
吉例顔見世興行 第三部は千穐楽を観劇。
かぶりつきど真ん中で麗しい幸四郎さんのご尊顔を拝するという幸せな2021年歌舞伎納めでした。
京の年中行事 當る寅歳
吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎 第三部
2021年12月23日(木) 6:00pm 南座 1階2列センター
第一、銀杏鶴玉章封裏 雁のたより
監修:片岡仁左衛門
出演:松本幸四郎 片岡愛之助 上村吉弥 片岡千壽
片岡進之介 片岡千次郎 片岡松十郎 片岡愛一朗 中村錦之助 ほか
(上演時間: 45分)
片岡仁左衛門さん監修で「銀杏鶴玉章封裏」(いてうづるふみのふうじめ)という外題がついています。
十三世仁左衛門さんの歌舞伎座での襲名披露興行の演目だったのだとか。松嶋屋さん型の「雁のたより」です。
「雁のたより」は顔見世興行にかかることも多く、これまで何度か観ていますが、髪結三二五郎七を坂田藤十郎さんと中村鴈治郎さん以外で観るのは初めて。つまり成駒屋(山城屋)さん以外の型で観るのも初めてでした。
主筋はもちろん同じですが、若殿前野左司馬と愛妾司の登場など、ところどころ記憶と違っているところがあって、これが松嶋屋型なのかなと思いました。
一番印象に残ったのは下座音楽で、♪四つ花菱は幸四郎さんの紋所 四つ花菱は幸四郎さんの紋所 と何度も唄っていて、そうそうこれ、♪丸に二の字は松嶋屋の紋所 ありゃさ 松嶋屋の紋所 って何かの演目の時にやってたなぁと思い出したのでした。ここは「高麗屋」じゃなくて「幸四郎さん」なんやとも思ったりw
幸四郎さんは2018年のご自身の襲名披露興行の顔見世(こちら)で若旦那金之助を楽しそうに演じていらっしゃいましたが、三二五郎七は今回が初役。
元々上方狂言好きで「女殺油地獄」や「吉田屋」などを演じてこられたこともあり、全く違和感なく、やわらくはんなりした雰囲気もひと目ぼれされるほどの男ぶりも、三二五郎七という役にピタリとハマッていました。京都で演じるのには勇気が必要だったであろうイントネーションもほぼ完璧。
司からの手紙に浮かれながらも「本気にしたらあかん」と投げ捨てておいて、周りに悟られないようサッと拾い上げる・・・といったくだりは芝居心に加えて生来のかわいらしさ炸裂。「何このかわいい生きもの」と思いながら観ていました。
司は抜擢の片岡千壽さん。
元より美しい女形さんですが、凛としつつもたおやかな雰囲気で素敵な司さんでした。
千壽さんは松竹座の七月大歌舞伎「伊勢音頭恋寝刃」のお鹿を急な代役にもかかわらず好演されたことも記憶に新しく、積み重ねた精進が一気に花開く年となりました。
他にも、千次郎さんが医者玄白、松十郎さんが下剃竹造で達者なところを見せて、松嶋屋さんのお弟子さんたちの活躍に、秀太郎さんも南座のどこかで目を細めていらっしゃるのでは、とちょっとウルウルしてしまいました。
ここに愛之助さんの若旦那金之助、吉弥さんの花車お玉が加わって「上方歌舞伎~」という安心感がハンパない。
竹三郎さん休演で代役の愛一朗さんお君さんもがんばっていらっしゃいました。
物語としては実に他愛ないお話で、そんなうまい話あるかいなというようなハッピーエンドですが、あの多幸感ですべて帳消しになって笑顔で盛大な拍手を贈りました。
第二、蜘蛛絲梓弦
片岡愛之助五変化相勤め申し候
出演:片岡愛之助 大谷廣太郎 中村種之助 松本幸四郎 ほか
「蜘蛛絲梓弦」は初めて観たのが亀治郎時代の猿之助さんで(2009年 松竹座)とにかく驚いて楽しくて、以来、何度か観る中で猿之助さんの印象が強かったのですが、愛之助さんでも観ていました(2015年 永楽館)
蜘蛛の精(愛之助)が小姓、太鼓持、座頭、傾城に姿を変え、病にかかった源頼光(幸四郎)を狙いに現れる、という展開。
五変化なのでC少し短縮バージョンとなっていました。
早替りの鮮やかさとその見せ方という点では、何と言っても猿之助さんですが、愛之助さんは芝居心のある役者さんで、踊り分けは元より、五役を演じ分けているような趣き。
座頭の松市の語りも見事でした。
そういえば愛之助さんの太い台詞の声、好きだったんだよなぁと思い出しました(忘れてたんかい!)
廣太郎くん碓井貞光と種之助くん坂田金時が出てきて、愛之助さんの早替りが続くうちに「あれ。頼光誰だっけ?頼光誰だったっけ?」と頭の中がぐるぐるする不肖スキップ。
紫の病鉢巻の源頼光様登場する直前に「!!もしかして幸四郎さんだった?」と思い出す(忘れてたんかい!!再)
忘れていて言うのも何ですが、幸四郎さん頼光はいかにもニンなお役で素敵でした。
薄雲太夫との逢瀬の踊りの美しさ儚さ、蜘蛛の精と対峙しての立ち廻りの勇壮さ。
いや~ん ステキィ~

(開演前に舞台写真見た時は『雁のたより』しかチェックしていなかったの、こちらに出るの忘れてたから←)

最前列だったこともあって、ラストは蜘蛛の糸をバンバン浴びて、絡めとられるというより何だか祓い清められた気分で気持ちよく打ち出されました。
スケジュールの都合で観られなかったのですが、今年の顔見世第一部は坂田藤十郎三回忌追善狂言(「晒三番叟」「曽根崎心中」)でした。
ロビーには藤十郎さんの舞台写真が展示されていて、ああ、これも観た、これもすばらしかったなととしばし空の上の藤十郎さんに思いを馳せました。


一番手前は「伽羅先代萩」の乳人政岡
今でも私のベスト政岡は藤十郎さんです。
私が歌舞伎を観るようになって顔見世にはいつも藤十郎さんと秀太郎さんがいらっしゃって、それが当たり前だと思っていましたので、そのお二人の姿がない顔見世は、何だか本当の顔見世じゃないような気もして寂しかったです。
顔見世も早くもとの姿(二部制)に戻りますように のごくらく地獄度



