2022年01月15日
サイレント・コメディへのオマージュ 「SLAPSTICKS」
ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの戯曲の中から選りすぐりの名作を才気溢れる演出家たちが異なる味わいで新たに創り上げる連続上演シリーズ KERA CROSS。
「フローズン・ビーチ」(2019年)「グッドバイ」(2020年)「カメレオンズ・リップ」(2021年)と続いて第四弾はロロの三浦直之さん演出で「SLAPSTICKS」。
1993年にナイロン100℃で初演された作品ですが、オダギリショーさんがビリーを演じた2003年版が鮮烈な印象。
中年期のビリーは山崎一さん、ロスコー・アーバックルは古田新太さん・・・今思い返しても豪華キャストだったなぁ。
タイトルの「SLAPSTICKS」は、この作品にも登場するマック・セネットが無声映画時代に作りあげたサイレント・コメディ・・ドタバタ喜劇というスタイルのこと。
KERA CROSS 第四弾 「SLAPSTICKS」
作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:三浦直之
音楽:松本淳一 振付:北尾 亘 美術:中村友美
照明:阿部典夫 衣裳:神田百実 映像:松澤延拓
出演:木村達成 桜井玲香 小西遼生 壮 一帆 金田 哲
元木聖也 黒沢ともよ マギー 亀島一徳 篠崎大悟
島田桃子 望月綾乃 森本 華
2022年1月9日(日) 12:00pm サンケイホールブリーゼ
1階B列(最前列)センター
(上演時間: 2時間55分/休憩 20分)
1939年のアメリカ。
ビリー・ハーロック(小西遼生)は、伝説のコメディアン ロスコー・アーバックル(金田 哲)の映画をリバイバル上映してもらおうと、配給会社に勤めるデニー(元木聖也)を説得していました。サイレント・コメディーなど過去の遺物と興味を示さないデニーに、1920年代のハリウッドでの思い出を熱く語り始めるビリー。
1920年 コメディアン志望のビリー(木村達成)は “喜劇の神様” マック・セネット(マギー)の撮影所に助監督として入社しました。
ある夜、フィルムの編集作業中だったビリーのところへ人気コメディ女優のメーベル・ノーマンド(壮 一帆)が現れます。どこか様子がおかしい彼女を庇うセネットに口止めされ預けられたコカインを誤って吸い込んでしまったビリーは、サイレント映画の伴奏ピアニストだった初恋の女性アリス・ターナー(桜井玲香)の夢を見ました。
一方、上昇志向の強い若手女優のヴァージニア・ラップ(黒沢ともよ)は、ホテルのロビーでアーバックルに声をかけたことがきっかけで彼の部屋で開かれるパーティに招待されますが、そこで事件が起こります・・・。
物語は1939年と1920年を行き来して展開しますが、メインはサイレント映画からトーキーへと転換期を迎えた1920年のハリウッド。
主だった登場人物は実在の人物で、アーバックルの事件やメーベル・ノーマンドのコカイン中毒、マック・セネットとの恋人関係なども史実のようです。
ケラさんの言を借りると「半分捏造の評伝劇とは言え、残り半分は実話」だそうです。
小学生の時にお父様とチャップリンの「モダンタイムス」を観て感激して「将来なりたいのは喜劇映画の監督」と卒業文集に書いたほど熱心なサイレント・コメディ・ファンというケラさんの、サイレント・コメディとそのつくり手へのオマージュともいえる作品。
自転車を食べるとか首の骨を折ることも些末なこととされるなど、劇中で描かれるマック・セネットの撮影現場も凄いですが、スクリーンに映し出される当時のサイレント・コメディの体を張った映像が本当に凄まじくて、CGもない時代にこれ本当に人間がやって撮ったの?!と驚くばかりです。
多分当時の撮影所には何が何でも笑いをつくり出すという強烈な熱気があったのでしょうが、まるで笑いに憑りつかれてでもいるような狂気とは表裏一体だなぁとあの映像を観て思いました。
このサイレント・コメディづくりの映画人たちのドラマと並行して描かれるのは、過去を振り返るビリーの成長物語。
1920年の若きビリーは木村達成さんが演じていますが、それを少し離れたところから中年のビリー・小西遼生さんが見ているシーンがあって、その時の小西遼生さんビリーの、若い自分を見つめるちょっと苦味が混じった切ない表情がとても好きでした。
ビリーのアリスとの実らなかった淡い恋は、夢の中のシーンとしてダンスで描かれていてロマンティック。
そのアリスとの”再会”は、彼女がアーバックルの事件で証言をするのをラジオで聴く、というもので、アーバックルの潔白を信じる(信じたい、かな)ビリーにとっては、辛い”再会”となったのでした。
アーバックルの事件は何年も後に冤罪だったことが証明されているそうですので、この時のアリスの証言は嘘ということになりますが、何故彼女が嘘をついたのか劇中で回収されることはありませんでした・・・よね?(誰に聞いているのか)
ミュージカルのイメージが強い木村達成さんですが、ストプレよかったです。
いかにも好青年で真っ直ぐに映画を愛しているビリーが、撮影所でのあれこれに出会う中で苦さも味わい、それでも「映画が好き」という気持ちは失わないところが好感。
声もよく通るしイケメンで背が高くて、これからも活躍の場を広げそうです。
中年ビリーの小西遼生さんが、これまた「そんな素敵な中年いないでしょ」という色っぽく翳りのあるビリーで
コメディアンにも映画監督にもなれず夢破れた男の哀愁と、それでもサイレント・コメディへの情熱を燃やし続けている姿に胸熱。
ビジュアルはもちろん、所作がとても綺麗なのもポイント高し。
アリスの桜井玲香さんは初めて拝見しましたが、乃木坂46にいらした方なのですね。
調べたら舞台もたくさん出演されていて驚きました。目鼻立ちくっきりした美人さん台詞もしっかり。
相変わらず出演者をきちんと把握していませんでしたので、メーベル・ノーマンド出てきた時、「壮さん!?」とビックリ。
一瞬で目を惹きつける華やかさと存在感はさすがで、出番は長くありませんが印象鮮烈。
浮世離れした雰囲気の中に華やかな映画界の「闇」も感じさせて、やっぱり壮一帆好きだー!となりました。
同様にキャスト把握していなくて、肉襦袢を着込んでつくり込んだメイクのロスコー・アーバックルを、「はんにゃの金田くんに似たあの役者さんは誰だろう」と思いながらずっと観ていて、幕間に確認したらご本人様だったという(^^ゞ
カリカチュアライズしたような動きや話し方が印象的で、”別世界の人”感があったアーバックルが、留置場?の中で自分の事件を伝えるゴシップ記事を読んで「デタラメばかりだ」と憤って見せる人間味とのギャップがとてもよかったです。
2003年のケラさん演出版の詳細はほとんど忘れてしまっているのですが(残念な私の海馬)、今回観ていて、「ここケラさんの演出だったらどうだったかな」「ケラさんならどうしたかな」と何度か思いました。
三浦直之さんの演出作品もロロの舞台もこれまで観たことがなく、いつもと同じ感じなのかこの作品だからこうなのかわからないのですが、少しテンポが・・・と感じる場面があったのがその一因かなとも思います。これは好みの問題かもしれませんが。
日曜日マチネだったのに客席の入り半分以下でした。あんなに空席あるブリーゼ初めてだ の地獄度 (total 2254 vs 2253 )
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