2022年05月08日
身分違いの恋の明暗 「三月花形歌舞伎 午前の部」
5月に入ってゴールデンウィークもあっという間に去り、もはや1年の半分が終わったくらいの気分ですが、3月に観た舞台の感想ですよ💦
南座の三月は花形歌舞伎。
昨年(こちら)から始まりましたが、昨年の主要メンバーから尾上右近さんが抜けて、今年は坂東巳之助さんと中村隼人さんが加入。午前、午後の役替りで、若さあふれる力の入った舞台を見せてくれました。
三月花形歌舞伎 午前の部
2022年3月6日(日) 11:00am 南座 3階1列センター
ご挨拶
出演:中村米吉 中村橋之助
(上演時間: 10分)
ご挨拶は午前の部が米吉くんと橋之助くん、午後の部が壱太郎くんと隼人くんという振り分けでした。
米吉くんが「自分がしゃべりすぎると橋之助くんが頼り切ってしまってダメだから今日はしゃべりません」というようなことを冒頭に言って、橋之助くんが大汗かいて演目の説明などをしているのを黙って見ているという構図。
「ほんとにしゃべらないの?」と何度も米吉くんの方を見る橋之助くん。
当然のことながらトークはあまりおもしろくありません(笑)。
午前の部を選んだ理由の一つに米吉くんの軽妙なトークが聞きたかったこともあるのにちょっぴり残念。
恒例の写真撮影タイムもありました。
この日は桟敷席に舞妓ちゃんたちが座っていて華やかで、米吉くんも橋之助くんも何だかうれしそうでした。
右の画像はインスタにポストするために橋之助くんの写真を撮る米吉くん。
一、番町皿屋敷
作:岡本綺堂
出演:中村隼人 中村壱太郎 中村歌之助 中村歌女之丞 坂東巳之助 ほか
(上演時間: 1時間15分)
旗本の青山播磨(隼人)と腰元お菊(壱太郎)の身分違いの恋を、旗本と町奴の対立を背景に描いた物語。
播磨の縁談の噂話を聞いて気をもんだお菊は、播磨の本心を確かめようと家宝の皿を割ってしまいます。お菊が故意に皿を割ったことを知った播磨は・・・。
家宝のお皿を割ったかどで理不尽に殺されたお菊さんが化けて出て「いちま~い、にま~い」とお皿を数える、いわゆる怪談の「番町皿屋敷」ではなくて、身分違いの男女の純愛ストーリー。
以前歌舞伎座で、吉右衛門さんの播磨、中村雀右衛門(当時 芝雀))さんのお菊で観たことがあります。吉右衛門さん
その時同様、愛する人の心を試すために家宝のお皿をわざと割ってしまうお菊さんには「そんなことしなくても・・」と思い、最初は過ちだと思って鷹揚に構えていたものの真相を知って激怒する青山播磨には「そこまで怒らなくても・・」と思ってしまったのですが、お菊さんがそんな行動に出てしまったのは、いくら互いに愛を誓い合っていたとはいえ、播磨は旗本、自分は腰元という厳然たる身分の違いがあるせいでもあり、いかにも封建時代のお話です。
お菊さんはいかにもなよなよしていて自信なげで、女から見るとイラッとする(笑)タイプの女性ですが、そこが男性の目からはいじらしくて頼りなげで守ってあげたい本能をくすぐるということになるのかしら。本当に播磨のことを愛してはいても、だから縁談話を聞いて、自分の身分のこともあって不安で不安でその心を試すような行動に出てしまう愚かさ、弱さが哀れで切ない。
一方の播磨にとっても、これは一生一度と決めた恋で、青年らしい純粋さと男としてのプライドが、自分の気持ちを試すようなことをしたお菊を許せなかったのでしょう。
隼人さんはまずそのすっきりした二枚目ぶりに目が惹きつけられますが、このところ台詞の進境著しくて、うたい上げる台詞の声の太さ、明瞭さにホレボレ。
お菊に残りのお皿を出させて、一枚、また一枚と割っていくところは、吉右衛門さんの、真っ直ぐお菊を見据えながら皿を割る鬼気迫るような無言の圧が本当に怖かった記憶がありますので、そのあたりはこれから身につけていただきたいところです。
壱太郎さんのお菊は最初からどことなく物憂げで、不安で揺れる気持ちを抱えているんだろうなと察することができる造形。
たおやかでしっとりしていて、播磨が惚れるの納得です。
声もよくてもちろん台詞もしっかり。
苦味走った目つきの町奴・放駒四郎兵衛の坂東巳之助さん、渋川後室真弓の中村歌女之丞さんが、ともに短い出ながら存在感くっきり
お菊を手打ちにし、その亡骸を井戸に投げ入れさせて(ひどいっ💦)、「播磨が一生の恋も滅びた」と絶望して町奴との喧嘩に生きようと駈け出していく幕切れは鮮烈ながら何ともやり切れないです。
二、芋掘長者
作:岡村柿紅
出演:坂東巳之助 中村橋之助 中村隼人 中村歌之助
中村歌女之丞 中村壱太郎 中村米吉
(上演時間:40分)
息女 緑御前(米吉)の婿選びに舞の会を催す松ヶ枝家。
緑御前に恋焦がれている芋掘り藤五郎(巳之助)のために舞の上手な友人治六郎(橋之助)が面をつけ、藤五郎になりすまして踊り、やんやの喝采を浴びて・・・という狂言仕立ての舞踊劇。
平成17年(2005)に坂東三津五郎さんが45年ぶりに復活上演された演目。
その三津五郎さんで一度、後は芝翫(当時 橋之助)さんで二度観たことがあります。
男女の立場が逆になっているものの「番町皿屋敷」同様、身分違いの恋を描いていますが、ユーモアがあって温かく、弱者に光射すようなハッピーエンドに幸せな気分で打ち出されます。
純朴で一途な藤五郎(巳之助)、友だち思いの治六郎(橋之助)、最後に姫を芋掘りに奪われても怒ったりしない兵馬(隼人)と左内(歌之助)。
清楚で品があって美しい赤姫の緑御前(米吉)、姫をやさしく見守る松ヶ枝家後室(歌女之丞)と腰元 松葉(壱太郎)。
悪人が誰も出て来なくて、みんあおっとりしていて、観ていてふんわりやさしい気持ちになるひと幕でした。
最後にみんなが横一列に並んで踊るお尻フリフリダンスもかわいかったな。
本当は踊り巧者なのに、踊れない藤五郎を表情豊かに演じ、踊る巳之助さん。
お父様の三津五郎さんも、きっと空の上で笑って見守っていらっしゃるのではないかしら。
楽しかった気持ちはほんのりあるけれど、2ヵ月も過ぎてしまってもはやぼやけ気味 の地獄度 (total 2299 vs 2301 )
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