2023年03月21日

海の向こうに見えたものは 雪組 「海辺のストルーエンセ」


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雪組のもう一方の別箱は朝美絢さん主演のミュージカル・フォレルスケット。
18世紀 デンマークに実在した医師 ヨハン・フリードリヒ・ストルーエンセの物語です。

”フォレルスケット”ってあまり聞き慣れない言葉だなぁと思っていたら、「誰かを好きになった時に感じるとても幸せなあの感じ」というノルウェイ語で、北欧独特の他言語ではひと言で言い表せない感情を表現した繊細な言葉なのだそうです。


宝塚歌劇 雪組公演
ミュージカル・フォレルスケット 「海辺のストルーエンセ」
作・演出:指田珠子  
作曲・編曲:青木朝子  多田里紗
振付:KAZUMI-BOY  AYAKO   港ゆりか   擬闘:栗原直樹
装置:國包洋子   衣装:加藤真美
出演:朝美 絢  奏乃はると  真那春人  愛すみれ  白峰ゆり
妃華ゆきの  叶ゆうり  諏訪さき  縣 千  日和春磨
一禾あお  壮海はるま  音彩 唯 ほか

2023年3月1日(水) 11:30 シアター・ドラマシティ 22列下手/
3月2日(木) 11:00 16列センター
(上演時間:2時間30分/休憩 25分)



18世紀中ごろ、デンマーク領ドイツの小さな街アルトナで、啓蒙思想に傾倒し保守的な医療現場を改革しようと奮闘していたの町医者ヨハン・ストルーエンセ(朝美絢)は、ある日、デンマーク王宮を追い出されたものの、再び王に仕える足がかりを探している元侍従長ブランド(諏訪さき)と元側近のランツァウ伯爵(真那春人)から、王の病を治してほしいと持ちかけられます。酒に溺れ、享楽に浸り、時として暴力も振るう若き王クリスチャン7世(縣千)、無能な王を放任し国政を牛耳るベルンストッフ(奏乃はると)をはじめとする宮廷官僚達、我が息子を王位に就かせようとするクリスチャンの継母ユリアーネ(愛すみれ)とその一派、そしてイギリスから嫁いで異国に慣れず、王と不仲の王妃カロリーネ(音彩唯)と、宮廷は「病」に満ちていました。治療の成果を出し、国王の信頼も得て国政の中枢へと昇りつめていくヨハンですが、次第に孤独な王妃に心惹かれていき・・・。


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夜明け前のような深く蒼い海辺の景色と波の音で始まる舞台。
宮廷もので衣装は華やか。音楽はフレンチミュージカルっぽくて、「ロミオとジュリエット」の舞踏会のダンスを思わせるシーンも。


冒頭はヨハン、クリスチャン、カロリーネが出会う前のそれぞれの物語が描かれます。
換気やタオルを毎回替えるといった、今では当たり前とされることにこだわって勤務先の病院をクビになり、美貌と賢さを武器に貴族相手の診療で評判を取っているヨハン。
放蕩の限りを尽くした挙句亡くなった父王と、わが子を王にと目論む継母のもとで、幼少時から愛情を知らず、家臣に厳しく躾けれて育ったクリスチャン。
イギリス王の妹として明るく何不自由なく育ち、いつか女王になったら軍隊に入ると屈託なく笑うカロリーネ。


子ども時代のクリスチャンは見ていてとても痛々しいのですが、あんな子ども時代を過ごしたらそりゃ暴君にも育つよなぁと納得できるのに対して、まるで別人のように笑顔の欠片も見せず心を閉ざしたカロリーネの今はもっと痛々しい。
そんなカロリーネだから、自由な心を持つヨハンに最初は反発しても、やがて心惹かれていくのは当然の成り行きのように思えます。


ヨハンの助言で服装ばかりか心まで軽くなり、心もカラダも健康になって笑い合い、とても自然にキスをかわす二人。

ただ、ここで切ないのは、クリスチャンが暴君のままではないこと。
彼も最初は半信半疑だったヨハンの治療を受け容れ、信頼し、言動を改め、「お前とは気が合わない」と断言していたカロリーネへ理解を示す姿勢を見せていただけに、その二人の”裏切り”は彼の心にどれほど大きく重くのしかっただろうと思うと・・・。

ヨハンの部屋にカロリーネがいるのも知らずに他愛ない遊び心で踏み込み、カロリーネを見つけた時のクリスチャンの表情。
取り繕うようなヨハンの説明にうなづいて部屋を出る彼にブラントがかけた「クリスチャン、全部知ってて・・・」という言葉。
”愛し合うものこそが正義”とはいえ、ここまでクリスチャンを傷つける権利は、ヨハンにもカロリーネにもないでしょう。

そのことをヨハンは、カロリーネだって、もちろんわかっていたはず。
が、わかっていても引き返すことができないのが愛というもの・・・なのは古今東西、数々のドラマや小説や、そして史実が証明しています。

そのうしろめたさはさておき、クリスチャンとともに改革を推し進め、ついには疲弊したクリスチャンに代わって自分自身で執政を行うようになるヨハンの方がよほど狂気じみているように見えます。
ヨハンはもしかしたら生き急いだ自分の人生の終わりが近いことをどこかで感じ取っていたのかもしれません。

最期にカロリーネと二人、海を見に来たヨハン。
きっと逃げられないことは覚悟の上で、その海の向こうには何が見えたのでしょう。
浜辺で追手に取り囲まれる中、わざとクリスチャンを挑発し、身を投げ出すように彼の剣に倒れるヨハン。
まるでそれが償いででもあるかのように。


ヨハンの死は隠蔽され、クリスチャンは執政の現場から外され、カロリーネは古城に幽閉され・・・とユリアーネ王太后たちが淡々と語る”事後処理”が虚しくも空恐ろしくもあり。


朝美絢さんはもう0番に立つのが当然のように思える華やかなスターぷっり。
あの華奢な体のどこにそんなパワーが?と思うくらいエネルギッシュな舞台を見せてくれました。
ビジュアルの美しさは折り紙つきですが、ロココ調の宮廷衣装もとてもよくお似合いでした。
そうそう、KAAT公演の途中から始まったという眼鏡ガチャ、私が観た時は2回とも執務室で草案している場面でした。

カロリーネの音彩唯さんは、西洋人形のようなビジュアルで綺麗な声で歌もお上手。
小顔で立ち姿が美しく、ドレスも男装姿も綺麗でした。
「CITY HUNTER」の新人公演で初ヒロインしたころは、まだまだ可愛らしさばかりが先に立った印象でしたが、素敵なヒロイン娘役さんに成長されました。

縣千さんのクリスチャンは役柄的に「蒼穹の昴」の光緒帝と少し被りますが(衣装も黄色だったし←)、前半の荒々しく粗野な感じと、後半の繊細な部分も見え隠れするあたりの対比がよく出ていて、あぁ、こんな演技もできる人なんだなぁとまた新たな魅力発見です。
ダンサーだけあって動きが美しいのも👏

諏訪さきさんのブラントが、役柄としても役者さんとしても、スキップ的この作品のMVP。
少し力が抜けた遊び人風の感じから、実はクリスチャンのことを誰よりもよく理解し心配している温かさ。
今回ビジュアルもすごく垢抜けていて、「え?すわっち?!」と何度もオペラあげました。

常に感情を表に出さず、でも自分が産んだ子を王にするという信念は揺るがないユリアーネ王太后の愛すみれさんもとてもよかったです。
クリスチャンとカロリーネの子どもの王太子フレゼリクに初舞台の時から美少女と話題の108期星沢ありささんが抜擢されていたのも印象的でした。


短いけれどフィナーレもあってよき。
縣千くんがここぞとばかりに足あげてイキイキ踊っていました。

3/2に観た時は、前雪組トップスターさんご観劇で、朝美さんとてもうれしそうでした。
カーテンコールご挨拶で「この公演も残すところあと1回となりましたが、最後まで何者かになりべくドリームを持ってがんばりたい」と”ドリーム”に一段と力を込めておっちゃっていました(前トップさん「ドリームガールズ」休演日)。



1組で別箱2チームあるの楽しいけれど忙しい・・・次の星組なんて3チームよ のごくらく地獄度 (total 2382 vs 2383



posted by スキップ at 18:45| Comment(0) | TrackBack(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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