2022年06月11日

"月組の”暁千星 集大成 月組 「ブエノスアイレスの風」


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暁千星さん、初の東上作品。
そしてこれが、”月組の”暁千星としてラストステージです。


宝塚歌劇 月組公演 
「ブエノスアイレスの風」 -光と影の狭間を吹き抜けてゆく・・・ー
作・演出:正塚 晴彦  
作曲・編曲:高橋城  高橋恵
振付:上島雪夫  伊賀裕子  御織ゆみ乃  
装置:大橋泰弘   衣装:加藤真美
出演:暁 千星  凛城きら  夏月 都  晴音アキ  蓮つかさ  風間柚乃  
天紫珠李  礼華はる  結愛かれん  彩海せら  羽音みか  花妃舞音 ほか

2022年5月18日(水) 3:00pm シアター・ドラマシティ 18列下手/
5月26日(木)11:00am 2列(最前列)センター
(上演時間:2時間35分/休憩 25分)



物語の舞台は1900年代半ばのアルゼンチン・ブエノスアイレス。
反政府ゲリラのリーダーで政治犯として囚われていたニコラス(暁千星)は特赦により7年振りに釈放されます。長く続いた軍事政権が倒れ、民主制となった祖国で職を求めたニコラスは街のタンゴ酒場でダンスの才能を買われ、酒場の踊り手であるイサベラ(天紫珠李)のパートナーとして雇われることになりました。そこへかつてのゲリラ仲間で親友だったリカルド(風間柚乃)が現れ・・・。


1998年に紫吹淳さん主演の月組で初演、2008年に柚希礼音さん主演の星組で再演された作品。
どちらもリアルタイムでは観ていなくて、柚希さん主演版を柚希さんトップ時代に映像で観たことがあります。なのでストーリーは履修済み。

「反政府活動家とかスパイとかがやたら出てきて、政治や戦争がらみの内容が多く、台詞が多くて歌や踊りが極端に少なく、ミュージカルというよりストプレ風味」そして「ワタシ的に当たりハズレが大きい」
というのが私の正塚作品の印象。ちなみに正塚作品の my ベストは「カナリア」(2011年・花組)

この作品もほぼそのセオリー通りで、違っているのはタンゴメインで踊りが多いことぐらいかな。
歌はニコラスと酒場の歌い手フローラ(晴音アキ)しかソロがないという徹底ぶり。
それでも、当たりかハズレか、となるとこれは「当たりの正塚作品」でした。


一つには「蜘蛛女のキス」や「エビータ」といった作品をこれまでに観てきて(そして観た後にいくつかの資料を読んだりもして)、軍事政権下のアルゼンチンに多少なりとも知識があったこと。
この「ブエノスアイレスの風」に直接軍事政権下の様子は描かれていませんが、ニコラスのすべてを諦念したような表情に、それを感じ取ることができます。
大学で法律を学び、弁護士を目指していたニコラスが、どんな思いに衝き動かされて反政府ゲリラに身を投じたのだろう、当時はリカルドに負けないくらい熱く激しい思いを抱いていたに違いないのに、今こんなふうに静かでいるのは、服役中に、どんな学びがあり、あるいは洗脳されあるいは拷問を受けたかもしれないと、ニコラスの7年間を思いやらずにはいられません。

「光と影の狭間を吹き抜けてゆく」というサブタイトルの通り、ブエノスアイレスの風はただ吹き抜けて、不幸な偶発でリカルドが死んでしまった以外は何も変わることがなく、ニコラスは兄代わりとなってリリアナの面倒をみていくだろうし、イサベラを取り巻く家族の問題は何ひとつ明るい兆しは見えないし、ビセンテとエバはこのまま結婚して果たして幸せになれるのだろうかと思うし、マルセーロは罪を償って帰ってきてもきっとまた同じことを繰り返すのではないかと思います。
けれども人は生きていかなくてはならないし、その先には仄かかもしれないけれど光が見える・・・そんな余韻の残る物語でした。


正塚先生の演出はリアルを追求、と現役時代、柚希さんがよく話していらしたのが印象的だったのですが、今回随所にそれを感じました。
その一つがかなり話題にもなったニコラスがマルセーロをボコボコに殴り蹴るシーン。
蹴る暁さんも蹴られる彩海せらさんもとても上手くて迫力満点で観ている方が心配になるくらいですが、もう完全にダウンしているマルセーロをさらに二度、三度と蹴り続けるニコラスが、「世の中にはお前なんか想像もつかないような地獄を見て奴がいっぱいいるんだ」と言うのが本当にリアルに感じられ、それが後でマルセーロとリカルドの場面にも効いていて、上手い演出だなぁと思いました。

細かい点で言えば他にも、小学校の先生をしているエバに結婚を前提として「それで君はいつ仕事を辞めるの?」と何の気負いもなく聞くビセンテ。
この会話のシーンにはさまれる、カフェのウェイトレスがサーブしたお茶をこぼしてしまうところ。
わざわざ入れなくてもいいようなシーンに見えて、代わりのお茶を運ばれてくる間に自分のお茶を差し出したエバに、「ありがとう」とか「これは君のだから君が」の一言もなく当然のように自分のものとするビセンテが、彼のすべてを表していて、「正塚先生!」とうなる思いでした。


暁千星さん。
スーツの似合いっぷりハンパない。
月組観るたびにお姉さま方と「ありちゃんはいつ大人のオトコになるんだろう」と言っていたのは遥か昔。
ほとんど笑顔を見せず、瞳に翳りを湛えつつ心の奥底には温かいものをもっているニコラス。
スラリとのびた手足から繰り出されるシャープなタンゴはもちろん、力強い歌声も明瞭な台詞もすばらしかったです。
皆さんおっしゃっているように、リカルドのアパートで名刺を拾った時、管理人さんに「俺の名刺だ。捨てなくてもいいじゃないか、なぁ?」と言う「なぁ」の言い方

月組で温かく見守られて大切に育てられてきたありちゃん。
千秋楽のフィナーレでは涙で♪ビエントレ ブエノスアイレス~ が歌えなかったとか。
”月組の”暁千星も大好きだったけれど、”星組の”暁千星も全力で応援します!

リカルドの風間柚乃さんが本当にうまい。
いや、うまいの知ってたけど本当にうまい(大切なことだから2回言いました)。
ニコラスと違って大学になんて行ってなくて、というか学校もろくに行けなかったかもしれない貧しい生まれで、その貧困を生み出した国家への怒りが生きる糧で、だから新しい時代になったと言われてもそれに適応できなくて、ただ富裕層への憎悪だけが残っている・・・そんな背景がきちんと見えるリカルドでした。
台詞がいいのはもちろん、酔っ払ったところも撃たれるところもとてもリアル。
そして妹のリリアナにはひたすらよいお兄ちゃん。

イサベラは天紫珠李さん。
上背のある美人さんで、暁さんニコラスと踊るタンゴは華やか。
この物語の中でニコラスとイサベラに特に恋愛感情はなくて、タンゴのパートナーとしてお互いを認め合っているという感じで、娘役としてはあまりしどころがあるとは言えないところを健闘していたと思いますが、天紫さんのニンとしてはむしろエバの方だったのでは、と感じました。

そのエバは羽音みかさんで、これがまた悪くないけれどよくもないという感じで、つくづくこの物語に出てくる女性は難しいなと思いました。

そんな中、リカルドの妹リリアナが感情表現豊かで一番やりやすかったかもしれません。
106期で今年の月組本公演「今夜、ロマンス劇場で」の新人公演ヒロインに抜擢された花妃舞音さん。
表情豊かでかわいいし、お芝居も上手くてこれから楽しみな娘役さんです。
アニメ声が・・・とよく言われていますが、私は宙組の某娘役さんほどには気にならず。

かつては秘密警察の人間で今は刑事、そしてニコラスの元恋人エバの現在の恋人で結婚しようと思っているビセンテ(説明が長い)の礼華はるさん、酒場の歌手フローラ(晴音アキ)の息子でどうしようもないチンピラ マルセーロは彩海せらさん。
振り分けが発表された時、こうだろうと予想した通りの配役で、そうであろうと期待した通りの好演でした。
特にマルセーロの彩海せらさんは、あの可愛らしいお顔とアイドル的なイメージかなぐり捨てての汚れ役すばらしい。低い声もよく出ていました、
これが月組デビューとなったあみちゃん。
ありちゃんとはこれが最初で最後の共演となりましたが、これからは風間さんとも礼華はるくんとも、よきライバルとしてしのぎを削っていただきたいです。

大人組では、タンゴ酒場のオーナー ロレンソの凛城きらさんの渋みと色気、酒場の女メルセデスとイサベラの母を絶妙に演じた夏月都さん、ガンガンに怒って怒鳴っていても滑舌すばらしく台詞がよく通る武器商人の蓮つかささんが印象に残りました。


フィナーレもよかったです。
タンゴは眼鏡も髭もなく端正なイケメンで色気10倍増しの凛城きらさんに目が釘付け
パートナーが夏月都さんで大人のカップルでした。
そういえば、物語の冒頭で暗い中踊る蓮つかさ・結愛かれんペアのキレッキレのタンゴも話題になっていましたね。
結愛かれんさんはどこで踊っていてもよく目にとまります。

メインメンバーは風間・花妃 礼華・羽音 彩海・天紫のペア。
そして暁さんのソロと続いて、メンバーが一人ずつ暁さんと絡むという、盛大な「暁千星壮行会」でした。
正塚先生ってば、こんな甘い演出もできるのね←


buenosaires2.jpeg

星屑も肉眼で見えるお席。ありがとー!



一つだけ残念なのは舞台上がかなり暗いことかなー 後方席だとオペラグラス使っても見えにくい場面がしばしば のごくらく地獄度 (total 2310 vs 2313 )


posted by スキップ at 21:41| Comment(0) | TrackBack(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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