
シス・カンパニー公演で北村想さん作、寺十吾さん演出というと「日本文学シアター 」かしらと思いがちですが、今回は北村想さん書き下ろしの新作戯曲です。
シス・カンパニー公演 「奇蹟 miracle one-way ticket」
作:北村 想
演出:寺十 吾
美術:松井るみ 照明:服部 基
衣装:前田文子 音楽:坂本弘道
出演:井上芳雄 鈴木浩介 井上小百合 岩男海史 瀧内公美 大谷亮介
2022年4月14日(木) 2:00pm 森ノ宮ピロティホール G列(4列目)センター
(上演時間: 1時間50分)
開演すると舞台に一人立つ鈴井浩介さん。
「私の名は楯鉾寸心(たてほこすんしん)」と名乗り、笑いをまじえながらこれから始まる物語の状況説明をするうち、斜め後ろのベッドに横たわっている男が浮かび上がります。男の名は法水連太郎(のりみずれんたろう/井上芳雄)で、警視庁のコンサルタントも務める敏腕私立探偵ですが、何かの事件に巻き込まれて記憶喪失になっている様子。医師である楯鉾とは、シャーロック・ホームズとワトソンのような関係らしく、互いにそう呼び合っています。法水探偵は、誰かから何らかの依頼を受けてこの場所に来ていたらしいのですが依頼者も依頼内容も思い出せません。法水を助けて看病してくれた少女マリモ(井上小百合)の祖父で行方不明となっている竿頭寬斎(大谷亮介)が依頼者で、森に謎を解く鍵があると推理した法水は楯鉾とともに「迷いの森」を探索しに行きます・・・。
ミステリーなのだけどどこなく不条理劇の香り。
そして笑いと歌!がある。
井上芳雄さん扮する法水探偵が、「もしかして僕は歌が好きだったんじゃないかな」と言って突然歌い出したのには笑ってしまいました。
それが案の定いい声でね。
北村想さんといえば、「風博士」(2020年)でも、フーさん(中井貴一)が、「この作家はやたらと役者に歌を歌わせるんだ」とおっしゃっていましたが、歌わせるの好きなのかな?
ミステリー=謎解き については、よくわからなかったというのが正直なところです。
ルルドの泉から、修道女(瀧内公美)の話のくだりは、「あの秋田の聖痕のあれだよね」とすぐに思い至りました。
後で調べたらちゃんとWikiにもありました(こちら)。
が、迷いの森や教会や洞窟は竿頭寬斎がプラズマで作った物であるらしい(寬斎はプラズマの実用化で成功をおさめ大金持ちとなって、今は会社を人に譲って隠居している)、マリモは実は寬斎と血のつながりはなく、牧師の恋人がいて、二人は聖跡を持つ女性を偽物として認めなかったバチカンの転覆を狙っているらしい・・・さらには、聖跡を持つ女性は、このプラズマで作られた教会の祭壇にホログラフィとして再現されるに至っては情報量多すぎて、結局テーマは謎解きなのかバチカンへの懐疑なのか、はたまたプラズマの名を借りた文明批判なのか?混乱してしまいました。
楯鉾医師によると、「法水探偵はマリモと牧師が企てていた事件を事前に阻止した」ということですが、それがどんな事件で、法水探偵がそれをどうやって阻止したのか全くわからず、「え?ワタシ、もしかして寝てた?」となりました💦
そしてのどかな駅で帰りの列車を待つ法水と楯鉾。
そこに他の登場人物もみんなやってきて、マリモこと井上小百合さんがサックスを吹き、芳雄氏が歌って大団円。
ええ~っ💦
日本文学シアターでお馴染みの書き割り風の装置とキッチュで漫画チックな映像。
本のページをめくるような音をさせつつ映像が切り替わったり、映像で「ゴオーー」という文字を見せて、音響で実際にその音を出す、といった演出はおもしろかったな。
役者さんも皆よかったです。
公式サイトに「名探偵(井上芳雄)とその相棒(鈴木浩介)の新たなバディ・ストーリーが誕生した!」とありましたが、井上芳雄さん、鈴木浩介さんのバディは二人とも機知に富んでいて愛嬌もあって、観ていて楽しかったです。
井上芳雄さんは揺るぎなく”真ん中に立つ人”だと思いますが、それを向こうに回して一歩も引かず、かと言ってでしゃばるでもなく品よく愉快で理知的な鈴木浩介さんすばらしい。
もし機会があるならばまたこのお二人のバディもの観てみたいです(原作・演出は別で(≧▽≦)
芳雄氏の歌はかなりミュージカル歌唱に寄せていたように感じましたが、あれは演出の指示だったのかしら。
井上小百合さんは全く存じ上げない役者さんでしたが、元乃木坂46の方なのですね。
サックスの演奏が始まった時、「キタぜ~」みたいな雰囲気が客席に流れたので、「あ、みんなこの人がサックス吹けること知ってるんだ」と思いました。
かわいいしよく通る声で台詞の口跡もよかったです。
平日マチネとはいえ空席があるなんて芳雄氏の舞台ではとても珍しいけれどそれがすべてを物語る の地獄度


