
ナイロン100℃結成30周年記念公演第1弾。
東京公演の会場がザ・スズナリで、ナイロンの本公演としては1997年以来26年ぶりと話題になりました。
230席のスズナリと同規模の劇場としてアート館が選ばれたのかなぁとも思いますが、ナイロンの公演を初めて観たのが今はなき近鉄小劇場だった不肖スキップ。アート館でナイロンを観られる日が来るなんて、胸熱でした。
ナイロン100℃ 結成30周年記念公演第一弾
ナイロン100℃ 48th SESSION
「Don’t freak out」
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
美術:秋山光洋 照明:関口裕二
音楽:鈴木光介 映像:上田大樹 石原澄礼
衣裳:宮本宣子 振付:崎山莉奈
出演:松永玲子 村岡希美 みのすけ 安澤千草 新谷真弓
廣川三憲 藤田秀世 吉増裕士 小園茉奈 大石将弘
松本まりか 尾上寛之 岩谷健司 入江雅人
2023年4月1日(土) 1:00pm 近鉄アート館 A2列センター
(上演時間: 2時間20分)
大正から昭和のはじめごろ、山里にある精神病院を経営する天房家で住込み女中として働くくも(村岡希美)とあめ(松永玲子)の姉妹。
部屋の中には地下に通じる入口があり、天房家の長男で心を病んだ征太郎(みのすけ)が閉じ込められていました。天房家は征太郎の妻・雅代(安澤千草)と結婚した次男の茂次郎(岩谷健司)が当主となっていましたが、実権は大奥様と呼ばれる母のせん(吉増裕士)が握っていました。征太郎の娘・颯子(松本まりか)、茂次郎の息子・清(新谷真弓)がともに暮らす天房家。複雑さといびつな闇を抱える天房家の秘密を把握する女中姉妹にもまた、逃れられない影と因縁がありました・・・。
物語はくもとあめ姉妹が住まう女中部屋で展開しますが、下手側は母屋へと通じ、上手側には外へと繋がる勝手口があって、いろんな人がこの部屋に出入りし、また時に地下や窓の外にも人が行き来して奥行きや広がりのある空間となっています。
囲炉裏が切られた土蔵の中のような部屋に板塀、時代を感じる家具や座布団、とても丁寧につくり込んだ舞台美術が目を引きます。
映像や照明、衣装や音楽含め、ナイロンの公演は細部までこだわりとセンスが行き届いていてほんとすばらしい。

役者さんは、こちらのフライヤーの画像のように白塗りにゴシックホラーっぽいメイク。
いわゆる放送禁止用語もバンバン出てきて、ナイロンの公演の中ではダークサイドの作品です。
実際描かれる内容といえば
征太郎は夜な夜な地下を抜け出し村の女たちを凌辱
大奥様せんは風呂場で急死
茂次郎は恨みを持つ警官に射殺される
清は学校でいじめられ、仕返しした雅代への報復として同級生の親に殺される
颯子は蔑んでいた婚約者に熱湯を浴びせられ顔面に大火傷を負う
などナド
こうして書いていても気分悪くなってきますね💦
女中姉妹もこれらを傍観しているばかりではなく
くもは征太郎を理解し何かと面倒をみていた(愛情もあった?)けれど裏切られたと知り、地下への縄梯子を切り征太郎の出口を断つ
あめはかつての恋人カガミにそっくりの葬儀屋クグツ(入江雅人 二役)に想いを寄せるものの騙されていたとわかって地下へ突き落す
いやこの二人も相当やってくれるのですが、それほど後味が悪くないのは、粘着質で思う相手にかなり執着しているし、自分の思いでいっぱいの時は互いの意見なんか聞く耳持たない(あのクグツがくもの目から見たらカガミに全然似ていないトリックおもしろかったな)のに、何かを見切った時点で表情までもあっけらかんとして、二人でお茶を飲みながらケラケラ笑うという、潔さのようなものを見せられるから。
これを描くケラさんの筆致やはり凄腕だし、またそれを表現する松永玲子さん、村岡希美さんのお二人がすばらしい。
重さも軽さも緩急自在で、繊細かつ大胆。
くもさんもあめさんなら、たとえ世界が終わる日がきても笑ってお茶を飲んでいそうです。
強者揃いのナイロンの役者陣に4人の客演(松本まりか・尾上寛之・岩谷健司・入江雅人)が鮮やかな彩りを加える舞台。
松本まりかさん演じる颯子の気まぐれで傲慢なお嬢様然とした佇まいとその後の落差も好きでした。
観終わった後になって、タイトルの Don’t Freak out =怖がらないで の意味を感じ取れるような作品。
あの女中部屋を覗き見しているような趣きもあって、スズナリやアート館といった小さなハコで上演することも含めた企画だったのだなぁと唸る思いでした。
唯一の不満は隣席の人が居眠りして私に寄りかかってきたこと(アート館前方パイプ椅子なのでめちゃ密着💦) の地獄度


