2022年02月16日

猿之助と愉快な仲間たち 朗読劇 「天切り松 闇がたり ~闇の花道~」


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本来は、昨年9月 春秋座で大学開学30周年記念・劇場20周年記念公演、猿之助と愉快な仲間たち 第一弾公演として市川猿之助さん、尾上右近さん、佐々木蔵之介さん、石橋正次さんほかのご出演で上演が予定されていながらコロナ禍で延期と発表された舞台です。

以前 Team申番外公演として、佐々木蔵之介さん、市川猿之助さん、佐藤隆太さんの3人で3回にわたって上演された朗読劇(調べたら2011年~2013年でした・・・遠い目)がとてもおもしろかったので、今回の情報が公開された時も「観たい!」とすぐ思いました。
が、大阪公演は2月13日1回限りで、この日は宝塚バウホールで星組「ザ・ジェントル・ライアー」→大劇場 宙組「NEVER SAY GOODBYE」をマチソワで入れていて「無理~」となったのですが、なんと、宝塚の公演がどちらも中止に。
それならば、とチケット探して観ることにしました。某譲渡サイトでかなりお安く譲っていただいたというおまけつきです。


PARCO PRODUCE
朗読劇 「天切り松 闇がたり ~闇の花道~」
原作:浅田次郎
脚本・構成:青木江梨花
演出:長部聡介
出演:市川猿之助  市川中車  中村壱太郎  石橋正次  石橋正高  
下川真矢  穴井豪  市川郁治郎  市川翔乃亮  市川猿

2022年2月13日(日) 1:00pm 森ノ宮ピロティホール K列上手
(上演時間: 2時間)



浅田次郎さん原作の「天切り松 闇がたり」シリーズは未読。
大正・昭和の帝都東京に名を馳せた義賊「目細の安吉」一家の活躍を描く物語で、今回はこのシリーズから三部構成で朗読劇として上演されました。

第一夜「闇の花道」
昭和のある年の瀬の夜更け、留置場の雑居房に現れた老人は大正昭和の東京にその名を鳴らした義賊 目細の安吉一家のひとり松蔵、二ツ名は「天切り松」。
彼は六尺四方にしか声音が届かないという「闇がたり」で「目細の安吉一家」の活躍を語り始めます。

大正6年 松蔵 9歳。
父・平蔵に連れられて抜弁天の大泥棒 安吉一家を訪ねた松蔵は、豪壮な屋敷に手下たちとともに住む安吉にその場で引き取られ一家の部屋住みとなります。
翌年、東京地検の辣腕検事おしろいこと白井検事が大親分 仕立屋銀次が放免されることを告げ、銀次を引退させて安吉が跡目を継ぐよう持ちかけます。拒絶する安吉。しかし、網走監獄を出て上野駅に降り立った銀次とそれを出迎える安吉を白井検事の策略が待ち受けていました・・・。

第二夜 「百万石の甍」
松蔵 14歳。
安吉一家の”黄不動の栄治”は建設会社 花清の大旦那の息子ながら妾腹のため花清出入りの棟梁に母親ごともらい受けられていました。
今さらながら実の父親が栄治を跡継ぎにと加賀百万石の前田侯爵を仲立ちに頼んできました。了見できない思いを栄治は「天切り」の技に昇華させ、前田侯爵邸を的にかけて天下のお宝「色絵雉子香炉」を狙います・・・。

第三夜 「白縫華魁・衣紋坂から」
松蔵の父 平蔵は酒と博打に溺れ、松蔵の姉 さよを13歳で吉原に売り渡します。
4年後、並木康太郎という少年と仲良くなった松蔵は、吉原左文字楼の息子である康太郎の手引きで初めて吉原に足を踏み入れます。その日は華魁道中の日で、その道中の最後を飾ったのは角海老楼きっての売れっ子華魁・白縫華魁となった17歳のさよでした。
何とか姉を苦界から救い出したい松蔵は寅弥に頼んで・・・。


役者さんたちは皆、白いシャツに黒パンツといういで立ちで、舞台には中央と下手に二段ずつひな壇があって、ここに間隔を置いて役者さんたちが座ります。上手に猿之助さんのための小さなブロックが一つありました。
基本的に座ったままホンを開いて朗読する形で進行しますが、話によって座る場所を変えたり、身振り手振りをまじえたり。
猿之助さんや中車さんは時には舞台前方に出て来て、立ったり床に座ったり寝転んだり、身体全体をつかっての”演技”を見せてくれました。

時折ホリゾントのスクリーンに花などの映像は現れていましたが、セットもない空間で衣装もつけず拵えもしていない役者さんたちの語りを聴いているだけで、しんとした夜の暗闇、人々が行き交う町、駅のざわめき、華魁道中・・・目の前にその情景が広がっていくようでした。

どのお話もおもしろかったですが、ラストの「白縫華魁・衣紋坂から」が最も心に残りました。
白縫華魁を身請け・・となった時には白縫華魁こと姉のさよはスペイン風邪に冒されて明日をも知れぬ命。
やっとの思いで起き上がって、松蔵にもたれかかって話す壱太郎さんのさよと猿くん松蔵の姉弟のやり取りが切なくて哀しくて涙。

松蔵が鳥毛のように軽くなってしまった姉を背負い、吉原の大門を出て衣紋坂を登るところでさよが息絶え、永井荷風が現れた時には「え!突然永井荷風?!」と驚きましたが、松蔵にさよのために歌を唄うよう勧めて、荷風ともども ♪カチューシャかわいや わかれのつらさ~ と歌うに至ってまたナミダ・・・。


三話にわたって複数の役を兼ねて演じる役者さんたち。

猿之助さんはこの物語の主人公・松蔵と第三夜でさよの身請けに尽力する寅弥。
「ごめんこうむりやす。ごらんの通り棺桶に片足つっこんだ老いぼれでござんすが、お見知りおき下さいまし」と最初に留置所に登場する老年の松蔵から存在感が際立っています。
同じ人物でも声だけで年齢が違うことがくっきりわかるのすばらしいのと、時代味のある江戸言葉が本当に耳に小気味よく響きました。
寅弥は松蔵の兄貴分で白縫華魁にひと目ぼれするという役で、その一途さは猿之助さんのお役としてはかなり新鮮。

安吉親分、さよを買いにくる吉原の女衒 弥太郎、並木康太郎の伯父で歌舞伎役者の燕蔵の三役を演じ分けた中車さんもさすがの芝居巧者。
声色は元より、佇まいまでガラリと変わって、中車さんが一番「観る芝居」に近い印象でした。
中車さんも猿之助さん同様、口跡のよい江戸言葉が気持ちよかったです。
アフタートークでご本人が「楽しい」おっしゃっていたとおり、楽しんで演じていらっしゃる雰囲気が伝わってきました。

白井検事とさよという両極端な二役を担ったのは壱太郎さん。
さよは壱太郎さんの手のうちにあるお役で、さすがに上手くて泣かされましたが、白井検事は珍しい役でキャラも立っていて、壱太郎さん、こんな役もできるんだとうれしい驚きでした。

さよ・松蔵姉弟の父親 平蔵、大親分 仕立屋銀次、永井荷風の三役は、すっかり渋い役者となられた石橋正次さん。
平蔵はほんと、どうしようもなくて、永井荷風はどこか浮世離れした雰囲気。
「カチューシャの唄」をよい声で聴かせてくださいましたが、アフタートークで猿之助さんが「石橋さんには『カチューシャの唄』じゃなくて『夜明けの停車場』歌ってほしかったよ」とおっしゃっていました。
「『夜明けの停車場』聴いたことある人ー?」と挙手を募られましたが、もちろん手を挙げましたのワタクシ。

松蔵の子ども時代を演じた市川猿くん。
アフタートークで高校一年生になったと聞いて、あのかわいかったチョッパーが、と遠い目になる客席のおばちゃん約一名(不肖スキップであります)。
学業優先で芸能活動は目下お休みしているところ、今回市川喜介さんが体調不良で降板となり(コロナウィルス感染ではなかったそうです)、急遽代役として入ったのだとか。
フライヤーには喜介さんがクレジットされていますので本当に急だったのがわかりますが、とてもそうとは思えない芝居心ある演技。
台詞が頭に入っているらしく台本ほとんど見ず、口跡よく声もよく通って、しかも美少年・・・猿くん、おそろしい子。

猿くん松蔵が姉のさよを亡くした悲しみと、猿之助さん老年の松蔵の静かな語り口がまるで時空を超えて繋がっているようにも感じました。




終演後には役者さん全員でアフタートーク。
「余韻を大事にしたい方はここで帰っていただいても結構です」(笑)という猿之助さんのお言葉で始まりました。

この公演は元々IHIステージアラウンド東京で上演予定だったスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」が上演中止となり、何かできないかということから始まった企画なのだそうです。
「僕や中車さんはまだ映像の仕事もあるけど、舞台がないと役者はほんと、仕事ないから」とおっしゃっていたことと、満員の客席を眺めて「こんなにみっしり入った客席を見るのは本当に久しぶり」とおっしゃっていたのが印象的でした。

一人ひとり全員に丁寧に話を振る進行役の猿之助さん。

澤瀉屋一門の市川郁治郎さん、あの人どことなく芸風が笑三郎さんを思わせるわと思っていたら笑三郎さんのお弟子さんだと知った市川翔乃亮さん、スーパー歌舞伎でアクション担当の下川真矢さん、ダンスの振付もされる穴井豪さん、石橋正次さんのご子息の石橋正高さん・・・普段お話を聞く機会がめったにない役者さんたちのナマの声を伺うのも楽しかったです。


猿之助さんも中車さんも大阪で舞台に立つのは3年半ぶり(2018年7月松竹座の高麗屋襲名披露興行以来)とおっしゃっていて、今後もしばらく大阪で舞台の予定はないそうです。
今回3日間3公演だけですが、全公演上演できたこと、そしてこうして観ることができたこと、本当にまるで奇跡のようです。
役者さんたちも観客も「明日幕が上がるのか」と心配しなくてもいい日が1日も早く戻ってきますように。



猿之助と愉快な仲間たち 第2回公演「森の石松」は六本木トリコロールシアターのみの上演なのですって のごくらく地獄度 (total 2270 vs 2267 )

posted by スキップ at 23:41| Comment(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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