読書の感想をブログにアップすることはあまりしてないのですが、この本は最近読んだ中でダントツにおもしろかったので記録として残しておきたいと思います。

原田マハ
双葉社 2014年初版/2018年 双葉文庫
原田マハさんの別の作品に興味があって、所用で図書館に行った時に原田さんのコーナーに立ち寄ってみたのですがお目当ての本はなく、代わりに「どれでもいいや」(←)とこれを連れて帰ってきました。
原田さんの作品を読むのは初めてで、もちろん内容についても一切知らず、「奇跡の人」といえば、アニー・サリバンとヘレン・ケラーの物語がすぐ頭に浮かびましたが、たまたま同じタイトルなんだろうぐらいに思っていました。
物語は、昭和29年2月 文部省職員の柴田雅治が学者の小野村寿夫とともに吹雪の青森・金木村の川倉の地蔵尊へある老婆を訪ねて行くとこから始まります。
老女は、まもなく制定されようとしている重要無形文化財(人間国宝)の候補として小野村が薦める盲目の三味線弾き 狼野キワでした。
というところまでがプロローグ。
ここから物語は、明治20年(1887)4月 青森県東津軽郡青森町(今の弘前市)に遡ります。
最初はアンという女性が留学先だったアメリカのホストファミリーに宛てた手紙から始まります。
アンは、9歳で岩倉使節団の女子留学生の一人として渡米し、13年間をワシントンの上流家庭で娘同然に可愛がられて過ごし、最高の教育を受けて帰国した女性。
去場安(さりば あん)という名前を読んで、「去場って変わった名字だわね」と思っていた不肖スキップ、鈍すぎる(^^ゞ
アメリカで受けた教育を活かして日本の女子教育に情熱を傾けようとしていた安ですが、当時の日本には女性の活躍の場がなく、華族の婦女子に英語やピアノを教えて過ごす中、宰相 伊藤博文から友人の男爵の6歳になる長女の教育を引き受けてもらえないかという手紙を受け取ります。
一つ。れん嬢は、盲目です。まったく、見えません。
二つ。耳が聞こえません。
三つ。口が利けません。
ここまで読んで「あっ!」と声が出そうになりました。
「ヘレン・ケラーの物語やん・・・」
少女の名前は、介良れん(けら れん)。
ここから、安とれんの物語が始まります。
まだまだ古い因習の残る明治20年の東北。
介良家は極めて裕福な家ながら、まるで動物のように本能だけで食べ、動き回り、泣き叫ぶ ”けもののような”少女れんは、隠匿され、蔵に押し込められて暮らしていました。
後で知ったところによると、明治20年 1887年は、アニー・サリバンとヘレン・ケラーが実際に出会った年なのだそうです。
これを日本の、雪深い東北を舞台に置き換えたばかりでなく、オリジナルにはない人物を登場させています。
津軽地方でボサマと呼ばれ蔑まれている、家の前で三味線を弾くなどして金銭や食べ物をもらう芸人 キワ。
れんが安と二人、本家を離れて金木村にある介良家の別邸で教育の日々を過ごしていた明治20年に出会います。
「れん 7歳 キワ 10歳 運命の出会い」と記されています。
このキワが物語の最初に登場した狼野キワです。
世間では子どもはボサマに会ってはならないとされる中、キワたちが勝手口に立つたびに大喜びで出てくるれん。
そのれんとキワの交流を微笑ましく見守る安。
キワたち一行がこの地を去ることになった時、安は頼み込んでキワを預かることにします。
目は見えないけれど耳は聞こえ、言葉も話せるキワ。
文字の存在を全く知りませんでしたが、安の指導を受け、語彙を増やし教養を身につけていきます。
れんもまた、同世代のキワとともに学ぶことで急速に進化を見せていきます。
二人と安の幸せな学習の日々は、れんの父 介良貞彦の来訪と本家への帰還が決まることにより、キワが自ら去っていく形で突然終わりを告げます。
れんは本家の母のもとに帰ると、それまでの学習を忘れたように退化してしまいますが、それをこれ以上ない激しさで必死に食い止めようとする安。
負けない。絶対に負けない。
負けないで、れん。絶対に負けないで。
あなたを、何も知らなかった頃に引き戻そうとする退化の力に。
あなたはもう、何も知らない子供じゃないのよ。
あなたは、これから、この世界のすべてを知るのよ。
誰よりも、開かれた人になるのよ。
・・・そしてあの有名な井戸水の場面。
津軽地方の方言で紡がれる物語。
キワが奏でる津軽三味線の音色、そして津軽じょんがら節が哀切な響きを放っているよう。
エピローグは昭和30年(1955)10月 東京
重要無形文化財 第一号の一人に選ばれ、認定式で三味線を披露することになったキワ。
それを客席か見つめる、アメリカから帰国したれん。
という場面で終わります。
70年近くの年月を経て、再び手を取り合うれんとキワの姿が目に浮かぶような、温かいラストでした。
原田マハさん 他の作品も俄然読んでみたくなりました のごくらく度


