キューブ創立25周年記念作品。
第二次世界大戦末期の上海が舞台で、河原雅彦さん演出、本間昭光さんの音楽というところも同じだったキューブの20周年作品「魔都夜曲」(2017年)と連作ということになるでしょうか。
「魔都夜曲」で松下洸平さんは服部良一をモデルにした人物の役でしたし、壮一帆さんはどちらの作品でも同じ川島芳子役で出演されています。
cube 25th presents 音楽劇 「夜来香ラプソディ」
作:入江おろぱ
演出:河原雅彦
音楽:本間昭光
音楽監督・歌唱指導:福井小百合 バンドマスター:立川智也
振付:青木美保 アクション指導:前田悟
美術:松井るみ 衣装:生澤美子
出演:松下洸平 白洲 迅 木下晴香 壮 一帆 上山竜治
夢咲ねね 仙名彩世 前田悟 山内圭哉 山西 惇 ほか
2022年4月10日(日) 12:00pm サンケイホールブリーゼ 1階H列センター
(上演時間: 2時間55分/休憩 20分)
「魔都夜曲」の感想はこちら
物語の舞台は第二次世界大戦末期 1945年の上海。
欧米や日本など列強各国が租界(行政自治権や治外法権を持つ外国人居留地)を設け、外国人が多く住み、「魔都」と呼ばれる゙異国情緒が溢れる華やかな都市となっていたこの街に、陸軍報道班員として渡ってきた日本の人気作曲家・服部良一(松下洸平)は、「夜来香」を作曲した中国人作曲家・黎錦光(白洲迅)や人気女優で歌手の李香蘭(木下晴香)と友情を育みます。ついに、彼らを中心にした大規模な西洋式コンサートの開催計画が持ち上がりますが、実現にいたるには日本軍や中国本土の政治勢力、上海マフィアによる思惑や数々の困難を乗り越えなければなりませんでした・・・。
幕開けはコンサート「夜来香ラプソディ」の始まり。
燕尾服に身を包みタクトを振る服部良一こと松下洸平さん。
「このようなご時世の中、お越しいただき誠にありがとうございます。異様な状況下でも、ここに来ることを選んでくださった皆さんに感謝いたします」という口上で幕を開けます。
1945年 戦時下の上海と、新型コロナウイルス感染症の影響下にある現代社会ーその二つの世界をともに覆う閉塞感が重なります。
ここから時間を遡って、服部良一が上海にやって来た日からコンサート開催に至るまでの物語が、コンサートの場面を間に挟みながら描かれます。
このコンサートは実際に開催されたものだそうで、1945年6月 終戦2ヵ月前の上海でこんなコンサートが開催されたことにまずは驚き。
服部良一さんはじめ、黎錦光さん、李香蘭さん、川島芳子さん、そして山内圭哉さんが演じた山家亨陸軍報道班少佐も実在の人物です。
史実とフィクションを織り交ぜて、「終戦間際にもかかわらず、人種やイデオロギーの壁を乗り越え、コンサートを開催しようとした人々の葛藤や夢を描く物語」ということですが、何となく表層的というか、実際に起こった出来事をなぞることに終始していて、実際はもっと深刻であったであろう戦争の暗い影があまり感じられない印象でした・・・音楽劇だから?(否)
たとえば李香蘭が「私は日本人です」と告白する場面。
他のドラマでも観たことがあるのですが、あれは彼女にとって生きるか死ぬかという決死の覚悟での告白のはず。
それをあんなにサラリと流されるくらいなら、このエピソード入れない方がよかったのでは?と思ってしまうほど。
物語の中で起こった事象を”後で”言葉で説明する場面も散見されました。
共産党員だったことを理由にコンサートを中止するよう脅される黎錦光。
様子がおかしい黎錦光を服部が「何があったんだ」と心配するところで場面は切り替わり、コンサートも無事終わった後になって「あの時、君は僕の話を泣きながら聞いてくれた」と黎錦光が語るという展開になっていました。
この場面こそ、言葉の回想ではなく、きちんと演じて目の前で見せていただきたいところでした。
共産党云々については今にもコンサートにテロを仕掛けそうだったところを「軍が踏み込んで逮捕した」とこれも後で語られていましたね。
山家少佐が失脚するところでは川島芳子の思惑が絡んでいて、でもそれは彼女の誤解で、山家少佐は川島芳子を守るために遠ざけた、みたいなことを部下の中川(上山竜治)が芳子に告げる説明台詞が長々ありましたが、逆にあの場面そんなに詳しく必要?
・・・などというのはあくまでも私の主観であって、この場面はあってほしくてこれは不要と私が思う部分と作者のそれとがズレているだけで、好みの問題というか、感性が合わなかったのでしょう。
と、脚本に対する不満は少なからずありますが、音楽劇らしく楽曲はふんだんに盛り込まれ、クラブ ラ・クンパルシータのショーは華やか。「夜来香」も「蘇州夜曲」も、コンサートの歌唱含めて歌も皆さんとてもよかったです。
上海にやって来た服部良一と黎錦光が初めて会った夜、クラブで服部が「夜来香」を歌い始めると、それに合わせて“ご本人登場”とばかりに李香蘭が歌いながら現れる3人のステキな出会いのシーンと、それに呼応するかのようなラストシーンは印象的でした。
コンサートが無事終わり、戦争も終わってピアノの前で終戦を祝い友情を確かめ合って笑う服部良一と黎錦光。
その2人の背後で、祖国日本に旅立っていく李香蘭の姿。
戦争に負けた日本にこの先待ち受ける厳しい現実を知っている私たちは、服部と黎の友情はまるで夢物語のようにも思えますが、人と人との友情に国家も戦争の勝ち負けも関係ないと思わせてくれるラスト。
「音楽はいつだって僕らのそばにある。芸術は止められない」という服部良一の言葉に込められたメッセージが心に響きました。
服部良一の松下洸平さん。
ひたすら音楽を愛し、愛するがゆえに日本軍の道具として音楽が利用されることに葛藤する姿を熱演。
誠実に、情熱を持って音楽に向き合っている好青年という、いかにも持ち味どおりの役ですが、感情表現豊かにかなりオーバーアクションで、台詞も大声で発することが多くて緩急小さめだったのが意外でした。
松下洸平さんの舞台はこれまでにも何度か拝見していますが、こんなお芝居する人だったっけ?と思いました。
黎錦光は白洲迅さん。
服部を中国語読みでフープーと呼ぶ人懐っこさでいつも良一の傍らにいて、穏やかと温かさで包んで彼の心を開かせる存在。
そんな黎錦光の唯一ともいえる屈折がかつて共産党員だったことであり、そのために脅迫に応じなければならなくなったところな訳で、やはりそこはきちんと描いてほしかったと残念でなりません(再び)。
李香蘭の木下晴香さん。
想定より若めな役づくりでしたが、とてものびやかで美しい歌声は当時の人々を魅了した李香蘭を彷彿とさせます。
自分は政治の道具だとわかっていて、あえて道具としての使命を全うしたいと考える李香蘭、肝が据わっています。
チャイナドレスもよくお似合いで、凛とした佇まいが印象的でした。
宝塚歌劇団出身の3人(思えば、トップスター1人とトップ娘役2人って豪華キャストです)はそれぞれ適役好演。
「魔都夜曲」に続いて男装の麗人の壮一帆さんは相変わらずキリリと美しく、足を組んで煙草吸う仕草なんて見惚れてしまいますが、それは男役の、ではなくて、ちゃんと女性が男装している雰囲気で。
チャイナドレス着て1曲歌うボーナスショット(笑)もありました。
夢咲ねねさんのマヌエラは、ラ・クンパルシータの華やかで気が強い歌姫。
地声で歌う曲が多く、あんな力強い歌声と台詞の発声をするねねちゃん新鮮でした。
とっかえひっかえの衣装がどれもとてもよく映えて、相変わらず抜群のプロポーションと美脚。
仙名彩世さんは二幕冒頭にコンサートのゲストとして登場する中国人女優(名前忘れた💦)でいきなりすばらしい歌声を披露。
「おー、ゆきちゃんさすがやで」と思っていたら、一幕冒頭のモブの中に歌めちゃ上手い人がいると思った人が仙名さんだったと後で知る。
もちろん歌ばかりでなく、ロシア人の共産党員 リュパで見せてくれた演技もさすがの存在感でした。
この日は大阪公演千穐楽。
カーテンコールのご挨拶で松下洸平さんが「金曜日から1 2 3・・・」と公演数を数えて、山内圭哉さんに「今数えてるで!」とツッコまれる。
「キャストには関西の匂いのする方がいっぱいで・・・宝塚の方もいらっしゃるし」と仙名彩世さんをご指名。
仙名さん「○○○でーす!(私が忘れた中国人女優の役名ね)」
「昨日まで、たこ焼き・お好み焼き・たこ焼きの無限ループで体の中グルテンでいっぱいです!大好き。また来たいです」とお茶目(^^ゞ
洸平くんは「グルテンって何ですか?」と言って、「この人、いろんなこと知らんよ」と山内さんにまたツッコまれていました。
力入ってるしテーマもよくて役者さん揃っているのに残念な感じ の地獄度


