2022年04月09日

ただいま この腐った街 パリ! 花組 「冬霞の巴里」


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花組次期トップスター最有力候補の一人と目されている永久輝せあさん 満を持しての初東上公演。
作・演出は星組「龍の宮物語」(2019年)で鮮烈なデビューを飾った指田珠子先生。 
古代ギリシアの作家アイスキュロスの悲劇三部作「オレステイア」をモチーフにした復讐劇です。


宝塚歌劇 花組公演 
Fantasmagorie 「冬霞の巴里」
作・演出:指田珠子  
作曲・編曲:青木朝子 
振付:御織ゆみ乃  平澤智   擬闘:栗原直樹
装置:木戸真梨乃   衣装:有村淳
出演:永久輝せあ  美風舞良  和海しょう  春妃うらら  紅羽真希  
飛龍つかさ  峰果とわ  聖乃あすか  侑輝大弥  希波らいと  
愛蘭みこ  星空美咲/一樹千尋  紫門ゆりや ほか

2022年3月26日(土) 11:30am シアター・ドラマシティ 25列センター/
3月30日(水) 11:30am 13列センター
(上演時間: 2時間30分/休憩 25分)



物語: 19世紀末パリ。ベル・エポックと呼ばれる都市文化華やかな時代。
汚職と貧困が蔓延し、一部の民衆の間には無政府主義の思想が浸透していました。
そんなパリの街へ、オクターヴ(永久輝せあ)が姉のアンブル(星空美咲)と共に帰って来ます。二人の目的は、幼い頃、資産家の父オーギュスト(和海しょう)を殺害した母クロエ(紫門ゆりや)叔父ギョーム(飛龍つかさ)への復讐でした。
父の死後、母は叔父と再婚。姉弟は田舎の寄宿学校を卒業した後、オクターヴは新聞記者に、アンブルは歌手となり、パリへ戻って怪しげな下宿に移り住みます。下宿で、素性の分からない男ヴァランタン(聖乃あすか)やジャコブ爺(一樹千尋)と知り合うオクターヴ。やがて姉弟の企みは、異父弟ミッシェル(希波らいと)、その許嫁エルミーヌ(美蘭みこ)も巻き込んで・・・。


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「復讐の女神達エリーニュスが見下ろすガラス屋根の下、復讐劇の幕が上がる! 」
と公演解説にあった通り、エリーニュスたちの登場から始まるのですが、白地に赤い血が散りばめられたような衣装もメイクもゴシック調。
その後に登場するパリの街の人々も、下宿屋の女将サラ・ルナール(美風舞良)はじめ半数ぐらいはゴシックメイク。
「へぇ 宝塚でこれ?!」とまずは度肝を抜かれました。

回想シーンや現実の中にもゆらりと登場するオーギュストも、基本的に白いスーツに赤い血が散りばめられていて、エリーニュスと同じ、つまり彼自身は復讐を望んでいて、オクターヴを駆り立てる存在なのかなと思いました。

最後に人々の一番後ろからスックと登場するオクターヴ
暗い三白眼の目で前を見据えて、放つ第一声

「ただいま この腐った街パリ」

このひと言でこの作品のイメージも、オクターヴの印象もすべて表していて凄い。
指田先生、「龍の宮物語」とはまた違った独特の世界観で惹き込まれます。
そしてそれを一声で表現する永久輝さん、すばらしい。

「Fantasmagorie」って初めて聞いたなと思って調べたところ、「18世紀末にフランスで発明された、幻灯機を用いた幽霊ショー」ですって。


物語は現在と過去の回想を行き来して展開。
その過去も時系列に並んでいるのではなく、オクターヴが真実に近づくたびに過去の忘れられた記憶の断片が繰り返されたりもします。

父が死んだ日、それが自殺ではなく、母クロエと叔父ギョームが殺害に関わったことを聞いてしまい、二人を憎み、復讐することだけを誓って生きてきたオクターヴとアンブル。
父殺害に加わったブノワ(峰果とわ)を殺し、着々と目標に近づこうとするオクターヴは、自分たちには優しかった父が、周りの人々からは憎まれ恨まれた人物で、姉のイネスを死に追いやったことを知ります。
葛藤し、悩み苦しむオクターヴ。

「絶対的な悪人も、非の打ちどころのない善人もいない」
「真実は見方によって変わるし、何が善で何が悪かなんて誰にもわからない」

相反する二つの価値観に迫られるといったところがテーマでしょうか。
とても重くて深い。
私たちの今に通じる、普遍的な課題です。


姉弟と母、叔父の関係は「オレステイア」のモチーフで、そこにヴァランタンという、オクターヴより激しい憎悪を持った人物と、それと対照的に陽だまりのようなミッシェルとエルミーヌを配したところがオリジナルで、これが非常に効果的でした。
特にエルミーヌの屈託のない明るさ優しさに、「俺もあなたの世界に生きられたらよかった」と、すでに汚してしまった手を悔いるオクターヴ、そして「私たちも昔はあの世界にいたのよ」と静かにつぶやくアンブルも、観ていて辛く、切ない。

最終的に、あれほど憎んでいたギョームをヴァランタンの狂気から守ることになるオクターヴ。
それがギョームやクロエを赦した結果の行動なのか、ヴァランタンの行動の理不尽さの中に自分自身を見たせいなのか、そのあたりは観る側の解釈に委ねられているような気がしました。

オクターヴの心は壊れる寸前で、それを助けることができたのは、ただ一人 アンブル。
これまでのすべてを捨てて、どこへとあてもなく旅立つオクターヴとアンブル。
血が繋がっていないことがわかったけれど、これからも生きていくのでしょう「姉と弟」として。二人きりで。

冬霞にけむるパリの街とともに、何とも余韻の残る幕切れでした。


永久輝せあさん。
憂いたたえた瞳が時には鋭く荒々しくなり、また時には姉に甘えるかわいい弟になったり、復讐に燃えながらも悩み苦しみ葛藤するオクターヴ、とても魅力的でした。
端正なお顔立ちに少し長めの髪形と、ベル・エポックの時代の衣装がとてもよく映えます。
お芝居はもちろん、歌もダンスもクオリティ高く、華があって真ん中に立つのが似合うスターさんです。


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ポスターもいいですが、こちらの先行画像出たときざわめきましたよね。


オクターヴが思っていた以上に姉依存なので、”姉”としてのウェイトが高いアンブルは星空美咲さん。
「Prince of Roses」「銀ちゃんの恋」に続いて別箱3作連続ヒロインです(キャストにはヒロインという明確な記載はないけれど)。
研4になったばかりの105期の星空さんが、97期の永久輝さんのお姉さん役でハードル高かったと思いますが、ちゃんとお姉さんに見える演技で感心。
元より歌える娘役さんですが、カフェ・コンセールのショーのセイレーン役の歌も聴かせてくれました。

オクターヴとアンブルの対照として描かれるミッシェルとエルミーヌのカップルは、希波らいとさんと愛蘭みこさん。
二人でいつも同じ色のスーツとドレス着ているのね(^^ゞ
どうやったらあんないい子に育つの?という爽やか系イケメンの希波さん。
驚いたのは愛蘭さんで、花組には星空さん筆頭に下級生に有望なかわいい娘役さんたくさんいるのに「まだこんな子いたの!?」という感じです。
かわいいし、口跡よく台詞はよく通るし、歌もとても綺麗。
これからのご活躍が楽しみです。

聖乃あすかさんのヴァランタン。
謎の雰囲気を纏ったニヒルなアナーキスト。
ノーブルなプリンスのイメージからガラリと変わった強く濃いメイクに刈り上げた髪。
こんな役もできるんだ、と驚きました。
ご本人も楽しそうに演じていらして、男役・聖乃あすかにとってエポックメイキングな役になったのではないかしら。

あのギラギラした高師直の欠片も見えない(当たり前)クロエの紫門ゆりやさん。
綺麗で品があって、いかにも上流社会のマダムという雰囲気ながら胸の奥に何かを抱えるミステリアスな面も垣間見えて素敵でした。
フィナーレも金髪ボブのヘアで娘役としえ踊っていらっしゃいました。

ギョームの飛龍つかささん。
オクターヴの過去のイメージの中の”やさしい叔父さん”と、今の厳格な警視総監をくっきり演じ分けてさすがの力量。
厳格な中に大人の男の色気もあって、ちゃんと紫門ゆりやさんの夫に見えるのもすごい(逆に紫門さんがすごいとも言える)。



下宿屋の住人でかつてオクターヴの家の主治医だったジャコブ爺の一樹千尋さんが短い出番ながらさすがの存在感。
ヴァランタンの仲間の学生でカフェ・コンセールに爆弾投げ込むシルヴァンの侑輝大弥さんの端正な美しさも印象的でした。


フィナーレはタンゴ。
聖乃センター群舞→永久輝入って総踊り→永久輝・星空短いデュエダン→永久輝・飛龍・聖乃・侑輝・希波→永久・飛龍・聖乃→永久輝ソロ
デュエットダンスで締めるのではなく、男役が段々減っていって、ラスト永久輝さんのソロダンスという構成。
5人残ってから、永久輝さんが飛龍さんや聖乃さんたち一人ずつと組んでタンゴ踊るのも新鮮でした。



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梅芸の上と下で花組が180度趣きの違う作品を同時に上演していた奇跡のような時間。
どちらも観られて幸せでした。




東京公演始まったばかりですが、無事完走できますように のごくらく地獄度 (total 2287 vs 2287 )




posted by スキップ at 22:07| Comment(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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