2023年03月19日

死ぬこともそう悪くないわ 雪組 「BONNIE & CLYDE」


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雪組新トップコンビ プレお披露目公演。
挑むのは1930年代のアメリカに実在したギャングカップルを描くフランク・ワイルドホーンによるブロードウェイ・ミュージカルです。


宝塚歌劇 雪組公演
Musical 「BONNIE & CLYDE」
Book by IVAN MENCHELL
Lyrics by DON BLACK
Music by FRANK WILDHORN
潤色・演出:大野拓史   
音楽監督・編曲:高橋 恵   音楽指揮:御﨑 恵
振付:平澤 智   擬闘:清家三彦
装置:木戸真梨乃   衣装:大津美希
出演:彩風咲奈  夢白あや  透真かずき  久城あす  杏野このみ
和希そら  野々花ひまり  希良々うみ  眞ノ宮るい  星加梨杏  
有栖妃華  咲城けい  愛陽みち  華世 京  夢翔みわ ほか

2023年2月26日(日) 11:00am 御園座 1階3列センター/
4:00pm 1階10列上手
(上演時間: 3時間/休憩 30分)



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1930年代、世界恐慌下のアメリカ テキサス。
窃盗罪で投獄されながら兄のバック(和希そら)とともに脱獄を果たしたクライド(彩風咲奈)は、女優を夢見るウェイトレスのボニー(夢白あや)と出会い、運命的な恋に落ちます。妻ブランチ(野々花ひまり)の説得で自首したバックが裁判で釈放が決まった一方、脱獄後も強盗を繰り返して再び投獄されたクライドは懲役16年を言い渡されます。イーストハム刑務所で他の囚人から性的暴行を受け、見て見ぬふりをする刑務官にも絶望したクライドは、ボニーの手助けで再び脱獄します。先行きの見えない日々に鬱屈した想いを抱えていた2人は街を飛び出し、盗んだ車で銀行強盗を繰り返すようになります。”金も夢もない希望の国アメリカ”で自由気ままに生きるクライドとボニーは、同じく鬱屈とした時代を生きる大衆にヒーローのように受け止められます。しかし、そんな2人も、次第に警察に追い詰められ・・・。


ボニーとクライドを描いた映画「俺たちに明日はない」はアメリカ映画にかぶれていた高校生時代に観たことがあります。が、二人が一斉射撃されるラストシーン以外はほぼ記憶にありません。
2012年に田代万里生さん・濱田めぐみさん主演で上演されたこの作品の日本初演は観ていません(ブランチは白羽ゆりさんだったのね)。
宝塚歌劇の「凍てついた明日」も観ておらず、舞台作品として観るのは今回初めてでした。


物語の冒頭は、1934年アメリカ ルイジアナ州ビエンビルで車に乗ったクライドとボニーに銃弾が雨アラレと降り注ぐシーン。
そこから2人の子ども時代の回想シーンへと移り、大人になった2人の出会いから強盗を繰り返すようになった流れ、そして最後は冒頭の場面へと「ラストドライブ」へ出発するシーンで終わるという構成。

楽曲はどれもよくて、聴きごたえたっぷり。
宝塚歌劇のオリジナル作品ではなく海外ミュージカルということで、主演男役ばかりでなくヒロインにもほぼ対等に歌があるばかりでなく、娘役2人(ボニーとブランチ)の大ナンバー「愛する人は選べない」があるのもとてもよかったです。
メロディはもちろん歌詞もよくて、プログラムに訳詞の記載がありませんでしたが、大野先生なのなか?

ビリー・ザ・キッド(星加梨杏)に憧れていたクライド少年、クララ・ボウ(菜乃葉みと)のような映画女優になることを夢見ていた少女ボニー。
ともに未来を夢見る普通の子どもだったことが最初の回想シーンで印象づけられます。
強盗をするようになっても、いつも親のことを気にかけ、時に人目を忍んで会いに行く二人の姿には、大人になり切れていないというか、本当の内面はまだ子どもだったんだと感じられて、もしかしたら、貧しくても愛情を注いでくれた親のもとで地道に歩む人生もあっただろうに、ああいう生き方を選んでしまって、破滅の道を辿らざるを得なかったことが本当に切ない。

ラスト前にボニーが歌う「死ぬのも悪くないわ」
その前の銃撃戦でバックも仲間たちもも失い、二人きりになったクライドとボニー。
多分もう未来がないことは覚悟していた二人ですが、
♪死ぬことも そう悪くないわ 
 残されるのは嫌だけど 
 もし二人で死ねるのならば 
とボニーが歌い、「一緒に終わりを迎え、並んで葬られる二人。嘆く人は僅か。代わりに警察が歓喜の声をあげる。これがボニー&クライドの最期」と読み上げる自作の詩を聴いていると、これは緩やかな自殺なのではないかとも思えました。
銃撃されることはわかった上で車に乗って、それがボニーの、そしてクライドにとっても最後の幸せだったのだろうなぁと。
実際、愛するバックを亡くして一人生き残ったブランチに対して、ボニーは歌ったとおり「二人で死ねた」ということでもあり。


クライドとボニーの物語と同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に、バックとブランチの物語が切なくて心に響きました。
マチネでブランチの結末を知った後に観るソワレでは、「夢を叶えてやる」というバックに、「アメリカンドリームなんて興味ない。
ただ平凡で平穏に暮らせればいい」と、
♪夕暮れの河原を歩いて穏やかな夕餉を
 平凡だけれど幸せな夢を あなたと二人分かち合いたい
と歌うブランチに涙ナミダ。


彩風咲奈さんの明るさの裏に潜む澱のような翳りがクライドによくハマっていました。
少年がそのまま体だけ大きくなったようなクライド。
軽い気持ちでやった窃盗が強盗に、そして殺人にまで、転げ落ちてしまう、ハタから見れば明らかにだめんずなのですが、あの長い脚で、あの目で見つめられたら、ボニーでなくても参っちゃいそうです。

これがトップ娘役デビューの夢白あやさんのボニーもまたとてもよかったです。
まるでアメリカンドールのような華やかなビジュアル。
夢白さんのシャープな持ち味と「クライド&ボニーじゃなくてボニー&クライドの方がしっくりくるのよ」とスパッと言ってのける強気なボニーのキャラクターが重なっていい感じ。
数々の楽曲も歌いこなしていてお見事でした。

クライドの兄バックの和希そらさん。
弟より背は低いけれど、ちゃんとお兄ちゃん。弟思いでずっとクライドを支え励まし続けて穏やかで。
妻のブランチのことをとても愛しているにもかかわらず、ブランチの制止を振り切って怪我をしたクライドのところへ行くあたりは、弟思いというばかりでなく、バック自身にもその暮らしへの憧れがあったのかな。
台詞も歌も本当にいい声。そして撃たれてブランチの腕の中で絶命するまでの演技の凄み。あんなに息絶え絶えなのに言葉がきちんと聞き取れるの、本当にすばらしいです。
クライドの強盗団に加わってマシンガン構えるバックにピタリと銃口の照準合わされたんですけど~

ブランチの野々花ひまりさんも大熱演。
夫を愛し、明るく元気で贅沢は望まず、美容師として自立していて、教会にも通う・・・主だった登場人物の中でブランチだけが地に足付けて生きている印象。
そんな彼女が、夫への愛ゆえにクライドたちの側に呑み込まれしまうのが、ブランチ自身が選んだこととはいえ切ない。
血まみれのバックを腕に抱いての絶叫が今も耳に蘇ります。
もとより歌うまさんですが、「愛する人は選べない」の迫力ある歌い上げも、平凡だけど幸せな夢を、というやわらかな歌もとてもよかったです。

テッドは咲城けいさん。
ボニーの幼なじみでずっとボニーに恋してるダラス郡の副保安官。実在の人物だそうです。
真面目な警察官で学生時代も優等生だっただろうと思われる爽やか好青年。
ボニーのことを誰よりも理解している気持ちでいたのに「君はボニーのことを何も知らない」と上官に言われた時の表情が切ない。
正義の人で、クライドやバックたちには平気で手をあげ銃を向ける一方、警察がクライドたちを射殺ありきという雰囲気になったことに愕然として、それを止めようとしたのはボニーへの思いからだけではなかったはず。
公演期間序盤は演技も歌も固かったように漏れ聞きましたが、私が観た日は繊細な心情の変化もよくて、歌もよく声が出ていました。

ボニーの母親エマの杏野このみさん、少女ボニーの愛陽みちさんも印象的で、娘役さんが活躍する作品でもありました。


フィナーレは、和希そらさん+娘役 → 夢白あやさん+男役 → 彩風咲奈さんマシンガンぶっ放して登場からの男役、娘役総踊り → 男役群舞 → 彩風さんソロからの夢白さんとデュエットダンス(歌:和希そら) 
という流れで、衣装含めて洒落ていてステキでした。

彩風さんソロから和希そらさんへと歌い継ぐ「ブルースレクイエム」。
この曲を、ここで、咲ちゃんとそらくんの声で、聴けるなんて!
タカラヅカスカイステージ「夢の音楽会」第1回で和希そらさんが安蘭けいさんを招いて一緒に歌ったことも記憶に新しいですが、「凍てついた明日」の主題歌で、演出の荻田浩一先生が安蘭けいさんのためにつくった曲なのだとか。今回この曲を使うにあたって大野先生が荻田先生に了解を取ったとも聞きました。宝塚は劇団の生徒ばかりでなく、演出家にも先輩後輩の繋がりがあるんだなぁと胸熱。

ラインナップで出演者が次々出てくる中、最後に彩風さんが車を運転して登場するのも洒落ていました。
彩風さんがわざわざ車を降りて、夢白さんの手を取って車に乗せ、和希さんが後部シートに後ろ向きに座って、そこに野々花さんが寄り添って、みんな笑顔で。



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御園座レッドに映える宝塚歌劇のポスターもこれで3作目です。



この作品が大劇場お披露目公演でもよかったくらい のごくらく度 (total 2381 vs 2382 )


posted by スキップ at 21:36| Comment(0) | TrackBack(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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