2022年03月05日

神の采配 星組 「王家に捧ぐ歌」


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宝塚歌劇としては2年ぶりの御園座公演。
ヴェルディのオペラ「アイーダ」をベースに2003年に星組 湖月わたるさん主演で初演され、2015年には宙組 朝夏まなとさん主演で再演された作品。

挑むのは、礼真琴率いる星組。
2月8日初日の予定だったのが新型コロナウイルス感染の影響で休演となり、2月17日ソワレから上演となりました。
当初予定の半分の日程となってしまいましたが、2月27日まで、出演者40人誰一人欠けることなく千穐楽を迎えられて、本当に本当によかった


宝塚歌劇 星組公演
グランド・ロマンス 「王家に捧ぐ歌」
-オペラ「アイーダ」より-
脚本・演出:木村信司
作曲・編曲:甲斐正人
振付:羽山紀代美  竹邑類  麻咲梨乃  百花沙里
装置:稲生英介   衣装:加藤真美
出演:礼 真琴  舞空 瞳  悠真 倫  白妙なつ  天寿光希
輝咲玲央  ひろ香 祐  音咲いつき  朝水りょう  有沙 瞳
天華えま  夕渚りょう  天希ほまれ  華雪りら  遥斗勇帆
極美 慎  碧海さりお  天飛華音  都 優奈  瑠璃花夏 ほか

2022年2月24日(木) 11:00am 御園座 2階4列センター/
4:00pm 1階2列(最前列)センター/2月26日(土) 4:00pm(配信視聴)
(上演時間: 3時間/休憩 30分)



エジプトとエチオピアが敵対し争う古代エジプトの時代。
エジプトの若く勇敢な将軍 ラダメス(礼真琴)と、エジプト軍に捕らえられ奴隷となったエチオピアの王女アイーダ(舞空瞳)の悲恋を軸に、ラダメスを愛するエジプトの王女アムネリス(有沙瞳)、その父であるファラオ(悠真倫)、アイーダの父でエチオピア王アモナスロ(輝咲玲央)、兄ウバルド(極美慎)などを巻き込んで描く物語。


2003年の初演は観ていなくて(柚希礼音さん主演の新人公演は映像で観た)、2015年宙組は本公演はもちろん、前夜祭も観ました(こちらこちら)。


今回、発表された時何かとざわついた衣装や舞台装置は大きく変わりましたが、脚本や楽曲、振付には変更なかった模様。
物語の冒頭、ウバルドの「何にもわかっていないのは俺だった」から、折り重なるようにして亡くなっているラダメスとアイーダがせり上げってくると、胸がきゅっとなってすでに涙ぐむ有様です。

初演された2003年はアメリカのイラクへの軍事侵攻が始まった年で、反戦と平和への祈りを込めた脚本はそのことを踏まえた木村信司先生のオリジナルということですが、奇しくも今回、まさに私が観に行った2月24日 ロシアによるウクライナ侵攻が開始され、物語の世界と現実の世界がシンクロして、ラダメスが歌う「世界に求む」や、アイーダの♪戦いは 新たな 戦いを生むだけ~ がより一層心に響く事態に、今、この作品を上演することがまるで神の采配のよう。

・・・と思っていたら、礼真琴さんが千穐楽のご挨拶で「2年前のコロナ自粛期間中にこの曲(世界に求む)を聴いて、いつかタカラジェンヌ全員でこの曲を歌いたいと思っていたらこのようなご縁をいただき、これが運命、使命だと感じました」といった趣旨のことを話されていて、まさしく神の采配だったんだなぁと思いました。

もう一つ、”神の采配”を思わせるところがストーリーにも。
ラダメスはファラオから「エジプトの息子」と呼ばれる将来を嘱望され、仲間からも慕われる勇敢な将軍で、もしアイーダに出会いさえしなければ、アムネリスと結婚してファラオの跡を継ぎ、エジプトを治めるという人生が待っていたかもしれません。
けれど、「あの人に出会うまでは暗闇の中に生きて、戦いにさえ意味を見出せなかった」と歌っていましたので、アイーダに出会うことこそが神の采配に違いありません。
たとえそれが自らの死を招く結果となっても、あのまま暗闇の中を生きていくより幸せだったのかと。


とはいえ、ラダメス、やっぱり考えも詰めも甘いです。
祖国が勝てばすべてうまくいく、平和にもなると何の疑いもなく信じているし、自分に好意を寄せているとわかっているであろう王女の前で敵国の王女を愛しているなんて言うし、アイーダと逃避行するために国家機密をベラベラしゃべってしまうし、ファラオに「お前はここに残れ」と言われて最大に動揺するし、「裏切者は多分私だ」とあっさり告白するし。
・・・その甘さが切なく哀しいです。

その点、アイーダの方がはるかに現実を見据えていて、「エジプトは世界の平和のために戦っている。エジプトが勝てばエチオピアは自由を得られる」と語るラダメスを笑い飛ばし、「終わるわけない。こんなに憎しみで溢れているのに。戦いは新たな戦いを生むだけ」という言葉を返すアイーダ。

エチオピアに勝利して凱旋し、ファラオに「何でも望みを叶えてやろう」と言われ「エチオピアの解放を!」と願い出るラダメス。
エジプトの人々はもちろん、解放される側のエチオピアの人たちも、周りのすべてが困惑し、怒り、」反発する中、

♪人みな ひとしく認めあって おたがいを許せるように
 たとえ今は 夢のように思えても・・・そんな世界を 私は求めてゆく

と歌うラダメス。
一幕ラストのこの場面、礼真琴 vs 39人 みたいな歌の場面ですが、礼さんラダメスの声の迫力が凄すぎて、その訴えるものが強すぎて、3回観て3回とも泣くという・・・。

vs 39人と書きましたが、アイーダだけはラダメスの言葉を信じて、期待に満ちた表情をしていたのもよかったです。
そしてもう一人
ファラオはそんなラダメスの言葉に耳を傾け、「これは賭けだ」とその願いを聞き入れます。
ファラオの偉大さ、国王として人としての大きさがよく表れているだけに、そんなファラオがこのことが遠因となって、エチオピア側の凶刃に倒れる結末はまたより一層やり切れません。ほんま、ウバルド

ここからのアムネリスの、「たった今からわたくしがファラオとなりエジプトを治めます」「さあ、エチオピアを滅ぼしに行きましょう!」は元々アムネリス派の私の大好きなシーンですが、有沙瞳さん、すばらしかったです。

そんなアムネリスが処刑前のラダメスに会いに来て、「私にあなたを殺させないで」と懇願するシーン。
アムネリスの言うとおり、「アイーダに騙されただけ」と言ってしまえば自分の命も助かるし、アムネリスの心を救うことにもなるのに「自分の気持ちを偽ることはできません」というラダメスがいかにもラダメスで、そんな男だからこそアイーダもアムネリスも彼を愛したのでしょう。

「物事はいつもあるべき道をたどります」と何度も繰り返してきたアムネリスが最後にとった行動が「女性として」ラダメスを助けることではなく、「ファラオとして」死刑執行を命じることだという厳しさにも涙。

地下牢で、「自分はここで死ぬけれどアイーダは生きて、アフリカの大地で輝き続けている」と希望を見出したラダメスに聞こえてくるアイーダの声。
「もう出られない」「もうここから出られない」と二度繰り返すのは、自分のことより、アイーダを何とかして外に出したいと思ったからなのかな。

「私たちにも一つだけできることがあるわ。祈ることよ。この世界で愛し合う者たちが死ななくてもすむように」とアイーダが言い、抱き合って静かに祈り、やがて息絶えていく二人。
地上ではアムネリスが「私が生きている限り、エジプトは二度と戦いを挑んではなりません:「この命令の虚しさはよくわかっています。この世から決して戦いはなくならないでしょう。それでも我々は決して明日への希望を失ってはならないのです」と宣言するのでした。


もともとの装置が御園座の舞台iには収まらないかもしれないというところから始まったビジュアルの改変。
礼真琴さんラダメスの衣装や髪型は公開された時はかなりセンセーショナルでしたし、初演再演と比べるとアレですが、舞台を観ていると物語にすごく惹き込まれることもあってあまり気になりませんでした。
エジプトは白、エチオピアは黒と色分けされていて、かなり現代的でスタイリッシュ。
ゴージャス感はアムネリス様で、という感じ。
いかにも古代エジプトという雰囲気はない代わりに、どこの国、いつの時代の話でもあるという普遍性を強調する狙いがあったのかもしれません。


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ラダメスのあの背中の太陽とヘビは、太陽神 ラー(=エジプト)と蛇(=エチオピア)の2国を背負う姿を象徴しているのでしょうか。


「世界に求む」「月の満ちるころ」「エジプトは領地を広げている」「アイーダの信念」「ファラオの娘だから」
楽曲はいずれも名曲揃い。
それを歌うまキャストで存分に聴ける心地よさ。


→ キャスト編につづく



posted by スキップ at 15:53| Comment(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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