2022年02月19日
60年の時を超えた「ウエスト・サイド・ストーリー」
「ロミオとジュリエット」をモチーフにして1957年にブロードウェイで初演され、1961年に映画化された大ヒットミュージカル。
初演をご覧になったご両親が購入されたアルバムを何度も何度も聴いたという10歳のスティーブン・スピルバーグ少年。
このミュージカルの映画化が念願だったというスピルバーグ監督が「キャリアの集大成」として60年ぶりのリメイクに挑戦した作品です。
「ウエスト・サイド・ストーリー」
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
振付:ジャスティン・ペック
原作:ジェローム・ロビンス アーサー・ローレンツ
音楽:レナード・バーンスタイン(作曲) スティーヴン・ソンドハイム(作詞)
製作総指揮:リタ・モレノ
出演:アンセル・エルゴート レイチェル・ゼグラー アリアナ・デボーズ
デビッド・アルバレス マイク・フェイスト ジョシュ・アンドレス
コリー・ストール ブライアン・ダーシー・ジェームズ
アイリス・メナス リタ・モレノ ほか
2022年2月17日(木) 9:15am TOHOシネマズなんば スクリーン2(IMAX)
(上映時間: 157分)
物語の舞台は、1950年代のニューヨーク。成功を夢見る多くの移民たちが暮らすマンハッタンのウエスト・サイド。
差別や偏見、貧困に直面する社会の中で、若者たちは同胞の仲間と集団をつくり、中でもポーランド系移民の「ジェッツ」とプエルトリコ系移民の「シャークス」は激しく敵対していました。そんな中、ジェッツの元リーダー トニー(アンセル・エルゴート)はシャークスのリーダー ベルナルド( デヴィッド・アルヴァレス)の妹マリア(レイチェル・ゼグラー)とダンスパーティで運命的に出会い、互いにひと目で恋に落ちます。二人の禁断の愛は、彼らを取り巻く人々の運命を変えていきます・・・。
「トゥナイト」「マリア」「クール」「アメリカ」「アイ・フィール・プリティ」「サムウェア」ースティーブン・ソンドハイム作詞、レナード・バーンスタイン作曲の数々の名曲に彩られた物語。すばらしい楽曲の数々が耳に心に残っていて、何ならサビの部分はほとんどの曲、原語で歌えますけれど・・・な不肖スキップ。
1961年版の映画ももちろん観ましたし、2012年には佐渡裕さん指揮で「音楽部分を生のフルオーケストラで演奏」するというシネマティック・フルオーケストラ・コンサートにも行きました(こちら)。最近では、宝塚歌劇宙組で2018年に観ています(こちらとこちら)。
今回のリメイクにあたって、最も感じられるのはスピルバーグ監督のオリジナルへのリスペクト。
スピルバーグ監督特有のファンタジーのようなアレンジや奇をてらった演出は使わず、とてもオーソドックスに、独自性は主張し過ぎず、でも細部まで精巧につくり込まれた装置や風景の描写、シャープなカメラワーク、クールな振付・・・どれをとっても非情に高いクオリティ。そして異なるアイデンティティの対立という普遍的なテーマに重ねられた現代。さすがのディレクションです。
私が1961年版と違うと感じたのは次の3点
・ドク→ヴァレンティナ
ドラッグストアを営むドグの未亡人であるヴァレンティナがドグの役回り。
プエルトリコ移民で白人のドクと結婚したという、ある意味この町を象徴する存在になっていてジェッツ、シャークスの両方から一目置かれています。演じるのは1961年版でアニータ役だったリタ・モレノ。
ベルナルドを殺してしまった後、トニーとマリアが一夜をともにしながら歌う「サムウェア」はヴァレンティナのナンバーになっていました。
・行かないで
ジェッツとシャークスが決闘すると知ったマリアに「あなたが止めに行って」と言われて決闘の場に行って悲劇を迎えたトニー。
今回のマリアもトニーに一度は「止めに行って」と言ったもののすぐ「やっぱり行かないで」と言い直していました。
だから、トニーは自分の意志で決闘の場に行ったことになります。止めようとして。
この方がトニーの行動として、物語としての納得性が高いと感じました。
・消えゆく街
「THIS IS OUR PLACE」という縄張りを示したような立札の一方でそれを蹴り倒して踏み込む若者たち。
それでもその場所にはここが高層マンションの建設予定地であるというボードもあって、再開発が進んでやがてこの街自体が姿を変え、ジェッツ、シャークス問わず遠からず彼らの居場所が失われることが示唆されているように感じました。街全体が”終末感”で覆われているように思え、そんな街で悲劇が起こるのは必然のように、結末を知っているからではなく、まるで最初から約束されたことのように感じたのでした。
作品自体はとてもよかったです。
諸事情あって極度の寝不足状態だったのですが、2時間30分強、ピクリとも眠くなりませんでした。
ハーレムなどの現地での撮影と屋外セットでの撮影シーンがあるそうですが、全く区別がつかないくらい自然でした。
ミュージカルだし音響大事、と思って今回奮発してIMAXを選んだのですが、冒頭のウェスト・サイドの街の空撮シーン観ていたら臨場感あり過ぎて三半規管ヨワイ不肖スキップ、若干乗り物酔い気味になりまして(^^ゞこの感じ、何かに似てる、と思ったらうUSJで初めて「スパイダーマン・ザ・ライド」に乗った時の感覚でしたw
もちろんサウンドも大迫力で、すばらしい楽曲を体ごと包み込まれるような音響で聴くことができて、時代を超越した名曲の数々に、改めてバーンスタインの偉大さを感じました。
不良少年たちの抗争を題材にしていますが、そこに描かれるのは異なるアイデンティティの対立や移民、人種問題、差別、貧困、ジェンダーといった現代にも通じる普遍的な事象ばかり。
警察官ながら有色人種への根強い差別意識があって、不良少年たちを取り締まりつつもジェッツの少年たちにはちゃんと話をするシュランク警部補なんて、今でも時折報道されるアメリカの病巣を見るようです。
そして、60年の時を経てつくられた2本の映画が今のアメリカで、そして世界各地で起こっている問題に今なお警鐘を鳴らし続けていることはそら怖ろしささえ感じます。
ダンスパーティのトニーとマリアの出会いのシーンがすばらしくて、まさに”運命の出会い”を感じさせますが、ここで出会わなければあんな悲劇も起こらなかったかもしれないと思うと、もうこのシーンから涙がポロポロあふれました。
ダンスシーンは、ジェッツの面々がブルー系のドレスやシャツ、シャークスたちはダークな赤系で、これが昨年宝塚歌劇で観た「ロミオとジュリエット」を思い起させてまたナミダ。
ラスト トニーがチノに撃たれる直前の、マリアが鞄持って駆けてきて、というシーンの「あと一歩早かったら」感も凄くて、ここでもまた泣くなど。
映画をほとんど観ないので役者さんについては全くわからないのですが、皆さんオーディションで選ばれただけあって、演技も歌もダンスもすばらしかったです。
特にアニータ役のアリアナ・デボーズさんが印象的。
調べたら、この作品でゴールデン・グローブ賞受賞してアカデミー賞助演女優賞にもノミネートされているとか。
私はアニータという役が大好き。アニータの歌う「アメリカ」が大のお気に入りです。
だから、トニーにマリアからの伝言を伝えにドク(ヴァレンティナ)の店に行ったアニータが、ジェッツの男たちにひどい目にあわされ「マリアはチノに撃たれて死んだ」と言い放つところでまたまた涙がぶわっとあふれました。
自分の身体を汚されたばかりでなく、人間としての尊厳や誇り、プエルトリコ人であること、肌の色、愛するベルナルドのことまで侮辱され踏みにじられたアニータの怒りと絶望。♪I like to be in America と、アメリカは最高だ夢がいっぱいだと楽しげに歌い踊っていたアニータのあんな痛々しい姿。そしてこの後、トニーを死を知った時のアニータの気持ちを思うと・・・ほんと、ジェッツの奴ら許さん!
「あんたたちを子どもの頃から見てるけど、レイプ魔になるなんて」
アニータを救った後、哀しくも蔑んだ目で若者たちを非難したのがヴァアレンティナで、前述したように彼女は白人と結婚したプエルトリコ移民ということも、初代アニータを演じたリタ・モレノというキャスティングもあって、ある意味ヴァレンティナが、このスピルバーグ監督番「ウエスト・サイド・ストーリー」の象徴的存在なのではないかと思いました。
宝塚のLV以外で映画館に行くの超久しぶりなので予告編がとってもおもしろそうでどれも観たくなってコマル のごくらく地獄度 (total 2271 vs 2268 )
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