2023年02月02日

命果てるその刹那も一人舞う 「エリザベート」


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2020年 初演から20周年を迎えた記念公演(東京・大阪・名古屋・福岡の4都市)が全公演中止となって、仕切り直しの2022-2023年シーズン。

花總まりシシィ vs 井上芳雄トートの
バチバチ火花散るように丁々発止ながらエレガントで気品ある
♪私が踊る時 
が歴代エリザイチ好きな不肖スキップといたしましては
今シーズンのエリザは博多座一択

せっかくなので、愛希れいか&古川雄大ペアも博多座で観ることにしてマチソワしました。
東京公演のみだった2019年は観に行きませんでしたので、東宝版を観るのは2016年以来、7年ぶりでした。


ミュージカル 「エリザベート」
脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ 
音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ
演出・訳詞:小池修一郎
音楽監督:甲斐正人   美術:二村周作
照明:笠原俊幸   衣裳:生澤美子
振付:小㞍健太  桜木涼介
出演:花總まり  愛希れいか  井上芳雄  古川雄大
田代万里生  佐藤隆紀  甲斐翔真  立石俊樹
未来優希  剣 幸  涼風真世  香寿たつき
黒羽麻璃央  上山竜治  秋園美緒   彩花まり 
原慎一郎  三木治人  井伊巧 ほか

2023年1月26日(木) 12:00pm 博多座 2階H列下手/
5:00pm 1階L列(8列目)上手
(上演時間: 3時間10分/休憩 30分)



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マチソワのプリンシパルキャスト
立石俊樹くんのルドルフと香寿たつきさんのゾフィー(ここ数年のゾフィーでは一番好き)が観られなかったのは残念でしたが、ダブルキャストほぼコンプリートできて満足。
初めて観るキャストも何人かいて、新鮮でした。
キャストが変わると2つの違う世界が立ち上がるの、本当におもしろい。



「エリザベート」は1992年にウィーンで初演され、1996年に宝塚歌劇で日本初演されたミュージカル。
宝塚歌劇では2018年の月組まで、10回の上演を重ねる人気作品です。
宝塚で観た後、東宝や他の舞台で同じ作品を観るとちょっとがっかりすることが少なくありません(「ロミオとジュリエット」しかり「オーシャンズ11」しかり)が、この「エリザベート」と「1789」は宝塚版も東宝版も大好き。

2000年の東宝初演時、演出の小池修一郎先生は、主要キャストの出入りを上手、下手全て逆にしたほど”宝塚版”との違いにこだわったと何かで読んだことがありますが、男役が演じるトートが主人公の宝塚版と違って、東宝版の方がよりオリジナルに近くリアリティを追求した印象があります(宝塚にはスミレコードもありますし(^^;)

宝塚版、東宝版ともに何度も観ている作品ですが、いつ何度観てもその時々に感動し、また新しい発見もある舞台。
♪僕はママの鏡だから とルドルフは歌いますが、この作品は時代を映す鏡でもあるなぁと感じています。
楽曲のすばらしさはもちろん、ハプスブルク家の崩壊という史実をなぞりつつ、現代の世界にも通じる普遍性のある物語、20年以上にわたって新陳代謝を続け、新しいスターを生み出してきた選び抜かれたキャスト、力を結集したスタッフ・・・多くの人の熱い思いが結集してつくり上げた極上の舞台を観ることのできる幸せを、この作品を観るたびに感じます。



エリザベート
今回の舞台を”集大成”と位置づけた花總まりさんのシシィ。
1996年の宝塚歌劇雪組の初演も観ているのですが、その頃はまだこの作品の本当のおもしろさに気づいておらず、一路真輝さんトートの歌にただただ驚いた記憶。
その後、宝塚版、東宝版と観劇を重ねて、2015年に花總さんが東宝版のエリザベートとして初めて登場された時、「リアルシシィじゃん」と受けた衝撃は今も忘れられません。

鏡の間の輝くばかりの美しさ。
容姿はもちろん、所作の一つひとつ、声、表情・・・どれをとっても品があって美しい。
お転婆な少女から初々しい花嫁、国民に讃えられるオーストリー皇后、魂とともに放浪する晩年まで、2時間30分の上演時間の中で、まるで本当に時を重ねていくようなシシィ。

歌が上手いシシィは他にもたくさんいて、花總さんは決して声量が豊かという訳ではありませんが、地声のまま上げていって歌う、台詞の延長に歌があるという、これこそミュージカルの歌唱のあるべき姿なのではないかと思います。
オーラ全開であの華奢なカラダのどこに?と思うくらいエネルギーを発散していたり、かと思えばまるでボロ布のように打ちひしがれていたり、人生のステージに応じて劇的に変化していく彼女を通して私たちは「エリザベート」の生き様を追体験している思いです。


そして、♪私が踊る時

フランツとともにハンガリー王国の戴冠式を終えた直後のシシィが「勝ったのね」とトートに宣言する曲。

一人でも 私は踊るわ
踊りたいままに 好きな音楽で
踊る時は 命果てるその刹那も
一人舞う あなたの前で

と歌うシシィが自信と誇りに満ちあふれていて、まさにこの時がオーストリー皇后としてもシシィの人生においても絶頂期だったのだと思います。
ここが自信満々であればあるほど、この後の孤独や絶望感が一層際立ちます。

花總まりさん独壇場。
美しく気品があって、傲慢でちょっとS。
トートが差し出した手に自分の手を重ねる仕草を見せておいて、その手をチョンとはじいてからかうような艶然とした笑みを見せながら余裕たっぷりに横を向いたり。

この花總シシィの「私が踊る時」には、井上芳雄トートがベストマッチ。
階段からゆっくり降りてくるシシィを膝をついて迎えるトートの姿、差し出た指の先まで神経が行き届いた美しさがハンパない。
自信満々のシシィを見て、「おや?」という表情をしたり薄く冷笑したり。互いにバチバチ火花を散らしながらも一緒に高みに上っていく感じが最高すぎます。
ハーモニーが美しく、ブレスのタイミングまでぴったりで、観て聴いて本当に心地よい。

大千穐楽カーテンコールで「皆様に支えられて、エリザベートの旅を終えることができました。本当に長い間、ありがとうございました。私のエリザベート、さよなら、ありがとう」とご挨拶された花總さん。
まだまだ彼女のシシィを観ていたかったし、できるのに、とも思いますが、この引き際の鮮やかさもまたお花さまらしく、心からの拍手と感謝の気持ちで送り出したいと思います。


2019年のシーズンを観ていませんので、愛希れいかさんのシシィを宝塚以外で観るのは今回が初めてでした。
しっかりとした意志があって、芯が強そうなシシィ。
ちゃぴのシシィなら若さ弾ける前半がいいかなと思っていたのですが、意外にも(といっては失礼ながら)滋味と凄みを兼ね備えた晩年のシシィもとてもよかったです。ちゃぴ、大人になったな。
花總さんの気品にはあと一歩という感じですが、長身で首が長く、凛とした立ち姿もとても綺麗。
歌唱は宝塚時代よりさらに磨きがかかった印象。力強い歌声で、地声とファルセットの差があまりないのもストレスフリーで耳に響きます。


トート
井上芳雄さんの、に”降臨”という言葉がぴったりのトート。
これまで観た芳雄さんのトートの中で一番”俺様”で、まさに黄泉の”帝王”でした。
いつも何かに苛立って怒りを抱えているようにも見え、かなりアグレッシブ。
2016年に観た時、トートとしては結構クセのある歌唱だなと感じたのですが、今回それはなくて、むしろ聴き慣れた”芳雄節”より芳雄らしくないという印象。それにつけても、楽曲ごとに声や表現が変化する歌唱、すばらしいです。

相変わらずマント捌きや所作も美しい。
「闇が広がる」のリプライズ。ルドルフの目の前に近づいて

  見過ごすのか 立ち上がれよ
  王座に座るんだ

と歌うところ、♪立ち上がれよ~ の直前で右脚をダンッと踏み鳴らしてルドルフを煽った迫力がすごくて、「何、今の?!あんなの初めて観たんだけど」とオドロキ。
後で調べたところ、やはり今回初お目見えのようで、芳雄さんの「足ドン」と界隈で言われていてちょっと笑ってしまいました。しかも甲斐翔真くんルドルフの時しかやらないらしく、私は今回ワンチャンでしたので、遭遇できてよかったと感謝。


古川雄大さんをトートで観るのは今回初めてでした。
ルドルフのイメージが強い雄大くんですが、美しいお顔立ちはそのままに体はつくって逞しくなっていて、さすが名古屋や大阪でシングルキャストとしてトートを演じた力強さを感じました。
芳雄トートに比べると喜怒哀楽の表情が豊かでわりと感情をストレートに出すトートという印象。
歌唱もずいぶん力強さを増しているものの、時折「あれ?ルドルフ?」と思える甘い声は健在でした。


フランツ
田代万里生さんと佐藤隆紀さん、フランツのお二人はともに前回拝見しています。
シシィと出会ったころの若く爽やかな、「皇帝の義務」をシシィに歌って聞かせるフランツが万里生さん、老境に入って深い哀しみを抱えつつ「夜のボート」を歌う佐藤さん、というイメージを持っていましたが、今回、その逆もまた然りで、どちらもとてもよかったです。そして二人とも歌が上手い。
特に万里生くんがかなりメイクをつくり込んで年老いたフランツを演じていたのが印象的でした。


ルドルフ
マチソワともこれがルドルフ&エリザデビューの甲斐翔真さん。
「next to normal」を観た時、「歌えるイケメンまた出てきたデ」と思った役者さんです。
本当にこのところ、背が高くイケメンで歌も上手い若い役者さん次々出てきますね。

皇太子として沈みゆくハプスブルク王朝を憂い、もがき、そして母の愛を求めているルドルフ、よかったです。
「闇が広がる」と、その後の「死の舞踊」では顔じゅうに汗を滴らせて、トートダンサーたち・・・ひいてはトートに操られている感ハンパなくて、痛々しくで観ているのが辛くなるほどでした。
歌も上手くて、芳雄トートと声、ビジュアルともにバランスがとてもよく、眼福耳福でした。


少年ルドルフ
三木治人くんと井伊巧くん。
毎回子ルドくんたちの歌声を聴くと、その上手さに感動します。
特に今回、三木治人くんのボーイソプラノすばらしかったです。
井伊巧くんは面差しが少し佐藤隆紀さんに似ていて、フランツとリアル親子でした(≧▽≦)


ルキーニ
黒羽麻璃央さん、上山竜治さんともにルキーニは今回が初役。 
どちらも歌もうまく台詞もよくて遜色ないルキーニでしたが、逆に言えば、それぞれの個性を強烈に発揮するところまでには至っていなかったかなぁという印象・・・これはあくまで私の主観ですが。
ルキーニといえば初代の髙嶋政宏sさんはじめ、山崎育三郎さん、成河さん、尾上松也さんと、超個性的な人ばかり観てきたせいもあるかもしれません。

ソワレで上山竜治さんルキーニが「自由がないと生きていけない鳥なんだ」と飛ばした鳥が客席に落ちてしまって、一瞬焦って「あー!お前!そこに置いとけ!!」とアドリブ言ってたのおかしかったです。


ゾフィー
ゾフィーもこれまで観たことがある人たち-剣幸さんと涼風真世さん。
重々しく威厳のある剣さんゾフィーに対して、表情豊かでまだまだ現役感のある涼風さんゾフィー。どちらも好きです。
涼風さんの歌唱がすばらしいのはもちろんですが、前回「歌がなぁ・・・」と思った剣さんの歌がよくなっていたのに少なからず驚き。ベテランの域に達してもずっと成長し続けられるってすばらしいです👏



シシィの母ルドヴィカと娼館の女主人マダム・ヴォルフを演じ分け歌い分けた未来優希さん。
温かくて声量豊かな歌声が、シシィを思うパパの優しさを描き出すマックスの原慎一郎さん。
凛としつつエリザベートに真摯に仕える思いを滲ませるリヒテンシュタインの秋園美緒さん。
狂気と哀しさが交錯するヴィンディッシュ嬢の彩花まりさん。
驚異のプロポーションとマネキンのような美しさで圧倒するマデレーネの美麗さん。

そういえば、♪ウィーン一の美人揃いさ マダム・ヴォルフのコレクション はこの美麗さんはじめ、山田裕美子さん、彩橋みゆさん、華妃まいあさん、ゆめ真音さんと、宝塚OGコレクションでしたね。

そして忘れちゃならないトートダンサー。
とてもアクロバティックな振付を力強く、整然とこなすダンサーさんたち。
ジャンプの高さやスピンの速さに何度も目を見張りました。
フィナーレの登場の仕方まで洗練されていてカッコよかったです。



ラストにシシィが歌う「私だけに」リプライズ。

  泣いた 笑った 挫け 求めた 虚しい戦い 敗れた日もある
  それでも 私は いのち委ねる 私だけに

これは、どんな人の人生にもあてはまること。
シシィばかりでなく、フランツもルドルフも、ゾフィーも、それぞれが時には失敗したり過ちを犯しながらも精一杯自分の信じる道を生きて、その生き様を見せてくれます。
それは、ハプスブルクの落日に生きた王家の人々であろうと、今この時代に生きている私たちだって変わりないはず。

この「エリザベート」の物語が、普遍性をもって愛され、受け容れられ、繰り返し上演されている所以だと思います。



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シシィ&トートのアクリルカードもお連れしました。
これ、劇場内にあるミニチュアフォトスポットで撮ったもの。
まるで劇場正面で撮ったよう。



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博多座公演全日程完走おめでとうございます




「エリザベート」はこれからも上演される限りずっと観たい チケ難でさえなければ のごくらく地獄度 (total 2368 vs 2367 )

posted by スキップ at 23:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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