2023年02月18日

正真正銘これで37作品完結 「ジョン王」


kingjohn.jpeg


1998年に始まった、シェイクスピア全戯曲 37作品を上演するという彩の国シェイクスピア・シリーズ。
2021年に上演された「終わりよければすべてよし」が第37弾として「23年の時を駆け抜けて走破」となりました。
シリーズ全作品リストはこちら

が、その一つ前のシリーズ第36弾「ジョン王」は2020年に上演が予定されていたものの、全公演中止となってしまいました。
昨年は、2020年に上演されたもののほとんどの公演が中止となった第35弾 「ヘンリー八世」が再度上演され、今回この「ジョン王」が3年の時を経てのリベンジ。
これで正真正銘、「彩の国シェイクスピア・シリーズ」全作品完結です。



彩の国シェイクスピア・シリーズ 「ジョン王」
作:W.シェイクスピア   翻訳:松岡和子
上演台本・演出:吉田鋼太郎
美術:秋山光洋   照明:原田 保   衣裳:宮本宣子
出演:小栗 旬  中村京蔵  玉置玲央  白石隼也  高橋 努 
植本純米  櫻井章喜  佐藤 凌  吉田鋼太郎 ほか
演奏:サミエル  武田圭司  熊谷太輔/渡辺庸介

2023年2月9日(木) 12:30pm シアター・ドラマシティ 5列センター
(上演時間: 3時間5分/休憩 20分)



12世紀から13世紀にかけてのイングランドが舞台の物語。
勇敢と誉れ高いリチャード獅子心王が亡くなった後、王位を継いだ弟のジョン(吉田鋼太郎)のもとへ、先王リチャードの私生児だと名乗る男が現れ、ジョンの母エリナー皇太后(中村京蔵)はその私生児・フィリップ・ザ・バスタード(小栗旬)を親族と認めます。
一方、先代ブルターニュ公の幼い王子・アーサー(佐藤凌)が正当な王位継承者であると主張する母のコンスタンス(玉置玲央)はフランス王フィリップ2世(櫻井章喜)の協力を得て、「王位をアーサーに譲り、領地を引き渡すよう」という使いをdします。ジョン王はこれを拒み、両国は戦争へと突入します・・・。


定刻となり、さぁ開演、とまだ誰もいない舞台を見ていたら、臨席の人が「もう出てきてますよ」とおっしゃったので後方を振り向くと、赤いパーカーにデニムといういでたちの背が高くて足の長い若者がドラマシティの下手階段を降りいるところで、思わず「え!?あれ?」と声を出してしまいました。
その若者こと小栗旬くんがb舞台に上がって、珍しそうにセットを眺めたり触れてみたり、スマホで写真撮ったりしていると、頭上からダンッと死体(人形)が落ちてきて、中世の騎士装束の男性たちが現れ、「ここは・・・」と小栗旬くんが異次元の世界に迷い込んだことに気づいたところで暗転。
そして「ジョン王」の物語が始まります。


シェイクスピアの戯曲としては「史劇」に分類される作品。
和解と対立を節操なく繰り返す王族達の愚かしさ、滑稽さ、戦争の虚しさ、その陰で犠牲となる者の哀しみが強く表現された物語。
特に幼いアーサーと、ジョン王に「目をくり抜け」と命令されたもののどうしてもできないヒューバート(高橋努)との心の触れ合い、その後の2人の行く末には顔を歪める思いでした。
ただ物語全体としては原作からかなり潤色されていて、反戦のメッセージ性の強い印象です。

エリナー皇太后を観て、「あれは歌舞伎の人か?」「あ、京蔵さんか?京蔵さんだな」と気づき、その後「植本さんの女役やっぱりいいな」と思い、玉置玲央さんのコンスタンスに至ってようやく「オールメールなのか!」と気づく自分・・・どんだけ💣

そのオールメールであることをはじめ、冒頭に頭上から落ちてきた死体や肉片をその後も要所要所で音を立てて落下させたり、本水を使ったり、逆光線で浮かび上がる人物のシルエット、城門に描かれた文様が照明の効果で菊の御紋に見えたり、イングランドを黒、フランスを白と衣装をくっきり色分けしていたり、蜷川さんオマージュの演出の数々。

が、必ずしも効果的に作用していたかというと・・・蜷川さんの演出はあの蜷川さん独特の研ぎ澄まされた舞台空間の中でこそ活きるものだったのだなぁと改めて思い知りました。

最も苦手だったのは「歌」で、冒頭のジョン王の登場から歌を歌うのですが(もちろん小栗旬くんも歌う)どの曲も同じようなアレンジで(というかほぼ編曲されていない?)そして長い(≧▽≦)
皇太子ルイ(白石隼也)ブランシュ(植本純米)の出会いの場面の♪赤い花白い花 なんてそれぞれワンコーラスずつ歌う必要ある?
歌の巧拙ではなく、見せ方とか聴かせ方、つまり演出の問題だと思います。


当初ジョン王にキャスティングされていた横田栄司さんが体調不良で降板、ジョン王を吉田鋼太郎さん、鋼太郎さんが演じる予定だったフランス王フィリップ2世に櫻井章喜さんという変則配役でしたが、役者さんは皆よかったです。


小栗旬くんのバスタードはジョン王のそば近くにいながらも輪の外にいて冷静で、利権を貪る争いを少しシニカルな目で見つめている感じが、最初に登場した時の”現代の普通の若者”にも通じるところがあって、よくハマっていたと思います。もともと長身ですが、舞台ではさらに大きく見えますし、滑舌よくて台詞もしっかり。最後の独白もとてもよかったです。
「彩の国 シェイクスピアシリーズ」には「間違いの喜劇」(2006年)以来のご出演とか。蜷川さんご存命中にもっと重厚な作品で観てみたかったなという思いも。

毅然、厳然とした中村京蔵のエリナー皇太后、あのかわいい声はどこから出るの?な植本純米さんのブランシュ、エキセントリックな玉置玲央さんのコンスタンスと、三人三様の女役さんも魅力的でした。
玉置玲央さんはずーと叫んでいるような台詞でもう少し緩急あればとも思いましたが、「女方の役者は坪内逍遙訳の大時代なせりふで母性の肥大化を強調する」(日経新聞 内田洋一編集委員)という評を読んで、「へぇ、一つの作品でそこだけ違う訳使うとかあるんだ」と驚きましたし、それを含めてのコンスタンスなのかなとも思いました。




上演回数少ない作品にはそれなりの理由がある の地獄度 (total 2373 vs 2373 )



posted by スキップ at 23:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック