2022年04月28日
読了 「蒼穹の昴」
映画「ラストエンペラー」が大好きで、落日の清王朝が大好物の不肖スキップ。
紫禁城をこの目で見たくて北京にも行きました(こちら)。
あの時、この小説に何度も出てくる「頤和園」にも行きましたが、今ならもっと興味シンシンで見られるなぁ。
この作品にも興味があって、以前にも読もうとしたことがあったのですが、分厚い上下巻(文庫本だと4冊)にビビって躊躇ったという経緯があります。
今年の10月 宝塚歌劇団雪組で上演されることが発表されまして、それならば、と思い切って読むことにしました。
読み始めると非常におもしろく、4巻一気読みです・・・というか、読み終わってしまうのが寂しいくらいでした。
「蒼穹の昴」
作:浅田次郎
初版:1996年4月 講談社/2004年10月 講談社文庫
光緒12年(1886年)から光緒25年(1899年)までの清朝末期の物語。
梁家屯の地主の次男・梁文秀(リァン・ウェンシウ)は、村に住む老占い師の白太太から「汝は学問を磨き知を広め、帝を扶翼し奉る重き宿命を負うておる」と予言されたとおり、熾烈な科挙試験に状元(首席)で合格し、翰林院で九品官人法の官僚となります。
一方、文秀の夭逝した友人の弟で義兄弟の契りをかわした李春児(リィ・チュンル)もまた、極貧の中、白太太から告げられた「その手にあまねく財宝を手にするだろう」という言葉を信じて自ら浄身(去勢)し、宦官となって紫禁城に出仕します。
折しも清朝内部では、政治の実権を握っている西太后を戴く后党=保守派と、西太后を引退させて清国第十一代皇帝・光緒帝の親政を実現しようとする帝党=変法派とに分かれ、激しく対立していました。
光緒帝を支え、変法派若手官僚の俊英としてその中心となる文秀
西太后の寵を得て、誰よりもその側近く仕える春児。
敵味方に分かれてしまった2人が、滅びゆく清朝の中で自らの宿命を全うして懸命に生きる姿を、滅びゆく清朝と彼らを取り巻く人々とともに壮大に描いています。
西太后や光緒帝はもちろん、李鴻章、袁世凱といった歴史の教科書で名前を知っている人物や、栄禄や李蓮英、康有為などの名前は知らなかったけれど実在の人物と、梁文秀、春児たち架空の人物とが絡み合い、虚実織り交ぜて展開する物語のおもしろさ。
伊藤博文や孫文、幼き日の毛沢東も出てきました。
重厚な物語で、人名の漢字や清朝の官吏制度など難しい部分もありますが、歴史的事実は歪曲せずに、加えられたフィクションでその裏にはこんな事情や心情があったのかと興味はつきません。悪名高い西太后さえ、本当はこんな人だったのかーと思えてしまいます。
「この物語を書くために私は作家になった」
浅田次郎さんはそうおっしゃったそうですが、どれほどの調査研究や洞察を経て物語や登場人物を構成し、それをこんなふうに物語世界の中で活写できる筆力も・・・小説家って本当に凄いし、私にはとてもなれないと改めて痛感しました(それ以前に小説家になれない理由は山ほどあるが)。
細かいプロットや伏線が丹念に張られて、それがことごとく回収されていく心地よさ。
文秀の尊敬する師であり岳父でもある楊喜楨に栄禄たちの魔の手が迫り、事前に危機を察知した春児が文秀の家に投げ文をして警告するくだり。
その甲斐なく楊喜楨は蠍で毒殺されてしまいますが、後になって、文秀が春児に「あの投げ文をしたのはあなたですね」という場面。
「投げ文?何のことですか?」ととぼける春児に、「あなたに読み書きを教えたのはこの私です。あれは私の手癖そのものだった」と文秀が言うところで何故か涙が出ました。
とても貧しかったけれど、文秀の弟分として目をかけられ、文字を学んでいたころの春児は、もしかしたら三品の宦官に上り詰めた今の李春雲より幸せだったのではないかと。
その春児がまるで星に導かれるように偶然出会った元宦官大総管の安徳海や黒牡丹から血の滲むような宦官や京劇の修業をするところもとてもおもしろかったです。
科挙登第して進士となり希望に燃えて語り合った文秀、王逸、順桂がその後それぞれに歩んだ道、その行く末を思うと今も胸が締め付けられるよう。
そういえば、順桂の西太后暗殺未遂事件は、恭親王の遺言によるものでしたが、西太后は最後まで光緒帝の企てと信じて真実は明らかになりませんでしたね・・・順桂も恭親王も死んでしまって、二人だけの秘密だったので明らかになりようもなかったけれども。
西太后 vs 光緒帝の政権争いの結末を私たちは知っていますので、変法派の末路にも心を痛めながら読み進むことになりますが、譚嗣同が「史了(文秀のこと)、君は難きにつけ、僕は易きにつく」と言い残して、自ら捕縛されるところでもまた涙。
生きることの方が難しいと譚嗣同に言われた通り、日本に亡命して生きる道を選んだ文秀。
ただ一人、幼いころから面倒をみてきた春児の妹・玲玲だけを伴って。多くの同志たちの思いを背負って。
その未来が自分の理想に反したものでないことを祈らずにいられませんでした。
この壮大な物語を原田諒先生がどんな宝塚歌劇に仕立ててくれるのかも楽しみ。
梁文秀は彩風咲奈さんとして、春児はできれば、朝美絢さんと和希そらさんの役替りで観たいな。
この後5作ある「蒼穹の昴」シリーズも読みたいし、機会があれば日中合作ドラマも観てみたい のごくらく度 (total 2295 vs 2297 )
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