2022年07月30日
七月大歌舞伎 夜の部
松竹座 七月大歌舞伎 夜の部はかぶりつきで堪能。
松竹座の1列って、やっぱりとても舞台が近い。
ご体調が悪くて初日から休演されていた仁左衛門さんも7月14日から復帰されて、めでたやなの観劇となりました。
関西・歌舞伎を愛する会 第三十回
七月大歌舞伎 夜の部
2022年7月18日(月) 4:30pm 松竹座 1階1列センター
一、堀川波の鼓
作:近松門左衛門
脚色:村井富男 演出:大場正昭
出演:片岡仁左衛門 片岡孝太郎 中村勘九郎 中村壱太郎
片岡千之助 中村寿治郎 片岡松十郎 中村亀鶴 中村扇雀 ほか
(上演時間: 1時間25分)
物語:主の小倉彦九郎(仁左衛門)が殿の参勤交代に従い隔年の江戸詰めを余儀なくされる中、妻お種(扇雀)は夫を恋しく思いながら家を守り、養子とした実の弟 文六(千之助)に鼓を習わせていました。ある夜、お種は文六の鼓の師匠である宮地源右衛門(勘九郎)とふとしたきっかけで関係を結んでしまいます。噂が広く知れ渡ってしまい、お種の妹お藤(壱太郎)が何とかしようと腐心する中、彦九郎の妹おゆら(孝太郎)が証拠の小袖を持って彦九郎に真実を告げます。お種は自ら命を絶ち、彦九郎は愛おしい妻に羽織を着せかけて忍び泣くのでした。
初見でした。
すっごい昼メロみたいな話だな(実際には昼メロってちゃんと観たことないのだけど)と思いながら観ていたのですが、不義はすなわち死に結び付く時代のこと、悲しい結末が待っているのだろうなと思っていたら、その通りになってしまいました。
冒頭からおのろけ全開で彦九郎を心から愛おしく思っているように感じられるお種が、お酒の勢いもあったとはいえ、宮地源右衛門とあんなことになってしまうのは、人間の心の複雑さを見る思いでした。その前にやってきた磯部床右衛門(亀鶴)には毅然とした態度をとっていたところを見ると、源右衛門には最初から好感は持っていたとも思えますが。
お種が自害していなかったら、自らの手で斬ることになったであろう彦九郎が、悲しみの中、「(京へ逃げた)宮地源右衛門を追って参る!」と言い放つところでは、「あぁ、勘九郎さんも殺されるんだ」と思いつつ、不義密通といえばとかく女性だけが責められがちな印象がある中、ちゃんと相手の男の方も責めを負うあたり、さすが近松門左衛門先生と感心もしたのでした(そこ?(≧▽≦))
苦渋を滲ませた仁左衛門さんの彦九郎、休演明けとは思えないすばらしさでした。
いつもながら声も口跡もよくて台詞がよく届くので、彦九郎の悲しみや切なさがより一層伝わってきました。
仁左衛門さん休演中はこの役を勘九郎さん、宮地源右衛門を中村隼人さんが代演されていたのですが、若いお二人がそれぞれどんな風に演じていらっしゃったかも、観てみたかったです。
代役といえば、松之助さんが休演となったため、浄心寺の僧覚念は松十郎さんが代役をされていて、個人的にはちょっとご馳走でした。
二、祇園恋づくし
中村鴈治郎 松本幸四郎 二役早替りにて相勤め申し候
作:小幡欣治作
演出:大場正昭
出演:中村鴈治郎 中村勘九郎 中村壱太郎 中村虎之介
中村隼人 中村七之助 松本幸四郎 ほか
(上演時間: 1時間40分)
物語:京都三条で茶道具屋を営む大津屋の主人 次郎八(鴈治郎)の家に、若い頃江戸で世話になった人の息子で江戸の指物師 留五郎(幸四郎)が泊まっています。留五郎は言葉もわからない京になじめず、江戸へ帰ろうとしていましたが、次郎八の妻おつぎ(鴈治郎二役)から次郎八が浮気をしているかもしれないので調べてほしいと頼まれ、京にとどまることにします。そんな中、おつぎの妹おその(虎之介)に一目ぼれした留五郎は、おそのから一緒に江戸へ連れて行ってほしいと言われ有頂天になりますが、実はおそのは手代 文吉(隼人)と駆け落ちするつもりだったのです。
一方、次郎八はおつぎの推測通り、ひいきの芸妓 染香(幸四郎二役)に熱を上げていますが、染香は他に気がある人がいる様子。祇園祭の山鉾巡行の日、次郎八と留五郎は持丸屋太兵衛(勘九郎)に鴨川の床へ招かれます・・・。
この演目は2015年の納涼歌舞伎で扇雀さんの次郎八、勘九郎さんの留五郎で観ました(こちら)。
今回松竹座の演目発表で一番目が吸い寄せられたのが、「指物師留五郎/芸妓染香: 幸四郎」
芸妓染香 染香って七之助くんがやった役やん!
べっぴんさんでちゃっかりさんの芸妓さんやん!!
あの役を幸四郎さんがっ!!!
と俄然前のめりになりました。
期待に違わず、幸四郎さんの染香さんは、綺麗な姐さんで、明るくてちょっとおとぼけで、とても魅力的でした。
もちろん留五郎も素敵でした。
早口でまくしたてるべらんめぇ調でキレのいい江戸弁を聴いていて、そういえば幸四郎さんは生粋の江戸っ子だけど(本人は博多とのハーフとおっしゃっている)、こんな風に立て板に水のごとく江戸弁をまくし立てる役はこれまでそんなになかったなぁと思いました。
今回の配役は鴈治郎さんのご希望でもあったということで、お二人の相性とコンビネーションも抜群。
どこまでが脚本でどこからがアドリブなのかわからない二人の会話ですが、それでもお芝居は逸脱せず、きちんと物語が進んでいくところはさすがです。
ラスト、次郎八と留五郎がそれぞれ京と江戸のよさを自慢合戦する川床の心地よさ。
鴈治郎さんの次郎八・おつぎの二役も安定の楽しさ。
ちょっとコワいばかりでなく情も感じさせるおつぎさん、鴈治郎さんならではの滋味があって、とても好きです。
七之助さんは今回は岩本楼の女将お筆。
少し年かさのやり手の女将さん役で、ご存命なら秀太郎さんがされるイメージですが、「七くん、こんな役もやれるようになったんだ」としみじみ。京ことばのイントネーションだけはもう少しがんばれ。
虎之介くんのおそのちゃんがとってもキュートでした。
可愛くて、いかにも世間知らずなお嬢様育ちな雰囲気で。
隼人さんのナヨナヨした手代 文吉と一緒になっても苦労するデとも思いましたが、あのおそのちゃんなら明るく笑い飛ばして逞しく生きていけそう。
最後にはおそのちゃんの縁談相手のお家の旦はん持丸屋太兵衛の勘九郎さんが丸く収めて大団円・・・と思いきや、太兵衛さんも染香ちゃんを追いかけていたことがバレて奥様のおげんさんこと壱太郎さんに絞られる、という楽しいオチもついて、明るい気分で松竹座夜の部、打ち出しとなりました。
七之助さんだけでなく、他の役者さんもときどき「!?」となるイントネーションだけが残念 のごくらく地獄度 (total 2325 vs 2326 )
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「酷暑だし途中で体調が悪くなられたら・・・」と思って初日近くをとってしまった者です。勘九郎さんも隼人さんもとても良かったです。
勘九郎さんの彦九郎はさすがにお種と夫婦には見えませんでしたが(年齢というよりキャラが違うような感じ)、帰宅を素直に喜んでいる良き家庭人ぶり、妹に怒りをぶつけられてむっとするところ、覚悟を決め妻を呼び出す時の凪いだ水面のような静けさと鋭さが勘九郎さんにとてもよく合っていました。
隼人さんの源右衛門も「武家に出入りしているが武士ではない趣味人」の洒脱で危なっかしい感じが出ていました。
急な代役でもきちんとおつとめになって、役者さんってすごいですね。
勘九郎さん、隼人さんのお役のレポをありがとうございました。
読ませていただいて、ますます観たくなりました。
仁左衛門さんももちろんすばらしかったのですが、
両パターン観ればよかったと少し悔やんでおります。
舞台は一期一会。
役者さんの思いがけない休演で残念な思いをする一方、
普段ならそんなお役を勤められそうもない役者さんの
お役を拝見できる貴重な機会でもありますね。