2023年05月14日

平成中村座姫路城公演 第一部


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「平成中村座が来年姫路城に来るらしい」
「『天守物語』やるらしいよ」

と教えていただいたのは去年のずい分早い段階だったように思います。
「えーっ!それ絶対七くん富姫様だよねっ!パッカ~ンと後ろが開いて白鷺城が見えるやつだよね!行く!絶対観るっ!!」とテンション爆上がりたものです。

その「天守物語」は公演の終盤に観に行く予定で、まずは第一部。
今回桜席が復活していて、「桜席!絶対座りたい!」とここでもテンション上がりまして、web松竹発売日に気合入れて張り切ってチケット取りました。


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姫路城ど~ん!
白すぎてまぶしい



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天守閣に見守られるように平成中村座



姫路城世界遺産登録30周年記念
平成中村座姫路城公演 第一部
2023年5月11日(木) 12:00pm 平成中村座 桜席 左1列


一、播州皿屋敷
原作:浅田一鳥
出演:中村橋之助  中村虎之介  片岡亀蔵 ほか
(上演時間: 50分)


細川巴之介家の家老 浅山鉄山(橋之助)は、天下を狙う山名宗全と通じ、邪魔になる巴之介暗殺を企てています。将軍家に献上する唐絵の皿10枚を届けに来た腰元お菊(虎之介)に横恋慕する鉄山が言い寄りますが、きっぱりとはねつけられます。悪事を知られた上に恋もかなわぬ恨みから、鉄山は皿を1枚盗んでお菊に罪を着せ・・・。


「お菊井戸」のあるご当地姫路城にまつわるということで選ばれたのかと思いますが、「番町皿屋敷」と比べて上演回数は少なく、非常に珍しい演目だそうです。
「なぶり殺しにされるお菊を壱太郎くんで観た」と思い込んでいたのですが、昨年「三月花形歌舞伎」の「番町皿屋敷」だった模様。

「悪事を知られた浅山鉄山が、お菊に無実の罪を着せて惨殺する嗜虐美がみどころ」ということですが、惨殺にもほどがあるでしょうというくらい残忍な殺し方で、しかも悪事を知られたとか横恋慕を拒絶されたといったことはお菊に非がある訳でもなく、鉄山が恨みに思うほど何かひどいことをされた訳でもいのに、あんなに酷い殺し方しなくても・・・。「一気に殺すのでなくじわじわと苦しみを味わわせて・・」とか鬼畜のなせる所業。観ていて気分悪くなることこの上ありません。そりゃお菊ちゃんでなくても化けて出るというものでしょうよ。

「たとえこの身は滅んでも、魂魄この世にとどまり生き返り死に返り恨みをはらそうぞ」みたいなことを言っていましたが、そりゃお菊ちゃんでなくても化けて出るというものでしょうよ。

全く余談ですが、この「魂魄」といえば、宝塚歌劇月組「桜嵐記」(2021年)で一樹千尋さん演じる後醍醐天皇の「玉骨はたとえ南山の苔に埋もるとも、魂魄は常に北闕の天を望まん」が強烈に印象に残っているのですが、歌舞伎や文楽では結構出てくる言葉ですね。「仮名手本忠臣蔵」の勘平も最期に「魂魄この土に止まって」と言っていますし。

最後にお菊ちゃんの「いちま~い」「にま~い」という声が響き、亀蔵さん岩渕忠太が連理引きされて終演と思いきや、暗くなった場内で悲鳴が。
お菊ちゃんの幽霊が客席を駆け回っていて、私たちの席にも毛束のようなものがふわりとやってきました。
平成中村座公演独自の演出だったのでしょうか。


開演前。
役者さんたちが一人、またひとりと板付き始めて、最後に橋之助さん登場。
まずは一番上手の黒御簾の前に行って「よろしくお願いします」とご挨拶をして、他の役者さんたちとご挨拶を交わしながら真ん中の自分の立ち位置にスタンバイし、何やら発声練習をしていらっしゃいました。

終演後。
井戸の上にずっと縄で吊り下げられていたお菊ちゃん虎之介くん。
縄を解いてもらい、本当にキツそうに顔を歪めながら、渡されたお水を血まみれの口で飲みながらのはけ際、桜席の私たちの拍手に仄かに笑みを見せてコクッと小さく首を左に傾けて会釈してくれました。

幕間は目の前で舞台転換見ながらお弁当をいただくという贅沢。
ほんと、桜席楽しいです♪


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二、鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)
作:三島由紀夫
演出・振付:二世藤間勘祖
出演:中村勘九郎  中村七之助  中村橋之助
中村鶴松  片岡亀蔵  中村扇雀 ほか
(上演時間: 1時間15分)



鰯賣の猿源氏(勘九郎)は五條橋で見かけた傾城蛍火(七之助)に一目惚れ。父の海老名なあみだぶつ(扇雀)は恋の病にかかり自慢の売り声にも力が入らない猿源氏を大名に仕立てて、大名の客しかとらない蛍火のいる揚屋へ連れていきます。
恋焦がれる蛍火を目の前に夢見心地で盃を交わす猿源氏でしたが、酔いつぶれて蛍火の膝の上で寝入ってしまい、寝言で「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯かうえい」と自慢の売り声を上げてしまいます。それを聞いた蛍火は猿源氏の正体を問い詰めますが・・・。


「鰯賣」つい最近観たような気がして調べてみたら2014年10月の歌舞伎座(こちら)で、もう9年の前なことに愕然。そして勘三郎さんの三回忌追善興行だったんだなぁとしんみり。


9年前、最初の「鰯かうえ~い」が聞こえてきた時、「鳥屋から勘三郎さんが出てくるんじゃないか」と思ったくらい声も調子も、すべてが勘三郎さんに生き写しだと思った勘九郎さんの猿源氏ですが、今回はそんなふうには感じませんでした。
そこにはやはり9年の時の流れがあり、勘九郎さんの成長があり、そして、私の中で勘三郎さんの記憶が遠くなっているのかもしれないと少し切なくもありました。

愛嬌たっぷりの猿源氏 勘九郎さんはすっかり手の内のお役という感じ。
出の「伊勢の国に 阿漕ヶ浦の猿源氏が 鰯かうえ~い」から客席はどっと沸きます。
馬に前後逆に乗ってしまうくだりや、蛍火にすすめられるままにお酒をパカパカ飲んだり、酔いつぶれて寝てしまったり、寝言を問い詰められて必死に言い逃れしたりの一つひとつが可愛くて愛おしい。
馬上でひょいと飛んで向きを変えたり、女形さん顔負けの海老反りを見せたり、身体能力の高さは相変わらずです。

手の内のお役といえば七之助さんの蛍火もしかり。
美しく華やかなのはもとより、可愛らしさもおきゃんなところもいじらしさもあって、さらには実は丹鶴城のお姫様だったという出自にも納得の品があり、家臣たちに命令するお姫様キャラ炸裂なのも本当によくハマっていました。

二人とも口跡よくて声もよく通るので、桜席から見えない位置にいる時も台詞がよく聞こえました。
めでたしめでたしで一旦幕が閉まってから、蛍火が「白鷺城に行きたい」と言って二人が客席を練り歩くところは、幕が下りているので桜席からは見えないのは残念だったな。

その間に幕内ではパタパタと大道具が片付けられ、後ろがパーッと開いて姫路城が現れ(といっても桜席からは天守閣は見えませんが)、再び幕が上がると正面に見える姫路城に客席から歓声があがりました。
小屋の裏手にいた人たちも大喜びで手を振ったり写真撮ったりしていらっしゃいました。

そして最後に2人だけでは姫路城に声が届かないからと客席みんなで「よろしければ立っていただいて」と言われたので立って、「伊勢の国に 阿漕ヶ浦の猿源氏が 鰯かうえ~い」


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客席にこれが置いてあったのはそういうことだったのね


明るくて多幸感に満ちた舞台。
最後には結構長めに勘九郎さんのご挨拶もあって、幕が下りてはける時には扇雀さんが、亀蔵さんが、橋之助さんが、桜席を見上げて手を振ってくださって、もちろん勘九郎さんも七之助さんも笑顔で手を振ってくださって(お二人は小屋の外の人たちにも手を振っていらっしゃいました)、本当に楽しい気分で打ち出されました。


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座内のあちこちで見守っていらっしゃる勘三郎さんの目
きっと喜んでいただいているはず



平成中村座はやっぱりとびきり楽しい のごくらく度 (total 2395 vs 2393 )


posted by スキップ at 19:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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