
礼真琴さんが千秋楽のご挨拶でおっしゃっていた”愉快な仲間たち”-星組のもう一方のチーム。
華やかなビジュアルで早くから注目されてきた星組100期期待の若手 極美慎さん。満を持してのバウホール初主演。
さらには、熊倉飛鳥先生 演出家デビュー作です。
宝塚歌劇星組 バウホール公演
ミュージカル 「ベアタ・ベアトリクス」
作・演出:熊倉飛鳥
作曲・編曲:太田 健 多田里紗
振付:御織ゆみ乃 百花沙里
擬闘:清家井一斗
装置:木戸真梨乃 衣装:薄井香菜
出演:極美 慎 小桜ほのか ひろ香 祐 朝水りょう 澪乃桜季
七星美妃 朱紫令真 碧海さりお 天飛華音 奏碧タケル
水乃ゆり 瑠璃花夏 麻丘乃愛 大希 颯 ほか
2022年9月13日(火) 3:00pm 宝塚バウホール 5列下手
(上演時間: 2時間30分/休憩 25分)
物語の舞台は19世紀半ばのロンドン。
ロイヤル・アカデミーの画学生ロセッティ(極美慎)は因習にとらわれたアカデミーの美術観に反発し、神童と名高いエヴァレット(天飛華音)、親友のウィル(碧海さりお)たち仲間とともに「プレ・ラファエライト・ブラザーフッド(前ラファエル兄弟団)」を名乗り創作活動を始めます。ある日、帽子屋で働く娘リジー(小桜ほのか)と恋に落ち、彼女をモデルに描くようになります。詩人ダンテを崇拝し、その著書『新生』に登場する理想の女性・ベアトリーチェを求めていたロセッティにとって、リジーはまさに「ベアトリーチェ」でしたが、エヴァレットがリジーをモデルに描いた「オフィーリア」のすばらしさに衝撃を受け、エヴァレット才能に嫉妬し、リジーとの関係にも溝が生まれてしまいます。そんな時、芝居小屋の女優ジェイン(水乃ゆり)に魅了されたロセッティは、彼女にモデルを依頼。その絵が高く評価されたことで、ロセッティは次第にジェインに夢中になって・・・。
美術方面には疎くて、ロセッティの名前はかろうじて知っている、ミレイ(エヴァレット)は「落穂拾い」のミレーとは別人だよね、というくらいの知識しかありませんでした。
「ベアタ・ベアトリクス」という彼の代表作も、ひろ香祐さんが「出来れば『ベアタ・ベアトリクス』や『オフィーリア』の絵をご覧になってから観劇されることをおススメします」とスカステの番組でおっしゃっていたので、検索して見てみましたが、初めて見るものでした。
ですから”前ラファエル派”のことも、リジーとの愛憎も、ミレイとの確執も、もちろんミレイのスキャンダルも、全く知らずに観ましたが、史実に基づき、芸術の香りが立ち昇るような舞台はとても見応えがあって、おもしろく拝見しました。
演出も素敵で
たとえば、冒頭、喪服のような黒っぽいドレスの女性が一人佇み、教会の鐘の音が聞こえます。そこへ男性が現れ、2人の会話から、ここが「あの人」のアトリエで、この女性をモデルにここで絵を描いていたあの人はもういない・・・。
終幕にこの同じ場面の続きがあって、それを観る時には私たちはこの女性がジェインで、男性は夫のモリス、亡くなったのはロセッティだとわかっているという構成です。
説明台詞一切なくても物語の終わりで同じ景色がちゃんと意味がわかって見える、すばらしい。
冒頭と終幕に繰り返されるのは、次に続く場面のそうで、プロローグ 1848年ロンドンの街で、いろんな人たちがわちゃわちゃと出入りする中でロセッティとリジーが出会うところが、ラストにもう一度リプライズされて、現実にはロセッティもリジーももうこの世にはいないのだけれども、明るく笑う2人で終わるというエンディングは、「ロミオとジュリエット」の天国のデュエットダンスを思わせるような場面となっていました。
前半はロセッティたち「前ラファエル兄弟団」とエヴァレットが出会い、仲間となり、エヴァレットが彼らに絵画の技術を教えながらともにロイヤル・アカデミー展を目指す(そこで絵が売れることが退学にならないための条件)ところが楽しく描かれていて、ここが明るく楽しいだけに、後から訪れるロセッティとエヴァレットの確執が切ないものとなります。
「リジーをモデルに絵を描きなさい」とラスキン(ひろ香祐)に勧められ、悩みながらも「オフィーリア」を描き上げて名声を手に入れるエヴァレット。
その絵のすばらしさ、エヴァレットの才能に打ちひしがれたロセッティ。
「オフィーリア」が評価され名声を手にするエヴァレット。
芸術は図らずも2人の友情を引き裂くことになり、兄弟団を解散し、仲間たちと別れオックスフォードで壁画の仕事をするロセッティ。
甘やかな青春の終わりが切ない。
ロセッティは踊り子のジェインと出会い、酒と女に溺れ、ジェインをモデルに絵を描くようになり、そのことで心を病んだリジーは自殺。
一方のエヴァレットは画家として順風満帆の道を歩むと思いきや、心に屈折を抱えたまま、ラスキンの妻・エフィー(瑠璃花夏)の苦しみを知り、共感して駆け落ち。そのために絵画の世界から姿を消すことになります。
「ドロドロじゃん。重い話だなぁ」とここまで観て思いましたよね。
エヴァレットとエフィーとの駆け落ちも史実ということですが、花組「巡礼の年」のリストとマリー・ダグー伯爵夫人との駆け落ちを思い出しました。ロンドンとパリで場所は異なりますが、ともに19世紀前半から半ばで時代も重なり、当時の芸術界には結構起こり得ることだったのかな。
心身ともにボロボロの中、自らの絵画への情熱とリジーを愛する心を取り戻し、命を削るようにして「ベアタ・ベアトリクス」を描き上げるロセッティ。
凄まじい人生だったんだなぁ。
エヴァレットが病床のロセッティを見舞って語り合うシーンが印象的ですが、私は観た日は天飛華音さんがポロポロ涙をこぼしながら話していて胸がきゅっとなりました。
先述したとおり、ラストは冒頭の明るいシーンのリプライズで、ロセッティもリジーも、エヴァレットもウィルも笑っていて、あの頃のように希望に目を輝かて、 We will make it きっとやり遂げる と歌って終幕を迎えるの、とてもよかったです。
ロセッティの極美慎さん。
満面の笑顔で颯爽と登場するプロローグから華やかさ全開。
長身小顔でどんな衣装もよく似合い、あの難しそうな長髪も難なくクリア。
ロセッティの喜怒哀楽を丁寧に演じて好感。
口跡はまだ甘さが見られますし、歌もダンスももっと、と思わなくもないですが、類まれなるスターの原石を改めて印象づけました。
リジーは小桜ほのかさん。
これまでにもヒロイン経験があり、演技も歌も高値安定。
あまり出過ぎず、リジーのかわいらしさや慎ましさ、そして苦悩を描き出していました。
もう一人のヒロインとも言えるジェインは水乃ゆりさん。
とてもよかったです。こんな個性が強い役は初めてかな?
強めのメイクも、妖艶なダンスもとても魅力的でした。
エヴァレットは天飛華音さん。
天才肌で自信満々の芸術家と思いきや、実は絵のこと以外は何も知らない生真面目な青年という役どころがピタリハマっていました。
歌はうまいしダンスはキレッキレ、左サイドにたらした金髪もよくお似合いでした。
華音くんも遠からぬ将来、バウ主演する人だと思います。
ウィルは碧海さりおさん。
ロセッティやエヴァレットのような才能はないけれど、誠実で友だち思いでいつもロセッティのことを心配していて生涯変わらず寄り添うウィル。碧海さん、とてもうまくて、ウィルってほんとに心が温かくていい人なんだなと思わせてくれました。台詞も歌も明瞭。
批評家のラスキン ひろ香祐さんもさすがの実力で頼もしい限り。
台詞の声がよくてとても聴き取りやすい。
初日映像で、長として立派にご挨拶するのを観て、95期もそんな学年になったんだと感慨深かったです。
ラスキンの妻でエヴァレットと駆け落ちすることになるエフィーは瑠璃花夏さん。
薄幸の人妻といった位置づけですが、悲劇的になり過ぎず、エヴァレットを誘惑するというのでもなく、自然に心が寄り添う感じなのがよかったな。るりはなちゃん、美人さんで歌もお上手なので、もっと活躍していただきたいです。
ロセッティの父・ガブリエーレの朝水りょうさんは、ロセッティの過去の苦悩として存在するような役でしたが、出番も台詞もそれほど多くなくてもあふれ出る色気。
ロセッティの弟子でやがてジェインの夫となるウィリアム・モリスを演じたのは105期の大希颯さん。
冒頭から出てくる大役ですが、抜擢に応えて存在感を放っていました。
若いけれど台詞がしっかりしているのと、長身で端正なお顔も強みだと思います。
少し雰囲気が似ている奏碧タケルさんは今回ダンテの幻影や帽子屋の役で少しワリを食っちゃったかなぁ。こちらも端正で力のある男役さんなので役に恵まれてほしいです。
そしてこの公演を最後に退団する麻丘乃愛さんがロセッティのしっかり者の妹クリスティーナ。
最後にかわいらしいお顔をたっぷり見られて、台詞も聴けてよかったです。
ご卒業おめでとう!
千秋楽映像観ました。
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