
蓬莱竜太さんシアターコクーン初登場作品・・・あれ?コクーン初めてだったっけ?と少し驚きました。
2016年に蓬莱さんが広島の劇作家・演劇人とともに創作された作品を、脚本、演出、美術、音楽を一新して、フィクション・エンタテインメント性をさらに高めて上演するものだとか。
だから、「広島ジャンゴ 2022」なのね。
COCOON PRODUCTION 2022
「広島ジャンゴ 2022」
作・演出:蓬莱竜太
美術:愛甲悦子 照明:日下靖順 音楽:国広和毅
衣裳:西原梨恵 擬闘:栗原直樹 振付:広崎うらん
出演:天海祐希 鈴木亮平 野村周平 中村ゆり 土居志央梨
芋生 悠 北 香那 宮下今日子 池津祥子 藤井 隆 仲村トオル ほか
ミュージシャン:熊谷太輔(Dr) 河村博司(Gt)
2022年5月12日(木) 1:00pm 森ノ宮ピロティホール E列センター
(上演時間: 2時間50分/休憩 20分)
舞台は現代の広島の牡蠣工場。
シフト担当の木村(鈴木亮平)は、新入りのパートタイマー・山本(天海祐希)に工場長・橘(仲村トオル)が主催する懇親会への参加を促しますが、職場に溶け込もうとしない山本ににべもなく断られます。工場長や他の従業員との板挟みになって疲弊した木村は、夜自宅で姉のみどり(土居志央梨)と話しながら、お気に入りの西部劇を見るうちに眠り込んでしまいます。そして目覚めた時、そこは水を独占する横暴な町長 ティムが牛耳る西部の町「ヒロシマ」で、山本は子連れのガンマン・ジャンゴ、木村はなぜかその愛馬ディカプリオになっていました・・・。
牡蠣工場の「広島」と西部の町「ヒロシマ」が時空を行き来して展開する物語。
とはいってもメインは「ヒロシマ」の方ですが、これは木村の夢の中の世界で、ここでいろいろなものを見聞きし体験する(馬だけど)ことによって物事の本質や本当の勇気とはといったものを理解していく、木村の成長物語と感じました。
ヒロシマは、広島の工場の人間関係がデフォルメされて、さらに暴力的な無法地帯になっています。
広島カープの熱烈なファンで、工場では皆一致団結を旨とし、懇親会も全員参加が当然という工場長はワンマンだけれどもいかにも小市民的で、いるよねー、こんな人、という感じ。
一方、ヒロシマの町長 ティムは、川の水をせき止めて町を干からびさせておいて、自分の井戸から湧き出る水を売って暴利を独占し、その状況に異を唱え新たに水源を得ようとする者の家を焼いてしまうなど情け容赦なく極悪非道。
夫のDVから逃れて娘と牡蠣工場のある町に隠れ住む山本に対し、自分への暴力ばかりでなく、娘への性暴力に耐え兼ねて夫を殺して、その首には賞金がかけられているヒロシマのジャンゴ(本名はアンヌらしい)はかなりシビア・・・さらにその殺人にも”実は・・”があって。
木村が何度も口にする、クリント・イーストウッドが活躍する西部劇が大好きな理由は
「悪いやつしか死なず、弱者が救われる世界」 だから。
それは誰もが憧れ、そうなればいいと願っている世界ですが、現実は不公平や理不尽なことだらけで、悪いやつははびこり弱者には冷たく、勧善懲悪なんて物語の中だけの話だということを、今を生きる私たちは肌身に沁みて感じています。
だから、正義を貫こうとして家を焼かれ、井戸を壊されたチャーリー(藤井隆)が、”家族を守るため”にティムの言いなりになってそちら側の人間として働き、自らの弱さに耐え切れず酒に溺れる姿を、私はとても責める気持ちになれませんでした。妻のマリア(中村ゆり)が堕ちていく様も、直視するのが辛いほど。
強い者、権力に迎合する集団の暴走、という構図も描かれています。
ティムの横暴に怒りながらも何もできずに従っていた人々が、ドリー(宮下今日子)のゲキで一旦はみんなで立ち上がろうとしながら、「何が正義かなんてわからない」というティムの高い橋の上からの演説に煽られて、状況がまるで反転してしまう場面がとても印象的でした。
ここの仲村トオルさんティムの演説が迫力あって、まるで「ジュリアス・シーザー」のアントニーの追悼演説のよう。
ティムの言葉に熱狂した人々の犠牲になってしまうドリーが痛ましい。
クライマックスの決闘シーン。
「私を見て。それだけで十分」とディカプリオに言い残し、ティム一味に一人で立ち向かうジャンゴ。
♪ 倒れないでくれ
倒れないでほしい
倒れないでくれ
倒れないでほしい
と LOVE SONG(ORIGINAL LOVE)を声の限りに歌うディカプリオ。
ジャンゴの銃弾に倒れてなお、「ティムはどこにでもいる」と不敵に言い遺すティム。
「ジャンゴだってどこにでもいる!」と言い放つジャンゴ。
このやり取りが胸に突き刺さります。
そう。ティムは決していなくならないことは歴史と今の世の中が証明している。
けれど、たとえ自分は闘いに敗れ倒れても、後に続く者が必ずいると信じられる者は強い。そこに希望があるから。
この2つの町の物語とは別のところに位置するような、木村の姉 みどり。
みどりが実はもう死んでいて、木村だけに見える存在であることは早い段階の木村の言葉でわかりますが、みどりが自殺した経緯を自ら語る「20分の昼休み」の場面は聞いていてとても重く苦しい。
そして、木村がこれまで抱えてきたであろう「姉さんの自殺を止めることができなかった」という心の闇が痛いほど伝わって、(現実世界で最近起こったこと、遺された家族の思いに重ね合わせたりもして)、とても、とても切なかったです。
けれども、そんなみどりが言う「戦うだけでなく逃げることもあっていい」「見て見ぬふりをするのではなく、周囲にちょっとだけ視線を向けて」という弟への言葉は、そのやわらかな語り口とともにとても心に染みました。
ラストの牡蠣工場。
山本相手に見せた穏やかな笑顔ややさしい声を聞いていると、きっと木村もお姉さんの言葉を深く理解したのではないかな、と思いました。
「懇親会は自由参加」と宣言したことで、工場長に配置転換を示唆されて、彼の未来は決して明るくないし、山本自身の問題も何ひとつ解決してはいないけれど、互いに少しだけ心を開いて、ぎこちない会話をかわす二人は、まるで温かい陽だまりに包まれているようでした。
娘のケイちゃんが「獣医になりたがっている。馬が好きらしいの」というオチも洒落てたな。
いつも俯きがちの暗い雰囲気でぼそぼそ話す山本と、強気で凄腕の女ガンマン ジャンゴを鮮やかに演じ分けた天海祐希さん。
とはいえジャンゴも決してスーパーウーマンではなくて、決して人に言えない秘密を抱え、ボコボコに殴られたりもすれば、精神的には娘のケイに依存している部分もあるように見えます。そんな人間的な部分も含めて素敵でした。
射撃はそれほど得意そうではなかったけれど(天海さんってば殺陣もそれほど・・・なのですよね💦)、カウボーイハットをかぶってピタリと決めたガンマン姿はさすがのカッコよさでした。
この天海さんはじめ、他の人たちがすべて「広島」と「ヒロシマ」で関連性はあっても別人格なのに対して、鈴木亮平さんの木村だけが=ディカプリオです。
姿は変わってしまっているけどw
現実世界ではイエスマンで何もできないでいる木村の象徴ともなっているようです。
まずは自分が馬であることに驚き、馬として扱われることに驚いて何かと笑わせてくれつつ、いかにもいいヤツっぽくて、実は繊細な一面ものぞかせて魅力的でした。
歌もラップもめちゃウマではないけれど、ちゃんと聴かせてくれました。
その存在感がこの物語を支えてるといってもいいくらいの仲村トオルさん。
どちらも独裁者ながら、どことなくほのぼのとした雰囲気も漂わせる工場長と、有無を言わさず悪に徹するティム。
コワモテでしかもとびきりオトコマエ。不肖スキップの悪役フェチの血が騒ぐというものです。
どうしようもないクズ男 クリスの野村周平さん、正義を貫く困難と人間の弱さを体現したチャーリーの藤井隆さん、姉御肌のドリー 宮下今日子さん などナド、役者さんは皆よかったです。
中でも、みどり役の土居志央梨さんの佇まいが印象的で、どこかで観たことがある女優さんなのだけど思い出せず。後で調べたら木ノ下歌舞伎のいくつかの作品で拝見していました。朝ドラ「おちょやん」で岡安のお茶子頭の役もされていたのですって。
カーテンコール。
上手袖にはけて行く仲村トオルさんが茶目っ気たっぷりに笑いながら片目つぶって客席に向かって指ピストルバァーンッとぶっ放していらっしゃいました。見事に撃ち抜かれたわ

天海祐希さんと鈴木亮平さんはそれぞれ上手と下手で客席の拍手と愛を両手で抱きしめるポーズ。
多幸感にあふれた幕切れとなりました。
大千穐楽まであと2日。無事完走をお祈りしています のごくらく度



観たい作品だったのですが、タイトルにある「広島」では上演がなく(涙)いろんな方の感想を読んでいました。
なかなか厳しめの内容だったようですが、だからこそ、広島で見たかったなぁ・・・
(広島の劇団用に作られた作品・・ということも地元民なのに知らなくて)
詳細な感想、ありがとうございました。
やはり、天海さんのリーダー力、スター性は唯一無二ですね。
他のキャストの方も実力派で、豪華で。
いつかどこかで放送、されますかね?
いかにも蓬莱竜太さんといった趣きの暗くて重い内容でしたが、
最後に仄かな希望が感じられるのも蓬莱さんだなぁと思いました。
そうですよね。
広島でこそ上演してほしい作品ですね。
天海さん、私は若干「いつでもどこでもアマミユウキ」だと
感じているのですが(^^ゞそれがピタリとハマった時の瞬発力や
存在感は本当に唯一無二だと思います。
この作品は4月にライブ配信もありましたし、COCOON PRODUCTION
の作品はWOWOWでオンエアされることも多いですので、放送あるんじゃ
ないかなと私も期待しています。