
八月納涼歌舞伎 第二部は明治初期に実在した脱獄事件をもとに人間ドラマと、澤瀉十種の舞踊。
幸四郎さんが濃厚接触者となって出演できなかった2日間、猿之助さんが「浮世風呂」に出演しながら「安政奇聞佃夜嵐」で幸四郎さんの代役を勤めるというスーパーぶりを発揮されていましたが、私が観た日は幸四郎さん無事復帰されていました。
八月納涼歌舞伎 第二部
2022年8月25日(木) 3:00pm 歌舞伎座 1階2列上手
一、安政奇聞佃夜嵐(あんせいきぶんつくだのよあらし)
佃島寄場島抜けより甲州金鉱洞穴まで
原作:古河新水
脚色:巖谷槇一
補綴・演出:今井豊茂
出演:松本幸四郎 中村勘九郎 中村米吉 中村隼人
中村玉太郎 市川猿弥 澤村由次郎 市村萬次郎 坂東彌十郎 ほか
(上演時間: 1時間23分)
物語:安政5(1858)年、人足寄場で苦役の日々を過ごす青木貞次郎(幸四郎)と神谷玄蔵(勘九郎)。
元は甲州の侍であった貞次郎は、武田信玄の埋蔵金を巡り殺された両親の仇を捜しています。玄蔵に焚きつけられて二人は佃島から隅田川を渡って脱獄を果たします。故郷の甲府に向かった貞次郎が笛吹川の渡し守義兵衛(彌十郎)に舟を出して欲しいと頼むところに帰ってきた義兵衛の娘おさよ(米吉)は生き別れになった貞次郎の妻でした。そこへ木鼠清次(隼人)が現れ、貞次郎を殺そうとしますが、貞次郎の返り討ちにあい、今わの際に貞次郎の父を殺したのが玄蔵であることを告げます・・・。
明治の初めに実在した脱獄事件をもとに、大正3(1914)年に古河新水(十二世守田勘弥)が時代設定を世情不安定な安政期に改めて書き下ろした世話物。
35年ぶりの上演で、初演は六代目菊五郎と初代吉右衛門で、今回は二人の曾孫である幸四郎さんと勘九郎さんでの上演となるそうです。
最初の見せ場は、貞次郎と玄蔵が隅田川を泳いで渡って足抜けする場面で、泳げない玄蔵を貞次郎が助け、四苦八苦しながら川を渡る様子が浪布を使った演出で笑いを交えて描かれます。
浪布は歌舞伎ではよく見かける演出ですが、本当に溺れかけているようにも見え、役者さんの演技も、浪布を操る裏方さんたちのワザも凄いと改めて思いました。
そんなふうに助けられて、貞次郎のお陰で命からがら足抜けした玄蔵だったのに、あんなワルだったとは。
木鼠清次と2人の場面で、正体を露す勘九郎さん玄蔵の変り目が鮮やか。
面差し、表情はもちろん、声も別人のようでした。
どちらかといえば好青年のイメージが強い勘九郎さんですが、あの冷酷な目、たまりませんね。
元は武士だった人が人足寄場送りになるまではどんな辛酸があったのだろうと虚無的な暗い目をして凄味のある悪党という印象だった幸四郎さんの貞次郎が、別れた妻子と再会して人間らしさを取り戻していく様が玄蔵と対照的。
降りしきる雪の中、義兵衛の漕ぐ舟に乗って旅立つ場面は胸に迫りました。
玄蔵が埋蔵金を独り占めしようとしているところへ貞次郎が現れ、2人で命の取り合いをしているところへ、猿弥さん率いる捕手がやって来て三つ巴の大立ち回り。
結局2人とも捕らえられてお縄となり、前後に並んで引っ立てられつつ互いに罵り合いながら花道を捌けていくというラストが何ともシュール。
貞次郎が仇を討ってめでたしめでたしじゃないのね(^^ゞ
薄幸が着物着ているようなおさよの米吉さん、気骨のある渡し守義兵衛の彌十郎さん、イケメンのワルって色っぽいよね、な清次の隼人さん、短い出ながらくっきり印象に残る飯屋女房お米の萬次郎さん・・・脇も充実で濃厚な一幕でした。
二、澤瀉十種の内 浮世風呂
作:木村富子作
出演:市川猿之助 市川笑野
(上演時間: 23分)
明け方の風呂屋「喜のし湯」で三助政吉(猿之助)が、せわしなく働いているところへ女の姿をしたなめくじ(笑野)が現れ、三助を口説きにかかります・・・。
三助となめくじの舞踊。
なめくじは本来、市川團子さんの予定でしたが休演で笑野さんが代役。
少し大人っぽいなめくじになっていなのでしょうか。
少し儚げな雰囲気もあって、色っぽいなめくじでした。
もちろん踊り巧者の猿之助さんですが、猿之助さんの踊りは自由度が高いというか、自身の裁量?で踊っている部分が多いと日ごろから思っていて、この三助がそんな猿之助さんにぴったりでまさに独壇場。
柔らかで軽やかで愛嬌があって、ずっと観ていたい舞踊でした。
いつかもう一度、團子くんと踊ってほしいな のごくらく地獄度



