2022年07月07日

わたしをけものと呼ぶのは誰か 「バイオーム」


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今年3月、宝塚歌劇団を退団された演出家の上田久美子さん(ずっと先生と呼んでいたので”さん”は慣れない感じ(^^ゞ)。
退団後最初の作品は豪華キャストのリーディング。
演出はされず、戯曲のみの提供です。

この作品は観に行く気マンマンで、「バイオーム」(池袋)→ 宙組「FLY WITH ME」(有明)のマチソワ予定でチケットも取っていたのですが、事前に上演時間を問い合わせたところ約3時間!(リーディングだし、長くて2時間半ぐらいかなと目論んでいました)
これでは宙組の開演時間に間に合わないということで、ナマ観劇はあきらめ、前日の配信を視聴したのでした。


スペクタクルリーディング 「バイオーム」
作:上田久美子
演出:一色隆司
映像:松澤延拓   美術:杉山至   照明:中山奈美
衣裳:富永美夏   ムーブメント:川村美紀子 
作曲・編曲:Chikara Ricky Hazama,  秩父英里 
出演:中村勘九郎  花總まり  古川雄大  
野添義弘  安藤聖  成河  麻実れい

2022年6月11日(土) 5:00pm 東京建物Brillia Hall (配信視聴)
(上演時間: 3時間/休憩 25分)



ある政治家一族と、その屋敷の庭に植えられた植物たちの物語。
8歳のルイ(中村勘九郎)はいつも夜になると庭のクロマツ(麻実れい)の下でリコーダーを吹いてフクロウに呼びかけていました。彼の傍らにケイ(中村勘九郎二役)という少女がいました。ルイの母・怜子(花總まり)は家庭を顧みない夫・学(成河)や抑圧的な父・克人(野添義弘)との関係から心のバランスを失い、セラピスト・ともえ(安藤聖)の花療法に逃避しています。いわくありげな家政婦・ふき(麻実れい二役)、その息子ので庭師の野口(古川雄大)を交えてさまざまな思惑がうずまく庭に、人間たちを見下ろす木々や花の声が響きます・・・。


舞台前方が半円形のアクティングエリアになっていて、その後方一段高くなったところ、長いストリングカーテンの前に間隔を置いて書見台が並び、役者さんが立って朗読する形。
カーテンにはその時々に表情を変える庭や夜景や夜空の映像が映ります。

役者さんは皆1人2役で植物と人間を演じます(ルイ/ケイ二役の勘九郎さん以外)。
人間を演じている時は、前方のアクティングエリアで台本も持たずに演技していてほぼストレートプレイの様相。
「朗読劇の定義とは・・・」といった感想をちらほら見かけましたが、私がこれまでに観た朗読劇も台本見ないで結構リアルに演技されていることがありましたし、早乙女太一くんなんてレチタ・カルダ六月は深紅の薔薇 沖田総司」 で客席通路で殺陣までやっていましたから、”リーディングという範疇には収まっていない”云々には「そう?」という感じです(笑)。


予備知識なしで臨みましたので、勘九郎さんのルイと、クロマツをはじめとする庭の樹々たちの話し声(もちろん人間には聞こえない)で始まった当初は「ちょっとファンタジー的な作品?」とも思ったのですが、樹々たちが「けもの」と呼ぶ人間たちが次々登場するにつれて、なかなかドロドロした人間ドラマが展開されることに。

「代々続いた政治家一家の愛憎劇」という物語自体は、入り婿の夫が秘書とデキている、怜子は父が家政婦(となった女性)に産ませた子といった事象含めて、ドラマや小説の題材としてわりとよくありがちな印象ですが、それを樹々たちの眼でとらえて語り、さらには生命の巡りというか、宇宙的な輪廻転生観へと持っていくあたり、上田久美子さん、さすがの筆致です。

また、これは役者さんの力量に負うところも大きいですが、いわゆる説明台詞は一切なくても、「ケイってもしかしたら実在していない子?」と怜子が言う前にわかりますし、ふきさんが怜子の母親なのね、とちゃんと見えてくるところもすばらしい。
人間世界では母親のふきを拒絶している怜子と同じ役者さんが、植物の世界では温かなクロマツ母子を演じているのも、輪廻転生を感じられて好きでした。

そしてラストも、「さすがウエクミ、容赦ないな」と思いました。
狂気に走った怜子が庭のクロマツを切らせた挙句自殺。
フクロウが来なくなり、フクロウを求めてセコイアのより高い枝に登って転落して死ぬルイ。

それでも、それを語るふきのもとにルイ/ケイの魂が寄り添って何だか救われたような気持ちになり、ルイがセコイアの木の上から眺めた夜の景色が星空となり、さらに上空から地球を眺めるような視点になっていく壮大なスケールと余韻を残して幕となりました。

かなり映像の比率も高く、配信画像だとスケール感が感じにくいこともあって、実際劇場で観たらどんな感じだったのかなと思いました。
ちなみに配信は、リアルタイムはTV画面で観て、もう一度アーカイブをノートPCで観たのですが、この濃密さはPCでグッと寄りで観るのが向いているかもしれないと感じました。


配信の特典として一色隆司さんと上田久美子さんの対談がついていて、主にキャストの印象について語られていました。
この作品の情報が公開された時、「ウエクミ、どれくらいキャスティングに関わったんだろう」と思いましたが、対談を聴いた感触としては関わっていらっしゃらない感じでした。

ともあれ、役者さんは皆すばらしかったです。
中でも突出していると感じたのは麻実れいさん。
何というか、他を圧するような存在感。
クロマツとふきの演じ分けはもちろん、誰かと会話している時もモノローグでも、強く言葉を発する時も静かに語る時も、変わらずしっかり届く台詞。立ち姿や所作の美しさ。まさにこの舞台の中心にそびえる1本の大きな大きな木でした。

触れれば切れてしまう琴線のようにピリピリと張り詰めて、追い詰められていく怜子と無邪気なクロマツの子を演じ分けた花總まりさん。
”優等生”の婿が見せる闇の一面をあの電話の会話(エロい)だけで聴かせてくれた成河さん。
プリンスのイメージかなぐり捨てて荒々しく野性的な新たな一面見せてくれた古川雄大さん。
8歳で違和感のないかわいさの中に、繊細で傷つきやすいルイと奔放で自由なケイを行き来した勘九郎さん。


お稽古期間も短かったと聞いていますし、演出的な意図として、”リーディング”の部分と”ストプレ”の部分を行き来するのは役者さんには負荷がかかっただろうなと思いますが、5日間7公演ではもったいないような完成度の高い舞台でした。



配信はもちろんおもしろかったけれど、やはりナマの舞台を観たかったな のごくらく地獄度 (total 2319 vs 2320 )



posted by スキップ at 18:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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