2022年07月17日
ドミノはどこに 「関数ドミノ」
「関数ドミノ」は2005年初演、2009年、2014年と再演を重ねて今回が4回めの上演。2017年には瀬戸康史さん主演、寺十吾さん演出でプロデュース公演として舞台化もされています。
私は2014年が初見。
もう8年も前なのかぁ。
あの頃、何かとツイている人のことを○○ドミノ(たとえば、観たい舞台の良席チケットが思い通りに当たる人のことは演劇ドミノ)と呼ぶのが観劇仲間の間でプチ流行したなぁと懐かしく思い出しました。
イキウメ 「関数ドミノ」
作・演出:前川知大
ドラマターグ・舞台監督:谷澤拓巳
美術:土岐研一 照明:佐藤 啓
音楽:かみむら周平 衣装:今村あずさ
出演:安井順平 浜田信也 小野ゆり子 太田緑ロランス
盛 隆二 川嶋由莉 大窪人衛 森下 創 温水洋一
2022年6月19日(日) 1:00pm サンケイホールブリーゼ 1階D列センター
(上演時間: 2時間)
2014年版の感想はこちら
「スーパーマンは実在する、しかもそれは、日本人だ」
という真壁薫(安井順平)のモノローグから舞台は始まります。
ある地方都市で起こった奇妙な交通事故。
見渡しの悪い交差点で車の運転手・新田直樹(森下創)は道路の真ん中に立ち止まった左門陽一(大窪人衛)に突っ込んだにもかかわらず、まるで透明な壁が彼の前にあったように陽一は無傷、一方、車は大破して助手席に乗っていた彼の娘は意識不明の重体に陥ります。
目撃者は6人。聞き取り調査を始めた保険調査員の横道赤彦(温水洋一)に目撃者の一人である真壁が、これはある特別な人間「ドミノ」が起こした奇跡なのだ、そして車に轢かれそうになった陽一の兄・左門森魚(浜田信也)こそがそのドミノなのだと主張します。
「ドミノ」が心から願えば必ず叶えられる。ただし、恣意的にではなく、無意識の本心からの願いのみ-荒唐無稽な話を最初は信じなかった人々ですが・・・。
2回目の観劇でもあり、8年前とはいえ初見の印象が鮮烈でしたので、物語の骨格や筋立て、結末も知った上で観ることになりますが、それでも、2時間集中力途切れることなく惹きつけられる舞台の吸引力はさすがという他ありません。
もちろん結末がわかっていますので、初見の時のように息を殺してコトの成り行きを見守るという感じではないのですが、その分、最初は「ドミノなんて・・・」と思っていた人たちが、「もしかして」という思いが心に芽生え、娘の回復を願う新田、HIVキャリアである土呂(盛隆二)、看護師・澤村(太田緑ロランス)たちが、ドミノの存在を信じる(もしくは信じたいと思う)ように傾くプロセスを、より客観的に観て感じることができて、願望を叶えたいという本能には、人はつけ込まれやすいという脆さを改めて目の前に突きつけられた思いです。
そして、真壁の、自分に起こった(マイナスの)事象を、「こいつさえいなければ」「あのことさえなければ」と、誰かのせい、何かのせいに転嫁せずにはいられない心の弱さ、ネガティブさ、そして上手くいっている人を妬む卑しさといった人間なら誰しも持っている負の感情について、前回、「かくいう私だって思い当たるフシ、多々あります」と思ったのに、8年経っても全然成長していないことを恥じ入りつつ、一見、超常現象という人外なものを扱って、実は人間の本質や普遍的なものを炙り出すという前川さんの術中にまんまと嵌ってしまったこと再びです。
舞台上の人々も客席の私たちも「ドミノはいる」に傾く一方で、「単なる被害妄想」と冷静にロジックで攻める存在として、精神科医の大野つかさがいる訳ですが、今回、大野に「真壁の元恋人」という設定が加わって、いく分エモーショナルになったかなと感じました。
確か、2014年版は元同級生の男性だったと記憶。
前回と違うといえばラスト。
ドミノは森魚ではなく自分だったと気づいた真壁の混乱と狼狽、そして絶望。
「消えろ俺」「俺を見るな」という叫びからの暗転で再び明るくなった場所から真壁の姿だけが消えていた、というのが前回の衝撃のラストでしたが、今回は、真壁が再び現れて「こうして僕は一度死にました」という言葉で結びます。
このラストの解釈は観る側に委ねられているのかな。
真壁がドミノ幻想に囚われていた、自分に起こった負の事象をいつも誰かのせい、何かのせいに転嫁してきた心の弱さやネガティブさから解放されたということでしょうか。
個人的には演劇としては2014年版の方が好みではありますが、今回は「信じる」ということへの重みと温かさがより鮮明になって、少し希望も感じられる幕切れでした。
真壁の安井順平さん。
多分頭がよくてプライドが高く、報われない己が人生の妬みひがみを「ドミノ」という存在に転嫁させるあたりの歪んだ息苦しさ、卑しさ(本人はそうと気づいていないけれども)を精緻に描き出していて本当にお見事でした。
対する森魚の浜田信也さん。
人外のもの感はお得意ですが(次回作「天の敵」でもそうでしたね。楽しみ)、周りの人から見ても何だか全能感を感じさせる超然とした佇まい。それなのに、最後に「僕だって色々努力はしているけど、何もかもが上手く行っている訳じゃない」と言うのが納得できるような、ドミノに違いないようにも、そうでないようにも見える絶妙な役づくりもすばらしい。
常に客観的、冷静でクールな精神科医・大野つかさの小野ゆり子さん、感動するとすぐ信じてしまう人の好さ全開の看護師・澤村美樹の太田緑ロランスさんという対照的な存在も印象的でした。
ロビーには、2009年、2014年と今回公演のポスターパネルが並んでいました。
次回作「天の敵」も好きな作品ですが、今年は新作なしなのね のごくらく地獄度 (total 2322 vs 2324 )
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください
この記事へのトラックバック