェ中尉(美稀千種)に助けられ脱獄します。
折から、三部会の開催そして解散を経て革命を求める民衆の叫びはフランス全土へと広がってゆき・・・。



「エリザベート」に代表される小池修一郎先生の潤色・演出のミュージカル作品は、宝塚歌劇団で日本初演→東宝ミュージカルへというパターンが多く見られますが、多くの場合、後で東宝版を観て「やっぱり宝塚の方がよかった」と思うことが多い不肖スキップ。「ロミオとジュリエット」しかり「オーシャンズ11」しかり・・・「エリザベート」だけは例外で宝塚版と東宝版では少し解釈が違う面もあってどちらも好き。

この「1789」は最初に月組の日本初演を観た時からお気に入りの作品でしたが、翌年東宝版を観て「こっちの方が好き」と思った稀有な例です。


宝塚歌劇月組「1789」(2015年5月)
東宝版「1789」①(2016年5月)


月組版はトップ娘役がロナンの相手役ではなくアントワネットにキャスティングされるという異例のパターンで、愛希れいかさんはとてもよかったけれども、その分オランプの影は若干薄め、東宝版を観て「これが正解なのでは」と思ったものです。

貴族社会の不条理への怒りから革命に身を投じるロナン
革命に倒れる側の象徴 アントワネット
その両方に心を寄せることができるオランプ

という関係性がより明確になっていると感じました。


今回の星組版は、ロナンとオランプによりフォーカスしたということで、小池先生は「月組版でも東宝版でもない第3バージョン」とおっしゃっていましたが、ストーリー展開も演出もキャスティングもピタリとハマり、「革命の兄弟」「武器をとれ」といった東宝版にあって宝塚版にはなかった楽曲も入り、ここへ来て大正解が来たという印象。
ひとたび礼真琴さんの歌声で聴くと、「今まで聴いていた楽曲が全部ことちゃんの声で塗り替えらる」という法則が私にはあるのですが、今回は作品そのものが私の中で完全にこの星組の、2023年の「1789」に塗り替えられました。


-バスティーユの恋人たち-というサブタイトル通り、ロナンとオランプの悲恋が物語の中心にはなっているけれど、デムーランのリュシルの物語であり、ダントンとソレーヌの物語であり、ロベスピエールの、印刷工たちの、王宮の人々の、そして名もなき民衆たちの物語。同じ時代を生きた一人ひとりが主役の群像劇。

そんな群像劇の中、デムーランやロベスピエールの「平民だけど高等教育も受けていて裕福」感とロナンの「同じ平民なのに無学で極貧」感がより際立っています。
何となく怒りと勢いで革命派に加わったけれど、ここは本当に自分の居場所なのかというロナンの葛藤や孤独感、デムーランたちへの屈折した思いがとても現実的で、だから、身分や立場、主義主張とは別のところ・・・「不器用な生き方しかできない」という根本の部分で共感したオランプに惹かれる、惹かれ合うというのもとても腑に落ちました。

星組全員と専科の輝月ゆうまさんとでつくりあげた渾身の舞台。
それぞれのソロはもちろん、コーラスも群舞も力強く迫力たっぷり。
この作品を何としても成功させるという星組のパッション。

ムニュ・プレジールから球戯場、パレ・ロワイヤル、そしてバスティーユへとなだれ込む怒涛の各面場面の熱量と迫力。
礼真琴さんが宝塚大劇場千穐楽のご挨拶で「再開してからそれまでの期間を取り戻すかのように暴れまわる仲間たち」とおっしゃっていましたが、本当に公演再開後の個としも集団としても燃え盛るような、エナジーが迸り出るような舞台は凄まじいとしか言いようがありませんでした。


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名曲、好きな場面は数々あれど(ほぼ全部好きと言っていい)、断腸の思いで以下にピックアップ。


☆パレ・ロワイヤル
ダントンの歌でにぎやかなパレ・ロワイヤルが展開する場面。
この物語で唯一といっていいくらい明るい場面で、たくさんの民衆が歌い踊りピエロも登場する楽しい場面。そして目が足りない(^▽^;)
ここでデムーランとリュシルの婚約発表もあります。
ロベスピエールがいないのは、彼は真面目一方の堅物でパレ・ロワイヤルなんかには行かないからなのですって。


☆バスティーユ外
ロナンがオランプ親子から助け出されてバスティーユ監獄を抜け出した後。2人で帰る場面。
ちょっぴり客席降りにもなっています。
「俺のことを心配してくれるのか」「ええ」「なぜ?」の「なぜ」が東京公演からニュアンスが変わったと話題になりました。
もちろんその後の「助けてくれたお礼だ」のキスも。
「なぜ」の後、自分が期待していたような答えが返ってこず(?)喧嘩ごしになるロナンと負けじと受けて立つオランプの言い合いもとても好きでした。ことなこの息の合いっぷり


☆自由と平等
バスティーユから印刷所へ帰ってきたロナンがデムーランたちの「暖炉の前でパンをかじりながら勉強した」という話を聞いて、「そのころ俺たちは飢えていた」とキレる場面。
ここの礼真琴さんロナンが、同じように貧しい暮らしをしていた印刷工たちと踊るキレッキレの群舞。そして「自由と平等」のヴォーカル。

♪人は同じと信じたいけれど現実は違っている
 自由と平等 誰のためなのだ 俺たちをわかってほしい
 同じ未来を追いかけたい

ロナンたちの葛藤がダンスでも歌でもとてもよく表現されていて大好きな場面です。
デムーランの「僕たちを君を兄弟のように迎えてやったつもりだ」というデムーランの無意識の上から目線も含めて、うまい演出だなと思いました。


☆声なき言葉
一幕ラスト 
会議場が閉鎖され、開けさせようとヴェルサイユへ向かうデムーランたち。
「フランスの歴史が大きく揺れ動くんだ」とイヴ。
「ああ。だが動かすのは議員だけじゃない。俺たちだ。見届けてやろう」とラナン。

♪声なき言葉を重ねあえれば響きになる音が聞こえてくる
 夢みることさえ許されず生きてきた日々に別れを告げ
 勇気を出し立ち上がろう 俺たちの声を届けよう
 明日の歴史を変えるのだ
と歌うロナンをはじめ全員が登場する壮大ナンバーで「これぞ1789」という場面です。


☆誰の為に踊らされているのか?
2幕冒頭
客席通路から革命家や市民が登場して舞台に上がり、球戯場でロベスピエール中心に歌い踊る場面。
ここの群舞、むずかしそうなポーズも多々ありますが、リズムに合わせて全体がザッザッザとロベピ中心に集まって三角形になっていくところ(伝われ)ほんとカッコいい振付(KAORIalive)。
からのボディパーカッションの迫力。


☆武器をとれ
国王が軍隊を出動させたことに対して、デムーランが「我々も武器を手に立ち上がろう!」と民衆に訴える場面。
初演の月組版にはなくて、東宝版で渡辺大輔さんデムーランが歌うこの曲が大好きでしたので、今回この曲が入ってうれしかったです。
また、歌う暁千星さんがすばらしくて、緑を掲げてセンターに立ち、民衆を鼓舞するデムーランのカリスマ性がよく表れていて、毎回この場面観るのが楽しみでした。


☆革命が始まる
武器を持った民衆が攻めてきて右往左往する貴族側の場面。
ここで有沙瞳さんアントワネットが歌う曲が、一幕のギャンブルに興じる場面の「全てを賭けて」のリプライズになっていて、歌詞はもちろん違うのですが、「失うものなど何もないわ」と浮かれていたころと、王妃としての覚悟を決めたこの場面とでは歌い方も声までもまるで違っていてすごかったです。
次の「神様の裁き」で泣いたという声をよく聞きましたが、私はこのリプライズの
♪フランスの危機ならば 何があろうと逃げ出しはしない
 国王につき従い 王妃のつとめ全うする
で毎回ナミダ。


☆サ・イラ・モナムール
「1789」といえばこの曲はハズせません。
これを”礼真琴の声”で聴ける幸せ。
とはいえ、あまりに名曲揃いのため、初日にこの場面になった時「あっ!まだこの曲もあった!!」と思ったものでした。

ロナン・オランプ  デムーラン・リュシル  ダントン・ソレーヌのカップルに加えて、ここで初めて登場するロベスピエールの恋人は皆さまの予想どおり(もちろん私も)水乃ゆりちゃんでした。


☆悲しみの報い
ラストの曲。
ロナンが銃弾に倒れ、悲しみの中、一人ずつ人権宣言を読み上げた後、全身白のロナンが登場して歌い、やがて全員の合唱となって昇華する曲。

♪歴史の波間に浮かんで消えてゆく 
 一つひとつの命の叫ぶ声が 
 響き合い重なって明日の歴史つくる
 歌いつづけよう永遠に

 人はいつの日か辿り着くだろう
 愛と平和に満ちた輝く世界 
 いつの日か


悲しみと涙の中ではありますが、明日の世界に希望を持つことができるエンディング。
この世界はまだ、”愛と平和に満ちた世界”に辿り着いていない現実は切ないけれど。



番外編:
☆バスティーユ監獄の拷問でペイロールが床に倒れたロナンを蹴る場面
劇場で観た時もオドロキましたが、Blu-rayのプロモーション映像でのこの場面、何度リプレイしても(したんかい!)本当に蹴っているようにしか見えません。蹴る方の輝月ゆうまさんがとても上手いのはもちろん、礼さんのあの蹴られ方・・・蹴られた瞬間反動で頭がぐわんと揺れる感じ、リアルすぎて震えます。



長文になってしまいました💦
キャスト&フィナーレ編につづく。



posted by スキップ at 19:24| Comment(0) | TrackBack(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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