2022年01月29日
マーナとマイラの40年は 「ミネオラ・ツインズ」
「いかにして私は運転を習ったのか」でピュリッツァー賞を受賞した現代アメリカ演劇を代表する劇作家の一人 ポーラ・ヴォーゲルが1996年に発表して初演された作品。
今回が日本初演です。
1950年代から1980年代の激動の時代を生きた、性格が正反対の一卵性双生児の姉妹と彼女たちを取り巻く人々の物語。
設定やストーリーがおもしろいのはもちろん、舞台ならではの演劇的楽しさに満ちた作品でした。
シス・カンパニー公演
「ミネオラ・ツインズ」〜六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ〜
作:ポーラ・ヴォーゲル 訳:徐賀世子
演出:藤田俊太郎
美術:種田陽平 照明:日下靖順 衣装デザイン:伊藤佐智子
映像:横山翼 ステージング:小野寺修二
出演:大原櫻子 八嶋智人 小泉今日子 王下貴司 斉藤悠
2022年1月18日(火) 6:00pm スパイラルホール 北ブロック2列センター
(上演時間: 90分)
ニューヨーク郊外の小さな町ミネオラに住む一卵性双生児のマーナとマイラ(大原櫻子二役)は、胸の大きさ以外は全く同じ容貌ながら性格は正反対。境界線をつくって部屋を二つに分け、互いを遠ざけながら生きてきました。
物語の始まりは1950年代。
核戦争の恐怖が忍び寄るアイゼンハワー政権下。
保守的で”良い子”の高校生マーナは結婚して誰もが羨む家庭を築きたいとジム(小泉今日子)と婚約中。一方、マイラは高校の男の子たちと奔放な“発展的”交際を繰り広げ、お堅いマーナはマイラの素行を諭すよう頼まれたジムがマイラの元へと向かいますが・・・。
時代は過ぎて1969年。
ベトナム戦争の泥沼にあえぐニクソン政権下。
マーナは、過激な反戦運動に身を投じて指名手配犯となったマイラに逃走資金を渡そうと、14歳の息子ケニー(八嶋智人)と銀行の列に並んでいました・・・。
そして1989年。
ジョージ(パパ)・ブッシュ政権下の世の中。
「言い返せ!やり返せ!」とラジオで強硬な発言をする攻撃的な右派コメンテーターとなったマーナのもとをマイラの息子ベン(八嶋智人)がマーナの著書を手に訪ねてきました。マイラはパートナーの女性サラ(小泉今日子)と暮らし、妊娠中絶のための施設を運営しているのでした・・・。
横長のセンターステージを南側と北側に二分された客席が対面して取り囲む形の舞台。
マーナとマイラの二面性、アメリカにおける保守とリベラルの分断を象徴しているかのよう。
舞台上にスタンドマイクのようなものが6本。
そこに乗せられているのはウィッグだと気づく間に大原櫻子さんがその中の一つをかぶって物語はスタートします。
マーナが袖に入ってすぐマイラが出てくるといった早替りはもちろん、櫻子ちゃんは舞台上でもウィッグをつけかえ、下着姿になって着替えたりもしてマーナとマイラを演じ分けます。
四角い大きな箱のような装置が2つあって、王下貴司さんと斉藤悠さんが滑らかに動かし、それがモーテルのベッドになったり銀行のカウンターになったりする演出とステージングがスタイリッシュかつ鮮やかで、舞台作品ならでは。これまでにもケラさんの作品などでよくお名前はお見かけしていましたが、「ステージング:小野寺修二」さん 改めて心に刻みました。
「女性は慎ましやかで結婚するまで貞操を守らなければならない」「結婚して家庭を持つのが女の幸せ」「中絶は罪であり悪である」という考えを持つ”保守”のマーナ。
性に対する考えも行動も奔放で、反戦運動に身を投じたり、最終的には同性のパートナーとともに女性が生き方を選択できるよう中絶のための施設を運営する”リベラル”のマイラ。
マーナとマイラの40年を通して描かれるのは、アメリカの戦後史であり、保守とリベラルの確執であり、ジェンダーや人権の問題であり、そして、たとえ血を分けた家族でもわかり合うことができない切なさ。
「女の子は資格なんか持たなくていい」「女の子は働く必要なんてない」という1950年のジムの発言、「ライ麦畑でつかまえて」を図書館に収蔵するか議論している町に、時代を超えて怒っている1950年代の高校生のマイラと1989年のベン、さらには今に繋がる妊娠中絶をめぐる問題など、さながらアメリカ社会の縮図のような言葉のやり取りが繰り広げられます。
舞台上で時が移るたびにスクリーンに映し出されるアメリカ歴代大統領の映像に「あ、ケネディ」「レーガン、何だか懐かしい」・・・と時代とともに思い出されるあたり、さすが世界のリーダー国アメリカだわと感じ(たとえばフランスの大統領だったらこれほど全員知らないかもしれないと思われ)、また、日本との密接な関係も改めて思いやりました。
それと同時に、大統領の顔や名前だけでなく、その当時の社会情勢や思想的なこと、アメリカにおける保守とリベラルの対立の根深さなどにもっと詳しかったらこの戯曲への理解もより深まったのではないかと、自分の勉強不足を残念にも思いました。このあたり、翻訳ものの舞台を観る時いつも感じることではあります。
サブタイトルに「コメディ」とありますが、そこまでコメディではない印象。
もちろん笑いはたくさん散りばめられていて、高校生のマーナと今まさに、というところで寸止めされるジムとのやり取りや、ジムがマイラと浮気した証拠のストッキングを1969年のマーナがまだ持っていたり、マーナがマイラの施設に爆弾をしかけるあたりのハラハラなど、何度も声をあげて笑いました。
施設爆破事件がきっかけでマーナとマイラの”和解”が示唆される、希望が見えるラスト。
すべてが終わり、舞台中央でウィッグをはずし、無言でゆっくりと客席を見渡す大原櫻子さんが、これは遠い国の昔の話ではなく、あなたたち自身の現実でもあるのですよ、と示しているようにも感じられました。
「主人公の一卵性双生児の姉妹を一人の女優がカツラと衣装をめまぐるしく変えながら演じ分ける」というのは、作者ポーラ・ヴォーゲルが戯曲に指定していることなのだとか。
大原櫻子さん すばらしかったです。
衣装やウィッグを次々と替え、二人の人格と、少女から中年に至るまでの経時変化を描き出し、なおかつ芯はずっと変わらないマーナでありマイラを体現。
かわいいし、口跡よくて台詞もしっかり。櫻子ちゃんは2018年の「メタルマクベス disc 2」のマクベス夫人もよかった記憶があるのですが、これからも楽しみな女優さんの一人となりました。
舞台お久しぶり~な小泉今日子さんは、マーナの婚約者ジムとマイラのパートナー サラの二役。
この二役を一人の女優さんが演じることも戯曲の指定なのかな?
ジムが誰か把握していなくてスーツ着て登場した時には驚きましたが、特に声を変えるでもなく自然体で男性を演じていてその中世的な魅力に再度驚き。
マイラを包み込むようなサラもとても素敵でした。
八嶋智人さんが演じる二人の息子たち-ケニーとベンはともに14歳。
これがどちらもちょっとクセのあるいかにもな少年で、八嶋さんってば相変わらず笑いのセンス抜群で、キョンキョンが性別を超越しているなら、こちらは年齢なんて軽く飛び越えてるなと思いました。
ラストでベンは「部屋で寝ている」という設定だったのですが、カーテンコールにはパジャマ姿で出ていらして思わず笑っちゃいました。
戯曲本販売のところにあった3人のサインとメッセージ
キョンキョンの字カワイイ
雪組「ODYSSEY」(中止になっちゃったけど)→ 壽初春大歌舞伎第二部 → 「ミネオラ・ツインズ」 の順でチケット取ったのですが、この作品のチケット取って遠征に加えた自分を褒めたい のごくらく度 (total 2262 vs 2260 )
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