2022年06月15日

断行したのは晶では? 「お勢、断行」


oseidanko.JPG


本来は2020年2月に上演予定だった作品。
ゲネプロをやった日に緊急事態宣言発令のため全公演中止が決まり、2年を経てほぼ同じキャストでの上演です。
2017年に黒木華さん主演で上演された「お勢登場」の第2シリーズ的位置づけでしょうか。


「お勢、断行」
原案:江戸川乱歩
作・演出:倉持 裕
音楽:斎藤ネコ   美術:二村周作   衣装:太田雅公
出演:倉科カナ  福本莉子  江口のりこ  池谷のぶえ  堀井新太
粕谷吉洋  千葉雅子  大空ゆうひ  正名僕蔵  阿岐之将一

2022年5月28日(土) 12:00pm 兵庫県立芸術文化センター 
阪急中ホール 1階B列(最前列)下手
(上演時間: 2時間)



大正末期の東京。
女流作家お勢(倉科カナ)が身を寄せている資産家の松成千代吉の屋敷には後妻の園(大空ゆうひ)、千代吉が愛する先妻との一人娘・晶(福本莉子)、そして住み込みの女中・真澄(江口のりこ)が住み、時折千代吉の妹・初子(池谷のぶえ)が訪ねてくるという暮らしぶりでした。ある日、日ごろから千代吉の暴力に苦しむ園、千代吉に屈辱を受けた代議士(阿岐之将一)、医師(正名僕蔵)が結託し、千代吉を狂人に仕立てて精神病院に入院させ、松成家の財産を奪う計画を企てます・・・。


「お勢登場」は、乱歩のいくつかの短編をコラージュして翻案した作品でしたが、今回は、「『お勢登場』の主人公である悪女お勢を、大正末期から昭和初期という時代背景はそのままに、また別の欲望渦巻く場所で活躍させたい、と思ったのが始まりだった」とフライヤーの倉持裕さんのコメントにある通り、お勢という悪女のキャラクターだけを使ったオリジナル作品です。


物語の中心となる悪事は、園とその周囲の人々が担い、金と欲にまみれた人間たちの、まるで土曜ワイド劇場にも出てきそうなよくある、およそ乱歩のおどろおどろしさや毒は感じられない犯罪ドラマが展開する中、お勢は得体の知れない悪女感を漂わせてはいるものの、物語の大半は傍観者で、彼らの悪行を覗き見て楽しんでいる感じ。
最後に突然「粛清」とばかりに拳銃ぶっ放しますが、その後に明らかになる千代吉の娘・晶の無垢を装ったラスボス感の衝撃の方が強烈で、「これ、『お勢、断行』じゃなくて『お晶、断行』じゃないの?」と思った次第です。


いかにも大正から昭和初期にかけての日本家屋の雰囲気のある舞台が、大きな障子をスライドさせたり、部屋自体が出入りしたりして、階上と階下を使って、往来になったり、女中が電話をかける廊下になったり、その電話相手の電燈工夫の下宿屋になったりする舞台装置が印象的(美術:二村周作)。
お勢や園が着る着物も今ふうの大胆な柄なのにどこかレトロな雰囲気もあって素敵でした。


倉科カナさんは華やかな美人で声もよく通りますが、今回のお勢は存在感薄目でそこまで為所があるという役ではないように感じられて残念だったな。
倉科さんのせいというより脚本の描き方かと思いますが。

悪事の中心 園の大空ゆうひさんは、裕福な家のはんなりした奥様が実はお金には執着あって・・とじわじわ正体が見えてくるあたり、上手かったです。
2月に観た「マーキュリー・ファー」の時にも感じましたが、ゆうひさんって、宝塚OGの中でも選ぶ作品かなり独特ですね。

晶の福本莉子さん。
父の千代吉に溺愛されたばかりでなく、自らも父を愛しその父をないがしろにする継母を密かに憎んでいた晶。
園たちの悪事にまったく我関せずという風情でいて実は・・・という晶ちゃん、コワかったです。
小柄で高校生くらいかな?と思っていたら後で調べたら成人済みの方でした。台詞の緩急はもう少しガンバレな部分もありましたが、声はよく出ているし歌も歌えるし、これからも楽しみな女優さんです。

池谷のぶえさん、江口のりこさん、千葉雅子さんはさすがの力量で、脇にこの3人を配するって何て贅沢なんだと思いました。
池谷さん、江口さんは笑いの部分を担わされている感じでしたが、力技でガンガン攻める池谷さんに対して、さり気なくぼそりというひと言がおもしろい江口さんという、倉持さんがあえて狙ったであろう笑いの違いも興味深かったです。

代議士役の阿岐之将一さんは、この役にしてはお若いのでは?と思いながら観ていたのですが、本来キャステリングされていた梶原善さんがコロナ濃厚接触者となったため兵庫公演のみの代役だったそうです。ナルホド。




公演中止にならないでよかったけれど、コロナの影響はまだまだ油断できません の地獄度 (total 2312 vs 2315 )




posted by スキップ at 17:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック