2023年01月29日

讃えられてあれ 新たなる光よ 星組 「ディミトリ~曙光に散る、紫の花~」


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13世紀のジョージア(旧グルジア)の史実を踏まえた並木陽さんの小説「斜陽の国のルスダン」を原作に、実在の女王ルスダンの王配として生きたディミトリを主役に置き換えた作品。
スィクヴァルリ(愛)・シブルズネ(知恵)・ガンベダオバ(勇気)という名の薄紫のリラの精たちが語り継ぐ、切なくも美しい愛の物語。
とても、とても心に響きました。


宝塚歌劇 星組公演
浪漫楽劇 「ディミトリ~曙光に散る、紫の花~」
─並木陽作「斜陽の国のルスダン」より─
脚本・演出:生田大和
作曲・編曲:太田 健   音楽指揮:西野 淳
振付:御織ゆみ乃  桜木涼介  ノグチマサフミ
擬闘:栗原直樹   装置:國包洋子   衣装:加藤真美
出演:礼 真琴  舞空 瞳  瀬央ゆりあ  暁 千星  美稀千種  白妙なつ
大輝真琴  輝咲玲央  ひろ香 祐  紫 りら  音咲いつき  朝水りょう
綺城ひか理  有沙 瞳  天華えま  天希ほまれ  小桜ほのか  遥斗勇帆
蒼舞咲歩  極美 慎  碧海さりお  夕陽真輝  天飛華音  奏碧タケル
水乃ゆり  瑠璃花夏  詩 ちづる  藍羽ひより ほか

2022年11月12日(土) 1:00pm 宝塚大劇場 2階1列センター/
11月13日(日) 11:00am 2階6列下手/11月17日(木) 3:30pm 2階16列上手
11月24日(木) 11:00am 1階8列下手/11月27日(日) 3:30pm 2階16列センター
12月2日(金) 1:00pm 2階13列センター/12月4日(日) 3:30pm 1階25列上手
12月11日(日) 11:00am 1階7列センター/12月13日(火) 1:00pm 1階12列下手
2023年1月14日(土) 11:00am 東京宝塚劇場 2階7列下手/3:30pm 1階1列上手
(上演時間: 1時間35分)



礼真琴生誕祭(12月2日)のレポはこちら



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物語も音楽も衣装も、すべて美しく、繊細な脚本と演出、それに応える出演者たちの熱演。
ディミトリとルスダンの愛を縦糸に、国や宗教、それぞれの人物の思いが織りなす重厚な物語。
最初に観た時から泣いて、観るたびに泣くポイントが増えていきました。


★物語
13世紀前半 東ヨーロッパの小国ジョージアが物語の舞台。
ディミトリ(礼真琴)はイスラム教国ルーム・セルジュークの王子ですが、友好の証=人質として隣国ジョージア王国に送られ、国王ギオルギ(綺城ひか理)の妹ルスダン(舞空瞳)と幼いころから心を寄せ合っていました。ところがある日、突如来襲したチンギス・ハーン(輝咲玲央)率いるモンゴル軍との戦闘でギオルギ王が瀕死の重傷を負い、ルスダンを女王に、にディミトリをその王配となるよう遺言を遺してこの世を去ります。ギオルギ王を崇拝していた副宰相アヴァク(暁千星)はこれに反発、ディミトリはその出自ゆえに廷臣たちからも政に関わることを拒否されます。それでも、タマラ(藍羽ひより)という娘も生まれ、平穏に暮らしていた二人ですが、今度はジョージア同様モンゴルに侵略され自国を失ったホラムズの帝王ジャラルッディーン(瀬央ゆりあ)が国土を求めて現れます・・・。


上演が発表された時に原作を読んで、すべての観劇が終わってからもう一度読み直したのですが、ほぼ原作に忠実なストーリー。
台詞や歌詞も原作の語句そのままというところも多く、それらがうまく取り入れられていることにも改めて感心しました。

たとえば、トビリシの市
  農夫さえ まるで貴族さ
  貴族なら もはや王族
  王族とくれば それは王様
  豊かなるこの街 トリビシでは~

って、小説の中の一文があんなに陽気で元気な歌詞になって歌い踊るなんて!

ジャラルッディーンとの最初の登場シーンで、ナサウィー(天華えま)が「我が君の御為とあらば、いつなりと名文を書いてみせますとも」と言ってウィンクしますが、ちゃんと原作に「片目をつぶってみせた」と書いてあって、原作通りなんだ!となりました。
ちなみにここのナサウィー、とてもやわらかな物腰なのに、ジャラルッディーンが歌う曲のイントロが流れた途端、パシッとスイッチ入って戦闘的なキリッとした表情になるの、とてもよくて毎回ガン見です。


★脚本・演出・音楽
生田大和先生の原作をそのまま活かしつつ”宝塚歌劇”に仕立て直した見事な脚本と細やかな演出が冴え渡っていました。

上述したように、ほぼ原作に忠実な脚本ですが、ギオルギ王の右目が見えないことをディミトリはすでに知っていた原作に対して、舞台では戦場でアヴァクに聞かされる設定に変更されていました。
これはアヴァクの「お前が陛下の右目となり、命に代えてもお守りするのだ」からの、ギオルギ王の死後、♪お前が陛下を殺したのだ 私から陛下を奪ったのだ に繋がるよき改変だと思います。

アヴァクの役がふくらませてあるのも特徴的です。
アヴァクはダークなイメージではありますが、彼には彼なりの正義があり国を憂う思いもある。
ディミトリともっときちんと話すことができたらよかったのに、と思いますが、それはルスダンにしても同じことが言えます。
ディミトリもね、言葉少ないのよ。
それぞれに国を思い、自分に課された務めを果たそうと懸命なのに追い詰められていく姿は切なくも残酷でもあります。

ノグチマサフミさんを振付に迎えてのジョージアンダンスを採り入れた戦闘シーンは、その音楽とともにとてもカッコよくて、ディミトリはじめ兵士たちが銀橋に並ぶ冒頭から胸が高鳴ります。裾の軌跡が美しい、左回りに回転する独特な振付。群舞はもちろん、星組が誇るダンサーを揃えたピックアップメンバーのダンスも本当にすばらしくて、もっとずっと観ていかったし、あと100回ぐらい観たいと思いました。

ルスダンの戴冠式、結婚式の荘厳な美しさ。
この場面の衣装も舞台装置もとてもよかったです。


演出で特に好きだったのはディミトリがルスダンへの手紙を伝書鳩で飛ばすところからトビリシ奪還の一連のシーン。
手紙の内容含めほぼ歌で綴られますが、それを読んで「軍を出します!」と凛と命じるルスダン。「信じるのですか、これを」とアヴァク。
舞台中央に座ったルスダンの背後にディミトリが立つ形で ♪愛してゆく 愛し続ける 僕は君と 共にある 恐れることはない と歌う2人の後ろで、アヴァクをはじめ剣を持ったジョージア軍兵士たちの戦闘のダンス。
離れた場所にいるそれぞれが舞台上で交錯する、演劇ならではの展開・・・生田先生のこの演出、シビれました。
この曲が、結婚式の夜、ディミトリが初めてルスダンに「愛している」と言った時と同じ曲のリプライズというのがまたね~(涙)。


楽曲のリプライズも印象的でした。

上述したトリビシの市での明るく楽しい音楽が、「十万人の殉教」のシーンでリプライズされていて、
  鼠さえ 逃げられない
  焼け爛れた 血の匂いに
  包まれたこの街 トリビシから

と歌いながら人々が逃げまどうところが、最初の場面が多幸感に満ちていればいるほどその悲惨さが増幅されて、思わず拳を握りしめて観ていました。
この場面のディミトリ 街の悲惨な様を見て、十字を切ろうとして自分でその手を抑えてやめる、という演出が東京公演から加わっていました。

明るいトビリシといえば、初日に観た時、最初に泣いたのは、ディミトリがホラズムの使者としてジョージアを訪れた場面。
2人の子どもと対面して、初めて会うわが息子を抱いたディミトリの、「ルスダン、トビリシは美しい都だったな」という言葉でぶわっ涙があふれました。あの多幸感に満ちた明るいトビリシと2人の笑顔が思い出されて。

ここからの「トビリシはいずれ、あなたの手に帰る」「取り戻すんだ、あの美しい時を、私たちの手に」から「ああ」「私もだ」「さようなら、ルスダン」までのディミトリの台詞、声、口調がいちいちツボ過ぎて毎回号泣。

音楽のリプライズでもう一つ印象的なシーンは、アヴァクがホラズムからの書状をルスダンに報告する場面。
”お前が陛下を奪った”ソングがアヴァクのテーマソングのようになっていて、その後もアヴァクが登場するたびにこの曲が流れるのですが、この最後の場面だけは、同じ曲ながらとても静かで穏やかな演奏になっていて、アヴァクの心の成長と真摯にルスダンに仕えようとする思いを感じました。

この場面、ディミトリの死を察しながらその報告を制して
「ディミトリが戻ったら、今度こそ議会は王配の出席を認めてくれますか」と問うルスダン。
「もちろんです。お戻りになるその日まで、我々臣下一同、王配殿下に代わって陛下をお支えいたします」と応えるアヴァク。

 ・・・客席で毎回号泣(号泣多い💦)の不肖スキップ(今、これ書いていても涙出てきた)。


宝塚大劇場→東京宝塚劇場で細かい台詞の変更点がいくつかあって、私が気づいたところは以下のとおり。

・ルスダンがトリビシの市へ行こうと着替えてディミトリを誘う時「じゃん!」と衣装見せながら登場
・結婚式の夜、ルスダンがディミトリに「あなたに謝らなければならないことが・・・」と言う場面のディミトリ 「何を言う」→「何を言い出す」
・ディミトリと密偵 「ルスダンが生きるところで私は生き、彼女が滅びるところで共に滅びる」→忘れてしまったのですが言葉変わっていました
・「十万人の殉教」の場面で、ディミトリが十字を切りかけて自分でその手を抑えてやめる(上述)
・死に瀕したディミトリとジャラルッディーン「それを失う痛みが、帝王、きっとあなたにもおわかりいただけるはず」→「あなたには



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終演後に舞台に浮かぶ上がるリラの木



★キャスト

礼真琴さん ディミトリ
ディミトリはいわゆるスーパーヒーローではなく、物静かでどこか孤独な翳りがあって、周囲からの侮りや疑惑の目に囲まれて王国での立場も弱く、多分そのことに忸怩たる思いも抱えているのでしょう。それでも、ルスダンと子どもたちと、そしてジョージアという国を守りたいという強い思いが決してブレることがないディミトリ。
宝塚の主役としては難しい役どころで、従来の礼さんの持ち味とも真逆ですが、さすがに演技力が抜きん出ていて、あまり心から笑わないようなディミトリを繊細に表現。台詞の声のトーンも変えて、少年時代から運命に翻弄されて哀愁を背負った大人の男へと変容する姿をリアルに体現していました。
その時々の感情を乗せて歌う歌唱も、戦闘シーンのジョージアンダンスも婚礼の踊りも、本当にすばらしかったです。

舞空瞳さん ルスダン
こちらも明るく勝気な少女が最初は戸惑いながらも、「この命がある限りは、ジョージアがジョージアであり続けるために戦います」と言い切る女王になるまでの変化を見事に表現していました。ジョージアの民族衣装のドレスも髪型もどれもよくお似合い。
返す返すも「ディミトリをもっと信じてよ」と思わずにはいられませんが、きっと大混乱していたのだろうなぁ・・・。


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レビューショップに飾られていたルスダンの衣装のミニチュア
このブルーのドレス、本当に素敵だったな


瀬央ゆりあさん ジャラルッディーン
登場からめちゃカッコいい!
いかにも帝王といった貫録があって、勇猛果敢だけれど人の心の痛みもわかる器の大きい人物を瀬央さんが力強く演じていました。
死の間際のディミトリの言葉に、万感の思いを込めた「ああ」。あの人の腕の中で最期を迎えられたのはディミトリのせめてもの幸せだったと感じさせるわが君でした。歌唱も力強かったです。

暁千星さん アヴァク
悪役フェチのスキップといたしましては、暁さんのアヴァク 大変好みでございました。
あの”お前が陛下を奪った”ソングを銀橋渡りながら歌う時の目線や手の出し方、体の動き一つひとつに暁さんがこれまで築き上げてきた”男役”を感じました。敵の矢に倒れたギオルギ王が運ばれていく時、一番後ろからずっと左手を王の方に伸ばしていて、最後に振り返って「お前・・・」というようにディミトリを見る目線がたまりませんでした。
長身に黒い衣装もよく映えて、戦闘シーンのダンスはもちろんキレッキレ。歌も本当にうまくなったなぁと思います。

綺城ひか理さん ギオルギ王
端正で包容力があって素敵な王様。
国のため、愛する人のためを思ってバテシバを手放す思慮深さと、モンゴルの侵入に「蛮族め!」と怒りを露わにする若さが魅力のギオルギ王でした。

天華えまさん ナサウィー
この物語の中でどの役がやりたい?と聞かれたら(聞かれることなんてないけど)、「ナサウィー!」と即答するくらいナサウィーが好き。天華えまさんのつくり出したナサウィーが大好きです。飄々としたところと鋭さが共存しているナサウィー。
我が君が大好きで我が君のことを誰よりもわかっていると自負している感じ。物腰やわらかなのに、幽閉されたディミトリを助け出す時、ジャラルッディーンに殺されて目の前に倒れて邪魔になっているセルゲイを足で軽く蹴って進むところが何気にツボでした。
ナサウィーはジャラルッディーンが亡くなった時そばにいられなかったことを死ぬほど悔やんでいて、その後、ジャラルッディーンの伝記を書いた人物。「天華えまさんの役づくりはジャラルッディーン様を失う未来を内包したナサウィー」と、原作者の並木陽さんが昨年12月にTwitterのスペースで話されていて、ますます好きになりました。

極美慎 ミヘイル
タマラ王女がひと目見るなり「綺麗な人!」と言うのも納得の美しさ。
奴隷とはいえ白い衣装に金髪は反則ですよね(笑)。
ミヘイルとしては純粋にルスダンのことを思っていただけなのに、アヴァクに利用された形になってかわいそうでした。
極美くん、バウ主演を経てぐっと舞台での存在感が増した印象。歌はさらにがんばっていただきたいです。


*天華えまさんはトリビシの市の場面で楽しく歌い踊って水乃ゆりちゃんといちゃついてるし、極美慎くんはモンゴル兵でギオルギ王を狙って弓を引いてるしで、「ウォーリーを探せ」状態でなかなか楽しい・・・というか目が忙しい。


美稀千種さん物乞いの不気味さと凄み、ひろ香祐さんイヴァネのいかにも家臣の中の重鎮といった存在感と息子(アヴァク)に手を焼いてる感(^^ゞ(原作にある、ギオルギ王が酒場の喧嘩で右目を失明した時、イヴァネが情けなさと怒りでしばらく城への出仕を拒否したというエピソード好き)、大輝真琴さんエルズルム公 の空気読めない感じや、輝咲玲央さんチンギス・ハンの立っているだけで感じる威圧感。
美しい歌声を響かせるバテシバの有沙瞳さん、そして3人のリラの精たち(小桜ほのかさん、瑠璃花夏さん、詩ちづるさん)。


まだまだ書ききれませんが、本当に大好きな作品となりました。
2022年の終わりと2023年のはじめにこの作品に出会えて本当に幸せでした。



讃えられてあれ 新たなる光よ 聖なる神の加護のもと 我らを導き守り給え のごくらく度 (total 2366 vs 2365 )


posted by スキップ at 13:51| Comment(0) | TrackBack(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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