
劇団☆新感線40周年興行として2020年に上演を予定されていた作品。
コロナ禍で全公演中止となってしまいましたが、2年を経て上演される運びとなりました。
手元にある2年前のフライヤーと比べてみると、橋本じゅんさん以外は主要キャスト全員ステイ。
初日と千穐楽と、保険のために真ん中あたりで1公演申し込んだら全部当選してしまって、3回も観る
2022年劇団☆新感線42周年興行・春公演
いのうえ歌舞伎 「神州無頼街」(しんしゅうぶらいがい)
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
美術:池田ともゆき 照明:原田保 衣装:竹田団吾
音楽:岡崎司 作詞:森雪之丞 振付:川崎悦子
殺陣指導:田尻茂一 川原正嗣 アクション監督:川原正嗣
出演:福士蒼汰 松雪泰子 髙嶋政宏 粟根まこと
木村 了 清水葉月 宮野真守
右近健一 河野まさと 逆木圭一郎 村木よし子
インディ高橋 山本カナコ 磯野慎吾 𠮷田メタル
中谷さとみ 保坂エマ 村木仁 川原正嗣 武田浩二 ほか
2022年3月17日(木) 5:30pm オリックス劇場 2階1列センター/
3月25日(金) 1:00pm 1階6列センター/3月29日(火) 5:30pm 1階12列上手
(上演時間: 3時間15分/休憩 20分)

物語の舞台は幕末の駿河国の清水湊。
侠客・清水次郎長(川原正嗣)の快気祝いが催される料亭には名だたる博徒の親分衆が集まっていました。他人の事情に勝手に口を出しては銭にする“口出し屋“の草臥(そうが/宮野真守)が客人の親分たちを調子よく迎える中、次郎長のひどい傷を治した”命の恩人”の町医者・秋津永流(あきつながる/福士蒼汰)の姿が見当たらず探しに行きます。
一方、快気祝いの席へ、今売り出し中の侠客・身堂蛇蝎(みどうだかつ/髙嶋政宏)が、妻・麗波(うるは/松雪泰子)、息子・凶介(きょうすけ/木村了)、娘・揚羽(あげは/清水葉月)を引き連れて現れ、毒サソリを使って親分衆を皆殺しにして去って行きます。駆けつけた永流の治療で危うく一命をとりとめた次郎長から事情を聞いた永流は、蛇蝎の操る毒虫と自分の出自との因縁を感じ、身堂一家の謎を探るため、彼らの根城である富士の裾野の無頼の宿に向かいます。蛇蝎の息子・凶介がかつて幕府の御庭番を勤めていた自分の同僚とうり二つだった草臥もそれを確かめるため、永流とともに旅立つのでした・・・。
歌や踊りたっぷりで、どちらかといえばRXっぽいけれどもストーリー展開はしっかりいのうえ歌舞伎、という印象。
「髑髏城の七人」も初期のころは歌のシーンがたくさんありましたので、そういう意味では原点回帰なのかな。
客演の高嶋さん、松雪さんも歌える人であり、主要キャスト以外にも歌のシーンがたくさんありましたが、歌については宮野真守さんと山本カナコさんが群を抜いていました(カナコさんの歌声が大好きなこともあり)。
宮野さん草臥と村木よし子さんお銑が地下水道を行く場面はイントロから「オペラ座の怪人」テイストで、初日、大ウケで思わず手を叩いてアッハッハと笑った不肖スキップ、まわりはシーン・・・「オペラ座の怪人」知らんのかい!
「犬顔家の一族の陰謀」の「お湯にのぼせる」from 「闇が広がる」、「蒼の乱」の「クルミ」from 「ミルク」と、ミュージカルのパロディいろいろあったなぁと懐かしく思い返しました。
次郎長一家が出入りする場面の殺虫剤の歌とダンスはNiziUのパロディなのかな?・・・逆に知らんのかい!と言われそう(^^ゞ
殺陣はねー。
皆さんもちろん下手ではないしよく動けているとは思いますが、川原正嗣さん出てくるとスピードや刀捌き、重厚感が抜きんでて別格感あって、それはとりもなおさず、メインキャストにそれらが足りないということではないかと思います。
まだ静岡も東京もありますし、今後に期待かな。
「バディもの」ということだけしか事前情報入れずに観た私の一番の萌えパワーワードは「狼蘭族」。
永流が草臥に自分の出自を語り始めて「昔、大陸に人殺しを生業とする一族がいた・・・」というところで「それって狼蘭族じゃん!」と即座に反応した不肖スキップ。
「狼蘭族」といえば’(「シレンとラギ」にも出てきましたが)何といっても「蛮幽鬼」のサジ(堺雅人)と刀衣(早乙女太一)で、あの二人が殺し合うシーンまで目に浮かんだくらい。
その後の身堂蛇蝎・麗波もまじえたシーンで両サイドの字幕に「狼蘭族」と出た時には「やっぱり~」と思ったのですが、帰宅してパンフレットを読んだら、中島かずきさんがちゃんと書いていらっしゃいました。
「そろそろ”狼蘭族”の新しい物語を書きたいとも思っていた。
『蛮幽鬼』で登場した、殺しの技を売ることを生業としている大陸の一族。その後『シレンとラギ』でもこのアイデアを使った。この時からもう一本か二本、”狼蘭”を書きたいと思っていたのだ。
プロットを固めていく中で、『この展開ならば”狼蘭”だ』と思える瞬間があった。以前から書きたいと思っていたモチーフもすんなりとはまる。カチリカチリとピースがはまっていく感じがあった。
書き上げてみれば”狼蘭”の物語でなければ成立しない話になっていた」
「蛮幽鬼」は2009年の作品。
狼蘭族の末裔である永流が、父からたたき込まれた”殺人”のノウハウとテクニックを別の方向に置き換えて”医者”として人の命を助けて生きる、そしてそれが彼にとって生きる喜びにもなるという設定もよかったな。
13年の時を経て繋がっている。
中島かずきさんのホンのこういうところシビれるし大好きです。
その狼蘭族という出自はさておき、永流が聡すぎて”すべて自分でわかってしまう”ところがストーリー展開で少し気になるところでしょうか。
「馬鹿には育っていないようだね」という麗波の台詞がありましたが、最初に身堂蛇蝎が使ったサソリの毒を見て、これは大陸にしかいない毒虫→身堂蛇蝎が行方知れずの自分の父親と考えるところまではいいとして(草臥と観客は驚く)、その蛇蝎から「お前の父親は俺が殺した」と告げられて、一旦は気落ちするものの、次に二人に会った時には、「あんたが俺の父親なんだろう」と冷静に麗波に言い放つ(草臥と観客はさらに驚く)のはさすがにスーパーわかり過ぎでは?と思いました。
ただし、この身堂蛇蝎と麗波の関係性はこれまにないものでとても新鮮でした。
帝を守る護衛兵の長だった人間が、自分の部下たちと必死に闘う、帝の命を奪った血みどろの殺し屋に一瞬で恋に落ち、闘いの中で傷つき果てたその殺し屋を女につくり変えて、という展開はなかなかのエグさですが、最期の時までその思いが一貫しているのもよかったです。
最後の力を振り絞って永流に斬りかかろうとする蛇蝎を銃で撃ち、「お前が殺し合うのはあたしだろ」と言う麗波。
「そうだったな」と麗波を抱きしめ、その身体に剣を貫き通す蛇蝎。
苦しい息の下で蛇蝎の口の中に銃口を差し入れて撃ち放つ麗波。
名シーンでした。
無頼街を焼き尽くして、父母を死なせた永流に「この恨み、絶対忘れないからな!」と言い放つ揚羽。
「それでいい。俺を恨んでいいから、生きろ!」と返した永流。
その永流こそが生きる目的を見失ったように見えましたが、それを救ったのが、焼けて誰もいなくなった街に置き去りにされた赤ん坊の泣き声。
その赤ちゃんを永流と草臥が二人で育てていこうと決意するラスト。
♪負けてたまるか 無頼の街では 愛を捨てたら そこが地獄さ
という主題歌通り、愛を捨てなかった二人の未来は明るいと感じられる幕引きでした。
福士蒼汰さんの永流。
頬のあたりがとてもシャープで「あんなに痩せてたっけ?」と思いました。
お庭番の女たちをひと目で虜にする爽やかな笑顔を持ちながら、普段はそれを封印して重いものを背負っている感じがよく出ていてよかったです。
歌は少しでしたがよいお声。サラリとした黒髪に衣装もどれもお似合い。
永流の武器は槍?のような長刀ですが、スピード感が今イチなのとまだ振り回されている感じも散見されましたので、使い慣れて体の一部になるくらい操れるよう期待しています。
宮野真守さんの草臥。
何だか顔もキャラクターもうるさいのですが(笑)、明るく華があってすばらしい。
歌パートのメインを担っていて、これでもかというくらい歌っていましたが、よく通るいい声でうまいんだな。
草臥も過去を思うと闇を抱えていてもおかしくないのですが、そこは永流に任せてひたすら明るいのもよい対照でした。
ここぞという時に次郎長親分相手に命を張って切る啖呵もとてもよかったです。
ラスボス感ハンパない松雪泰子さんの麗波。
その麗波をゆったり包み込むような高嶋政宏さんの身堂蛇蝎。
松雪さんへのいのうえさん、かずきさんの信頼感は揺るぎないなといつも思います。
その二人の子どもたち-実は本当の子どもではない木村了さんの凶介と清水葉月さんの揚羽にもそれぞれ物語があって、凶介は元お庭番で草臥に屈折した思いを抱えているし、揚羽はまんま「和宮様御留」だし・・・この二人でアナザストーリーできそうでした。
清水葉月さんの滑舌と声の通り、すばらしいな♪
その揚羽さんを守るように従う千之介の粟根まことさんと百千代の右近健一さん。
粟根さんは今回裏の顔も持っていないし豹変したりしないし(あやつり虫にはヤラレちゃったけれど)、おとなしめでしたね。
そして川原正嗣さんの清水次郎長。
ちょっと大衆演劇味もある肝の据わった親分で、殺陣はもちろんですが、台詞もたくさん。
草臥の決死の説得で無頼街へ殴り込みを決意する時の名乗り、シビれるカッコよさ・・・からの殺虫剤ソングの落差もまたよし。
2020年のオリジナルキャストだったら、橋本じゅんさんの役まわりだったのかなと思いました。

千穐楽は前作「狐晴明九尾狩」に続いてエアおせんべい撒きでした。
最初のご挨拶は福士くんでしたが、進行的なMCはほぼ宮野さん。
「心で受け取ってください。そして心で受け取ったせんべいは不思議なことに劇場出口で具現化されます」という言葉に笑ってしまいました。
宮野さんが床に置いたものを福士くんがエアキックする、というのを何度もやっていました。
みんな笑顔で楽しそうに心のおせんべいを撒いてくれていて、新感線の千穐楽ってやっぱりいいなと思いました。
幕が下りる直前までかがみ込んでおせんべい投げていた福士くんと宮野さん。
拍手が鳴りやまず、予定外に追加されたカーテンコールでも、幕が下りて紗幕の中にうっすらシルエットが浮かんでいる時も二人で手を振ってくれていました。

劇場前の新町北公園の桜が満開で、千穐楽をお祝いしてくれているようでした。
静岡、そして5月28日の東京大千穐楽まで、無事に駆け抜けられますように!
オリックス劇場の音響があまりよくなくて、歌詞が時々聴き取れなかったのが残念。当初の予定どおりフェスティバルホールで観たかったな のごくらく地獄度


