
「Le Rouge et le Noir ~赤と黒~」
まだまだ語り切れない思いはありつつ、ジュリアンを取り巻く人々について。
宝塚歌劇 星組公演
「Le Rouge et le Noir ~赤と黒~」
D'après l'œuvre de Stendhal «Le Rouge et le Noir, l'Opéra Rock»
Produced by Sam Smadja - SB Productions
原作:スタンダール
作曲:ウィリアム・ルソー&ソレル
作詞:ザジ&ヴァンサン・バギアン
脚本:アレクサンドル・ボンシュタイン
潤色・演出:谷 貴矢
本編&ジュリアンについてはこちら
ジェロニモ:暁千星
ストーリーテラーとパリの人気歌手という二つの顔を持つジェロニモ。
物語はジェロニモで始まり、ジェロニモで終わるという、キーパーソンです。
礼さんに負けず劣らず、”新しい暁千星”を見せてくれました。
オープニングでは客席をいじって会場を温め、時に物語の外で俯瞰して人々を眺め、またある時は”歌手ジェロニモ”として物語の中で息づく・・・
上着を着替えるだけで自在に物語を行き来していました。物語の中ではジュリアンをからかうように楽しそうに絡んでいますが、彼の一番の理解者であったように思います。
スケール感を増した歌唱はのびやか。歌唱力ぐんぐん上昇してどこまでいくのでしょう。
礼さんとの並びもハーモニーもとてもよくて、今後のことありに期待しかありません。
長い手足を活かしたダイナミックなダンスも見応えたっぷり。
長いといえば、ヴァルノ邸のパーティで「ブルジョアはなんて素晴らしい」を歌う時、テーブルに片足かけるの、けしからんほど足長でしたね。
物語のはじめの方で2階部分で椅子に座ってお水を飲む姿も話題になりました。
冒頭で客席に「あなた私をご存知ですか?」と聞いて「ありちゃん」と言われた回があって、「ありちゃんって、誰ですか💦」とちょっと焦って中の人が顔を出していたの、かわいかったです。
ルイーズ:有沙 瞳
町長の貞淑で信心深い妻。
身分や地位、財産といった”幸せ”のために愛のない結婚をしたということを自覚しつつも今の暮らしにそれなりに満足していたのに、ジュリアンから直球の告白を受けてその愛を受け容れるという女性。
不貞が発覚した途端、保身のためにジュリアンを遠ざけることや後半の「背信」含めて(ヴァルノ夫妻にそそのかされたとはいえ)、ともすれば観る者の反感を買いそうな役どころを絶妙な塩梅で見せてくれた魅力的なルイーズでした。
地毛で薄化粧なのに肌がとても綺麗で美しく、匂い立つような色気があって。
定評のある歌ももちろんすばらしかったです。
マチルド:詩ちづる
パリの有力貴族の令嬢でたくさんのお婿さん候補に辟易している少し気難しいお嬢様。
二幕冒頭はマチルドの「退屈」という歌で始まるのですが、これがまぁとても鮮やかですばらしかったです。
初舞台のころから注目されていて抜擢もされてきた詩さんですが、これほど一つの場面でセンター取るのは初めてながら実に堂々としていて、一気に花開いたという感じです。
赤いミニのドレスにリボンで編み上げた靴、カーリーな髪を高い位置でツインテールにしてしかも後ろの分け目はジグザクという凝った髪型もとてもキュート。
これ以降はずっと黒いドレス(結婚式もヴェールだけ白でドレスは黒のまま)でした。
マチルドは気位が高いけれど聡明な女性。
ジュリアンは、ルイーズとは情=愛で、マチルドとは知=精神で結ばれていたのではないかと思いました。
ムッシュー・ヴァルノ:ひろ香 祐
ヴァルノ夫人:小桜ほのか
レナール氏に妻とジュリアンの不貞を密告する手紙は送るし、ルイーズをそそのかしてジュリアンを告発する手紙にサインさせるし、とジュリアンの行く道をことごとく阻む、いわゆる敵役で本当に憎らしいのですが、どこか愛嬌も感じるのはこの二人ならでは。いい感じに下品さや卑しさもあって。
お芝居うまーい!歌うまーい!と感心することしきり。知ってたけど。
この二人だけが全身赤の派手な装いなのは、愛というより欲望の象徴なのかな。
二人で歌う「宝石こそ勲章」すばらしかったです。
ムッシュー・ド・レナール:紫門ゆりや
ラ・モール侯爵:英真なおき
ルイーズの夫とマチルドのパパ それぞれの女性に関わる重要な役には専科のお二人。
町長で裕福で、ブルジョワでいることに何の疑問も持っていなくて、品よく人もよさそうではあるものの、どことなく食えない感もあるレナール氏。
マチルドを掌中の珠のように育てて貴族に嫁がせることだけを考えてきた激甘のパパ ラ・モール侯爵。
二人とも妻や娘のことを別にすればジュリアンの能力はきちんと評価しています。
さすがの上手さで物語の中に存在していました。
特に紫門さんの繊細な演技はやはり星組の中では少し異質にも感じられて、それがよい意味で相乗効果を発揮しているようにお見受けしました。
紫門さんは「生きてきた証」、英真さんには「お前の進む道」とそれぞれソロがあって、お二人の歌声を久々に聴けたのもうれしかったです。
エリザ:瑠璃花夏
ジュリアンに片思いをしているレナール家の召使。
ジュリアンとルイーズの逢瀬を目撃してしまいショックと嫉妬からヴァルノ氏へ密告するという役です。
まず衣装がめちゃくちゃかわいい❣それがまたるりはなちゃんにとてもよく似合っていました。
可愛くてお裁縫もお料理も上手らしいエリザを見ていると、ジュリアンは彼女と結婚して平凡だけど幸せな人生を歩く道もあったのかなと切なくなります。
ルイーズと二人で歌う「鐘」で歌唱の実力も発揮。
こんなふうに娘役二人の大ナンバーがあるのは海外ミュージカルならではとてもよき(2月に観た雪組の「BONNIE & CLYDE」でもボニーとブランチのナンバーあったなぁ)。
フェルバック元帥夫人:白妙 なつ
パリ社交界の有閑マダム?でジュリアンのことを気に入っていて、マチルドを嫉妬させるための恋の鞘当てにされる女性。
鞘当てと言っても、ご本人いかにも楽しそうに浮かれて火遊びを楽しんでいる様子でしたが。
ジェロニモが ♪これは~戦い~ と歌っている時、ジュリアンと踊る笑顔が本当に楽しそうでした。
この役に白妙さんを持ってくる贅沢さよ。白い襟元が大きく開いたドレスも素敵でした。
白妙さんといえば、大阪の千秋楽(3/29)のご挨拶で「以前から気になっていたジュリアンのロケットの中をこっそり見ましたところ・・・想像通りの方でした」と暴露して客席やんやの大喝采。
これを受けて苦笑いしていた礼真琴さんが即座にジュリアンの声になって、「教えられないのです。フェルバック元帥夫人」と返したのもさすがでした。
ルージュ:希沙 薫
ノワール:碧海さりお
オンブルたちの中で「赤」と「黒」を象徴する二人。
本編の感想にも書きましたが、ロミジュリの「愛」と「死」ほどの違いがこの二人にはなくて、ジュリアンという一人の人物の中に混在する愛と野望、光と闇という印象でした。
ともにダンスには定評のあるお二人ですが、二幕冒頭ではちょっとしたコーナーがあって、側転やWBC優勝の時には野球のパントマイムや、いろいろ楽しませてくれました。
オンブルたち
10人のオンブルたち。
このオンブルの存在と使い方がすばらしいことも既述しましたが、アンサンブルとしてコーラスやダンスはもちろん、召使になったりパーティの客になったり、大道具小道具を動かし、時にはセットの奥からじっと人間模様を見つめたり。
オンブルたちなしにはこの舞台は成立しなかったのではないかと思える活躍ぶりでした。
そしてその長としてみんなを率いてくれた朱紫令真くん ご卒業おめでとうございました。
定型のフィナーレはなくて、「心の声」リプライズで出演者が次々出てきて歌う中、最後に、襟もとに赤、裾に黒の薔薇がペイントされた(衣装担当の加藤真美先生の手描きだとか)白いコートを着た礼真琴ジュリアンが登場してソロダンス・・・からの有沙瞳さん、詩ちづるさんとのダンス。
礼真琴さんの明るい歌声が録音で流れる中、パレードとなって、着替えた礼さんが出てくるころには、ジェロニモやヴァルノ氏の帽子をかぶり合いしたり、並んで腕組んだり、みんな笑顔でわちゃわちゃ。
切なさも悲しみも癒される明るいエンディングでした。
「宝塚という枠を超えたハードなフレンチロックミュージカル」と礼真琴さんがおっしゃっていましたが、この作品をつくり上げて、世に送りだしてくれた谷貴矢先生はじめスタッフの皆さま、出演者の皆さま、宝塚歌劇団、そしてもちろんフランスオリジナル版に関わったすべての方々に、心から感謝の気持ちでいっぱいです。
唯一の心残りは、公演期間が短く、小さなハコでの公演だったためチケ難甚だしく(さらに私のように何回も観る者もいて)、こんなにすばらしい作品をたくさんの方々に観ていただけなかったことです。
いつか再演される日があるかもしれませんが、それはもう、この「Le Rouge et le Noir ~赤と黒~」ではないですものね。


7回観た中で最前列(2列)で観た時のショット。
近くで観ると迫力マシマシ。
Blu-ray発売待ち遠しいし音源も早くほしい きっと鬼リピートします のごくらく度



