2022年03月17日

芝居x狂言 「サヨウナラバ」


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古典芸能の人々とも交流が深いわかぎゑふさんが、古典と現代演劇とのセッションの場として、和の交流という意味で命名した「わ芝居」。
2017年に第一弾 上方落語とのコラボレーション「カラサワギ」を上演して今回が第二弾 狂言とのセッションです。
当初は2020年4月に上演予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で中止。
2年越しのリベンジ公演となりました。

芝居ver.と狂言ver.があったのですが、そりゃ両方観るってものでしょ。
どちらのバージョンも能舞台にきちんと正座された素敵なお着物をお召しのわかぎゑふさんのご挨拶から始まりました。


玉造小劇店 わ芝居~その弐 「サヨウナラバ」
脚本・演出:わかぎゑふ
舞台監督:武吉浩二  舞台美術:嵯峨真由美
照明:大川貴啓  衣裳:和工房ちどり
狂言制作:中嶋沙弥奈(童司カンパニー)
出演:
狂言ver. Cutting Edge KYOGEN
茂山千五郎  茂山茂  茂山宗彦  茂山逸平  茂山千之丞
芝居ver.
野田晋市  うえだひろし  松井千尋  吉實祥汰  澤田紗菜  美津乃あわ  
森崎正弘  谷畑聡  江戸川じゅん兵  是常祐美  武市佳久  わかぎゑふ
日替り狂言師(茂山逸平)

2022年2月27日(日) 
1:00pm 狂言ver. 山本能楽堂 1階B2列(最前列)センター/
5:00pm 芝居ver. 1階B2列(最前列)センター
(上演時間: 各2時間)



物語は昭和3年の大阪・船場から始まります。
老舗の天乃屋本家は主人が事故死、番頭は病死と不幸が続き、残ったのは跡取り娘で体の弱いシズ(是常祐美)ひとり。
「あんな病弱な娘には婿の来手がない。 本家がこのまま潰れたら世間様に顔が立たん」と分家筆頭の天乃屋新兵衛(谷畑聡)と親戚筆頭の春駒屋文左衛門(野田晋市)は、分家の手代の伊助(江戸川じゅん兵/茂山茂)に「一代だけや。シズが死んだら後は暖簾分けして店も持たせたる」と言い含めて結婚させます。
伊助と結婚したシズは体もすっかり丈夫になり、働き者の伊助のお陰で店は繁盛、雪という娘も生まれました。
時は経て10数年後。
分家の天乃屋新兵衛とお峰(美津乃あわ/茂山千五郎)夫妻の息子・金之助(武市佳久/茂山千之丞)が雪(澤田紗菜)とひと目で恋に落ちます。本家分家ともに歓迎ムードの中、母のお峰だけが断固反対。お峰が弟で弁護士の三枝孝治(うえだひろし/茂山逸平)に語った真実とは・・・。


狂言ver. → 芝居ver. の順で観たのですが、どちらもとてもおもしろかったです。
狂言ver. は出演者5名で上演時間も約1時間と、芝居ver. の半分。

芝居ver. には、伊助と同じ手代で、婿に入って後に五代目天野屋平右衛門となった伊助に屈折した思いを抱く信吉(森崎正弘)、その妻でかつて伊助と将来を約束した仲だったのに無理やり引き裂かれた遊女のお花(松井千尋)など、狂言ver. に出て来ない周りの人々も登場して、人の心の機微がより一層細やかに丁寧に描かれています。

ちなみに、あらすじに名前が出てこなかった茂山宗彦さんは天乃屋の主治医 高田裕斎役。白衣にナースキャップの変形のような、赤十字がついたものをかぶった拵えで「これはこの辺りに住まい致す薬師でござる」と狂言の冒頭に登場していました。芝居ver. でこの役を演じたのはわかぎゑふさん。


狂言ver. ではこの薬師のすぐ後に出てくるのが茂山千五郎さん演じるお峰で、マリー・アントワネットのような盛ったヘアにオレンジ色のドレス、右耳には巾着袋下げて・・・という拵えの強烈なインパクトに現れるなり場内爆笑。
ワタシ、最前列の真ん中の席だったのですが、橋掛りから登場した千五郎さんお峰が本舞台をずんずん前に出て近づいてくる間じゅう笑いが止まりませんでした。隣席の男性もずーっと笑っていらしたので、本当におもしろかったのだと思います。大反則です。
あの拵えで「うえ~ん」って泣いたりするの、ほんとカワイイ。


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これね


後から芝居ver. を観て、狂言ver. は芝居ver. のエッセンスをギュッと凝縮したような舞台となっていたことがよくわかりました。
同じ作品でこの2本を書き分けるわかぎゑふさん、ほんと凄い。


お峰さんが散々気をもんだ金之助と雪の結婚問題ですが、物語はハッピーエンド。
まず、お峰さんの反対理由は、金之助は自分が産んだ子ではなくシズの子ども-つまり金之助と雪は異父兄妹だから絶対結婚させる訳にはいかないのです。父親は多分急死した番頭で、そのことは当のシズさえ知らず、お峰さんと産婆さんだけの秘密でした。

一族が集まる中、お峰さんが切羽詰まって真実を打ち明けようとした矢先、先に驚くべきことを口にしたのはシズさん。
雪は自分の子ではなく、かつて夫の伊助と恋仲だったお花(今は分家の奥方)の産んだ子で父親は伊助。
つまり金之助と雪にはまったく血のつながりがないことがわかります。
その上、暖簾分けしてもらって分家の吉田屋惣五郎となった信吉も、妻の子を通じて本家との血縁関係ができて、長年のわだかまりも解消されるという。

文章にするとややこしくて、その上、そんなうまいこといくかいなという感じなのですが、あの時代の大阪の商家の本家分家にはそれくらいのことあったんじゃないかなと感じます、何より緻密に構築された脚本に説得力があって、心から「よかったねー」と思いました。
タイトルの「サヨウナラバ」はつまり「左様成らば」なのですが、これは狂言ver.の方がよりしっくり馴染んだ印象です。


芝居ver. は手代の頃の伊助と信吉の二人の場面から始まって、ラストもこの二人(+近所のおじさん)。
第二次世界大戦の大阪空襲のすぐ後で、家族を疎開させ蔵に避難していた二人。
鳴り響く空襲の爆撃音に「まただよ」と泣きそうになった(前日観た「マーキュリー・ファー」の記憶で)けれど、どん底から立ち上がる大阪人の強さと明日への希望が感じられるラストはとてもよかったです。


狂言ver. は、お芝居の後、「役者さんが狂言を習う」「狂言師がエチュード(演劇の練習)をする」というワークショップがありました。
野田さんやうえださんたちが狂言の所作や発声を習うの、すごくおもしろかったし、狂言師さんたちの「声」の強さすばらしさを改めて実感しました。



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能楽堂はいくつかお邪魔したことありますが山本能楽堂は初めて
椅子はゆったり座り心地よく、床暖房で足元ほかほか 快適でした。



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いつもやっていた終演後のサイン会できない代わりにプログラムに全出演者のサイン付きという豪華版
ゑふさんと、プログラムの写真もサインもかわいい千五郎さん



文楽や歌舞伎ともコラボあるかな その参、その四も楽しみ のごくらく度 (total 2280 vs 2274 )



posted by スキップ at 14:31| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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