2022年01月05日

熱狂する大衆 「アルトゥロ・ウイの興隆」


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「ヒトラーが独裁者として上り詰めていく過程をシカゴのギャングの世界に置き換えて描いた問題作」、原作はプレヒト、演出は白井晃さん、主役のアルトゥロを演じるのは草彅剛さん・・・昨年1月にKAATで初演された時にとても興味があったのですが、関西公演がなくて断念。
1年10ヵ月という短期のスパンで再演ですがうれしいことに京都公演があって、張り切って行ってまいりました。


「アルトゥロ・ウイの興隆」
作:ベルトルト・ブレヒト
演出:白井晃
音楽・演奏:オーサカ=モノレール   振付:Ruu
美術:二村周作  衣装:伊藤佐智子  照明:齋藤茂男  映像:栗山聡之
出演:草彅 剛  松尾 諭  渡部豪太  中山祐一朗  細見大輔  粟野史浩
関秀人  有川マコト  深沢敦  七瀬なつみ  春海四方  小川ゲン  古木将也 
ワタナベケイスケ  チョウヨンホ  林浩太郎  神保悟志  小林勝也  榎木孝明   
Nami Monroe  FUMI  suzuyaka

2021年12月23日(木) 12:00pm ロームシアター京都 メインホール 
1階12列センター  (上演時間: 3時間/休憩 20分)



二段になった高さのある舞台が組まれていて、上段にドラムセットなどの楽器が配置され、ここがバンドの定位置。
開演時間になると真っ赤なスーツに身を包んだオーサカ=モノレールのメンバーが現れて大音量で演奏し、ヴォーカルの中田亮さんが歌い始めます、ゲロッパを(James Brown の Sex Machine ね)。

「ギャングが暗躍するショー仕立ての音楽劇
というフライヤーに書かれた一節をすっかり見逃しており(休憩時間に見た)、いきなりガンガンのゲロッパで始まって、客席もノリノリで前の列の人なんて頭上で大きく手拍子しているし、まるでライブ会場のようなノリにビビる💦

舞台手前では美脚の女性ダンサー3人が踊り、役者さんたちが次々登場する中、「アルトゥロ・ウイ!」という中田亮さんの声で上段下手にマントを羽織ったアルトゥロ・ウイこと草彅剛さんが現れて、そのマントを脱ぎ捨て、赤いスーツで歌い踊り始めます。すっごい求心力とオーラに圧倒されながらも、「ずーっとこの調子かいな」と不安に思っていたところ、ちゃんとお芝居は始まりました。
とはいうものの、全編を通して James Brown の曲がリズムを刻み、バンドが演奏し、歌い、踊るという構成です。


物語の舞台は禁酒法時代の不況下のアメリカ・シカゴ。
アルトゥロ・ウイ(草彅剛)は、のし上がるチャンスを狙ってるギャングのボス。
不況でカリフラワーが売れ残り苦境に立つ八百屋組合のメンバーが、その穴埋めをすべく市から港湾工事代と称して金を引き出そうと画策し、自他ともに認める清廉潔白の長老市議会議員ドッグズバロー(榎木孝明)に海運会社の株を安価で融通して買収します。
その情報をつかんだアルトゥロはドッグズバローを強請り、買収事件のもみ消しと引き換えに政界への発言権を手に入れます。のし上がるためには恐喝も放火も殺人も、手段を選ばないアルトゥロ・ウイ。人々は彼のそんな裏の顔は知らないまま熱狂し支持していきます・・・。


ドイツからアメリカに亡命したブレヒトが、1941年アメリカで書いた作品。
シカゴが舞台ということもあって、アルトゥロの目的のためなら手段を選ばない非情さ冷酷さと凶暴性はアル・カポネを連想させますが、ブレヒトが本当に描こうとしたのはアドルフ・ヒトラーの台頭と人々の熱狂。

最初にそういう趣旨の舞台ですということがスクリーンの字幕で示され、その後も物語上で何か事件が起きると、実際にはどういう事件だったのかということが紗幕上の文字で説明されます。

アルトゥロの野菜市場への放火は、ナチスの国会議事堂放火事件
アルトゥロが昔からの仲間を粛清する様はレームなどが粛清された「長いナイフの夜」
アルトゥロによるシカゴの隣町シセロの制圧はオーストリア併合

といった具合です。
舞台でストーリーや演出上の説明を文字によって示されるのはあまり好みではないのですが、ドイツ史、ナチス史について断片的に知っていてもそこまで詳しい訳ではありませんので、これは理解を深めるのにとてもよかったと思います。

演出という点ではもう一つ、「客席を巻き込んだ」演出も印象的でした。
一幕半ばにマスクつけたアルトゥロが客席通路から登場した時は驚きましたが(コロナ禍以降、役者さんが客席通路を通るのを見たのは初めてかと思われ)、もっと驚くことが二幕終盤に。

シセロの組合との連合の決を採る場面で、舞台上の中田亮さんと、客席前方通路に降りた何人もの役者さんが”大衆”である客席に賛成の「挙手」を煽動し、それに従って私の前や後ろや周りの人たちが次々手を挙げていく様は、本当に怖かったです。
私はとても手を挙げる気にはなれませんでしたが、もしかしたら手を挙げていないことを指摘されるのではないか、糾弾されるのではないかという思いが頭をかすめて、恐怖というか、少なくともかなり居心地の悪さを味わいました。そしてこれが”大衆が煽動される”ということなんだと実感したのです。


「熱狂する大衆のみが操縦可能である。政策実現の道具とするため、私は大衆を熱狂させるのだ。」
最後にスクリーンに映し出されるアドルフ・ヒトラーの言葉。

この言葉に、一つ目的を成し遂げるたびに James Brown の曲に乗って激しく踊るアルトゥロと、そのカッコいい姿に熱狂し、手拍子を打ち鳴らして、知らず知らずアルトゥロの側に立っている私たち”大衆”が重なって、背筋にヒヤリとしたものが走りました。


アルトゥロ・ウイの草彅剛さん。
3時間ほぼ出ずっぱりでキレッキレに踊りまくって芝居して歌ってシャウトして。
迸る華とオーラ、パッション、そしてこの役に欠かせないカリスマ性。
すばらしかったです。

あんなに踊る剛くんを観たのは初めてで、しかもそのダンスが超カッコよくて、やっぱりSMAPだったんだ~と妙な感心をしたり。
芝居の場面でオペラグラスあげたら「アルトゥロ、ワタシのこと見てた!」と感じることが何度かあって、そういえば木村拓哉さんも昔、どんなに大きなコンサートホールでもファンに「視線合った」と思わせると言われてたなぁと思い出して、改めて「SMAPおそるべし!」と思った次第です。

かねてより憑依型の役者さんだと思っていますが、ラストのアルトゥロの表情が何とも言えず、カーテンコールになってもそのままの目だったので少し心配にもなったのですが、3回目くらいであのやわらかな笑顔を見せてくれて、「ああ、いつもの剛くんだ」と何だかほっとしたのでした。




珍しくパンフレット買おうと思ったのにグッズ売場長蛇の列で買えなかったことだけが心残り のごくらく地獄度 (total 2251 vs 2250 )



posted by スキップ at 23:39| Comment(2) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私はいったいいつ見たんだっけ……と調べたら、11月19日(神奈川芸術劇場で)、でした。もう遠い遠い思い出のよう。
とにかく駅に着いてから劇場までの道も、劇場内も、女性がワンサカいて(グッズ購入列の長さ!)、いまさらながら人気に驚いたのでした。
劇場の構造のせいもあるかもしれないけど、客席のノリはそれほどでもなかった感。でも、あの歌って踊っては、さすがジャニーズと(あ、出身、ですね)、素直に感服したのでした。脇の役者さんが好きな人たちばかりだったことも、◯。
ところで、最後のヒトラーの言葉、私もメモしてました(もはやメモしたこと自体を忘れてたけど)。あれはガツンと来ますよね。
Posted by きびだんご at 2022年01月17日 01:11
♪きびだんごさま

ラストのあのヒトラーの言葉。
”煽動”された直後でしたので本当にガツンと胸に響きました。
ヒトラーの恐ろしさも凄さも再認識した思いです。

女性わんさかでしたよねー。
皆さん、劇場前でポスターとツーショットで写真撮ったり
されていて、楽しそうだなぁと眺めていました。

客席のノリは関西なればこそだったのかもしれません。
手拍子も拍手もすごかったですし、体揺らしてリズム
取ってる人もたくさんいらっしゃって。

脇の役者さん!
そうなのですよね。
草彅くん以外キャスト把握していませんでしたので、有川さんだ!
あれは松尾くんか、中山くんも、神保さんに小林勝也さんじゃない、
え?榎木さんも・・・と役者さんが話始めるたびに驚いて前のめりに
なっていたのでした(^^ゞ
Posted by スキップ at 2022年01月17日 13:19
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