
新しい演出家を招いて木ノ下歌舞伎としては5年ぶりの新作。
下座音楽の代わりに流れるのはヒップホップやレゲエ。
殺し場では犬や猫の鳴き声。
「いなげや」「べにや」から「ブルガリヤ」「シルバニア」「ポメラニアン」「ダルメシアン」まで飛び出す大向う。
木ノ下歌舞伎 桜姫東文章」
作:鶴屋南北
監修・補綴:木ノ下裕一
脚本・演出:岡田利規
美術:稲田美智子 照明:吉本有輝子 衣裳:藤谷香子
出演:成河 石橋静河 武谷公雄 足立智充 谷山知宏
森田真和 板橋優里 安倍萌 石倉来輝
サウンドデザイン:荒木優光
2023年2月22日(水) 6:00pm ロームシアター京都 サウスホール 1階1列センター
(上演時間:3時間15分/休憩 15分)
物語:若い頃、稚児・白菊丸(石橋静河)と心中しようとして一人生き残った過去を持つ新清水寺の高僧・清玄(成河)は、17年後、父と弟を殺され家宝も失い、生来開かない左手を前世の罪と考えて出家を決意した吉田家の息女・桜姫(石川静河)と出会います。
新清水寺で桜姫は、かつて自分を犯した盗賊・釣鐘権助(成河)と再会します。権助の子を産み、恋焦がれていた桜姫は、出家を翻意して権助と交わりますが、桜姫の不義の相手として権助ではなく清玄が無実の罪で告発されてます。桜姫こそ白菊丸の生まれ変わりだと確信する清玄ですが、桜姫はつれなく、ついには誤って清玄を殺してしまいます・・・。
短い階段状になった舞台。
本舞台の上が少し高くなっている場所に陣取るサウンドプレイヤー。
まるで廃墟のような場所に集う役者は9人。
舞台両側に置かれた上着を着たり脱いだりして複数の役を演じ分けます。
セリフは抑揚を押えてかなり”棒読み”に近いトーンで統一されています。
本舞台手前の一段低くなっているところでは、役者さんたちは寝そべったり、お水を飲んだりしてリラックスしたり、そして件の大向うもここから。ここは客席=観客という設定なのでしょうか。
「未練の幽霊と怪物 挫波/敦賀」の作者として認識している岡田利規さんですが、主宰されているチェルフィッチュの公演はこれまで拝見したことがありません。なので、いつもこんな感じの演出なのかよくわかりませんが、かなり好みは分かれるところかなという印象。
が、岡田さんが書き下ろされたという上演台本は、原作に忠実ながら現代的な感覚の台詞が盛り込まれていて、とてもおもしろかったです。
「郡治兵衛内の場」
桜姫の弟 松若丸を匿っている山田郡治兵衛のところへ、娘 小雛の許嫁 稲野谷半兵衛がやって来て、自分の弟 半十郎と小雛との不義を疑い、半十郎を殺し、「や、これはもしかして歌舞伎の得意なあれか?」と思っていたら案の定「自分は半十郎を殺した。貴殿は?」と郡治兵衛に迫り、郡治兵衛は小雛を殺す・・・という流れで、それを覗き見していた土手助?が丑島眼蔵に「娘(小雛)の首を斬って桜姫の代わりに差し出すって、そういうとこ、常軌を逸してますね、歌舞伎」と報告するところで、「ほんま、それ!」と爆笑してしまいました。ほんと、この演目に限らず・・・だものね。
それにつけても、この小雛のエピソード、今まで観たことなかったなと思って帰りの電車内で調べたところ、歌舞伎では初演以来上演されていないということでした。
「あー、歌舞伎では上演されていない(もしくは上演機会が少ない)場面もきちんと盛り込むのが木ノ下裕一さんの原作主義ということはこれまでの上演からも把握しているつもりでしたが迂闊にも忘れていました。
そして、この後の「三囲堤の場」で、清玄が焚き火をするのに雨をしのぐために拾った傘に書いてある和歌を遠くから見た桜姫が「いい歌ね」というその歌こそ小雛が詠んだ歌で、「姫が能天気にいい歌だと言っているその歌は、あなたがために犠牲になった女が書いた筆跡ですよという南北の皮肉なんですが、これは前幕の三幕目がないとわからない。岡田さんバージョンの『桜姫』の上演は再来年ですからずいぶん時間がありますし、これからたっぷり検討してこの三幕目はできたら上演したいと密かに思っています」ということを、2021年の岡田さんとの対談で木ノ下さんがおっしゃっていて(こちら)、それを受けての今回の上演かと思うと本当に貴重でありがたいことと思いました。
権助こそが仇とわかった桜姫が、権助を殺し、仇の子であるわが子を殺し、都鳥の一巻を取り戻して大団円・・・ではなく、その一巻をさーっと空(くう)へ放り投げたところで幕というのも何だかとても”らしかった”です。
成河さんは「上手いんだけどあのキンキン声がどうも苦手」と思っていた頃が嘘のように、声までも演じ分け。
清玄、権助はもちろん、ちらりと登場する伝六にも目が惹きつけられました。
石橋静河さんの桜姫もとてもよかったです。
台詞はもとより、ダンスの経験が活きて身体能力が高く動きがとても綺麗。殺し場での緩急もお見事で歌舞伎役者さん顔負けの海老反りも見せてくれました。
粟津七郎の森田真和さんはずっとつま先立ち(足元はスニーカー)だったのだけど、あれは何を表していたのでしょう。
残月の谷山知宏さんと長浦の武谷公雄さんのチャリ味というか掛け合いもよかったなぁ。
2日間2公演のみだとスケジュール調整キツイです💦京都だし の地獄度


