2022年10月28日

五右衛門というオールマイティ 「薔薇とサムライ2」


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2022年の劇団☆新感線  秋興行「薔薇とサムライ2ー海賊女王の帰還ー」。
2012年に上演された、天海祐希さん扮する女海賊アンヌ・ザ・トルネードがコルドニア王国の亡き国王の娘だということがわかり、女王に就くまでを描いた「薔薇とサムライ~GoemonRock OverDrive~」の続編です。

いやもうあれから12年かとため息が出る思いですが、天海祐希さんはまるで時を超越したように、アンヌとしてそこに凛と立っていました。


2022年 劇団☆新感線 42周年興行・秋公演
SHINKANSEN☆RX 「薔薇とサムライ2ー海賊女王の帰還ー」
作:中島かずき
作詞:森雪之丞   音楽:岡崎 司
振付・ステージング:川崎悦子
演出:いのうえひでのり
美術:金井勇一郎   照明:原田 保   衣装:前田文子  映像:上田大樹
出演:古田新太   天海祐希  石田ニコル   神尾楓珠  高田聖子  
粟根まこと  森奈みはる   早乙女友貴   西垣 匠  生瀬勝久
右近健一   河野まさと   逆木圭一郎   村木よし子   インディ高橋
山本カナコ  磯野慎吾   吉田メタル   中谷さとみ   保坂エマ
村木 仁   川原正嗣   武田浩二   冠 徹弥   教祖イコマノリユキ ほか

2022年10月13日(木)1:00pm フェスティバルホール 1階14列センター/
10月20日(木) 1階7列下手
(上演時間: 3時間20分/休憩 20分)



「薔薇とサムライ~GoemonRock OverDrive」(2010年)の感想はこちら


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17世紀のヨーロッパ。女海賊アンヌ(天海祐希)が天下の大泥棒石川五右衛門(古田新太)の協力を得てコルドニア王国の混乱を収め国王となって10数年が過ぎた頃の物語。
ソルバニアノッソ王国の女王マリア・グランデ(高田聖子)が隣国ボスコーニュ公国を併合。国王シャルル一世(浦井健司/映像出演)は生死不明となっており、弟のラウル(神尾楓珠)にはなす術もありませんでした。マリア女王はコルドニアの宰相ボルマン・ロードス(生瀬勝久)とも手を結び、その侵略の手はイクシタニア王国、そしてコルドニア王国へと延びていきます。
一方、南の島デルソル島で科学者ケッペル・レンテス(粟根まこと)をはじめ島民たちが兵に襲撃され奴隷として捕まえようとしていたところに五右衛門が現れ、その兵がコルドニア王国の兵士だと気づいて、アンヌの真意を確かめるためコルドニアに向かいます・・・。


最初から敵味方がはっきりしていて、こうなるだろうなと思う通りに展開する勧善懲悪ストーリー。
「海賊女王の帰還」とサブタイトルがついているので、「アンヌがまた海賊に戻るというお話なのね」と観る前から予想していたまんまだし(まぁ、想定していたよりは遅かったけれど)、最初はマリア女王側だったラウルがやがてアンヌ側に付くだろうというのもお約束どおり。
ヨワヨワのマクシミリアン(早乙女友貴)本人とは別次元のキレッキレの殺陣を見せるムッシュ・ド・ニンジャは「どーせ五右衛門の変装でしょうよ」と思っていたらその通りだったし。
しいて言えば粟根まことさん扮するケッペルが最後までいい人だったことぐらいが意外なところかな(笑)。


初演の時にも思った「切なさが足りない」というのは今回も同様で、それはこのシリーズの特徴でもあるのでよしとして、今回特に感じたのは「五右衛門というオールマイティの存在が物語の深みを邪魔している」ということです。
このシリーズの五右衛門は、物語の当事者ではなくてあくまでも傍観者で助っ人的立ち位置。
自ら何かに立ち向かうとか、誰かを討ち果たしたいと強く思っている、ということはありません。
そんな五右衛門ですが、剣の腕が抜群に強いのはもちろん、いつもすべてお見通しで彼の中ではいろんなことがわかっいて、あらゆる人やモノに軽々と変装もできちゃう。たとえ「猪さえ仕留める吹き矢」で気絶させられて牢屋に捕えられても「牢を抜け出すなんて訳ねぇんだがちょっと様子を見るためにおとなしくしてた」とご本人がおっしゃるように、まるでピンチというものがありません。

だからノリノリの音楽でワクワクすることはあっても、ストーリーにドキドキすることは決してありません。
「五右衛門なら大丈夫だろう」「五右衛門が何とかするんじゃない?」と思えてしまうのです。
ある意味、「水戸黄門」的な?(笑)
これが、「薔薇とサムライ 再び」とこの公演が発表された時に私が今イチもろ手を挙げて喜べなかったところだなぁと、観てよくわかりました。
せっかく天海祐希さんと古田新太さんが共演するのであれば、心ならずも敵味方に分かれて命の取り合いをするとか、どうしても抗えない運命の糸に操られるとか、そういう物語を観せてくれたらいいのに・・・ほんともったいない。

・・・そんな小難しいこと考えずに気楽に楽しむ作品なのでしょうけれど、だとすれば、ここ数年薄々感じていたことですが、”楽しい新感線”のノリには私はもうついていけなくなっちゃったかなぁと、少し寂しくもなりました。

とはいうものの、楽しくなかったかというとそんなことは決してなくて、2回ともとても楽しく拝見したのでした。
そうそう、二幕冒頭のパロディ。
イントロ流れた瞬間爆笑してしまったのですが(周り誰も笑ってなかったけど💦)、帝劇でエリザやっているこのタイミングで「最高のタンス(箪笥)」って、怒られないのか(笑)。
「犬顔家の一族の陰謀」の「お湯にのぼせる」とか「蒼の乱」の「クルミ」とか、いのうえさん、ほんとエリザ好きですよね。


初演もそうでしたが、この作品は「天海祐希ありき」なので、天海さんはとにかくカッコいい。
求心力があって本当に舞台の真ん中に立つのが似合うスターさん。
いのうえひでのりさんは天海さんをどうカッコよく見せるかを知り尽くしていて、それに200%応える天海さん。
お顔が美しいのはもちろん、立ち姿、所作、しなやかな指先まで、動き一つひとつがとても綺麗で洗練されています。
大きく声を張っても明瞭に聞こえる台詞もすばらしい。
歌と殺陣はまぁアレですが、そんなこと補って余りある華が満ち溢れています。

話題の男装については・・・
「それほど?」というのが初見の正直な感想。
もちろんとても素敵なことは言うまでもありませんが、観る前に「天海さんの男装」という情報をうっかり見てしまったためにハードルを上げ過ぎてしまった感は否めず、現役時代の天海祐希はこんなものじゃなかったとも思い、日ごろから現役ジェンヌさんたちの超絶スタイルの男役や黒燕尾を見慣れているせいもあるかもしれません。
ただ、「もう何?」とマリア女王をじらす仕草や視線、そして最後の投げキッスはマリア女王でなくても「きゃあ~」と言いたくなります。

総じて、天海さんが一番お似合いだったのはやはりあの海賊のコスチューム(マント捌きも含めて)だったかと。
あと、世の演出家さんたちは、天海さんに限らず男役スターのファンは、退団後に必ずしも男役の扮装をすることを求めている訳ではないことをそろそろわかっていただきたいです。

石川五右衛門の古田新太さん。
もうすっかり手の内のお役で五右衛門が古田か古田が五右衛門かという感じ。
ここ数年の作品の中ではかなり動いていた方ではないかしら←
千穐楽のカーテンコールで天海さんが「12年ぶりにやれてうれしかったですよ」とおっしゃった時、「その間に俺は3回五右衛門やってる」と応じてらしたの、おもしろかったな。

マリア・グランデの高田聖子さんとボルマン・ロードスの生瀬勝久さんがさすがに上手い。
悪役の存在感がないと勧善懲悪ものは成立しませんので、この二人の力量が物語を支えていたと思います。
マリア女王もボルマンもちょっと抜けたというか可愛らしい人間味があるのもよかったです。

10月13日 カーテンコールで古田さんが「皆さん 特別な回にようこそ」と話し始めるので「何ごと?」と思ったら、生瀬勝久さんのお誕生日でした。
「48歳になりましたー!」と言って古田さんに睨まれて、「62歳になりました」と言い直していらっしゃいました。
「皆さん 生瀬さんの誕生会にようこそ」と古田さん。
会場盛り上がって拍手👏👏
「うれしいねぇ。中には祝ってない人もいるかもしれませんが」と生瀬さん。
「誕生日なのに足ぐねっちゃって」とおっしゃっていました。劇中「わずかな段差でぐねった」とボルマンが言ってたの、ガチだったらしい(笑)。

イクシタニア王国の王でアンヌに才能を見込まれて側に仕えるロザリオの石田ニコルさん。
当初キャスティングされていた広瀬アリスさん降板のための代役ですが、最初からニコルちゃんにあて書きでは?と思えるくらいハマっていました。
ミュージカル「FACTORY GIRLS」(2019年)で拝見していましたので歌が上手いのは知っていましたが、「くっきりした目鼻立ちの黄色い小娘」とボルマンに言われる可愛らしいお顔とキビキビした動き、口跡よい台詞にも好感。

ロザリオの幼なじみでボスコーニュ公国の第二王子ラウルの神尾楓珠くんと、エリザベッタ(森奈みはる)の息子で騎士のベルナルドの西垣匠くん。
いやまた知らない若いイケメンが出てきたデという感じ。
神尾くんは中山優馬くんに面差しが似てるな。
このお二人より、映像でチラチラ出てくるシャルル王子こと浦井健司さんの方が印象強いのは初演の呪縛でしょうか(≧▽≦)

早乙女友貴くんはマリア女王の息子で母の圧に引きこもりがちのマクシミリアン王子。
最初誰だかわからなかったよ(笑)。お芝居上手くなったね、友貴くん(どんな上から目線)。
ロザリオやベルナルドたちと民たちがイクシタニア王国を脱出してコルドニアに向かう国境で、川原正嗣さんハビル将軍率いる軍隊に囲まれて・・・となった時にまるでスローモーションのような殺陣で、「そんなユルユルの剣さばきではハビル将軍一人にだってとても歯が立たない」と思っていたところに現れるムッシュ・ド・ニンジャこと友貴くんの殺陣がキレッキレで、「そうよそうよ!こうでなくっちゃ!」と手を叩いた次第です。

RXお約束のヴォーカル担当は、冠徹弥さん、教祖イコマノリユキさんの二枚看板に山本カナコさんを加えたトリオで迫力の歌声。
カナコさんの歌声大好きなのでたくさん聴くことができてうれしかったです。


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フェスティバルホールの真紅の階段の下からと上から そして入口



→ 千穐楽カーテンコールにつづく

posted by スキップ at 23:47| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
わたくし、東京公演の初日、吉田メタルさんのお誕生日に見てきました!演舞場の3階2列からでしたが、ほぼセンターでしたし、気楽に思い切り楽しんできました。
殆ど情報ナシの状態で行ったので、うわっ、キャァァ。10月半ばに「エリザベート」も見てましたから、余計に。

五右衛門の存在が「水戸黄門」的。なるほどー。だから安心して笑って見てたんでしょうか。
生瀬さんや聖子さん、粟根さん、流石でしたね。吟遊芸人(でしたっけ)の歌も迫力で堪能しました。時にはこんな頭をカラッポにする観劇もエネルギー源、と思った次第です。
Posted by きびだんご at 2022年11月04日 00:40
♪きびだんごさま

東京初日のご観劇を楽しまれたとのコメント
うれしく拝読いたしました。
メタルさんのお誕生日もお祝いできて何よりでした。

そうなのですよねー。小難しいこと考えずに
楽しんだもの勝ち!な舞台は元気のモトですね。
しかも主役がとびきりカッコイイとくればなおさらです。

生瀬さん 以前は熱演が too muchな印象で
いささか苦手だったのですが、齢を重ねられて
いい感じにゆったりもされてきて、かく言う私も
歳とって寛容になって(?) 波長が合うように
なった気がしています。

>吟遊芸人(でしたっけ)の歌

吟遊旅団ですかね(≧∀≦)
本当に迫力のヴォーカルでしたね。
あれを劇中で楽しめるのもRXならではと思います。

東京の千穐楽観る予定で、まだ1ヵ月も先ですが、無事に走り抜けられますよう心から祈っています。
Posted by スキップ at 2022年11月05日 01:05
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