2022年10月16日

合言葉は小劇場のごとく 「阿修羅のごとく」


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原作は向田邦子さんの”小説”ではなく、1979年にNHKで放送された”テレビドラマ”。
2003年には森田芳光監督で映画化され、何度か舞台化もされているそうですが、私はタイトルは知っていたもののドラマも観たことがなく、今回初見でした。


モチロンプロデュース 「阿修羅のごとく」
作: 向田邦子
脚色:倉持裕
演出 :木野花
美術:杉山至   照明:佐藤啓   衣装:戸田京子
出演:小泉今日子  小林聡美  安藤玉恵  夏帆  岩井秀人  山崎一

2022年10月10日(月) 12:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
舞台上特設席 中央3列
(上演時間: 2時間)



それぞれ独立して実家を離れて暮らす竹沢家の四姉妹。
ある日、三女・滝子(安藤玉恵)から話したいことがあると電話で招集され、実家に四人が集まります。
滝子は70歳になる父親に愛人らしき女性がいることを人物といるところを目撃し、興信所の探偵・勝又(岩井秀人)に父の身辺調査を依頼したのでした。母親に知られることなく父に浮気を解消させようと策を練る姉妹ですが、それぞれに悩みや問題も抱えていて、

長女 綱子(小泉今日子):夫亡き後、息子も独立し一人暮らし
             華道の師範として毎週花を生けに行っている料亭の主人と不倫関係にある
次女 巻子(小林聡美): 中高生の2人の子を持つ専業主婦 サラリーマンの夫の浮気を疑っている
三女 滝子(安藤玉恵): 図書館の司書。独身で恋人はおらず一人暮らし
四女 咲子(夏帆):   喫茶店でウェイトレスとして働き、家族には内緒で無名のボクサーと同棲している

          

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舞台上にも客席が組まれ、四方を囲む形のセンターステージ。
私は中央ブロック(画像の上方の緑部分)だったのですが、普段の客席(下のピンク部分)と正対する形で、「あぁ、舞台上の役者さんたちからは客席はこんなふうに見えているのか」と新鮮でした。


舞台の四隅には小さな台。
開演時間になると黒衣の拵えをした2人が現れ、歌舞伎の柝のような音が鳴り響く中、その台に一つずつ、昔ながらのダイヤル式の黒電話を置いていきます。最後の一つは赤い公衆電話でした。
さらにいくつかの正方形や長方形の骨組みだけみたいなものが舞台のあちこちに置かれて、開演です。

滝子が姉妹に電話をかける場面から始まりますが、4人同時に電話の前に立って話すのにきちんと交通整理されていて会話として聞こえるところにまず感心。舞台ならではの演出だなぁと思いました。
姉妹たちはとにかくよく電話をかけて話します。
骨組みのセットは、黒衣さんや時には役者さん自ら動かしてある時はダイニングテーブルになったり、椅子になったり。
舞台のまわりは街中に見立てられた通路になっていて、役者さんたちがここを歩いたり走ったり。
オープンスペースになった舞台上で、枠組みだけの扉が現れて、綱子や滝子の家だったり、料亭だったり公園だったりと見立ての世界が展開して、これも演劇ならではと、観ているだけでワクワクしてきました。

演出の木野花さんは舞台の空間を相撲の土俵に見立てているのだそうです。
だから観客も四方から”四姉妹の女の闘い”を見守る形なのですね。
そういえば綱子が自分の名前を説明する時「横綱の綱よ」という台詞がありました。
「せめて綱引きの綱ぐらいにしときなさいよ」と滝子に窘められていましたが(^^ゞ

そして、「合言葉は『小劇場のごとく』」なのだとか。
美術、照明、音楽総動員で、演劇ならではの「阿修羅のごとく」をつくり上げたそうです。


お話はいかにも「ザ・向田邦子」ワールドで、こんな修羅場~💦と思ったり、そこまで言う?というような、相撲というか、まるで刃物で切り付けるような台詞のやり取り。
それでも随所に笑いが散りばめられ、姉妹は互いを思いやり、父や母を思いやっているのがじんと伝わってきます。
私はひとりっ子で、こんな姉妹の距離感が微笑ましくもちょっぴり苦手かなとも思ったり、いややっぱりうらやましかったな。
「年老いた父に愛人がいた」という自分たちとそっくりな状況を新聞の投書欄に寄稿したのは(四姉妹のうち)誰か?というオチもいかにも向田邦子さん。


役者さんは男女ともそれぞれ二役を演じていて、登場人物は12人。
これが皆とんでもなく上手い。

ずっと着物で通した綱子の小泉今日子さん。
いかにも自由奔放で言いたいことを口にするタイプの女性ですが、ズルズル続けていた料亭の貞治との関係をキッパリ断ち切るところ、カッコよかったです。
もう一つの役は、四姉妹の母ふじ。
一瞬の出で台詞もなく顔も見えなかったせいもあって、当日いただいた配役表を後で見て気づいたくらい、立ち姿、佇まいから別人でした。

小林聡美さんは良妻賢母で保守的で綱子とは対照的に心の中のことをあまり口にしない巻子と、正反対に夫の不倫相手に堂々と向き合う料亭の女将・豊子。
豊子さんはコミカルなつくりでしたが、強気の影に見え隠れする涙がいじらしくも可愛かったです。

幼いころから成績もよくて生真面目でお堅い性格の滝子と、ボクサーの陣内の浮気相手でいかにもギャルなマユミをこれまた見事に演じ分けた安藤玉恵さん。
滝子と勝又の不器用な恋が微笑ましかったです。

末っ子の咲子は夏帆さん。
陣内の減量を気づかって自分も食べずにいたのに浮気されて泣き笑いしながらラーメン食べるシーン、凄みありました。
もうひと役は父の愛人の女性。これも小泉さんの母役同様、別人でした。

山崎一さんは、巻子の夫・鷹男と綱子の不倫相手・貞治。
この2人が別人なのはもちろんですが、家の中ではスエットみたいな服装でサエないおじさんな感じの鷹男が、外ではパリッとスーツ着たサラリーマンで姿勢や所作も違っていて、”家の内外”もきちんと演じ分けているのさすがという他ありませんでした。

興信所の勝又と咲子の同棲相手のボクサー・陣内の岩井秀人さん、
少し気弱な勝又が公園の向こうとこちらでスケッチブックに言葉を書いて告白するシーンは胸が熱くなりましたし、結果が出せなくて苛立つ陣内のヒリヒリした感じもとてもよかったです。
岩井さんって元ひきこもり?だし弱弱な印象ありますが、腕とか結構筋肉あるのねーと思って観ていたら、この役のために肉体改造して筋肉つけたのだとか。すばらしい👏


よき原作、よき脚本、よき演出、よきスタッフ、そしてもちろんよき役者さんが揃った、とてもよき舞台でした。


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TVドラマと映画のキャスト調べたたら、四姉妹がまぁさもありなんという豪華キャストでしたので、備忘メモとして残しておきます。
       1979ドラマ    2003映画
長女 綱子: 加藤治子      大竹しのぶ
次女 巻子: 八千草薫      黒木瞳
三女 滝子: いしだあゆみ    深津絵里
四女 咲子: 風吹ジュン     深田恭子




大千穐楽カーテンコール キョンキョンが黒衣さんまで呼び入れて、みんなで手を繋いて笑顔 のごくらく度 (total 2342 vs 2347 )


posted by スキップ at 20:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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